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84/110

#84 疑惑

「巨大怪異、ビルに対して攻撃を仕掛けてます。高さ100メートルの一棟が倒壊中!」


 最悪の事態だ。周辺のビルには、まだ人々の多くが取り残されている。あの倒壊したビルにも、おそらくは何十、何百人が……

 甚大な被害が発生しつつある。僕は発生した巨大怪異の攻撃よりも、まずは人命救助を優先することにした。


「重機隊、全機に伝達。巨大怪異の左側面に対し集中攻撃、やつを誘い込め」


 そいつの左側は、ビル群とは逆方向になる。そこには大きな公園があり、人も少ない。誘い込むには絶好の場所だ。

 が、これほど巨大な敵を、どうやって倒す? 魔法少女だけでは絶対に無理だ。あれに対抗できるだけの何かを、ぶつけなければならない。


『それじゃみんな、頼んだぜ! あの怪異とかいう化け物に、俺たちの力を見せつけてやる! パオロ、アルバーノ、ヴァンニ、イレーニア! いくぞ、超重力合体だ!』

『分かったぜ、兄貴!』

『さっさとやれ、ジーノ!』

『ジーノさん、重力子、正常、いつでもいけますよ!』

『頼んだわよ、ジーノ!』

『うおおおぉぉっ! 俺たちの力、とくと見るがいいぜ! 超重力合体! ヒペリオーン、ゴォーオンッ!』


 おっと、ちょうどそのぶつけるべきやつが、まさに今、合体しようとしている。上空で青い光を散らしながら、5機の飛行物体が次々と合体していく。


『超重力ロボ、ヒペリオーン V(ヴイ)!!!!』


 ジーノという男は、相変わらず蒸し暑いやつだ。公園に誘導された巨大怪異の前で、いちいち決めポーズを見せつけている。


『うおおおっ! やってやるぜぇ! 喰らいやがれ、重力子パーンチ!』


 バカでかい拡声器からの叫び声と同時に殴りかかる合体ロボ。動きの鈍い怪異に、右手の拳を直撃させるヒペリオーンVだが、今度の相手は前回とは違い、この合体ロボよりも大きい。その圧倒的な大きさの敵を前に、たかが60メートルほどのこのロボットは弾き返され、公園の噴水の上に叩きつけられる。


『ぐあああぁっ!』


 いちいちうるさいやつだな。叫んでいる暇があったら、すぐに体勢を立て直せと言いたい。でないと、さすがのヒペリオーンでもやられるぞ。と言ってる間に、この倒れた巨大ロボへビルほどの大きさの怪異が迫りつつある。

 倒れたロボに向かって腕を振り下ろす怪異、その攻撃をあの合体ロボは辛うじてかわす。腕が振り下ろされた先に生えていた木々はことごとく枯れ果て、一瞬で炭のように真っ黒に変化(へんげ)する。この世界にある物質をことごとく枯らし崩壊させる、悪魔のような存在。それがあの怪異と呼ばれる化け物の本質だ。


『ちっくしょう、まともに触れることもできねえとか、なんて厄介なバケモンだ!』


 愚痴をこぼしつつも、すぐに次の手を打つヒペリオーンV。右手からは光の矢が取り出され、それを左手に握りしめられた大きな弓に引っ掛ける。


『これでどうだぁ! グラビティ・アローッ!』


 光の矢が、巨大な黒体めがけて放たれる。パンチ同様に弾き返されるかと思いきや、意外にもそれは怪異の巨体に突き刺さる。そしてその巨体を貫き、胴体に大穴を開ける。

 まさか、やったのか? そう思ったのも束の間、その大穴は徐々に塞がり、やがて元通りに戻る。


「なんてやつでしょう。あれほどの穴を開けられて、修復するなんて」


 ヴァルモーテン少佐も驚く光景だ。僕も一瞬、勝利を確信したほどだ。が、あれほどの大きな身体に開いた大きな穴ですら、驚異的な速さで修復してしまう。勝ち目なんてないんじゃないのか?

