【特編】雨の降る筈だった夜
6章13話の後の話です。
本の説明はep.48の6章5話にありますので、見ていない方はそちらをご覧下さい。
生徒会室からの帰り、メリアは本を抱えてスキップをしていた。
(やったぁ、天体観測の本借りられたっ!)
ナウアールに頼んで本を借りさせてもらったのだ。
授業中に幼い子供のように飛び跳ねるメリアの姿を見る者は、誰1人いない。
(早速、今日願いを捧げる前に天体観測やろっ!)
誰もいない廊下で1人、心で喜びを叫んだのだった。
やがて日が落ちて、夜になるとメリアは閉め切っていた窓を開ける。
(よしっ、早速天体観測しちゃおっかなっ…)
雲ひとつ無い夜空が広がってるかと思った瞬間――。
ぴちょん。
聞こえてはいけない音がした。
見上げると、夜空の星に次々と雲がかかっていくのが見えた。
「嘘っ…」
綺麗に瞬く星々は灰色の雲によって消えていく。
――メリアの天敵、それは雨だ。
雲で天体観測が出来ないし、星が隠れる。
そして何より、裏切られた気がする。
――「ば、化け物っ…!」
――「助けてっ…!」
あの日もそんな天気だった。
頬を冷たい雨が伝って身体を濡らす。
夜の暗闇ではなく、そんな夜さえも覆い隠す灰色の雲と雨が嫌いだった。
メリアの瞳には光が無くなり、その場に崩れ落ちる。
窓の外は瞬く間に大雨に変わり、月さえ見えなくなった。
「メリア様」
部屋にいたラリアードが声を掛ける。
「あっ…」
力無く崩れ落ちたメリアを見たラリアードは、空いた窓の先を見て言った。
「私、ラリアードが晴れさせましょう」
掌を向けると、ラリアードは呟いた。
「至高神イーペラフェア。私の従う主の願いの元に」
精霊が声で伝えるのは神への頼みのみ。
精霊はいつか自然に起こることを、魔法として使う。
だが、この願いは自然に起こることでは無い。
それらのものは、総てを操る神に頼む必要があるのだ。
ラリアードが言うと、窓の外の雲の上の空からと、地面から巨大な魔法陣が展開される。
すると、魔法陣が閃光を放つ。
「ラリアード…?」
「…ならば、代わりに―――を―――へ」
優しい声が響き渡り、光が止んだかと思うと、空は星に溢れた夜空に変わっていた。
自然の摂理に逆らったラリアードは罰を受けさせられることだろう。
そんなことを思いながら下を向く。
すると、そこにいたのは小さめのフクロウ。
「フクロウ…?」
「そうですがそうでは無いです」
フクロウが答えると、驚くメリアに話す。
「ラリアードです。精霊至高神によって元の姿に戻されました」
精霊は、元々は様々な動物の形をしている。
そこから考えると、ラリアードは元々はフクロウに擬態していたのだろう。
「私は普段はこのような姿をしていますが、人の姿に変われます。…それこそメリア様の前での姿や、入学式のセリナ等…」
無表情で喋る姿の奥には、まるで悲しい感情があるようだった。
「じゃあ…」
メリアは何かを悟る。
(ラリアードは…)
「ラリアード…。」
俯きながら言うと、ラリアードは顔を合わせて答える。
「はい」
「…」
どうしたんですか。
そう言おうと思ったが、ラリアードは言うのを止めた。
代わりに、一言言った。
「何かしましょうか?」
メリアの目は光を取り戻すと、ラリアードの身体を撫でて微笑んだ。
「本当に、ありがとう…ございます…」
「……それなら、何よりです」
フクロウの身体で、ラリアードはそのままメリアを見ていた。
それから、メリアとラリアードは窓から空に光る星々を見ていた。
メリアは、片手に天体観測の例の本を持って星を見る。
しばらくして身体が元に戻ったラリアードは、メリアの後ろに控える。
「あれがホーリー座で…、あそこにあるのがベリメリア座…」
力強く白くに光る、歴史に名を残した魔術師の星座と淡い緑色と青い色に光る、眠る姫の星座を指差す。
「あれ…、何か書いてある…?」
そんな嬉しそうに星を見ていたメリアの目に入ったのは、眠る姫のベリメリア座の解説欄。
〈魔法を扱い、人々よって永遠の眠りについた魔女〉と記載されているところにバツ印をして、隣に書き足されていた。
〈魔法と魔術の原点にして、孤独な優しい少女〉
別のページには詳しい説明が載っていた。
そのページもバツ印され、隣に付け足しがされていた。
〈遥か昔、少女はある力を持って生まれた。
その力は、ありとあらゆる物を操る力だった。
普通、人間には見えない精霊や幻獣とも、言葉を交わしていた。
少女は特に何も起こすことなく平和に過ごしていたが、ある日突然に心を無くした少女は街を攻撃し、国は彼女を殺した。
哀れに思った幻獣神フェレメと精霊神イーペラフェアは、彼女を星に上げたという。〉
が全て消されていて、その隣にはこう書き足されていた。
〈―――ただいま調査中。消した文は決して無いものとする。〉
「メリア様?いかが致しましたか?」
ラリアードが訊ねると、メリアは慌てて本を閉じる。
「大丈夫ですっ」
そうして再び空を見上げて星を見ている時、メリアは思った。
(調査中って…)
メリアは美しい星を眺めながら、1人、心で疑問を感じた。




