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星空の下で君を  作者: リヴィル
疫病と医師
1/2

王国を襲う疫病

これは、死の疫病から世界を救った一人の医師と、がんを患った一人の貴族の娘の話である。

 

 かつて、レズハーラ王国を死の淵まで追いやった疫病があった。その死の疫病はレズハーラの人口の約六割を殺した。

その状況を打破した一人の医師。

 それから三年後、とある貴族から娘を救ってほしいとの依頼があったーー。

 ここはレズハーラ王国。レドラス大陸に栄える大国である。

 港では、途絶えることなく毎日、貨物を乗せた交易船が出入りする。

王都トレニアは海に隣接した平原に広がり、細かな装飾のほどこされたトレニア城は山のふもとに建てられている。

赤いレンガの屋根と白い漆喰の壁で統一された王都は、海の群青と空の澄んだ青、そして山々の緑によってより美しく引き立っている。

 しかし、今ではその栄華もと絶えようとしていた。


 「ケイレス、こっちも診てくれ」

 「わかった、今行く」

 ケイレスは、診ていた患者を看護師に預けると、同僚のアンドリューの方へ駆け寄った。

 

 ここは、王都トレニアの地下に建てられた旧地下要塞跡地。今では疫病患者の隔離施設として使われている。

 

正体不明の疫病は突如として現れた。原因は鉱山の奥にたまったガスだと言われているが、実際のところはよくわかっていない。

 症状としては、乾いた咳を頻繁にするようになり、体温が大きく上昇し、次の日には血も一緒に吐き出す(肺が損傷するからだろう)。

身体の水分が奪われ衰弱し、脳へ行き幻覚などを見せ、最終的には気管が腫れて呼吸困難で死亡する。

 そんな、恐ろしい病である。治療法も一向に解明されないままだ。


 ケイレスは患者の口を開けた。喉の奥に血が溜まっている。黒い血だ。

 「患者を横に倒して」

彼とアンドリュー、看護師の三人がかりで患者を横に倒すと、患者の男性は苦しそうに咳いた。

 次の瞬間、彼の口から大量の黒い血が噴き出し、ケイレスの顔と白衣にかかった。

 ケイレスは「席をすこしばかり外させてもらうよ」というと、急いで化粧室に向かった。

 

 彼は顔面を、皮が破けるのではというほど強く水で洗った。泡立った石鹸を顔に当て、水で洗い流し、最後にタオルで拭いた。

もちろん、タオルはだれも使っていない新品のものだ。そして、ケイレスはそれを使い終えるとゴミ箱へ捨てた。

疫病はあらゆるものを経由して感染するためだ。


 しばらく、ケイレスは鏡に映る自分の顔を見つていた。ただ見ていたわけではない。何か表面的な異変がないか調べるためだ。

 そこに、アンドリューがやってきた。

 「大丈夫か?」

ケイレスは肩をすぼめた。

 「さあな。今のところは何とも言えない」

 「しんどくなったらいつでも言えよ」

心配するアンドリューに、彼は微笑んでみせた。

 「もう勤務でしんどいんだけど?」

 「そうかい。なら、いい知らせがあるよ」

ケイレスはどうせ冗談だろうと思って尋ねた。

 「なんだ?」

 「勤務後退の時間だ」

ケイレスは思わず喜びで飛び跳ねそうになった。

 「嘘だろ⁉もうそんな時間か?」

アンドリューは頷いた。

 「ああ。地下にいると体内時計が狂うからな、仕方がない」


 友人の前では笑ってはいるものの、ケイレスは不安でたまらなかった。嫌な考えが的中しないことを祈るばかりだ。


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