 ヒペリオーンVがその怪異を引きつけている間にも、魔法少女らは迫りつつあった。まず攻撃を仕掛けたのは、ブリューとギュルだ。


『いくよっ! アイススピア!』

『シャイニングサンダーッ!』


 氷と雷が、ほぼ同時に放たれる。数十もの氷の矢が、あの巨体の膝に刺さる。その氷の矢が、雷撃を引き寄せる。遠くから見ているとあまり迫力はないが、あれは相当な威力だ。実際に近くで何度も見ているから、それは僕もよく知っている。

 が、相手が大きすぎる。100メートル級の相手に、あの電撃は弱すぎる。一瞬、膝を崩しそうになるものの、すぐに回復し立ち上がる。そして、攻撃を仕掛けてきた魔法少女らに、拳を振り下ろす。

 まるで人とコオロギが戦ってるような様相だ。体格差が圧倒的すぎる。あの巨体周りをぴょんぴょんと跳ねながら、巨大怪異の攻撃を避ける魔法少女だが、逃げるのが精一杯で反撃に出られない。


『レーヴァティン!』


 その二人をおとりにして、ロッズが背後から迫る。炎の剣を立てて巨大怪異の頭部目掛けてジャンプし、その後頭部に炎を突き刺す。

 が、これまた大きさの差が圧倒的すぎる。大人の後頭部に爪楊枝で攻撃するようなものだ。まるで歯が立たない。

 なんてことだ。今度の相手には魔法少女の魔力など、全く通用しないじゃないか。どうやって倒すんだ、あれ。


『クソッ、こうなったら必殺技で、あれを倒すぜ!』


 攻撃の効かない化け物相手にしびれを切らしたのか、ジーノが決断する。いやそういうのは最初から使えよと思うのだが、その必殺技に用いる武器を、あの合体ロボの背中にあるバックパックから取り出す。


『うおおおぉっ! 超・重・力・剣!!』


 ああ、あれか、前回の戦いで「波板」代わりに使ってたやつだ。そういえば、このロボット兵器の最強武器はこれだったな。だが、あれは波板以外の用途で怪異に通用するものなのか?


『うおおおぉっ!』


 だが、今さら止めようがない。自身よりも大きい相手に向かって、大剣を振り上げて襲い掛かる。その剣先が、怪異の腹に突き刺さる。ヒペリオーンVは、そのまま真横に振り払う。

 一瞬、胴体が真っ二つに切り裂かれる。まるでコーヒーゼリーのようにぷるぷるしながら宙に舞う怪異の上半身。

 なんだ、あの剣は怪異にも通用するのか。そう思ったのも束の間、斬られた怪異の上半身は動画の逆再生のように、徐々に一つへと戻り始める。やがて、何事もなかったかのように修復してしまう。


『な、なんだって!? 超重力剣が、効かないだと!』


 愕然とするジーノだが、僕はむしろ、希望が見えてきた。あれに傷を与えられる。そんな武器をヒペリオーンVが持っていたことに、もっと早く気づくべきだったと後悔しているほどだ。前回、あれを知っていたなら、波板などには使わなかったのだが。

 それはともかく、今をどう乗り切るか? 傷を与えられるのならば、その傷口をさらに広げてやれば、勝てるのではないか。

 それに怪異とはいえ、生き物のようなものだ。なれば、首を斬り飛ばせば、あるいは……


「ガネット12、ダールストレーム少尉。ヤブミ少将だ。これより、攻撃命令を伝える。直ちに攻撃態勢に移れ」


◇◇◇


 ついに、グリーネホークが怪異を攻撃する機会が訪れた。僕は自機を大きく旋回させつつ、高度を200ヤーデまで下げる。

 距離3万ヤーデ先に、怪異を捉えた。セーフティーロックを外しつつ、機体を操作してその怪異の首元に照準を合わせ、僕は攻撃を開始する。


「ガネット12、これより攻撃を開始します。サイドアロー2(ふた)、終端誘導は赤外線レーザー、ロックオン、発射(ファイヤー)!」


 僕は発射ボタンを押す。バスッという鈍い音と共に切り離された2発のサイドアローミサイルが、白い炎をなびかせて怪異に向かって一直線に向かっていく。

 地対空ミサイルのサイドアローだが、ただのミサイルではない。地球(アース)001、第8艦隊から供与された武装を弾頭に詰めた、特殊兵器だ。僕は高度を上げて、その弾頭の向かう先を見守る。


