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エピローグ


 私は、父が死んでも泣くことができなかった。


 高宮家の長女として誕生した私こと高宮ほのかは、そこそこの学力で、そこそこ大学にはいり、そこそこの企業で事務に勤しんでいる。

 毎日同じ時間に起き、同じような食事を摂り、同じ時間に寝ている。

 今年で二十七歳。決して若くはなく、また老いてもない私は、変わらない日常を送っている。だかといって退屈をしているわけではない、だけど、歳を刻むごとに、感情が薄くなっていく実感があった。

 感動ものの映画を見ても泣くことはなく。親友が結婚しても嬉しいという感情は出てこない。


 私の感情は固まっている。


 そんなある日、私は実家にもどり、大掃除に勤しんでいた。


「お母さん、このダンボールはどこに運べばいいの?」

『えっとねー、2階のお父さんの部屋に置いといて』

「はーい」


 私の実家は、今私が住んでる都会とは離れた、田舎に建てられている。

 一軒家で、私が大学を卒業するまでの二十二年間お世話になった家、すっかり古ぼけているが、思い出がたくさん詰まっている。

 その家が、今ではすっからかんだ。


『まさか、あんな簡単にポックリ逝っちゃうなんてね』


 これは、葬式でのお母さんの言葉。

 つい一週間前、お父さんは道端で転び、文字通りポックリと息を引き取ったらしい。

 五十五歳。亡くなるにしては早かった。

 お母さんは、二日間ほど泣き続けていたが、葬式には、笑顔で参列していた。

 そして私は、一回たりとも、泣くことができなかった。

 母は、この家を売り、それを元手に、都内のマンションに住むことにしたらしい。

 そのため、絶賛お片付け中である。


「お父さんの部屋っと……、おじゃまします」


 段ボールを両手で使って抱えた状態で、なんとか部屋に入ると、見慣れた部屋が目に入った。


「変わってなわね、お父さんの部屋は」


 ベッドの位置、クローゼットの位置、家族写真の位置、そしてこの匂い。私が家を出た五年前と何も変わっていない。

 段ボールを部屋の隅に起き、改めて部屋の中を見つめる。

 そういえば、小さい頃、お母さんに隠れて一緒ラーメン食べたりしてたっけ。

 ベッドの裏側を探ると、ポトポトと、カップラーメンが落ちてきた。


「……私と違って変わらないなぁ、お父さんったら」


 これは、私が責任を持って食べよう。共犯者の私が。

 落ちてきたカップラーメンをかき集めていると、カップラーメンじゃない、四角い物体が落ちてきた。


「……なにこれ?」


 大きさ自体はカップラーメンとさほど変わりはないけど、明らかに形が違う。この形、どこかで見覚えがあるような……。

 ん? 表面になにか書いてある……。

 だけど、続きの文字は掠れていて、読むことができない。

 もっと情報がないか、かちゃかちゃと触っていると……。


「え、な、なに!」


 急に、光だした、なにごと!


「ちょ、やめ、それ以上光らないで!」


 だんだん光が強くなっていく。逃げ出そうとドアの方へ走ろうとするが、クローゼットの中から落ちてきた帽子に足を取られ、転んでしまう。


 そして……


 気がつくと。見慣れない天井が目の先にあった。


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