【6章-12話】エイラの知る裏側
生徒会の仕事を終えたナウアールは、寮へと戻る為、廊下を歩いていた。
(この前の件はロヴィリアに手伝ってもらって、なんとか片付けられて…)
軽い溜息をつく。
すると、後方からスタタタッ、という音と共に背中に重みを感じる。
「生徒会長っ!」
「…おっと」
手を掴んで振り返ると、そこには見るからに元気そうな少年がいた。
「―月魔術、第34章…―」
「ちょ、ちょっちょっ!?待ってください会長!?」
「…」
ナウアールは魔法陣が展開される寸前で詠唱を止める。
「ふぅ、助かったぁ」
「ハバルト、気が緩んでるよ。こういうことは常に警戒しておかないと」
「ところで、こんな時間にどうしたんだい?」
「いやぁ、さっき委員会の仕事が終わって寮に帰ろうとしてたんだけど、ナウアール見つけちゃったから来ただけだよ。深い意味は無い」
「へぇ」
ナウアールは口端を上げて青年に訊ねる。
「確か、学園祭の準備が始まっているんだったね。実行委員会は順調かい?」
「まだ企画しか決まってないんですけどねぇ。…あ、会長。最近事件とか多いので仕事、大変じゃないんですか?」
学園祭が行われるのは2ヶ月後の豊地月。
だが、実行委員会等は内容や企画の立案が、今から仕事が始まっているのだ。
生徒会は全体的な来客、予算見直し、総合の指示を担当する。
「僕らのところは平気。……あぁ、でももう寮に戻った方が良さそうだね。もう食堂が開く頃だよ」
ナウアールが壁にある時計を指差す。
見ると、時計は夜の6時を過ぎていた。
「うわっ!?急がないと…!会長も急いでくださいね!?」
「気を緩ませないように、気を付けてね」
「はいっ!」
青年が走っていくのを見送ると、ナウアールは小さく呟いて歩き出した。
「気を緩ませないように…。僕が言えたものじゃあ無いかもな」
―――最高魔術師特別指導期間が終わり、今日は最高魔術師を見送る会があるらしい。
月属性最高魔術師のリース・ヘベリアントとカルロアス・マート等の記憶改変魔術の件もあり、慌ただしくなっていたが、無事に期間を終えることができた。
(…やっと、終わった…)
メリアは机に倒れて喜びに浸っていた。
この間の少女の件もあり、メリアには特別指導が苦痛で苦痛で仕方がなかったのだ。
「これで私は解放されて適当に過ごしていれば何も起こらないで学園生活スローライフが送れるなぁどうしようかな」
陰キャの放つ闇のオーラを全開に出し、満面の笑みでブツブツ呟く姿は逆に恐怖の感情が出る。
(スローライフっ、スローライフっ〜)
「メリア、嬉しくて満面の笑みを浮かべているところ悪いんだけどさ…、まだ図書館の件、解決してないし、この間の件も解決しきった、って訳でもないのよ。安心するのは早いと…」
(…)
アリアのその声でメリアの口は一瞬で閉じ、闇のオーラを更に出す。
満面の笑みも無くなり、メリアは陰キャそのものになっていた。
「……エイラが呼んでる…よ」
『やだやだやだやだやだやだやだやだ』
「……アリア、連れて来てもらっても宜しいかしら?」
「分かった…」
(やだやだやだやだやだやだやだやだ)
メリアは声も出せずに無残に机から剥がされ、教室から引っ張られていった。
メリアが引っ張られていった場所は、あのラリアードが紅茶を盗んだ生徒会室だった。
生徒会役員が坦々と仕事をしている中、メリア達は机の方に向かう。
「やぁ、エイラ、メリア、アリア。気にしないで使ってね」
「…分かってるわ」
ナウアールと言葉を交わして以降、何も言葉を発さず椅子に座らされ、向かい側にエイラが座る。
隣にはアリアが心配そうにメリアを見ている。
(え、エイラ様、何で呼んだんだろ…。怖いっ怖いっ…)
『あの…、え、エイラ様?』
「少し待っていて」
すると、扉が開いてラウィーヌが入ってくる。
「あら、昨日ぶり、メリア・ファスリード」
『お、おっお久しぶりですっ……』
ラウィーヌはメリアが返事をすると、エイラの隣の椅子に座る。
「早い方がいいわよ」
ラウィーヌが座ると、エイラは咳払いをして告げた。
「…さて、話を始めましょうか」
周りの空気が一気に引き締まる。
アリアの顔を覗くと、恐怖の眼差しでラウィーヌの様子を伺っていた。
(……アリア、やっぱり怖いんだね…)
アリアに苦笑いをして再度エイラの方を見ると、エイラは手を上品に揃えるとメリアに向かって頭を下げる。
「メリア様、まず、この度はご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした」
(えっ…?)
