【6章-6話】意外に真面目な調査隊報告会
最高魔術師特別指導も1週間が過ぎ、苦痛ばかりだった声もすっかり無くなって、皆指導には馴染んでいるようだった。
その中、メリアは別の意味で苦痛の音を上げていた。
(何で何で何で何で何で何で何で何で何で)
教室で蹲る姿は、大変目立つものだった。
アリアも見かねて話し掛けるが、『…あ、う、うん』と反応が薄い。
しかし、メリアが1人蹲っているのには訳があった。
ついこの間の地獄の昼食休憩ティーパーティーにて。
「ラウィーヌと、その空き教室の真実を突き止めてくれないかな?」
心理操作を解除し、目が覚めたナウアールはメリアに告げた。
「そうね。私もしてみたかったのよ。宜しくね。メリア・ファスリード」
『…え?』
という流れがあったのだ。
かくしてできた〈空き教室事件調査隊〉として突き止めているのだが…。
(私達、誰1人月属性の指導受けてないんだけど…)
溜息をついていると、心配しに来たアリアが言う。
「最近、何か事件あったらしいね」
(あれ…?そう言えばこの話、何で広まってるの?)
メリアはふと思い、前日までを振り返る。
「メリア、最近休めてる?ちゃんと寝なさいよ?」
『え、あ、う、うん…。ありがとう…』
「うんうん。早くメリアが元気になるなら、全然いいよ。私だって、こんなに広まってる事件に協力したいし」
アリアは微笑むと、何かを思い出したかのように話し出す。
「そう言えば、2つ名付け、私にいいの付けてもらったんだよ!聞いて!」
『あ、うん…!』
「闇属性の指導の時、皆に技披露したら、何故か付いたんだよね。〘常闇の魔術師〙って!」
自信に満ち溢れたように誇らしげにするアリアに、メリアは『おめでとう』返す。
「そうだ!ラウィーヌ?っていう人、確か2つ名付いてたよ!〘無の星道〙とか…、だった気が…」
『そ、そうなんだ…』
(無表情少女じゃなかったな…あはは)
心で笑うと、アリアはメリアに訊ねる。
「っていうか、メリア。ラウィーヌっていう名前、メモ帳にびっしりだけど…?」
指を差された先には、調査の記録用のメモ帳。
メリアは文を書いてしまう癖がある。
その為か、メモ帳には「ラウィーヌ様が〜」がびっしりだった。
『…あぁ……、これは、あーでこーで…』
メリアが事情を話すと、アリアは腕を組んで呟く。
「…へぇ。……でもそのラウィーヌっていう人、許せないね。無理やりとか酷いと思うんだけど…?」
アリアが腕を組むと、その言葉を待ち構えていたかのように、背後から冷感を感じた。
『アリア…、後ろ…』
言われずともアリアが後ろを振り向くと、案の定、ラウィーヌが無表情、無言で佇んでいた。
無表情からは暗い闇の陰気のオーラを発し、窓から差し込む落ち始めの太陽の光を隠す。
「こ、ここ、この人が噂の、ら、ラウィーヌっていう人なの…?め、めっメリア…?」
「私、怒ってませんわよ。…でも、何故そんなに動揺してらっしゃるのかしら?…エイラのお友達のアリア・ラクアレール様?」
「ひぇっ…?!」
更にオーラが増して、アリアを包み込む。
(大変だな…、アリアって)
その光景を傍観していたメリアは、ただそう思った。
「…それはそうと、メリア・ファスリード。新しく情報は?」
直ぐ首を縦に振ると、微笑むラウィーヌはメリアの手を引っ張って、廊下に向かって歩き出す。
『え、ちょっと…。え…?』
「行くわよ」
『え、あ、え…?』
ラウィーヌがメリアの手を力強く引っ張ると、誰かが手で遮る。
「あら、ラウィーヌ。偶然ね?」
『え、エイラ様……!?』
「私、メリア様に夏休み中のこと、報告しようと思ったんだけれど?」
メリアが(…助かった)と気を抜かしていると、ラウィーヌは構わず手を引っ張る。
「あら?ラウィーヌ?」
「それならいいじゃない?ついてくれば」
メリアとラウィーヌをエイラが追いかけて、もうその場にはアリアしかいなかった。
「メリアー?!」
メリアの目には、もう遠くに離れたアリアの姿が見えた。
ラウィーヌの手は、教室を出てからも一切緩める様子がない。
徐々に遠ざかっていく教室に唖然としながら、身体中の力が抜けるのが分かる。
(…教室、教室がぁ…)
手を空中に向かってバタバタと上下に動かしていると、ラウィーヌは喋り出す。
「メリア・ファスリード」
メリアは手の位置を戻して、慌てて答える。
『はいっ…!』
「ちょっとラウィーヌ。少し言い方きついわよ?」
後ろからエイラがラウィーヌに言うと、ラウィーヌは決まっていたことのように言う。
「いいから。…メリア・ファスリード。2年の階に行くから」
(え、え?)
