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第九話 スキル改ざん

 接近してくる俺を見て、ゴブリンロードが身構えた。



「ギャギャッ!」 



 雄叫びを上げると同時に巨大な拳を叩きつけてくる。


 その迫力に一瞬背筋が凍りついたが、なんとか躱して懐に飛び込み斬撃を放った。


 確かな手応え。


 俺の筋力は、硬い岩盤をたやすく真っ二つにできるほどに上がったのだ。

 たとえ相手がCクラスのモンスターでも、喰らえばひとたまりもないはず。


 そう思ったのだが──。



「ギャウッ!」

「……っ!?」



 ゴブリンロードは絶命するどころか、即座に反撃してきた。


 巨大な足で踏みつけてくる超絶危険なスタンプ攻撃だ。


 咄嗟に避けた瞬間、凄まじい勢いで振り下ろさた巨大な足が地面に深々と突き刺さる。



「くっ……!」



 危うくぺちゃんこになるところだった。


 離れ際に、地面に深々と突き刺さったゴブリンロードの足に触れる。


 一旦、仕切り直しだ。


 しかし、とゴブリンロードを見て思う。


 胸に大きなキズが出来ているが、ピンピンしている。


 筋力30のダメージがどれくらいだったのかはわからないが、ハッキングで俺のHPと入れ替えたので、最大HPは下がっているはず……なのだが。


 ちょっと【解析】で確認してみるか。


 

―――――――――――――――――――

 名前:ノ・ウルォ・ギズ

 種族:ゴブリン

 性別:男

 年齢:43

 レベル:32

 HP:680/1050

 MP:0/0

 SP:20/20

 筋力:45

 知力:30

 俊敏力:65

 持久力:80

 スキル:【筋力強化(大)】【体力強化(大)】【体力自動回復(小)】

 容姿:ノ・ウルォ・ギズ

 状態:普通 

―――――――――――――――――――



「む? どういうことだ?」


 HPの最大値があまり下がっていないな。

 それに、筋力もだ。


 俺の元々のHPは90だった。


 なぜ数値が上がっている?



