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#89 共闘

 なんとかしないと、あのままでは殺されてしまう。僕は銃を持つ。そして、引き金を引いた。

 が、ビームが出ない。なんてことだ、ここではやはり武器が使えない。

 その役立たずの銃を、あの怪異に向かって投げつける。怪異はこっちに気づくが、マリーから離れようとしない。


「うおおおっ!」


 僕はバリアスイッチを押して、やつに突撃する。無我夢中だった。だから、バリアが効かない可能性を全く考えていなかった。

 が、僕がぶつかった途端、その怪異が弾き飛ぶ。5ヤーデほどの巨体が、音を立てて倒れる。僕はマリーのもとに駆け寄る。


「大丈夫か!」


 しかし、応答がない。僕はマリーを肩に担ぎ、通路の方へと戻る。


「はぁ、はぁ……」


 息を切らせるマリー。僕は腰につけた水筒を取り、蓋を開ける。


「いいから、マリー」

「この、姿の、時は……ロッズって、呼んで……」

「じゃあロッズ、まず水を飲め」


 息を切らせるマリー、いや、ロッズに、僕は水を与える。水筒の中身を飲み干すロッズの腕を見ると、大きなアザが見える。


「ちょっと、その腕、見せて」

「いい! 見ないで!」

「いいから!」

「なんだって構うの!」

「それじゃ聞くけど、お前が今やるべきことは、なんだ!」


 あまりに聞き分けないロッズに、僕は思わず叫んでしまった。


「……怪異を、あれを、倒すことよ」

「なら、僕をもっと利用しろ」

「は?」

「使えるものなら、なんでも使うと、いつかの戦いの前に言ってたじゃないか。だったら、僕を使え。一人で戦おうとするな」


 それを聞いたロッズは、急におとなしくなった。僕は腰につけたカバンにある応急キットを開けて、ロッズの腕のアザに湿布を貼り付け、その上から包帯を巻く。

 が、その時だ、黒い腕が突然、こっちに向かって伸びてくる。


「危ない!」


 慌てて僕は、ロッズを抱えてその腕から逃れる。落とした腰のカバンがその腕先に触れて、煙を上げて溶けてしまう。

 怪異の巨体は、この通路を通れない。腕を突っ込んで、我々を引き摺り出そうとしているようだ。それを見たロッズは、それに向かうため立ち上がろうとする。


「ちょっと待って」

「なに、あれを倒さないと」

「作戦がある。聞いてくれるか?」


 無視されるかと思ったが、ロッズは黙ってうなずく。そこで僕はこうロッズに話す。


「まず、僕が突っ込む」

「生身のあなたが、敵うはずがないわ」

「バリアだけは効いた。さっきそれを実証した。それを使って、あの怪異を弾き飛ばす」

「でも、それだけでは倒せない」

「倒れた瞬間を、ロッズの魔法で倒すんだ。今飛び出していっても、さっきのようにねじ伏せられるかもしれない。ここは共闘し、少しでも勝てる手段を選択しよう」


 僕がそう告げると、ロッズは黙ってうなずく。それを見て僕は、怪異の方を見る。

 通路に腕を突っ込んで、こちらにダメージを与えようと必死だ。さっきのカバンをみると、影も形もない。失敗するとああなるのか。だが、僕は覚悟を決める。


「行くよ、3……2……1……今!」


 僕は、バリアスイッチを押す。心を決めて、その腕に飛び込んだ。バリアと腕がぶつかり、パッと火花が散る。その勢いで、怪異が再び吹き飛んだ。

 が、先ほどの一撃で学習したのか、すぐに立ち直る。ゆっくりと身体を起こし、不気味な黒い身体が僕の前に立ちはだかる。そして僕の真上に、その太い腕を振り上げた。


「レーヴァティン!」


 が、その瞬間、赤い炎の剣のようなものを握りしめたロッズが、黒い巨体の胸を捉える。無防備にも胴体を魔法少女に晒してしまった哀れな怪異は、ロッズのこの一撃を受けて砕け散る。

 そして、気づけばそこはただっぴろい静かな部屋へと変わる。


「……やったの?」


 あっけない怪異の最後に、倒した本人が信じられない様子だ。それはそうだ、いつもは3人で倒していたのに、この頼りない軍人との共闘で倒されるなど、未だかつてないあっけなさだろう。

 僕は懐中電灯を照らし、辺りを見回す。部屋の隅々まで見るも、その先に通路はない。ここが、行き止まりのようだ。

 そこで僕らは、来た道を戻ることにする。


 ……にしても、近いな。来た時と違い、僕と共に歩くロッズだが、ずっと僕の腕にしがみついたままだ。今ごろになって、急に怖くなったのか?

 2つの膨らみの感触が、二の腕を介して伝わってくる。さっきまで拒絶していたのに、なんだって僕にべったりなんだろう?


「……私、孤児だったの」


 急に自身の身の上を話し始めるロッズ。


「そうだったんだ」

「そう。だから、誰かに頼るとか、そういうのが苦手で」


 そのまま、ロッズは黙り込んでしまった。二人は黙ったまま、あの使い魔のいる場所まで戻ってきた。


「やあ、すっかり仲良しだね」


 ややからかい気味な使い魔の言葉に、特に何も返すことはしないロッズ。と、そこに反対側の穴からも、2人の魔法少女が現れた。


「はぁ……大変だったよ」

「大変でしたわ」


 どうやら、あちらも怪異と出会い、戦ったみたいだな。それを見たロプトスは、こう告げる。


「うん、みんなの頑張りで、瘴気の気配が消えたよ」

「えっ、それじゃ私たち、勝ったのですか?」

「ほんとか? それじゃすぐに戻らなきゃ」


 ちょっとまて、思いのほか、あっさりとしすぎていないか。本当にこれで終わったのか?