「ラウィーヌ、いい所あるから、そこならどうかしら?」
エイラが切り出すと、ラウィーヌは歩みを止めて黙り込む。
「…教室から近いところなら」
「決まりね。じゃあこっち来てもらっても?」
『は、はい…』
「……ええ」
(…?)
3人は向きを変えて別方向に向かった。
エイラと共に向かったのは、この間の空き教室。
「…まずそっちで話してて」
「分かったわ」
エイラはそう言うと、メリア達から離れて、窓側に移動する。
ラウィーヌは特に気にせず手帳を取り出す。
「私が聞いたのは、同じクラスのドーバン・ロズバニアに聞いたのだけど、…その時の記憶が無いって」
『…記憶が?』
「そいつ、月属性の指導受けてたの。丁度月属性の指導を、ね。それなら話が繋がる」
ラウィーヌは手帳のページを捲ると、続けて言った。
「エイラは風属性なのは分かってる。けど、本人にはまだ聞いてない。ハバルト・ルービンにも、最近休んでるから聞けてない状態」
(生徒はこれで一旦終わり…)
『…エイラ様について、少し良いですか…?』
「いいわよ。その為の報告なんだから」
『……エイラ様、最近、おかしいんです』
辺りが静まり返る。
メリアがエイラの方に視線を送ると、エイラは視線を逸らす。
(…)
「へぇ、詳しく聞いても?」
『はい。数日前のことなんですけど…』
―――数日前、メリアは2年の階を先に通っていた。
皆、空き教室の噂話で持ちきり。
緊張で胸が苦しくなりながらもその中を通ると、ある声が耳に入る。
「…確か、その後、空き教室からの攻撃で友達がまともに受けちゃって、絶対安静って言われちゃったんだよ…」
「…よりによってあの子の苦手な月属性攻撃だし、どこで受けたの?…」
「うーん、1階の中等部棟との渡り廊下。開けてるからそこで受けたのも…」
(…渡り廊下…)
渡り廊下に向かって走ると、空き教室の前を通った。
扉は前とは違く、閉まっていた。
(…)
メリアは特に気にせず、そのまま通り過ぎて、渡り廊下に向かった。
と、1人の少女―エイラがいた。
メリアは、そこで少しばかり話して戻った。
『―そこで、私思ったんです。……何でエイラ様がここにいるのか』
エイラはその発言に反応する。
『―何故渡り廊下にいるのか、気になったんです』
レイランド学園の中等部棟と高等部棟の渡り廊下は、階段を使う方法でしか行けない。
「……もしそうだったとして…、何でかしら…」
『その時、現場には攻撃の跡がありました。エイラ様は跡を見つめていたんです。…それに…』
メリアはメモ帳を開いてラウィーヌに見せる。
『…っ、私、少し見てしまったんですけど…、…エイラ様の手首の裏に人体操作魔術の模様のようなものがありました…』
人体操作魔術、リバン王国の開発合成魔術のひとつ。
リバン王国の人体操作魔術は、似たフィーライト王国で使用される心理操作魔術とは異なり、手首に模様が浮かぶ。
魔法陣のような、特徴的な見た目だ。
そして、付けられたものは必ず、操作される。
『…図書館で模様を調べたんですけど。…エイラ様、手首を袖で隠すんです。袖が落ちそうになると、返事を構わずして』
「…!」
ラウィーヌは目を見開く。
(私に返事する前に…。だから?)
メリアは意を決して、胸を押さえる。
『……私が考えた見解だと、1つ可能性があるんです』
『今のエイラ様、誰かに―』
「―ストップ。そこまでね」
エイラが目の前に現れる。
(速い…)
メリアは警戒しながら、そっと杖を生み出す。
「次は私がメリア様と話す番なのですけれど?」
「そうね…」
メリアは警戒を止めず、記憶を辿る。
(違う…)
「その前に1つ良いかしら」
ラウィーヌが指を立てて訊ねる。
「エイラかどうか確かめてもいい?」
「…ええ」
エイラが答えると、ラウィーヌは一瞬のうちに杖を生み出し、2つ詠唱をする。
「―月星属性、月虹の下し。―」
2つ目の詠唱を早く終えると、上下左右に魔法陣を展開する。
(これならっ…)
ラウィーヌは昔を思い出す。
―「これ、捌ききれないんだよね…苦手だな…」
この魔術は、ラウィーヌが初めに覚えた魔術であり、エイラが苦手な魔術。
(エイラはこれを受け返したことは無い…)
ラウィーヌは杖の先端をエイラに向けて下ろす。
(…一応、後ろから星魔術を…)
「―星魔術、第7章、星屑の煌めき―」
メリアが詠唱をすると、エイラはラウィーヌに手を向けて、見つめながら小さく呟いた。
「―記憶改変操作―」
誤字がありましたら、誤字報告よろしくお願いします。
※また訂正するかもしれませんのでご承知お願いします。
(何度もすみません…。)




