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第ニ話 なぎさ君

 トントンっ、と靴の爪先で地面を叩く。


 ……10年ぶりぐらいに高校の制服着た。

 なんだろう、この罪悪感と虚無感は。


 だけど、やらなければならないことがある。

とりあえずの目的は、元の世界に戻る手掛かりを探す事。学校に行って、たくさんの人と話して、私は今どういう状況に立たされているのかきちんと理解し、帰るための糸口を探そう。


 ……そういえば私、学校の場所分からないな……。でも、幼馴染のなぎさくん? とやらと一緒に登校するのなら問題ないはず。

 がちゃっとドアを開け外にでる。すると、家の塀に寄りかかり目を瞑っている少年がいた。 


「はっ………」


 思わず声が溢れてしまった。

 身長は170センチぐらいだろうか。

さらさらとした薄い黄金色の髪を靡かせている。

イケメンだ。元の世界には存在しない程の。


 ………っといかんいかん、見惚れている場合じゃなかった。

 まず、私となぎさ君の関係性をきちんと理解しないけといけない。


 ……仕方がない、使うか。

「おはよう、なぎさ君!」


 前屈みにになり、腕を胸の下で組む。こうすることにより、上目遣い&胸寄せを同時に行い視覚的に猛烈な刺激を仕掛けることができる。

 これを食らったら最後、まともに顔を見ることすら……。


「おはよう、ありす」


 よもぎ君は、目を逸らすことなく、ニコッと笑顔を返した。

 な、なんだと……!


……この少年、私の必殺技をものともしていない……!


「学校に行こう、入学式に遅刻しちゃうよ」


 そう言いながら、私の手を優しく両手で包む。

 ……か、かわいい。

 なんというか、小動物というか、リスさんというか……!。

 私の女心をこちょこちょとくすぐってくる。


「さぁ、いこう」


 ぎゅっと、両手に力を込め、やさしく、誘うようにひっぱってくる。

 思わず、頬を染めてしまうわたし。

 あ、あぶない、あと10年若かったら、もうすでにもっていからていた……!

 そう、私はもう二十代後半、一回り年下の高校生と付き合ったとなれば、社会的制裁は避けられない……!


「……ありす、聞いて欲しいことがある」


 真剣な眼差しで、私と向かい合う。

 ちょっとまって、この雰囲気って……⁉︎


「高校生になってから……。 いや、それよりももっと前から、ずっと言いたい事、伝えたいことがあったんだ」


 この体は、私の体じゃない。

 もしかすると、私の本当の体と精神が入れ替わっている可能性だってある。


「聞いて欲しい。 いや、聞かせて欲しいんだ」


 ……でも、心を振り絞って、震えるほどの緊張を噛み締めながら、ゆっくりと言葉を紡いでいる。

 こんな少年の気持ちを、無碍にしてしまっていい訳がない。


「ほのか、君の髪はピンク色で、すごく綺麗だ」


 だから、私も真剣に答えよう、一人の女性として……。


「……うん」

「だから、その、その……」

「大丈夫よ、あなたの気持ちを正直におしえて?」


「髪の毛みたいに股の毛もピンク色なのかい?」


「……!!!」


 自制から外れた右足が、思いっきり股を蹴り上げだ。

 



「ご、ごめん、まさかここまで怒るなんて思わなくて」

「うるさい、話しかけないで」


 生まれて初めて、男の股を蹴ってしまった。

 まだ、むにゃっ、とした感覚が足に残っている。


「だってさ、その、下の毛の色って気にならない?」

「……まだ蹴られたりないの?」

「すいませんでした」


 蹴られた時のことを思い出したのか、素直にペコリと頭を下げる。


「……まぁ、いいわ、今回だけは許してあげる。次はないと思いなさい」


 相手はまだ分別も分かってない少年だし、心から謝っているのが表情や仕草から感じられたので許してあげることにした。

 ……それはそうと。

 私は、目の前にある扉をなかなか開けないでいる。


「どうしたんだ、ありす。ドアの前に突っ立って?」

「ぜ、全然してない! 配属ガチャの方が千倍緊張したわよ!」

「……配属ガチャ?」

「い、いえ、なんでもないわ、気にしないで」


 反射的に余計なことを口走ってしまった。

 正直、緊張している。

 現実からかけ離れたこの世界のクラスメイトはどんな少年少女たちなのか、その中に10歳以上年上の私が入ってしまってもいいのか。

 だけど、ここまできて帰るわけにはいかない。

 私は何としても元の世界にかえり、恋愛レアリティショーを見なくてはいけない。


「(トントン)初めまして。豊口ほのかです。よろしく……。間違えました、ありすです。よろしくお願い致します」 

「と、とよ? さっきから、どうしちまったんだアリス……」


 扉を開けると、クラスメイトの若者たちの視線を一斉に浴びる。

 ……同じ会社の社員たちの前でプレゼンしても全く緊張しない私だけど、特殊な環境にいるためか、緊張の糸が途切れない。


「お、やっときたか、アリスと一ノ瀬、少し遅刻だぞ」


 教卓に、先生とは思えないほど小柄な男の子がたち、私たちのことをまるで生徒のように説教してきた。

 そして、その姿には見覚えがあった。


「あんた何やってんの?」

「あんたじゃなくてパパだろ? いや間違えた、先生だ」


 そう、パパ。

 今朝初めましてをした。コンクリートおっぱいに窒息させられていたショタがそこにいた。

 全く似合ってないメガネとスーツを身に纏って。


「遅くなりました。パパ」

「うるさい! お前にパパと呼ばれる筋合いはない! 帰れ!」

「いや、あの、今登校したばかりなのですけど……」


 お父さんが学校の先生で、担任教師。元の世界ではありえない現象が起きている。


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