【5章-6話】願いを捧げる儀式
辺りは静寂に包まれ、皆、王城の城下の広場で行われている披露に注目が集まる。
メリア達も例外では無かった。
溜まり場となったアリア秘伝の丘の上では、誰1人声を上げずに披露を観る。
披露の内容は、幻獣神祭の元となった話を、人々が演じ、代表者が魔術を捧げる。
その後、終わりを飾る花火を打ち上げる、という内容だ。
メリアはコーヒーが入ったカップを片手に、先程のことを思い返す。
(言えなかったけど、2人、もう直ぐ孤児院から出る年になってくるけど、よくやってるのかな…)
唇を噛んで、心配そうに披露を見る。
すると、ナウアールがこちらに寄って、静かに囁く。
「2人なら、孤児院長に引き渡したから。安心していいよ」
『は、はい…?』
何故それを言ってくるのか分からなかったが、メリアの心では何か理由があるのだろう、と解釈して何も問わない。
ナウアールはまたしばらくすると、笑顔で話し掛ける。
「最近はどう?生活とか、学園生活とか」
『あ…、えっと、……特には無い、ですっ。強いって言えばアリアの家に泊まらせて貰うんですけど、っていうくらいです…』
ナウアールの顔を伺うと、口元を緩めた表情でこちらを見ている。
『あの、披露は見なくていいんですか…?』
「大丈夫だよ」
即答されると、メリアは顔を引き攣らせると、ふと訊ねる。
『今更なんですけど…、何で私達の居場所が分かったんですか…?』
「あぁ、祭の警備をしてたんだけど、途中でエイラとロディスとノディスが結構騒いでて、説教がてら、一緒に披露を見ることにしたんだ」
『…へ、へぇ』
メリアは相槌を入れる。
「丘の上なら綺麗に見えそうだったから、良さそうなところを一通り、上から眺めてたら、君達がいたんだよ」
『そ、そんな偶然あるんですね…』
「で、皆で見たら楽しいだろうなぁって近付いてみたら、皆攻撃してくるからさぁ?」
『す、すみません…』
「いや、謝らなくていいんだよ。結界で破壊出来たから良かったし」
言うと、ナウアールは空を見上げると、メリアの方を見て呟く。
「…そろそろ花火が上がるよ」
『えっ、分かるんですか?』
「皆披露に夢中なんだけど、この調子だと魔術を捧げるのと同時に上がるな。昨年とは違うね」
さらさらと当たり前のように解説するナウアールにメリアは聞いた。
『……魔力探知、得意なんですか?』
ナウアールは足元を見つめると、直ぐに言う。
「こういうのは得意なんだ」
『じゃあ披露も見ないと』
「そうだね」
2人はまた披露の方に目を戻す。
演劇の披露は終わって、魔術の捧げの準備に移っている。
「…日属性の代表、ロヴィリアだね」
「あらそう?」
エイラが扇子を開く。
「メリア、知ってる人いる?」
アリアが訊ねると、ロヴィリアの他に、メリアはその場にいるもう1人知っている人物の名を口走った。
「…光属性代表、ミレ・キャスバ…」
驚く間もなく、魔術を捧げる儀式が始まる。
1人ずつ空に向かって魔術を放つ。
すると、同時に空に花火が打ち上げられる。
終わりを感じさせないほど、無数に打ち上げられている花火に圧巻とされながら、儀式を終える。
周りでは、誰もが拍手をして、儀式を尊ぶ。
その中でナウアールがクスッと笑いながら呟く。
「じゃあ僕も、この場に相応しい舞台に手を貸そうかな」
「―星魔術、範囲31250、天下降星。―」
すると空から淡い光が見えたかと思うと、無数の星屑が地に向かって落ちてくた。
まるで雪のようだ。
そして、メリアは眺めると静かに思った。
―その魔術は、計算し尽くされた、星が街を包み込んでその場を変える美しい魔術だ、と。
「じゃあこれで。また夏休み明け〜」
アリアが手を振ってナウアール達を見送ると、先を少しずつ進むメリアに向かって走る。
「メリア、さっきまで楽しそうだったのにどうしたの?…気絶したの?」
『えっと…。そう言うのじゃあ無くて、ただ単に早く帰りたいっていう…、ですけど……』
「本当に平気?メリア」
『は、はいっ!』
アリアは、メリアのおかしな返事を聞くと、笑いを抑えながら、前方を見る。
「ぺーリンティには、送迎早くしてって伝えたんだけど…。それにしても遅いわね」
(アリアにも迷惑かけちゃった…。どうしよう…)
メリアの視線は段々と下に落ちていく。
それに気付いたアリアは、恥ずかしがりながら扇子を取り出す。
「…メリアは小説は読んだことある?」
『うん…』
途端、アリアの表情が一気に明るくなる。
「どんなの読むの?」
『えっと…。前に読んだことがあるのは…ワドリスカ・アーバドの〈貴方に〉とか…?』
アリアの表情が、益々嬉しさに溢れる。
「えっ、センスいいじゃない!実はね…〈貴方に〉には、秘密があるんだけど…。帰ったら直ぐお泊まり会よっ!語り尽くすまでっ…!」
『は、はいっ』
そして、迎えに来た馬車に乗ると、アリアはタイズに「アリア様、どうしました?」と聞かれ、アリアは恥ずかしそうに叫んだ。
「何でもないーっ!」




