【2章-2話】...チビじゃないって!
授業の時間、学園の外にあるグラウンドにクラスメイトが集まると、一瞬のうちに前に中年ほどの細身の男が現れた。
「入学翌日に抜き打ち試験があるなんて、ほんと嫌だよなー」
そう小さく呟くと、髪をぐしゃぐしゃにする。
(何か怖そう…うぅ)
メリアは深くフードを被っていたが、更に上から手で押し付けた。
「何か変な人っぽいね、あの人」
アリアはメリアの耳打ちする。
「俺はバイランディ・エガー。実践魔術担当教師だ。今日の実践魔術試験は、1体1で戦ってもらい、成績を付け、実践魔術用のクラス分けをする。取り敢えず、最初に戦ってもらうペアを発表する。規則についてはこの後言う」
そう言うとバイランディは呟くように詠唱をし、何処からか出した杖を振る。
風魔術で隣側に積み上げられていた魔紙が、生徒1人1人に渡る。
「あ、ペアの人いた。メリア、私行ってるね!」
アリアはそう言って先にペアの方に向かっていく。
メリアは直ぐに魔紙に指で追いながら、自分の名前を探す。
やがて、指が徐々に紙の端に近付くと、ようやくメリアの名前を見つける。
(あっ…)
(相手の名前は…)
名前を見ると、そこには〘クレス・ラードリー〙と書いてある。
メリアは周りを見渡すが、それらしき人物はいない。
けれど、何故か後ろに気配を感じる。
振り返るとこちらをじっと見て、黙り込んでいる男がいた。
その男は段々とこちらに寄ってくる。
(っ…こ、怖い…)
反射で1歩後ろに下がる。
男の眉がピクっと反応する。
メリアに気がついたかと思うと、更に顔を覗き込んできた。
(…!?)
メリアは必死にフードを下げる。
すると、男は片方の眉を上げて言った。
「…お前がメリア・ファスリード?」
メリアは手の力を緩め、軽く男のことを見る。
明らかメリアより身長が高く、少しつり目気味だ。
「こんなチビかよ…変な奴」
男は呟くと、先に名乗り始めた。
「俺はクレス・ラードリー。仲良くするつもりはねぇからな。チ・ビ」
(うっ...)
『私はメリア・ファスリード。私も貴方とは仲良くするつもりは無いですから。あと、訂正してください。私は、チビではっありませんっ』
メリアが言い返すと、急に笑い始めた。
『何がおかしいんですか?!』
「…ふっ、だって「チビではっありませんっ」〜とか必死過ぎだからっ。はっ」
腹を抱えながらクレスは笑い続ける。
『ほら、もう始まりますよー行きますよー』
そう書くと、メリアは小さく詠唱をする。
「―蔓魔術。第5章、蔓の縄―」
そう言うと、てに淡く光る蔓が現れた。
メリアはその蔓をクレスに向けて伸ばす。
クレスの腕に蔓が巻き付く。
(えっ、やばっ)
するとクレスの腕をしっかりと掴むが、蔓は一向に伸ばすのを辞めない。
メリアが蔓を一振すると、クレスの身体に勢い良く蔓が巻き付く。
メリアがそのままバイランディの方へ投げる。
クレスが地面に着くところを確認すると、メリアは飛行魔術の詠唱をする。
「―飛行魔術」
そしてメリアもバイランディの方へ向かっていった。
(チッ、これじゃあどうにも出来ねぇ…)
クレスは投げられた後、思った。
蔓に巻かれて飛ばされることなんて、冗談でも思わない。
怪我はしなかったものの、クレスにとっては中々気持ちの良いものでは無い。
しかも、投げられたのがメリア・ファスリードという少女。
少女の細い腕で飛ばされるのは、クレスには溜まったものでは無かった。
(……でもこれからの事を考えて近付くのは、ありだな…)
中々のポジティブ思考に少々驚かされるが、クレス・ラードリーという青年は、心であることを決めたのだった。
(絶対に、任務を全うしてみせるっ―)
しかし、それは今の現状によって忘れ去られる。
「何だ、ラードリー」
蔓に巻かれたままの自身の身体と、バイランディの一言でクレスは頭が真っ白になった。
(何で消えねぇんだよぉぉ!?)
――その後、バイランディから諸々説明を受けた。
主な規則はこうだ。
試験は専用の結界部屋で行われる。
規則は、相手を戦闘不能にすることで、環境に害を与えないものならどんな魔術でも使って良く、どちらかの魔力が無くなったら、その人物が負けということになるらしい。
メリアは頭の中で戦略を立てる。
(あのクレスっていう変な人は、意外と強そう…。いつもは人格変えてるけど、人格変えなくても良いかもしれない?…まあ変えるものじゃないけど…)
暫く経つと、順番に名前が呼ばれる。
アリアも先に入っていった。
そして最後にメリア達の名前が呼ばれる。
結界部屋に入ると、外から鍵が閉まる音がした。
それと同時に、何処からか声がした。
「…えぇ、これから実践魔術試験を始める。両者とも位置に着きなさい」
2人はそれぞれの位置に着く。
すると、また何処からか声がして、響くような声で言った。
「始めっ―」
2人はそれぞれの相手に向かって飛び出した。




