【6章-11話】窃盗を犯した鈍感精霊
(…この娘が……)
ロヴィリアは後ろを歩くメリアを見る。
メリア・ファスリードはレイランド学園の首席合格者であり、リバーズリー団に特派員として活躍した少女ということしか分からない。
(…呪魔術を跳ね返す魔術……)
呪魔術は厄介な魔術であり、解除方法は専用の解除魔術か、効果のある光属性の魔術を使わなければ跳ね返す事はできない。
呪魔術によって、取り込まれてしまうのだ。
しかし、呪魔術を扱う者は数少ない。
呪魔術を得意属性とする者は殆どいなく、闇魔術を得意としている魔術師が習得することが多い。
それに関しては、呪魔術を扱ったネイ・ヘベリアントに疑問が残る。
「……メリアっ」
ネイが呟く。
だが、
(…反抗は、しないか)
案外、拘束魔術で縛られたネイは、大人しい様子だった。
(でも、あの魔術は…)
ロヴィリアはさっきの光景を思い返す。
詠唱をすると、カーテンから漏れる光が無くなり、カーテンを開ける。
そして、また詠唱をすると星々が一斉に瞬き、攻撃を展開する。
ナウアールが詠唱をした魔術と合わさって、ネイの放った呪魔術を打って跳ね返す。
術式が完璧で、その光景が美しかった。
(……)
「じゃあ、彼女は…学園長を通して退学処分してもらうよ。メリアはもう暗いし、寮に戻って」
『は、はいっ』
生徒会室に戻ると、ナウアールがメリアに向かって言う。
ロヴィリアは見るとナウアールに言う。
「生徒2人はどうする。誰か見に…」
「じゃあ私が行くわ。ロヴィー」
スアラが顔を出すと、ナウアールは微笑む。
「ロヴィリア。少し付き合ってくれないかな?」
「……分かった」
『…ではっ、ラウィーヌ様と…戻りまっす』
「うん、じゃあ」
そうして4人は別れた。
(…はぁ…、怖かった…)
「あら、どこが?」
ラウィーヌが顔を近付けて訊ねる。
『あ、いや、別に…っ』
「お姉様、気が合わないと思ったのでしょう?…先天性心理操作、舐めないでもらっても?」
『お姉様…?』
メリアが首を傾げると、ラウィーヌは足を早めて答える。
「そう、スアラ・ホリアベリン。私の姉」
(…えっ?)
「えっ?、じゃないわよ。聞いてなかったの?」
ラウィーヌによると、生徒会の役員のみが付ける名札に〈スアラ・ホリアベリン〉と書いてあったので、気が付いていたと思ったらしい。
『……確かに名札は付いてたけれど、あまりよく見てなかったです…』
「…まぁ、いいわ。それより、安静にしてなさい。現に攻撃を受けているから。呪魔術も、当分安心出来ないわ」
ラウィーヌは無表情で言うと、少し怒りを含んだ顔でメリアに言う。
「…自分の部屋に戻りなさいよ。あと、エイラが呼んでいたから明日教室行きなさい?」
『分かりました…』
控えめに返事を返すと、ラウィーヌは部屋の扉を開けて中に入っていった。
(もう寮の中に入ってたの…?!)
メリアは気が付くと、急いで自分の部屋へ走っていった。
「メリア様、お疲れ様です。紅茶、今すぐ淹れますね」
ラリアードが契約石から現れると、お辞儀をした。
「ありがとう…、ラリアード」
返すと、メリアは読みかけの本を開く。
(何か挟むもの、必要だな…。この本、分厚いし…)
ペラペラとページを捲り、読みかけた部分を探す。
「…あ」
あるページで手を止める。
そこに書いてあったのは〈リバン王国の証の柄〉。
(この柄、あの子が付けてたリボンの柄だ……。このページは読んだはずだから…。……それで違和感が…)
「こちら、紅茶です」
横からラリアードがカップを置く。
その香りはいつもとは違い、少しフルーツのような香りがした。
「これって…」
「はい。生徒会室にあった物と同じフレーバーです」
メリアは予想外の言葉に固まる。
「…盗んでたりはしてないよね……?」
「勿論です。……ナウアール様という方が笑顔でこちらを見ておりましたので、大丈夫です。貰いました」
「……それ、盗んでる…」
「そうなのですか?」
無表情が、更に悪気を引き立てているような気がする。
ラリアードが言うと、メリアは頭を抱える。
「元々、スアラ様のだから…、どうしよ…」
スアラ・ホリアベリンという人物に、今は知識が無い。
怒るのか、許してくれるのか、気にしないのか、メリアの頭に嫌な未来が浮かぶ。
(…今度、謝りに行こう……)
メリアそう心に決めた。
メリアが頭を抱えていると、ラリアードは自身が持っている懐中時計を見る。
「メリア様、そろそろご就寝の準備をされた方が…」
「……今日はもう少し起きてるから、ラリアードは戻っていいよ」
「承知致しました」
ラリアードが言うと、メリアは机に蹲る。
「事件が終わって一段落ついたのに…ラリアードが窃盗…」
起き上がり、開いたページを読もうと袖を軽く引く。
すると、腕に付けていたブレスレットの宝石部分が見えた。
灯りの光でベリトアクアマリンの宝石が光る。
それぞれの面が青みのある白い光を放つと、その姿は美しく感じた。
(アリアがくれたブレスレット…、やっぱり綺麗だな…)
―――「どう?メリアの目の色と同じ色のを買ってきたんだけど…」
『うん…!お揃い、嬉しい!ありがとう、アリア』
―――「ふふっ、私にかかればどうってこと無いわよっ!何回選んだと思ってるの?!これはね―」
胸に当てると、メリアは小さく呟いた。
「…ありがとう」




