【3章-6話】根暗陰キャの小旅行
「メリア、起きてー!」
アリアに揺り起こされて、メリアは伸びをして悠々と起きる。
ぼんやりとした目を擦って目を覚まさせると、アリアが強めの口調で言う。
「集合場所行かないといけないよー」
メリアはその声でベッドから飛び降りて、颯爽と支度を始めた。
メリアの準備を待っていると、時折、風魔術の詠唱が聞こえた気がした。
(荒らさないで荒らさないで)
アリアは心でひたすら祈っていた。
『もう大丈夫、な筈!』
メリアがフードを深く被ると、アリアは扉を開けて言った。
「フードは欠かせないのね…。…じゃあ、行こう。メリア」
無事に集合すると、メリア達が着いたのは初めの方で、まだ全員は来ていなく、結局最後に来たのはレジリアだった。
そして、言わずもがな煽り合いをしていた。
「遅れるなんて、すっごく恥ずかしいよねぇ」
「はぁ?」
長すぎるので以下略。ロヴィリアにも叱られる。
――そうして、移動後。
「これから、好きに行動していいよ」
ナウアールが言うと同時に、メリアは一目散に陰に隠れる。
先程までの雰囲気はなんだったのだろうか。
『…や゛っぱむ゛り゛ぃっ…!』
「折角の生徒会長指示サボり小旅行って言うのに、楽しまなくてどうするのよ?」
(…うっ、確かにそうではある…けど)
メリアが腕に顔を埋めてモゴモゴする。
「じゃあ私に着いてきて。この辺は一度来たことあるから」
(嫌ぁぁぁ)
引き摺られるようにして、多分人生初の、街道の真ん中を歩いた。
「じゃあまず、菓子露店から!」
(ああああああああああああ)
メリアはこの調子で、1週間の内の半分を、連れていかれるまま、菓子露店、雑貨露店を回っていった。
いよいよ最終日の夕方に差し掛かると、メリアは思いがけないことを考え始めた。
(お土産とかって、買った方が良いのかな…)
前よりも、明らかに露店に興味を示している。
辺りを見回していると、ある看板が目に入った。
(星の砂…?)
急に立ち止まると、アリアはメリアに聞く。
「何かあった?」
『うん…、これ…』
メリアが星の砂と書かれた瓶を手に取って、アリアに見せる。
「メリアにぴったりじゃない!」
アリアが呟くと、メリアはピクっと反応する。
『そ、そうかな…』
「買っていったら?」
『…』
返事が無いので、アリアはメリアの顔を軽く覗き込んだ。
口元しか分からなかったが、偶然にも風が吹いて、目元が開ける。
頬を赤らめて、ただひたすら思いに浸っていたい、という正にその顔だった。
「良かった…」
アリアは安心して、隣の本屋の露店らしき店を覗く。
覗く程度で済ませようと思ったが、あるタイトルが目に飛んで硬直した。
―そのタイトルは〈魔術師、ファスリードによる書〉だったのだ。
(もしかして…?)
そのタイトルにしばらく目を奪われていると、近くで激音の攻撃音と竜の鳴き声が聞こえた。
空を見上げると、翼竜と火竜の交配種の火翼竜が2匹飛び交っているのが見えた。
メリアに声を掛ける間もなく、空へ向かうひとつの影があった。
ナウアール・スウェディだ。
彼が火翼竜のいる空へ向かうと、口元が少し動いた。詠唱をしたのだろう。
詠唱が不自然な終わり方だったので、皆不思議に感じたのか、街がザワザワと声が広がる。
その為、アリア達には聞こえなかったが、メリアには何の詠唱かなのかが直ぐ分かった。
「星空心通詠唱捧読祈願……星属性魔術」
メリアが呟くのと同時に、ナウアールは見覚えのある動きで詠唱を捧げた。
すると、星空は一気に強く光を放ち、竜の体に集中して集まった。
その直後、誰もが耳を塞ぐような激音が鳴り響いた。
宿に戻ると、アリアは周りをいちいち確認しながら素早く荷物を隠す。
(あの本だけは…、多分、メリアに見せちゃダメ…。メリアが家族の話をしたことなんて、一切無かった…)
後からメリアが入る。
アリアは紙袋が沢山あるのに比べて、メリアは2、3個しか紙袋が無い。
「もっと買っておけば良かったんじゃない?…時々本屋の露店に吸い込まれたの、私だけど…」
アリアが聞くと、メリアは微笑みながら横に首を振る。
『私、誰かと買い物するの、初めてだったから…』
メリアは相変わらず、誰でも喉が締め付けられて声が出ない。
それはアリアの前、先生の前でもそうだ。
だが、今は締め付けられる様な感覚が和らいだ気がした。
沈黙が続くと、メリアは何かを紙袋の中から取り出す。
『星の砂は、買いました…』
大事そうに瓶を両手で見せると、アリアは嬉しそうに話し出す。
「そうだ!見てたよね、メリア」
(正直、買うつもりはあんまり無かったけど…)
『…えっと、こっちはアリアにと思って…』
メリアがまた紙袋から瓶を取り出す。
その瓶の中にはメリアと同じ、星に寄せた見た目の砂が入っていた。
色も若干違う。
アリアは「…いいの?」と訊ねると、メリアは小さく頷く。
アリアに手渡すと、アリアは受け取り終わるまで終始驚いていたが、メリアに対して感謝をした。
「ありがとっ…!」
メリアがぎこちなく笑うと、アリアは星の砂の瓶を大切に持ち、メリアに言った。
「また、何処か買い物でも遊びにでも行こう?」
『…うんっ』
そうして2人は喜びを顕にしながら、ある秘密を抱えた。




