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#85 創作

「あれれ、毒舌姉さん、よく分かったね。いつから気づいていたんだい?」

「前回のあの液状の怪異ってのが現れた時、巡査部長さんが立て続けに想定外な怪異が出現したと言ってたこと、実際に魔法少女だけでは対処できないほど強い相手だったという事実、戦いのすぐ後に、我々と魔法少女が連携して倒したことにあなたが何の驚きも見せずただ感心してたって話を聞いた辺りで、薄々気づいてましたわ」

「へぇ、でもまさかそれだけで、確信には至らないよね?」

「ええ、でも今度の怪異が巨人だったこと。つまり、ヒペリオーンとかいうロボットに合わせた怪異が出てきたことが、決定打でしたわね。こちらの手の内を知ったかのような怪異が立て続けに現れた。しかも我々と魔法少女とが一緒にいるタイミングを狙ったように。それで気づくなというのが、無理ってものですわ」

「いやあ、お姉さん。ただ口が悪いだけじゃないんだね。参ったよ」


 マリカ少佐のこの推測を、あっさりと認める使い魔。この会話を聞いていたマリーが、いきなりこの使い魔の長い両耳を無造作に掴む。


「ちょっと待って……それじゃなに、あんたが全部、あの化け物を使って人を殺め続けたっていうの?」


 今日だけでも、何人が犠牲になったか分からない。過去を遡れば、さらに大勢の犠牲があったことだろう。魔法少女自体も何人かが亡くなったと聞く。それを傍らにいて魔法少女に力を与える存在が仕掛けたものだと知れば、怒りの矛先がそっちに向くのは当然だ。僕も、この使い魔を今すぐに、どうにかしてやりたいと思ったほどだ。


「イタタ……気持ちは分かるけどさ、仕方がないんだよ」

「仕方ないって……死ななくていいはずの人たちが死ぬことが、それも意図的に作られた存在によって殺されたことが、どうして仕方がないって言えるの?」

「ちょ、ちょっと、ボクの耳を離してくれないかなぁ。あとついでに、耳を貸してくれないかなぁ」

「どちらも、嫌だと言ったら?」

「ともかく、大いなる犠牲をなくすために、必要最小限の犠牲だったんだよ、イタタタ……」


 おかしなことを口走るロプトスに、マリーはますます怒りを露わにする。残る2人の魔法少女がドン引きするくらい、今のマリーから漏れ出る感情の圧は強い。


「まあ、聞いてあげましょ。理由次第では、煮るなり焼くなり好きにすればいいけど、永遠に謎が残ることは避けたいわね」


 と、マリーの手を握って引き留めるマリカ少佐。それを聞いたマリーは少し、冷静さを取り戻す。


「分かった。でも、内容次第では、今までに死んでいった魔法少女の味わった痛みと苦しみを、全部味合わせてやる」


 うん、冷静になっても怖いな。あの2人の魔法少女以上に、怪異への憎しみが強い。だがどうしてマリーがここまでの怒りをあらわにするのか、その背景までは僕は知らない。


「さて、気を取り直して、と。それじゃあボクが、怪異とはどういうものなのか、その辺りから説明するね!」


 ウインクしながら話し始める使い魔。マリカ少佐以上に煽り体質なこの使い魔に怒りを覚えつつも、僕はこの使い魔の意図を聞き出すべく、その場は耐える。


「最初に断っておくよ。怪異を創り出したのは確かにボクだけど、怪異の素となる瘴気は、ボクのせいじゃないからね」

「どういうこと? 瘴気と怪異、同じではないの?」

「この地上には太古の昔より、瘴気が降り注いでいた。でも長らくそれは途絶えて、人という生命体が徐々に世界へ広がり始めたんだ。でも、再び瘴気が降り注ぐようになって、かれこれ数十年経つかな。それを除去するためにボクが生み出され、そして魔法少女を生み出し、怪異を創り上げたのさ」

「待って、どうしてそこで、怪異なんてものを創り出す必要があるの!?」


 根源的な質問だ。今の話では、瘴気から怪異を創る必然性が感じられない。だが、この使い魔は答える。


「簡単だよ。瘴気を実体化させて、それを消滅させるためさ。なにせ瘴気はほっとくと、大変な事態を引き起こすからね」

「なに、その大変な事態って」

「戦争だよ」


 さらりと言ってのける使い魔のこの一言に、一同は言葉を失う。

 が、その静寂を破り、口を開く者がいる。


「ちょっと待て、それじゃあ瘴気が戦争を生み出してると言ってるようだけど、どういうことなんだ!?」


 ふと見れば、それはダールストレーム少尉だった。いつのまにか、この場にやってきたようだ。


「人には元々、意見や感性が合わない者を排除しようという本能は存在するんだ。だけど、その多くは理性によって自制され、大きな争いにまでは発展しない。だけど瘴気というやつは、その怒りの本能を刺激し、理性以上に増幅する作用がある。それが積もり積もれば、とてつもない争いを起こすことになるんだ」