『な…、何で謝るんですか…?!エイラ様は被害者ですしっ…、操られていた側ですよ…?!』
メリアがそう言っても尚、エイラはしばらく頭を下げていた。
「本当は土下座でも致したかったのですが、ラウィーヌに止められてしまいました。頭を下げるだけですが、謝罪を申し上げたいですわ」
(ど、土下座…?!)
メリアが恐る恐るラウィーヌを見ると、ラウィーヌは口元だけ微笑みを浮かべた。
まるで、「言っておいたわよ」とでも言っているような笑みだった。
(笑うことじゃあないんだけど…)
『エイラ様…、と、とりあえず顔を上げてもらっても宜しいですか…?』
「はい」
エイラは顔を上げる。
唇を噛み締めるその表情だけでも、エイラの謝罪の気を感じた。
『…もし良かったらなんですけど、あの事件事とかって教えてもらったり出来ないですか…?』
メリアはそんなエイラに訊ねる。
「勿論です。ソント侯爵が娘、エイラ・フェリンドールの身として覚えている事、全てお話致しますわ」
メリアに返すその気迫に満ちた表情は、何らかの覚悟を秘めているようだった。
「――では私の記憶から話していきますわ」
エイラは表情を一切変えることなく語り始めた。
―――事件の前、エイラが最高魔術師特別指導を終え、教室に戻っている最中だった。
エイラは指導の後、最後の方を歩いて戻っていた。
完全に1人の状態だ。
その日は前と結構な距離が空いていて、誰も近くにいなかった。
エイラは遅れて戻ろうと踏み出すと、急に視界が塞がれる。
それこそ声しか聞こえなかったが、こんな会話が聞こえた。
「こいつ、メリア・ファスリードと仲良いらしいぞ。こいつを操って誘き出すか?」
「そうだな。侯爵令嬢みたいやし、ファスリードの娘なら庇うだろ。よしっ、作戦会議だ」
「……そうだな」
その3人の声がした時、エイラは声を上げた。
「誰っ――」
「あぁ、さっさとどっか部屋連れてくか。おいハバルト。どこか空き教室か教えろ」
布で口を塞がれてそれ以上声は出せなくなり、その集団は空き教室へ向かった。
空き教室に着くと直ぐに詠唱が始まり、エイラは人体操作魔術をかけられた。――
『空き教室が来た場所で、その現場に私がいた…』
「そうね。あと、その集団の方々、これも言っていたわ。――「ネイにも伝えとけ」って」
ネイ・へベリアント。メリアに竜召喚をした少女。
『じゃあ月属性最高魔術師様達とネイ様には繋がりがあったってことですか…?』
メリアが訊ねると、エイラは俯く。
「その2人は親子だもの。…それに、他にも繋がってるやつ、いるわよ」
「1人目…ハバルト・ルービン。そいつは昨日ナウアールが捕まえて退学させたからもういないわ」
(退学…?)
メリアは詳しく干渉していないので、ハバルト・ルービンのことは分からなかった。
「2人目…と言っても空き教室にいたエイラとドーバン以外は全員加害者だから。ハバルトは記憶が無いって前言ったでしょ?だからエイラと一緒に人体操作魔術をかけられたのでしょうから、見逃しているし」
ラウィーヌは、近くにいたナウアールに視線を向ける。
「現に、レイランド学園の生徒が殺されそうになってるからね。加減はしないよ」
「メリアが話してくれた、アディバント・ファスリードって誰なのか分かってないみたいだけど」
ラウィーヌが顎に手を当てる。
「…でも、とりあえず見当たる加害者は制裁したから安心していいとは思うけど…」
すると、しばらく言葉を発さなかったエイラが口を開く。
「……途中で悪いのだけれど、もうひとつ伝えたいことがあるの」
(もうひとつ…)
メリアが唾を飲むと、エイラは言った。
「―夏休みの図書館の件について、私からお話致しますわ」




