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第二十五話 新たな依頼

 トーマとして冒険者をはじめてひと月程がたった。


 西地区で獣人たちを助けてからはこれといって大きな変化はなく、ちまちまとEやFランクの依頼をこなしつつ、たまにミリネアと一緒に少し難易度が高い依頼をやっている。


 だが、そのおかげで金もだいぶ貯まってきて、銀行の残高はイリヤの名前でやっていたときの十倍ほどになった。


 田舎でのひとりぐらしをはじめるにはまだまだ心もとない金額だが、順調と言えるだろう。



「……あっ、おかえりさない、トーマさん」



 依頼を終えてフィアス・キャッツに帰還した俺をミリネアがいつものように笑顔で出迎えてくれた。



「今日はお戻りが早いですね」

「ああ。想定していたよりも簡単にモンスターを発見できたんだ」



 【不正侵入】スキルのおかげでモンスターとの戦闘で遅れを取ることはなくなったが、いつもモンスターを発見するまでに時間がかかってしまうんだよな。


 ミリネアが一緒のときは【マッピング】を使ってもらっているのですぐ発見できるのだが、ソロでやっているときは索敵に長くて1時間ほどかかってしまう。


 ミリネアが本格的に冒険者をやってくれたらありがたいが、そういうわけにもいかないだろうしな。



「あ、あの、どうしました?」

「え?」

「わ、私の顔に何か?」



 気づいたらミリネアがじっと俺の顔を見ていた。



「……あ、いや、何でもない。そろそろこっちのミリネアの喋り方も砕けてもらったほうがいいかなと思っただけだ」

「えっ」


 ぱちくりと目を瞬かせるミリネア。


 冗談で言ったつもりだったのだが、どうやら真に受けてしまったらしい。 


 恥ずかしそうに頬を赤らめてしまった。



「……でで、でも、トーマさんは私たちギルド職員からすればお得意様みたいなものですし、できればこのままで行きたいのですが……だめですか?」

「だめだな」

「うえっ!? あううう……」



 ミリネアはしばしあたふたとしたあと、意を決したような顔をして続ける。



「そっ、それじゃあ……おかえり、トーマ……きょ、今日は早かったんだね」

「すまん、冗談だ」

「……っ!? ちょっ!? トーマさんっっっ! もうっ!!」



 ミリネアの尻尾がボフッと爆発する。


 ちょっとやりすぎてしまったか。凄まじく可愛かったけど。



「すまないが、そろそろ依頼達成の確認をしてもらえると助かるのだが」

「変な話を始めたのはトーマさんでしょ! 評価下げておきますからね!」

「……っ!? そっ、それは困る! 本当にすまなかった!」

「許してあげますけどっ!」



 ぷりぷりと怒ったミリネアは俺から魔晶石をひったくる。


 危なかった。評価という弱みを握られているのを忘れていた。

 ミリネアをおちょくるのはやめておこう。


 ちなみに、今回の依頼はゴブリンの上位種レッドキャップの討伐だ。


 ゴブリンに続いて上位種までも街道に出没しはじめたらしく、最近はその討伐依頼が増えている。


 仕事が増えるのは俺としては非常にありがたいのだが、ラムズデール近郊が物騒になるのはちょっといただけない。


 モンスターが増えると物流が滞ってしまい、物価が高くなってしまうからな。


 既に消耗品類が少しづつ値上がりしているし。

 多少リッチになったとはいえ、貧乏人に片足を突っ込んだままの俺にインフレは由々しき事態。


 とはいえ、俺にできるのは街道の安全を確保することだけなので、以前にも増して依頼を受けている。


 一昨日はダークウルフ20匹の討伐。

 昨日はポイズンリザードの討伐にも成功した。


 おかげで俺のステータスもだいぶ強くなった。



―――――――――――――――――――

 名前:トーマ・マモル

 種族:人間

 性別:男

 年齢:28

 レベル:33

 HP:1380/1380

 MP:95/95

 SP:50/50

 筋力:47

 知力:32

 俊敏力:44

 持久力:49

 スキル:【解析】【不正侵入】【痛撃】【追跡】【投石Ⅰ】【体力強化(小)】【俊敏力強化(小)】【体力自動回復(小)】【光合成・魔】【光合成・技】【光合成・体】【花粉飛散】【ドレインエナジー】【軽足】【毒耐性(中)】【水耐性(中)】【MP強化(小)】【知力強化(小)】【魔眼】【トキシックブレス】【アシッドブレス】

 魔術:【フレイムⅠ】【フレイムアローⅠ】

 容姿:イリヤ・マスミ 

 状態:普通

―――――――――――――――――――


 

 レベルも33まで上がり、ステータス値も上乗せされている。


 だが、スキルは【水耐性】が増えたくらいかな?