 半信半疑のまま僕は、外へと向かう。ちょうど人型重機が僕らの目の前に降り立ち、こう告げてきた。


『ビームが使用可能となった、作戦は継続、直ちにこの場を離れる』


 それを聞いた僕らは、大急ぎで強襲艦へと向かう。

 走りながら思ったのだが、徐々に空気が薄くなっている。怪異を倒し、瘴気消したことがもしかして、この環境を壊し始めているんじゃないのか? だから僕らは慌ててあの宇宙船へと走る。


「強襲艦、発進準備完了!」

「了解、直ちに離陸する」


 どうにか強襲艦に戻り、上昇を開始する。初めて降り立った地球以外の天体を離れていく。が、この天体はこの後、破壊される。僕や魔法少女が降り立った軌跡と共に。


「3……2……1……今! 起爆開始!」


 カウントダウンと同時に、スイッチが押される。今度はうまく起爆する。あの大きな小惑星の一方から、真っ赤な炎が上がる。

 そして、徐々に軌道を変えて、準惑星に落下し始める。

 ふと僕は、艦隊戦の行われている方を見る。すでにそこには青い光が見えない。いつの間にか、戦闘は終わっていたようだ。


「強襲艦一番艦より旗艦オオス、作戦終了、これより帰投する」

『旗艦オオスより一番艦、了解、直ちに帰投せよ』


 振り返れば、実にあっさりと目的を果たすことができた。むしろ大変だったのは、ヤブミ少将率いる第8艦隊の主力だったかもしれない。我々の突入を支援するために、2倍以上の黒い無人の艦隊と撃ち合っていたのだから。

 にしても、まったく戦闘が起きていない。まさか全部を沈めたわけではあるまい。どうして戦いは終わってしまったのか?

 いや、それ以上に不可解なことがある。

 すでに魔法少女の変身を解いたマリーは、僕の腕にしがみついたままだ。イーダとモニカがからかうのも構わず、離れようとしない。


「あらあら、マリーにも春が来たのかなぁ?」

「お盛んですわねぇ」


 だが、マリーはただ一言、こう答える。


「悪い?」


 キッと鋭い目で睨みつけられた2人は、それっきり揶揄することをやめた。


◇◇◇


「強襲艦、帰投しました! 第2ドックへ入港!」


 今回は、大変な戦いだった。無人とはいえ、2.5倍もの敵を相手に砲撃戦を行った。

 軸線上には強襲艦がいるから、むやみに特殊砲撃も使えない。ひたすら通常砲撃だけで耐えるしかなかった。

 が、ある瞬間から突然、黒い艦隊の砲撃が止んでしまった。まるで地球(アース)1019の外縁部、かつて「クロノス」がいたあの宙域に残る黒い艦隊の残骸のように、活動を停止してしまった。

 これはつまり、あの魔法少女らが何かコアとなる存在を倒した。そういうことなのだろう。


「なんだ、もう戦いは終わったのかよ?」


 オオスの艦橋に、レティシアが現れた。いつものように機関室に控えていたが、今度ばかりは出番がなかった。


「うむ、あっさりと終わったようだな」

「なにやら、物足りぬのう」


 リーナとマツも、勝手なことを話している。いや、2倍以上の敵を相手に、かなり大変だったぞ。2人とも戦いを目の当たりにして、そういうことを言うか?


「なあ、あの小惑星はどうなったんだ?」

「ああ、今、軌道を計算した。あと2時間後には、準惑星表面に落下する」

「そうか。それであの瘴気ってのが、あの星に流れ込まなくなるんだな」

「そうだな。そうなるはずだ」


 これで、一件落着。あの星に平和がもたらされ、魔法少女らはその役目を終える。


「ちょっと、これで終わりなんて言ってる場合じゃありませんわ!」


 ところがだ、今ごろになって騒ぎ出すやつがいる。


「おい、マリカ少佐。何を騒いでいる」

「先ほど、メルシエ准将より聞きましたわ。あの小惑星が放ったエネルギー流が、一瞬で地球(アース)1051へ転移したと」

「ああ、そういう報告を受けている」

「それって、自由点ワープを可能にしているってことじゃありません!?」

「自由点ワープ? 何だそれ」

「ワームホール帯を使わずに、自由にワープする先を作ることができる技術ですわ! 人類にとっては夢の技術ですよ! それを積んだ小惑星を、たたき落とすつもりですか!?」


 えっ、そんなこと今ごろ聞いたのか? てっきり知っているものと思っていた。というか、そんな大事な技術だったら、どうして先に言わない。


「ちょっと、落下を止められないんですか!」

「無理だ、もう落下軌道に乗った。今さらあれを止めることは不可能だ」

「だったら、私をあそこに連れて行ってください」

「間に合うわけないだろう。あと2時間も経たないうちに叩きつけられるんだぞ」


 暴れ回るマリカ少佐を、ちょうど帰投したデネット少佐に抑えてもらう。この決して狭くはない艦橋を喧騒の渦に陥れたマリカ少佐が連れ出されて、やっと僕は周囲を見る余裕を取り戻す。

 あれ、なんかちょっと、変だな。

 僕は違和感を感じる。その違和感のもとは、あの魔法少女のマリーだ。

 冷徹な性格のマリーが、なぜかダールストレーム少尉の腕に抱きついたまま歩いてくる。

 あの2人、いつの間にあれほど接近する仲になった?

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