【6章-1話】流行り
夏休みが終わり、しばらく経った日のこと。
夏休み明け初の実践魔術科の授業の号令後、担当教師のバイランディが、いつもより人一倍大きい声で告げた。
「新学期早々だが、今度、講師…というか学園に最高魔術師連が来るんだ。魔術力を上げる為に、皆の得意属性で学園全体でクラスを分けた」
(…え?)
言ったことを簡単にすると、学園で毎年講師を呼んで、魔術力を強化をしてもらうらしい。
バイランディが話していると、隣にいたエイラがメリアに訊ねる。
「メリア様って、確か…得意属性が星属性だったと記憶しておりますが…?」
『はいっ…。そうです…。ちなみにエイラ様は何属性なんですか…?』
「私は風属性ですわ。…好みでは無いのだけれど」
エイラがそう言うと、丁度バイランディの説明が終わったようで、通常通りの授業が始まった。
(いやだな…)
メリアは痛む腹を抑えて、授業に向かった。
別の時間、図書館で例の本を返して教室へ戻ると、真っ先にアリアが駆け寄ってきた。
「メリア、助けてくれない?!」
『ええ…?…どうしたんですか?』
「レジリアに変なあだ名付けられたぁ〜。助けてぇ」
メリアを盾にするようにして、あとから向かってくるレジリアから隠れる。
(あだ名…?)
訳が分からずにポカンと立ち尽くしているメリアにレジリアが颯爽と現れる。
「変じゃあないよ。歴とした2つ名だよー。メリアもそう思うでしょ?」
『どんな感じの名前でしょうか…?』
「酷いからね!覚悟しといた方がいいよ!?」
アリアが言うと、いつも以上のにやけ顔でレジリアは言った。
「さぁ、どうかな。アリアの2つ名とはっ!つまり、〘煽り癖しかない見習い闇魔術師〙でしょう!」
『………………』
「酷いでしょ?!」
『2つ名じゃあ無い気がするんですが…?』
メリアが真剣に答えると、アリアは何か言いたげにしていたが、数秒経つと諦めたように言った。
「そうじゃないっ…」
メリアはその返事を聞くと、一気にアワアワと焦る。
(えっと…、じゃあ良いか悪いかということか…)
言うべきことを心に浮かべると、拳を作って、自信に満ちた表情で言った。
『当てはまってるところはあるんじゃないでしょうか……!…でも2つ名という概念は人々の印象に残りやすいようにするものなので…―』
「これはダメなやつかな…」
アリアは早口になるメリアを見て、返事を期待したのを後悔した。
しばらくして、レジリアがその場からいなくなると、アリアはメリアに声を掛ける。
「メリア、さっき言うの忘れてたけど、最近2つ名を付けるのが流行ってるらしいのよ」
『な、何で…?』
「うーん、確か、この前の図書館の事件、最高魔術師連様とか色々来たんだって。あの時、情報記者いたじゃん?第3王子もいたし、それで憧れて盛り上がって付け始めたらしいよ?」
(始まり方が何か凄いな…)
苦笑いになると、ふとメリアはアリアに訊ねる。
『それでどんな感じのが言われてる?とかありますか?』
「うーん、先輩…エイラは〘凱風の嬢〙とか聞いたけど、意外と強い人とかだけ付けてるみたい」
メリアは驚きで少し固まる。
(何か…うん…)
『アリアは…ちゃんとしたようなのは付けられてないんですか?』
「うーん、レジリアのふざけにふざけまくったあだ名以外は無いと思う…」
『とにかく目立たなきゃいいって言う話かな…?』
「そうだね…」
そう言ってその場では話を止めた。
(2つ名か…。考えてみようかな…?ナウアール様は〘降星の魔術師〙とか…?アリアは〘魔術師オタク〙で決まりだと思うけど…)
メリアはふと考えて、ひとりで微笑んだ。
―その日の放課後。
1人の少女は生徒会長に捕まっていた。
(今日、い、いい、色んな人と、あ、会うなぁ…)
『な、ナウアール様っ、ど、どうし、た、たんですか…?』
「凄く動揺が分かりやすくて、逆に心配だよ。…まぁいいや。メリア、急だけど、情報を言うから覚えといて」
『は、はいっ…?』
耳を貸すと、ナウアールは直ぐに告げる。
「この学園に誰かが偽装して入っている。詳しくはサリアルに聞いてくれ」
『わ、分かりましたっ』
返事をすると、ナウアールは最後に一言だけ告げた。
「―君に護りを。―」
「…じゃあまた。今日は帰っていいよ。ごめん、引き止めて」
『…はい…?』
(…これだけ?〈覚えておいて〉?)
『また、明日…』
「うん、また明日。メリア」
そう言って、不自然だと違和感を覚えるメリアとナウアールの2人は、同時に反対方向に向かって歩き出した。