 強力なスキルを奪うには、もっとランクが高いモンスターと戦わなくてはいけないと思う。


 できればまたアンピテプラクラスのモンスターと戦いたいところだが。



「……あ、そうだ。トーマさんにお知らせがあるんでした」



 魔晶石を確認しながら、ミリネアが思い出したように言う。



「お知らせ? なんだ?」

「はい、これ」



 ミリネアに渡されたのは、小さなカード。



「……おお、もしかしてこれは」

「はい。Dランクの冒険者証です。ランクアップおめでとうございます」



 渡されたのは銀色に輝いている冒険者証だ。


 どうやら、この1ヶ月の功績が評価されたらしい。



「本当はCくらいまで行けそうなんですが、ルシールさんが飛び級は周囲の目を考えるとよくないだろうって」



 まぁ、そうだろうな。


 ただでさえ転移者というだけで目の敵にされているのに、飛び級でランクが上がったとなれば、現地冒険者たちからのやっかみが増えてしまう。


 まぁ、そんなことで飛び級ができないって、迷惑極まりないのだが。



「しかし、転移者の偏見がなくなることはないのだろうか」

「そうですよね。噂によれば、ジャッジの方々が動いているらしいんですけど」

「え? ジャッジが?」

「はい。公安隊は転移者の方が多いみたいなので。彼らの権利を守るために近々国王陛下が勅令を出されるとか」



 転移者が嫌われるようになったのはチートスキルで無双した結果、現地人の大量失業者を産んだためだと聞いている。


 国王が転移者から転職の自由を奪ったことで現地人たちの理解を得たが、遺恨はまだ晴れてはいない。


 しかし、その新たな勅令というのがどんなものかはわからないが、ジャッジが絡んでいるとなると相当きな臭いことになりそうだな。



「……おまたせしました。レッドキャップ10体の討伐、確認しました」



 ミリネアが依頼書の報酬額部分に丸を付け、こちらに提示する。



「こちらが本日の報酬です。お支払いはどうされます?」

「ありがとう。いつも通り台帳に頼むよ」

「承りました。この後はどうなさいます? 別の依頼をお受けになりますか?」

「ん~、そうしようかな。なんだか依頼が増えてるみたいだし」



 ちらりと見た掲示場には、朝よりも多くの依頼書が貼られている。


 多分、俺が依頼に出ている間に、たくさんの相談があったのだろう。


 しかし、それにしても多い。



「モンスターが増えている理由はわかっているのか?」

「はっきりとはわかっていませんが、季節的なものだと思います。毎年この時期になるとモンスターが活発になるんです。今年は異常に多いですけど」

「なるほど、季節か」



 つまり、冬ごもりを前に食料を探している……とか?


 まぁ、日本でも冬眠前の野生動物が人里に降りるなんて話はしょっちゅう耳にしていたしな。


 モンスターにもそういうのがあるのは驚きだが。



「トーマ」



 と、名を呼ぶ声が聞こえた。 


 そちらに視線を送ると、紳士然とした男性が立っていた。


 フィアス・キャッツのギルドマスター、ルシールさんだ。


 彼は神妙な面持ちで顎で2階を指す。



「少し良いか? 話がある」



 話? 一体なんだろう。


 ミリネアに視線を送ったが、「わからない」と言いたげに肩をすくめられてしまった。 


 ふむ。

 ここでは話せず、ミリネアも知らないってことは……個人的な話か。


 まぁ、悪い話ではないだろう。


 そう判断した俺はミリネアに「依頼は後で頼むよ」と伝え、ルシールさんの後を追った。

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