アレッシア王国vol.1 【ウィルフレッド王太子殿下side】
今回の話は短めです。
「ウィル様ぁ。」
泣きながら、王太子の愛称を呼び布切れを持ってくるピンク髪の令嬢。
(メリッサが泣いている!?まさか、またアイツか!アルファールに言っておかなくては!
「姉の躾をしっかりとしろ」と。)
「どうした?メリッサ。」
王太子は婚約者でもない令嬢の腰に手をまわし、婚約者に見せたことのないような笑顔を令嬢に見せた。
「アリシアちゃんに二つしか持っていないうちの一つの制服をズタズタに切られちゃったのぉ。どぉしよぉ。やっぱり、私……嫌われてるのかなぁ?そうだよねぇ。嫌われてるよねぇ。諦めるしかないかなぁ。」
(制服を!?アイツ!まだ、やるか!)
「制服でもドレスでも買ってやる。気にするな。アイツには制裁を下しておく。だから、気にするな。」
「ウィル様!ありがとうございます♪」
王太子は気づかなかった。令嬢が王太子に抱きついた時に見えないところでニヤリと笑っていたことを。
♢♢♢
次の日
「ウィル様ぁ。」
(!な、何故!)
「どうして濡れている!また、アイツか!」
(アルファールは何をしている!?)
「アリシアちゃんが『何故、下賎な血筋な者と同じ空間にいなくてはならないの?』と言って私を噴水に突き飛ばしたの。」
このように男爵令嬢が王太子に泣きつくことが三年弱行われた。
元々、公爵家と王家の婚約は王家からの懇願により成立した婚約である。そして、婚約をする時に“どちらかが一方的に婚約を破棄した場合は破棄した側が王太子の場合は廃嫡、破棄した側が令嬢の場合は国外追放とする。”という縛りに近い約束がある。それに加えて、今の王太子は公爵家の令嬢と婚約することで王太子になった無能である。しかし、王太子は自らの実力により、王太子になったと思い込んでおり、公爵令嬢のことを傲慢で高飛車で卑屈めいた性格をしていると見た目で決めつけている。王太子と公爵令嬢の初の会話は『お前、嫌われているか?
まぁ、その性格じゃ当たり前か。』
『貴女はおつむが足りないのですね。』
だ。結論、最低である。
♢♢♢
そして、卒業パーティーの日。
「貴様には失念した!フィテァドール公爵令嬢との婚約を破棄し、メリッサと婚約をする!」
とうとう公の場で馬鹿なことをしでかした。
王太子は自分の事を悲劇のヒロインを邪悪な令嬢から救ける勇敢なヒーローだと思っているようだが、実際はお花畑な思考をした五人の男女に嫌われている次期王太子妃という構図である。
そして、パーティー終了後。
「メリッサ。あの憎たらしい女は国外追放したからもうこの国には居ない。安心しろ。」
(これであの悪女は国から居なくなった。)
この女はよく泣く。泣かない日は無いのではないか、というぐらいに。
「うっ。うっ。ありがとうございます。でも、私、みんなにもこのことを知って欲しいの。ねぇ、ウィル手伝って欲しいの。」
「ああ、勿論だ。」
“みんなにもこのことを知って欲しい”この言葉が可笑しいと気づかない時点でもう王太子は末期である。
その数日後公爵令嬢に対する偏見を王太子自らが公開した。しかし、本人は偏見とは思っておらず、事実を伝えたとしか思っていない。そして、卒業パーティー時不在であった四人の者達は現在帝国からの帰りであった。
そして、宰相はフィテァドール・アリシアとフィテァドール・アルファールの父親である。そして、今回どちらの味方をするかは分かりきった事である。