【6章-8話】星願い人
その後、メリアは医務室へエイラとラウィーヌを連れていった。
幸い、2人に大きな異常は無かった。
エイラは多少記憶に影響があっても可笑しくはないと学校医には言われた。
エイラを医務室へ寝かせて、メリアとラウィーヌは授業に戻る。
その間には、無言の間が続いていた。
(ラウィーヌ様、大丈夫かな……?)
メリアは隣にいるラウィーヌの顔を覗く。
顔色は悪くないが、少しばかり思い詰めたような表情をしている。
声を掛ける暇もなく、メリア達の教室の近くまで進むと、ラウィーヌはじっとメリアを見る。
「―メリア・ファスリード。……ありがとう」
『え…、は、はいっ』
「また会う日があれば…。…また宜しくね」
『はいっ…』
返事を返すと、ラウィーヌは振り返らず階段を上っていった。
(…そうだよね)
メリアは胸を押さえながら、教室の扉を開けた。
(……メリアは大丈夫そうだから、別に心配しなくても良さそうね。エイラは…、また明日声掛けに行きましょ)
ラウィーヌは、階段を上り切るとある事実に気付いた。
「ハバルト・ルービン…、ドーバン・ロズバニア…、リース・へベリアント…、カルロアス・マート…」
(…これって、まさか…?)
ラウィーヌは急いで図書館へ向かった。
「月属性最高魔術師様のリース・へベリアント様は、ご都合で指導をすることが出来なくなりました。算術教師のカルロアス・マートも、都合で学園を退職致します」
帰りに担任のエウィルがそう告げると、クラスは一気にザワザワと騒がしくなる。
(…)
都合と言っても、監獄に連れていかれたか、国王からリバン王国に戻るよう促されたかの2択だ。
罪を犯せば、フィーライト王国の監獄に入ることは決まっているようなものだ。
メリアは特に気にしなかったが、担任のエウィルがいなくなると、アリアが直ぐさまメリアの机に来る。
「メリア、ラウィーヌとエイラに連れられてたやつ、大丈夫だった…?」
『う、うん…。特には…』
「メリアって、直ぐ何かでいなくなるから、心配だったぁ…」
(そうかな……?)
メリアが不思議に思っていると、次の授業の教科担任が扉を開けて入ってくる。
時計を見ると、もう直ぐに始まる直前だった。
「やばっ…、また後で、メリア」
『うん、また後で…』
返事をすると、アリアはそっとその場から離れる。
(…あそこに行こう)
メリアは心で思った。
「メリア、そう言えば2つ名ブームの真相、知ってる?」
帰り道、廊下を歩きながらメリアに訊ねる。
『…真相なんてあったんですか…?』
「あったんだって!それが!」
「2つ名は偉い人から付けられたもので、2つ名付けられた人は、何かさせられるらしいんだよ!」
有耶無耶すぎる。
『…偉い人?何かさせられる?』
(だから少なかったんだ、2つ名付けられた人…)
メリアが普通に納得していると、アリアはメリアに指を差す。
「そう!それで人の2つ名を有耶無耶にする為に、2つ名ブームが流行ったんだって!」
『…アリアのやつは?』
「うーん…。分からないなぁ。あ、レジリアが付けたやつは違うからね?」
『う、うん…』
「メリアは今のところ付けられたりした?」
さりげなく訊ねると、メリアは指を弄りながら答える。
『…全然自分から人と関わらないから…、多分無いと思う…』
「えー、メリアこそありそうなのに…。……じゃあ私が付ける!」
『いいですいいです大丈夫です』
メリアが後退りすると、アリアはメリアの手を引いて元の場所に戻す。
「いーのよ!…〘星願い人〙とかは…どうかな」
『…星願い人…』
「メリア、星属性の魔術、得意属性なだけあって詠唱から何まで完璧だから!……あとそう言う場面とか思い浮かべちゃったから…」
メリアの上半身が固まる。
アリアは満面の笑みで理由を言うと、照れくさそうに言葉を付け足す。
「…魔術師とか付けなかったけど……これって2つ名判定になるのかな…?」
アリアが
『なると思いますっ。……ありがとうございますっ』
相変わらず結界に書くと、アリアは小さく呟いた。
「…こちらこそ」
「…そうだ!メリア、この前の話なんだけど―」
(……ありがとう)
アリアが話し始めるのと同時に、メリアは心で思った。
―夜、メリアの部屋で。
ラリアードが淹れてくれた紅茶を片手に、ある書物を読んでいた。
「…メリア様、そろそろ最高魔術師特別指導も終わりますね」
「…でも直ぐに授業で大魔術の術式と応用を習うし、魔術試験もあるから…」
机の引き出しを引いて1枚の魔紙を取り出す。
「魔術試験とは何でしょうか?」
「えっとですね…」
魔術試験は1年に1度行われる、魔術師になる為の試験だ。
具体的な試験内容は、集団で対象の敵を倒す、個人戦、筆記試験などがある。
これは魔術師選抜試験にも関わる試験である為、重要視されている。
「そうですか…」
ラリアードはそう呟くと、メリアの読んでいる本に気付き、指差す。
「ところでメリア様、それは?」
メリアが読んでいるのは、リバン王国の開発合成魔術について書かれた本。
休み時間にミレ・キャスバに探してもらったのだ。
(…扱いが分かればいいけど…)
「開発合成魔術についての本なんだけど…。少し気になって…」
(ビティラとかもだけど…)
前回の事件の犯人クレス・ラードリーとフェアン・ワリアーデの所属していた組織ビティラ。
メリアは今回の話と関連して調べている。
「危ない物かもしれないのに、この学園では管理してるんですね」
「…リバン王国の物でも、魔術書とか魔導書じゃあ無いから、多分置けるんだと思います…。ここを見て下さい」
メリアは紅茶の入ったカップを置くと、開いているページを指差す。
「魔術書だったら式の内容だったり、詠唱の仕方が書いていて、魔導書は、魔力を注ぐと直ぐ発動してしまいます。…でも、こういう本なら構成や歴史について述べた書物なので大丈夫なのかと…」
「……魔術というものは、複雑なのですね」
(精霊からしたら、そう思うよね…)
メリアは置いたカップを手に持ち、口を付ける。
すると、ラリアードはメリアが読んでいる本の隣に置いてある書物を見て訊ねる。
「……歴史と……天体観測ですか?」
「あ、はい…」
「フィーライト王国のと…そうですか」
「―無理をしない程度に。…では良い夜を」
ラリアードは間を開けて言うと、お辞儀をし、魔力の粒子となってネックレスに戻る。
メリアは見送ると、開いている本のページを1枚捲る。
(…これで対処出来たらいいけど…。…よしっ)
〈―「…お前が…、お前がいなければっ…!」
―「…リバン王国の闇を国全体に知らしめる」〉
―――記憶で見た過去を、見定める為に。
そして、自分が進む為に。
メリアは夜空に向かって誓い、続けて本を読み進めた。
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―ある少女は、虚ろな目で机に座っていた。
「あの女が…。折角上手くいってたのに…」
やがて、顔を覆っていた手を解いて机に置いてある紙に手を伸ばす。
「そうだ…、これがあった…っ!」
少女は引き出しから魔紙を取り出すと、魔術式を書き始める。
「これでっ、また進められるっ…!」
少女は「ふふっ…」、と気味の悪い笑い声を部屋中に響かせた。




