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星が瞬く夜に、願いを捧げます。  作者: 夜花みあな
第6章「新学期編」
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【6章-7話】記憶に混ざる存在しない記憶

 ――昔を思い出す。

エイラが庭にいる蝶を指に乗せ、私に見せてくれる。

「ラウィーヌ、これ見て!」

「…うん」

エイラと出会ったのは、5つか6つの時。

この時、エイラはまだ礼儀作法をまともに受けていなかったので、その様子は、まるで普通の女の子のようだった。

侯爵令嬢であるエイラと、術爵令嬢である私は身分が違いながらも、親同士の用事で一緒にいることが多かった。

エイラは幼い頃から魔術に興味があったらしく、何処かで覚えた魔術を私に見せてくれた。

「これは、蔓魔術って言って…、頑張れば花を咲かせられるの!」

「…綺麗」

エイラは会う度に魔術を覚えていて、その種類も豊富だった。

時には日魔術、時には闇魔術を。

何度も会うと、自然と私も魔術に惹かれていき、魔術について学んでいた。

「ラウィーヌが魔術好きになってくれて嬉しいですわ!」

「う、うん…」

私が十分魔術を扱えると確信したその時には、エイラは礼儀作法を叩き込まれ、話し方だけで、かけ離れた存在のように感じてしまった。

だけど、付き合うことを止めなかった。

私は独学で魔術を学び、中等部入学前までに最低認定としての大魔術を習得するところまで上り詰め、エイラの隣に自信を持って立てるような気がした。

――そんなある日、王室から招待があった。

〈第3王子に魔術の話をしろ〉という招待状ならぬ命令書が。

エイラにも招待状は届いていたらしく、私は少し安心していた。

それに、2つ上の姉も第2王子と同い年で、姉も姉で招待されていたので、それといった不安は無かった。

「…ラウィーヌ、大丈夫?」

「…うん」

私の手は見て分かる程に震えていた。

不安でも無く、心配でも無く、ただの緊張で。

でも、結果はそれほど悪くは無かった。…いや自分にとっては悪い話に思えた。

定期的に招待する、と言われ、時々王子の相手をしていた。

それからしばらく経ち、中等部に入学した頃。

「ラウィーヌ。あんた、魔力少ないわね」

中等部の時のクラスメイトに言われた。

確かに、私の魔力量は普通の人より少ない。

だが、魔術は自由に扱える。

それに揺らされ、言い返した。

「貴方の方が、少ないのでは?」

そこから私は表情を大袈裟に変えるのを極力控えたんだ。―――


…えっ、そうだったかしら…?

独学…?言い返したの、私…?

記憶が…


記憶にフラッシュバックが入る。

何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。

何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。



「……っっ?!」

ラウィーヌはエイラが放った魔術を受けると、歯を噛み締めて声を抑える。

『ラウィーヌ様…!?』

ラウィーヌの身体が勢いよく倒れると、直ぐにメリアは魔術を解除し、背中を持つ。

(っ…。ラウィーヌ様…)

『大丈夫ですか?!ラウィーヌ様!?』

「…メリア・ファスリード。今はこっちを見て」

エイラが冷たく言うと、メリアはゆっくりと壁にラウィーヌを寝かせる。

すると、窓側から2人の男が入ってきてメリアに話し掛ける。

「そう、今俺がこいつを操ってる。侯爵令嬢なんだってな」

『……』

(月属性最高魔術師のリース・へベリアント様…と?)

「…まぁいいか。そのラウィーヌって言う奴には、記憶改変魔術をかけてる」

『…一種の呪いの類…』

(……それなら)

『どうしたら解けますか?』

動揺も怖がっている様子も一切見せずに、メリアは訊ねる。

「記憶改変操作は、この魔法陣を壊せば解ける。……が、記憶と身体に悪影響だ」

リースは掌に淡い光を放つ魔法陣をメリアに見せつける。

「そっちの侯爵令嬢はもう使わねぇから解くぞ」

リースが何かを呟くと、エイラはそのまま倒れる。

メリアはエイラの背中を持ち、ラウィーヌの隣に寝かせる。

(なんて非情な……)

『…そちらの方は?』

「…カルロアス・マート、だ」

『名乗るんですね。捕まるかもしれないのに…』

「君には関係ない」

捕まる心配を見せる素振りすら見せないで語り掛けてくる2人に、少々驚くが、直ぐにメリアは質問をした。

『……貴方達の目的は?』

「それを話す必要は―」

「―氷魔術、第81章、氷槍。―」

魔法陣を展開し、氷の槍を複数展開する。

「話してください。…今すぐに。…撃ちますよ?」

「…やってみろ」

「―攻撃」

メリアが呟くと、一斉に氷の槍が男達に向かう。

「―範囲15、結界魔術、第17式。展開。―」

軽々と防がれるが、メリアはそれを分かっていたかのように次に詠唱をする。

「―炎魔術、第――」

「―記憶改変操作(アーズメモルリターン)―」

メリアの方向に光が飛ぶ。

「…」

バチッという激しい音がしたが、メリアは抗いもせず攻撃を受け、そのまま倒れた。

「…受け入れる、か。……子は子だな」

リースはそう呟いた時、メリアの首元から出たネックレスが光を放った気がした。


そこから数分が経った頃。

(あれが結界書法魔術…)