「だが、僕ら軍人はその戦争を抑止すべく動いている。現にシャイナ合同王国軍の侵攻を阻止すべく、国境付近へのパトロール任務を欠かさない」

「でもね、それってひとつ間違えたら、戦争のきっかけになるじゃないか。瘴気にとって、つけ入る隙を与えているようなものだよ。現に20年以上前にも、偶発的で些細な出来事がきっかけで戦争が始まったんだ。ほら、そのシャイナ合同王国とこの国、いや、その周辺国をも巻き込んだあの世界大戦、たった20年前に行われたことを、もう忘れちゃったのかなぁ」


 そういえば、この星では20年前に戦争をしていたと聞いたな。あれが、その瘴気というやつによるものなのか?


「まさかとは思うが、今まさにもう一度、世界大戦が起きかけていたと?」

「そうだよ、軍人さん。現に軍人さんは、そのために毎日のように飛行機飛ばして、隣の国と張り合ってたでしょう? 人の心が、瘴気に侵され始めてたんだよ。このままじゃまた大きな戦争が起こる。だからボクは魔法少女を使って、その瘴気をせっせと浄化させていたのさ」

「待って、それじゃ私たちは、その瘴気を消すために契約して、魔法少女になったっていうの?」

「その通り。最悪の事態を回避するため、瘴気を怪異に変えて、それを消してもらってたのさ」


 まるで魔法少女を清掃作業者のように言ってのけるロプトスだが、清掃員と違い、彼女らは命を賭けている。その役目がただの清掃などと言われてはたまらないな。


「先の戦争では、1000万とも2000万ともいえる人々が亡くなった。そして、このところまた瘴気が増大し始めて、再び戦争が起きようとしてたんだ。このままでは、また悲惨な殺し合いが始まっちゃう。ところがちょうどいいところに、とんでもない力を持った宇宙人が現れた。だからボクは瘴気を一気に消そうと、いつもより多めに瘴気を集めた怪異を作り出してたのさ」


 罪悪感のかけらもないこの使い魔の話ぶりに、相変わらず憎悪は抑えられない。だが、一応の説明にはなっている。しかしこの話、新たな疑問が湧く。

 それを、マリカ少佐は突いてきた。


「一つ、お聞きしてよろしいかしら?」

「いいよ、毒舌姉さん」

「瘴気が争いの素だとして、その瘴気とやらはどこからくるんです?」

「うん、いいところに気づいたね! まさにそれが、本題なのさ!」


 ロプトスのやつ、急に明るくなりやがったな。そこは盛り上がることなのか? だが、そんな盛り上がりとは裏腹に、出てきた答えは失望を禁じ得ない。


「実は、ボクにも分からないんだよ」


 やっぱりこいつ、ぶっ殺してやろうか。殺意が頂点に達するが、次の一言で思い止まる。


「でも、どっちから来ているか、ということだけは分かってるんだ」

「何ですか、方角がわかるなら、それを辿ればいいだけではありませんか」

「そうはいかないから、困ってるんだ」

「では聞きますが、瘴気はどっちから供給されてるんです?」

「宇宙だよ」


 そう言いながら空を指差す使い魔に、僕は尋ねる。


「おい、宇宙って、具体的にはどこからなんだ?」

「ただ空高くから、としか分かってないよ。ボクだって、その元を絶てればそれに越したことはないからね。だけど、手に届かない場所にあるから、どうしようもなかったんだ」

「なかった、と過去形でおっしゃるには、意味があるんですわね」

「そりゃあそうだよ。その場所に手が届く人たちが、まさにボクの眼の前に現れたんだ。君たちならばきっと、見つけてくれるかなって思ってるよ」


 随分な無茶振りをしてくるやつだ。期待するのは構わないが、そんな曖昧な物言いで、どうやって見つけろと? しかも今の話、どこまで信頼できるのか。単にでまかせでしゃべっている可能性だってある。


「それじゃあ、瘴気はまだ、ここに降り注いでるんだ」


 今の話を受けて、マリーがロプトスに尋ねる。


「そうだよ。蛇口が閉じられない水道の下に、立たされているようなものだからね」

「だけど、立て続けに強い怪異と戦ったのだから、当面は大丈夫なんでしょう?」

「そうだね、びっくりするくらい一掃できちゃったよ。いやあ、今度の戦いではほんと、みんな大活躍だったね」

「ちょっと、馴れ合わないで。その瘴気の素が消えるまで、私はあなたを敵だと思ってるから」


 マリーの、使い魔ロプトスへの態度が一変する。それはそうだ。こいつの手の上で踊らされていたと知れば、そうならざるを得ない。


「ちょっと、あたいも全然納得してないんだけどさ。ねえ、一つだけ聞いていい?」

「なんだい?」

「それならそうと、最初からそう言ってくれればよかったじゃない。なんだって私たちを騙すようなことするのさ」

「そうですわ。マリーが怒るのは当然ですわ。(わたくし)だって、怒ってるんですからね」

「それじゃ聞くけど、今の話を正直に話していたら、君たちは魔法少女になってくれかい?」

「う……それは……」

「ボクが今から怪異を出すね、やっつけちゃって、なんてこと言われたら、きっとみんなは逃げ出すと思うんだよ。違うかい?」

「そ、それはそうかもしんねえけどよ。にしてもよ、怪異を創り出せるんなら、もっと人気のないとこで出しゃいいんじゃねえか。それだったらあたいらだって、思う存分暴れられるってのに、なんだってこんな戦い辛い街中で怪異なんて作っちまうんだよ」