「……そうか。このスキルのせいか」



 この【筋力強化(大)】と【体力強化(大)】のパッシブスキルでステータス値を底上げしているんだ。


 なるほど。だから俺が奪った数値も少なかったってわけか。


 つまり、元々ゴブリンロードのHPは220で、筋力は30だった。


 そこに【筋力強化】と【体力強化】のスキルの強化分が上乗せされて、2200と80に上がっていたというわけだ。


 ゴブリンロードの強さの秘密はステータス能力値ではなく、このスキルか。


 だったらこのスキルを頂戴してしまおう。


 そう考え、スキルを全部奪取しようとしたのだが──。



《SPが足りません》

「……む」



 スキルを使いすぎたか……と思ったが、SP残量はある。


 そういえば奪取の消費SPは奪うスキルによって変動すると明記されていたな。【強化(大)】ともなれば相当なSPが必要になるのだろう。


 となると、できることは改ざんでスキルを使えなくさせてやるくらいか。


 だが、それで十分だろう。


 この【強化(大)】部分を【強化(微)】に変えればスキル効果がほとんど無くなって、桁違いに戦いやすくなるはずだ。



「──いや待て。むしろ弱体化させることができそうだぞ」



 あることがひらめいた俺は、即座に【不正侵入】スキルを発動させる。



「ゴアアアアアアッ!」



 スキルの改ざんを済ませたタイミングで、ゴブリンロードが襲いかかってきた。


 両手を組んで大きく上半身を反らし、全身の筋力を使って叩きつけてくる。


 まさに一撃必殺の攻撃──だったのだが、俺は左手だけでゴブリンロードの巨大な拳を受け止めた。



「……よしっ」



 狙い通りだ。


 全く痛くないし、ダメージはほぼ無い。


 俺が改ざんしたのはゴブリンロードのふたつのスキルだが、【筋力強化】を【筋力弱化】に、【体力強化】も【体力弱化】に変えたのだ。


 【強化(大)】での増加量を考えると、現在のゴブリンロードのHPと筋力はマイナスになっているはず。


 HPがマイナスっていうのは少々意味不明だが。


 あわせて、3つのスキルの中で【体力自動回復】だけは現在のSPで奪取できそうなので奪うことにした。


 これでわずかなダメージを受けても、すぐに回復するはず。



「……グィ?」



 ゴブリンロードが首をかしげた。


 全力で拳をぶちこんだのにケロッとしているのが不思議なのだろう。



「残念だったなデカいの。お前の自慢の力はそこらへんのゴブリン以下にさせてもらったよ」

「ギャギッ!?」



 こちらの言葉がわかったわけはないと思うが、ゴブリンロードが怒ったような素振りで叫ぶ。


 そして、再び拳をこちらに振り下ろしてきたが、その前にこちらが動いた。


 斬りつけたのは、目の前にある巨大なゴブリンの足。


 HPがマイナスになっているなら、これくらいの攻撃で事足りるはずだ。



「……ギャ!」



 読みどおり、巨大なゴブリンロードの体が一瞬で黒い煙に変わっていく。


 巨体の代わりに地面に転がったのは、巨大な魔晶石。


 今までみたこともないくらいのサイズだ。


 早速、手に取って【解析】してみた。



――――――――――――――――――― 

 名称:ゴブリンロードの大魔晶石

 スキル:【筋力弱化(大)】【体力弱化(大)】

 備考:なし

―――――――――――――――――――



 おお、大サイズの魔晶石だ。


 初めて見るが、冒険者ギルドに持っていけばかなりの高額で買い取ってくれるはず。


 さらに、倒したゴブリンから入手した魔晶石は12個ほど。


 ゴブリン討伐依頼の報酬もあるし、初めてのモンスター狩りにしては相当な儲けを出すことができたんじゃないだろうか。


 これがいわゆる「ビギナーズラック」ってやつか?



「あ、あのう……」



 と、背後から声がした。


 御者台から商人が顔を覗かせていた。



「ゴブリンどもはもう倒されたので?」

「ああ、すまない。もう安全だ。出て来ていいぞ」



 商人はホッとした顔をして御者台から降りてきた。


 ──ひとりの少女を連れて。


 どうやら商人は連れがいたらしい。


 年齢は12、3歳くらいだろうか。

 絹のように伸びているきれいな銀色の髪に青色の瞳。



「あ、あの、ありがとう……ございます。転移者様」



 その少女は、スカートの裾を持つと半歩下がって上品にお辞儀をした。


 おお、なんと可愛らしい。


 着ている服も細かな刺繍が入ったドレスだし、もしかするとどこぞのお嬢様なのかもしれないな。


 しかし、こんな少女が一緒だったとは。


 街道のゴブリンの話は聞いていただろうに、もっと護衛を付けたほうがよかったんじゃないか?



「怪我はないか?」

「は、はい、お陰様で……」

「そうか、それは良かった」



 にこりと微笑んでみたが、おどおどとした視線を向けられただけだった。


 ううむ。転移者だから嫌われているのかもしれないな。

 あまり怖がらせてもよくないか。



「またゴブリンどもが集まってくるかもしれない。早くここを離れたほうがいい」

「あ……でもお礼を──っ!?」



 少女がビクリを身をすくませる。


 風に乗ってゴブリンの雄叫びが流れてきたからだ。


 どうやら近くにまだゴブリンの群れがいるらしい。


 グズグズしていたら、また襲われかねないな。



「マズいな。すぐにゴブリンが来るぞ。早くその娘を連れて馬車に乗れ」

「は、はいっ」



 何か言いたげに俺を見つめる少女だったが、商人に連れられて急いで馬車に乗り込む。



「重ね重ね、ありがとうございます、転移者様」



 商人はそう言い残すと、慌てて馬車を走らせた。


 その先に見えるのは、城壁で囲まれたラムズデールの街。


 あれ? ラムズデールに行くなら乗せて貰えばよかったか?


 だが、あの子は怯えている様子だったしな。



「……あ、もしかして、このカラス面のせいか?」



 違和感がないから付けているのをつい忘れてしまう。


 こんな仮面を付けてたら、そりゃあ怖がるよな。


 大人に嫌われるのは慣れているが、可愛い女の子に怯えられるのは少しだけ堪えるものがある。



「カラス面じゃなくて、可愛い動物の面にしたほうが良かったか」



 失敗だった。


 金に余裕ができたら可愛い猫の面でも買っておくか。

 走り去っていく馬車を見ながら、俺はそんなことを考えた。 

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