リースがメリアを見つめていると、カルロアスはリースに訊ねる。

「メリア・ファスリードに話があったのでは?」

「あんなに攻撃心がある時に話したら悪化するだろ?そうしたら俺らが不利になるが…?」

「…失礼致しました」

カルロアスが頭を下げると、リースは手元に展開した魔法陣を弄る。

「有利になるようにそこの関係あるところを弄ったけが…」

「……リース様」

カルロアスが指を差した方向に目をやると、倒れた筈のメリアの身体が起き上がっていた。

(……これがメリアが言ってた奴か…“俺が”出るなんてよ…)

メリアの身体は立ち上がると、掌をゆっくり開閉させる。

「リース・へベリアント、カルロアス・マート。…話をしようぜ?」

その目は、深い黒の色をしていた。

リースは慌てて展開していた魔法陣を確認する。

(……壊れていない)

記憶改変操作は、リースの展開している魔法陣を破壊しなければ解除出来ないのは本当だ。

解除する方法は、絶対にこれしかない。

記憶改変操作は、術を解除しないと動けないはずなのだ。

しかし、メリア・ファスリードは、魔法陣を破壊していないのに、今動いている。

こちら側にしたら非常事態だ。

「…何でだ……?」

カルロアスの口から零れる。

「…てめぇら、メリアに何の用事がある?」

メリアが訊ねると、明らか動揺しているリースは先程とは違い、呼吸を荒らげる。

「…聞いてないっ…。聞いてないっ!」

「……だろうな。…それはいいからさっさと話をしろ。クソが」

「メリア様、言葉遣いが荒いですし、今はあぶな…。……どちら様でしょうか?」

契約精霊のラリアードが姿を現すとメリアの目の色を見て首を傾げる。

「レイン、レインだ。覚えとけ」

「承知致しました。レイン様」

ラリアードはそう言うと、メリアの後ろに控える。

「…へぇっ、娘もっ、随分変わり者だなぁっ」

「…あん?」

メリアの人格はリースを睨みつける。

「レイン様、言葉遣いが…」

「お前はいいから」

ラリアードに言い返すと、メリアの人格はリースの前に進む。

「……ファスリード…。ファスリード…っ!」

「うっせぇなぁ。とっとと成敗してやるから目的を話せ」

女の子らしい細い腕が、リースの胸ぐらを掴む。

「ひっ……!?」

リースに詰め寄ると、隣にいたカルロアスは溜息をついて話す。

「私が話します。我々はアディバント・ファスリードの復讐が目的です。それ以上もそれ以下もありません」

「……復讐?」

(メリアが聞かなくて良かったか…?)

「…はい。率直にいうと、……リバン王国の使者です」

「おい、カルロアスっ!話すんじゃあねぇ!」

「黙ってろ」

「……っ!」

メリアの人格は、暴れるリースの口をいつの間に展開した蔓で塞ぐ。

(……無詠唱?)

「……あぁ、やっちまった…。詠唱しなきゃいけないっつうのに…。ていうか使えたわ!また使おっかな…」

そう呟くと、メリアの人格は咳払いをする。

「…んっん。……で、その後を話して貰おうか?」

「…これ以上は言えません」

「ちっ…、何だよ…。まぁ、いいか。丁度来たようだし後はそっちでやりな?」

メリアの人格が差した先にいたのはナウアールと地獄の以下略の青年。

「…あぁ、分かった。月属性最高魔術師のリース・へベリアントと算術教師のカルロアス・マート…、か」

ナウアールが資料に記録すると、後ろから入ってきた大柄な男が詠唱をする。

「―蔓魔術、第4章、蔓の根―」

蔓が伸びてリースとカルロアスを巻き付けると、そのまま無言で運ばれていった。

「2人を医務室にね、」

ナウアールが去り際に言う。

「…火種落としの憎い娘がっ!」

そう言って叫んで暴れるリース。

その振動で不安定な蔓が揺れると、青年は思った。

(…物体浮遊魔術の方が良いのでは?)


ラウィーヌは、目が覚めると、自分が壁側に寝かされているのに気がつく。

「…エイラと…、……メリアは…」

隣で眠るエイラを見て安堵する。

そして、次に正面を向くと、ある光景があった。


―――「あー、行ったな。そろそろ戻るか」

メリアの人格はそう呟くと、小さく詠唱をした。

「―人格転換魔術。第17章5節、主返上―」

魔法陣が展開すると、メリアの人格は目を閉じる。

そして直ぐに目を開けると、アクアマリンの色をした目の身体の主、メリアに戻っていた。

「っ…、ふぅ…」

自身の胸を掴むと、メリアは泣くのを抑えるようにしながらその場に座り込んだ。

「っ…っ、……めん、…なさい……」


―――その静かな泣き声を、ラウィーヌは静かに聞いた。

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