窓辺に座る女
コンビニでバイトしての帰り。
オレは自宅のアパートに向かって、ダラダラと続く長い坂道を歩いて上っていた。
秋の太陽は西の空にわずかに陽を残し、向こうに見える山陰にもうすぐ消えようとしている。
オレの住むアパートが見えてきた。
それは昭和に建てられたという木造二階建で、各戸六畳二間という古いものだった。一階の玄関からは誰もが出入り自由、セキュリティなんてしゃれたものは微塵もない。
ただそのぶん家賃は格安で、オレのような勤労学生には身分相応な住処だった。
――うん?
二階の端にあるオレの部屋の窓が開いている。
窓は普段からめったに開けることがない。そして今朝、窓を開けた覚えもない。
部屋の鍵はオレが持っているだけで、それにあんなオンボロアパート。まさか盗っ人が侵入したということはないだろう。
――何で?
どういうことかと目を凝らすと、窓辺の向こうで何かしら白いものが動いた。
白いものは姿を現し、窓辺に座った。
それは着物姿の若い女性のように見えた。
――誰なんだ?
オレは女性にはまったく縁がなく、恋人どころか友人と呼べる者もいない。
さらには姉も妹もいない。
窓辺に座る人物にまったく見当がつかなかった。
それに部屋の鍵はかけてある。
どうやって部屋に入ったのかもわからない。
オレは速足でアパートに帰った。
だが、その途中。
女の姿はいつかしら窓辺から消えていた。
部屋の中へと移動したのだろう。
アパートに着くと、オレは玄関を通り抜け、階段を一気に駆け上がり、部屋までの廊下を急いだ。
部屋のドアノブを引く。
が、動かない。
鍵がかかった状態だった。
オレはポケットから鍵を取り出し、ドアを開けて部屋へと上がった。
帰り道から見たとおり窓は開いている。
だが、どこにも女の姿はなかった。
――オレの見まちがいだったのだろうか?
と、思ったときである。
開けたばかりのドアの方から女の声がした。
「お邪魔したわね」