【2章-10話】急な頼み
――「あの子、多重人格らしいよ」
――「前に、人を殺したとか…」
嘘。
――「それに怯えて父親が孤児院に入れたとか…」
違う。
――「そいつの母親は異国生まれ。しかも、あの呪いの国テレンベル王国。」
違う。
なんで?
聞こえてくるものは嘘でしかない。
嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
――「っ……!?」
一気に目が覚める。
「具合は、どうですか?」
ラリアードが顔を覗き込んで言う。
『大丈夫です…』
「そうですか。少々魘されていらしたので、気になりまして」
ラリアードは部屋のカーテンを開ける。
(眩しっ)
「今日も授業がありますので遅刻しないよう」
そう言ってメリアの手を取って立たせた。
『はいっ!』
(これは夢。…夢)
メリアは急いで支度を始めた。
「メリア・ファスリード。呼び出しだってさ」
クラスメイトに呼ばれてメリアが廊下に向かうと、そこには何故か先日紹介された男、ロヴィリアがいた。
やっぱり先日と同じようにメリアを見下すような目をしている。
しばらく沈黙が続く。
メリアはビクビクと身体を震わせながら様子を伺う。
ロヴィリアは溜息をつくと、メリアに向けて言う。
「大事な話があるから来い」
『はいっ』
先を行くロヴィリアをメリアが追おうと1歩踏み出す。
すると、背後から肩を叩かれた。
アリアだった。
アリアはメリアにそっと耳打ちをする。
「手、震えてる。大丈夫?」
『うんっ』
「そう」
メリアにそう告げると、アリアはロヴィリアを睨むように見る。
まるで手出しはさせない、とばかり言いたげな顔だ。
そしてメリアの手を離し、見送った。
(ど、何処に行くんですかね?)
時折扉を開ける音が数回鳴ったりして、メリアの不安は募っていく。
背中を丸くし、距離を限界まで広げて歩くメリアは、ロヴィリアに追跡魔術をかけていたおかげで前が見えていなかった。
「おい」
(っ…?!)
胸を押さえつつ、ゆっくりフードを上げる。
目の前にはこちらを向いて立っている、ロヴィリアのドアップ顔があった。
「聞いてんのか?」
(うわっ?!)
『は、はいっ!』
見渡すと、ここはどこかしらの教室のようだった。
ロヴィリアは、溜息をつくと、メリアをひとつの椅子へ誘導した。
メリアは喉元を押さえながら椅子に座る。
メリアは何か話されるのかと思いつつ、手を震わせていた。
「ここで待ってろ」
それだけ言うと、ロヴィリアは足早に扉に向かい、さっさと扉を閉めて、教室を去っていった。
(えっ?)
ロヴィリアが出ていった後、メリアは緊張を紛らわす為に、そのまま前にある机の一点を見つめていると、突然扉を開ける音がして、5人、人が入ってくるのが分かった。
そのうちの2人はナウアールとロヴィリアだ。
後の2人は何処かしらの学校の制服を着ている学生、1人は教師のようだ。
制服はレイランド学園とは違ってローブでは無く、身体のラインがよく分かる。
メリアが制服を眺めていると、その教師は先にメリアに向かって話しかける。
「君がメリア・ファスリードかな?」
『はい…そうです…?』
不安げに答えるメリアを見たあと、ナウアールが手で指しながら手馴れた様子で喋り出す。
「メリア。こちらの方が、騎士学校イーパンズア学園のシンベティ・ウィーンド先生。後の2人が生徒のオーズ・ダントとリーアナ・レリンティア。」
訳も分からないまま丁寧に話していくナウアールに、メリアは呆気に取られていた。
(何で騎士学校の人達が来たの…?)
メリアが理解する間もなくシンベティが話す。
「メリア・ファスリード殿。突然だが頼みたいものがある」
(…)
「特派員として、リバーズリー団に一時入団して貰えないか?」
リバーズリー団と言えば、魔物退治専門の集団で、国側が承認している集団で有名だ。
入るためには相応の実力と技術が必要だ。
きっと何かが起きたのだろう。
(…)
メリアの顔はすっかり青ざめる。
胸が苦しく、今にも気絶しそうだが、胸元をギュッと握ってシンベティを見て答える。
『何でですか?』
「お前と契約した精霊に、ラリアードってのがいるだろ?“セイラン”を伝ってそいつに色々聞かせてもらってな。―“あれ”にはいいと思ってな」
(ということはあの時…)
メリアが入学した夜のことを思い出す。
メリアがあの時聞いていたことと、今シンベティが言ったことが噛み合わない。
(…私に聞かれない為か)
そう心で思い、頼まれたことについて、震えた指で文字を書く。
(っ、私っは…)
『お断り致します』
「まぁそう言うと思ったけどな。…そういう訳にはいかないんだよ。あとはリバーズリー団に入団してるオーズとリーアナが説明する」
そう言ってシンベティに任された二人は、まるで準備をしていたかのように話し出した。
「実は、北側にあるアバント領に出団命令が出てていて…。竜から魔族まで山からアバント領に向かってきているらしいんです」
自分が聞いてもないことを話し続ける二人に、ポカンと口を開く。
『それでなんで私が出てくるんですか?』
「…ナウアール様とロヴィリア様からの推薦です」
メリアは、今にも「え?」と言いたげな顔でナウアールとロヴィリアを見る。
察したのか、ナウアールがメリアに話す。
「そうだよ?君は強いし、一発で終わらせてくると思ったんだ」
『でも…。色々行事があったりとか…!』
「別に、日を変えるだけ。簡単だよ。これは強制」
即答するナウアールに、メリアは気絶しそうになったが、前の人格に入れ替えを強制的に止められたせいで普通に倒れた。
「おっと」
ナウアールがメリアの背中を抱えると、何処からか出した、丁寧に綴じられている書類を見せて言った。
「これを読んでおいてね」
「…では討伐のご協力、宜しくお願いします」
勝手に決められたメリアの体は、絶望で完全に力を失った。




