【5章-1話】陰キャ、疲れでベッドに蕩ける
―夏休み初日。
メリアはアリアの実家に向かって、アリアと共に馬車に乗っていた。
アリアの実家はユリンダの領頭で、王都の範囲内に位置しているが、全体で比べれば王都から離れている方だ。
レイランド学園からも離れており、1日はかからないが、数時間は馬車に乗らないと着かない。
馬車が進むにつれ、辺りが自然に包まれていく。
しばらく馬車が進むと、御者の休憩で菓子屋の前で止まった。
「何か買ってくるね」
アリアが馬車を降りて菓子屋へと駆けていく。
馬車から覗くと、その菓子屋は種類が豊富で、ナッツを練り込んだスコーンやメレンゲ、チョコチップなどのクッキーを初め、プリンなどまで売っているようだった。
時間が経ち、アリアが戻ってきたかと思うと、大量の紙袋を手に馬車に乗り込む。
どうやら、アリアは殆どの菓子を買ってきたようだ。
アリアは紙袋を1つ開けると、それをメリアに渡す。
「これはこの地域の名物のサーディスクッキー。ラカの実っていう木の実を練り込んでるの。食べて!」
『じゃあ…、頂きます』
1口齧ると、ラカの実の香りが口一杯に広がる。
ラカの実は、密度が大きい森林の中にしか生えない木で、比較的に入手しにくい。
(…美味しい。甘くなくて、食べやすいかも)
食べ終わると、入れ物からもう一度取って、口に入れる。
「気に入ってくれて良かった…!まだまだあるから家に帰ったら食べようね!」
『…ありがとう』
そうアリアに言うと、馬車が動き出す。
アリアの家に向かうのだ。
メリアは風で揺れる草木を見て、優しく微笑んだ。
「メリア、着いたよ!」
馬車から降りると、目の前にはそこらの家とは比べ物にならない、巨大な屋敷があった。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
御者から荷物を受け取ると、門に向かって歩く。
アリアがあとから隣に来ると、メリアの気持ちを察したのか、先に門に向かって、屋敷の使用人に声を掛ける。
使用人はアリアの姿を見ると、直ぐに門を開いた。
メリアも一緒に入れてくれていたので、話は通っているみたいだ。
庭も広大で、庭師が手入れをしている最中だった。
やがて屋敷の扉の前まで来ると、甲冑姿の使用人が親切に扉を開けてくれた。
メリアが頭を下げると、お辞儀を返してくれたので安心できた。
中に入ると、アリアは1つの部屋に向かう。
中は白系の壁紙と床で統一されていて、部屋の数が何部屋、何十部屋もあった。
「入って」
そう言われて部屋に入ると、そこには1人の中年過ぎた辺りの見た目の男がいた。
髪に一切白髪の無いので、より一層若く見える。
どうやら、この人がアリアの父のようだ。
メリアは震える足を踏み込んで深くお辞儀をすると、暖かい声で、快く向かい入れてくれた。
「私はユリンダ伯爵領頭、ムアンドル・ラクアレールだ。アリアから大凡話は聞いているよ。少々変わったアリアと仲良くしてくれていること、礼を言う」
アリアを見ると、顔をムスッと怒った表情でいた。
『あ、いえ…。こちらの方が感謝をする可きです…』
頭を下げるムアンドルに言うと、上げて元の笑顔に戻る。
「使用人に部屋に案内するよう伝えてあるから、アリアと一緒について行ってくれ」
ムアンドルが言うと、何処からかメイド服の使用人が現れる。
「こちらです」
メリアとアリアは使用人に連れられて、部屋に向かった。
3階まで上った階段を降りて2階の通路を通る。
これまでにすれ違った使用人は、思ったよりも少なく、10いない程度だった。
(使用人さん、少ないけど…。何でかな?)
キョロキョロと落ち着きの無く、使用人を見ていると、アリアが静かに囁く。
「使用人、少ないでしょ?休暇を出しているんだと思う。魂戻りの日が近いから、お父様はもう出し始めてるのかもね…。残ってる使用人はいるみたいだけど」
『…そうなんだ』
アリアの説明を聞いていると、使用人は足を止めて扉を開けた。
その部屋は、外から見ても他の部屋より広く、極めて豪華だ。
アリアと共に中に入ると、メリアは唖然と立ちすくんだ。
(べ、ベッドが…ふ、2つ……?!)
そう、ベッドが2つと、それぞれ机とクローゼットなどがあったのだ。
「言っておくの忘れてたけど、私と同部屋だから!」
アリアが嬉々としてベッドに飛び込むが、メリアは、それ以前に気の抜けない部屋に絶望した。
(わ、私の夏休みスローライフがっ…。でも、人の屋敷に泊まるんだったらこれくらい感謝しないと…)
メリアは手を合わせて、窓の外の陽の光に向かって無事を祈った。
専属シェフの料理という豪華過ぎる夕食を手早く済ませて部屋に戻ることに成功したメリアは、早足で部屋に向かう。
疲れたので、ベッドに向かって飛び込もうとするが、人の屋敷のベッドに飛び込む、ということに若干抵抗に駆られて中々飛び込めずにいた。
葛藤と戦っている最中、アリアが戻ってきてメリアの今の状況に笑いを抑えきれなかった。
「っ、メリアっ…、何そのポーズっ、ふっ」
メリアの今の体制をご覧頂こう。
腕を天井に向かって真っ直ぐ伸ばし、目をギュッと瞑ってその場で小さく跳ねている。
アリアが笑っていると、メリアは朝からの疲れと跳ねていたのとで疲れが最上値までに上がったのだろう。
気絶するように、勢い良くベッドに倒れた。
ベッドは想像以上にふかふかで、メリアは蕩けたように呟く。
「お母さぁん」
そこでメリアは眠りについた。
横でアリアが呆れて言った。
「お泊まり会出来ないじゃない!」