「それがだめなんだよ。人の集まるところにしか、瘴気は集まらないんだ。だから、このウィスビーの真ん中でしか怪異を創り出せないんだよ」


 ロプトスの言わんとすることはわかる。そんな話を知っていれば多分、誰も引き受けないんじゃないか。今から自分を殺しにかかってくる相手を、しかもこんな戦い辛い街中で、目の前にいる使い魔が出すなどと言えば、不信感しか湧かない。


「なんか分かんねえけどよ、つまりおめえが言いてえのは、その瘴気の素ってのを絶てばそれで万事うまくいくって言いてえんだよな」

「そうだよ。よく分かってるね、魔女さん」

「ならば、さっさとその素とやらを探して、絶つ他なかろう。カズキ殿よ、艦隊を動かして、何とか見つけられぬものか?」

「いや、リーナよ、そう簡単に言われてもだな。宇宙といっても広いんだぞ? 手がかりがなければ探しようがない」

「うむ、案外頼りにならんな」


 どうして僕に、話の矛先が向いたのかなぁ。別に僕は誰も騙してはいないし、むしろ怪異から人々を守るために尽力したじゃないか。リーナからそう言われるのは、実に心外だ。

 で、僕は駆逐艦へと戻る。この先の課題が分かったところで、現時点では我々にはどうしようもないと知ったのみだ。

 殺伐とした雰囲気が、この食堂に漂う。マリー、イーダ、モニカと、使い魔の間には、重苦しい空気が互いを隔てる。

 いや、待て。どうしてこいつら、揃いも揃って我が艦の食堂に来る? 今は怪異の心配などないのだから、ここに来る必然性はないだろう。


「あーあ、なんだかがっかりしちゃったなぁ」

「そうですわね。(わたくし)も何のために戦ってたのか、分からなくなりましたわ」

「えー、そんなこと言わないでよ。君たちは世界を救ってたんだよ」

「あんたが創った化け物を倒して、それで世界を救ったって言われてもねぇ」

「そうですわ。茶番劇に付き合わされた気分なのですわ」


 イーダとモニカが口々に不平を唱えるが、それはすべてマリーの心中を代弁しているようなものだ。彼女ら以上に、マリーの方が怒りの度合いは大きい。それは、マリーの手羽先を食べる仕草、軟骨部分を取らずにそれごとバリバリと肉をかじっているその食事風景に如実に現れている。ちなみに、リーナもバリバリと音を立ててピザを食べているが、あれはただ、食欲に駆り立てられているだけだが。


「やはり、ここにいたか」


 と、そこにオースブリンク巡査部長がやってくる。巨大怪異を倒したあの公園で別れたはずだが、なぜかまたやってきた。

 が、1人ではない。もう1人を伴ってやってきた。それは、私服姿の女性。婦警さんか?


「久しぶりね、マリー」


 その女性は、親しげにマリーに話しかける。手羽先を食べる手が止まる。


「……フレドリカさん」

「聞いたわよ。ロプトスに不信感を抱いてるって」

「フレドリカさんは、聞いたんですか?」

「ええ、聞いたわ、イデオンから全部」

「それを聞いてなぜ、平然としていられるんですか?」


 何やら急に殺伐としてきたが、誰だこの人は。


「あの、巡査部長殿。こちらの方は?」

「そうだ、少将閣下は初対面でしたな」

「えっ、イデオン、もしかしてこちらの方が今、『自由の光』誌に載ってたあの有名な、3人の奥さんを連れ回してると言うへんた……提督さんなの!?」


 何か失礼なことを言いかけたぞ、この人。というか、例の雑誌のせいで、良からぬ話まで伝わってるようだな。


「ええと……彼女は、フレドリカ・オースブリンク。つまり、私の妻です」


 なんだ、奥さんか。通りでよくご存知……いや待て、どうして奥さんをここに連れてくる?

 が、その奥さんの次の一言で、その理由が判明する。


「はい、私はこの人の妻です。で、加えて私は、元・魔法少女なんですよ」

「えっ、元・魔法少女!?」

「マリーとロプトスが喧嘩してるっていうから、仲介役としてきたんです」


 そういえば、魔法少女だったという人もいると言っていたな。その一人が、ここに現れた。

 というか、おい、巡査部長よ。お前、魔法少女を妻にしてたのか。それはつまり、職権濫用ではないかの?

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