◇◇◇


『うおおおおっ! 超・重・力・剣!!』


 ヒペリオーンVの剣が、首元を捉える。それはスパッとやつの首を斬り飛ばす。だが、その直後に修復が始まる。まるで逆再生を見ているかのような不可思議な動きで、再び首が胴体とつながろうとしていた。

 だが、その首の切断面には、後方にいるデネット機より赤外線レーザーが照射されている。

 そのレーザー光に目掛けて、あの兵器が吸い寄せられるように突っ込んでくる。それはまさに結合寸前の怪異の首と胴体の隙間を捉え、大爆発した。

 首が、勢いよく吹き飛んだ。爆発の衝撃が首を失った胴体に伝わり、首元から徐々に四散し始める。100メートルもの怪異の身体は、まるでビルの倒壊現場のように、あっという間に黒い砂煙と化す。

 我々には、ミサイルという兵器がない。ビーム兵器が主流となり、高価な実弾兵器の多くが廃れてしまったためだ。だがこの星ではまだその兵器が主流である。そこで、そのミサイル兵器に我々の持つ、バリア粒子を爆散させる接近戦用の兵器を弾頭として取り付けた。

 案の定、怪異は開いた傷口への攻撃を受けて修復不能に陥った。あの巨体が姿を消したのが、その証左だ。


『やったか!?』


 現場にいるオースブリンク巡査部長が叫ぶ。だが、巡査部長殿、それはこういう時に一番言ってはならない言葉だ。そう、いわゆる「死亡フラグ」ってやつだ。

 その死亡フラグが発動したのかは知らないが、恐れていたことが起きる。


『ちょっと、何あれ!?』


 ブリューが叫ぶ。現場からのカメラ映像には、彼女の指す先にいる黒い奇怪なモノが映っている。

 そう、あれはさっき斬り飛ばした首だ。

 たかが胴体をやられただけだ、と言わんばかりに、その首は空中を漂いつつも魔法少女らに接近する。首だけとはいえ、12メートルほどはある。その首だけ怪異が、口から何やらどす黒いものを吐き出す。

 とっさに避ける3人の魔法少女。その先に置かれていた車が、ドロドロに溶ける。


『く、首だけで戦うなんて、聞いてないよ!』

『そうですわ、なんなのです、この怪異は?』


 ブリューとギュルが悲鳴を上げるが、それで攻撃の手をゆるめるような怪異ではない。再び口から瘴気らしきものを吐き出す怪異の首。


『うろたえるな!』


 が、そんな魔法少女らを一喝する声が聞こえてくる。僕は一瞬、耳を疑った。が、映像を見て、それが聞き間違いではないことを知る。


『前回のように、皆で当たれば良かろう! 皆の力を結集し、あれを倒すのだ!』


 そう、それはリーナだ。よくみればその後ろには、レティシアもいる。いつのまにこいつら、現場に向かったのだ?


『結集ってったって、どうやるのさ!』

『簡単だ。おいジーノよ!』

『な、なんだ!?』

『あの首を、その剣で串差しにしろ!』

『ええーっ! なんでそんなカッコ悪いことさせるんだよ!』

『つべこべ言うな! やつを倒したくはないのか!?』

『ジーノ、リーナさんの言う通りにしましょう。あれに勝たなきゃ、意味がないのだから』

『分かったぜ、イレーニア。おりゃあ!』


 その場をリーナが仕切り始めたぞ。リーナの一喝を受けて、渋々ヒペリオーンVがあの黒い首のてっぺんから、グサッと超重力剣を突き刺す。

 大きな黒い首が、ヒペリオーンVの剣で刺され、地面に固定される。その文字通り串差しにされた怪異の首に、路上にあったトラックを担いだレティシアが近づく。


『けっ、まるで五平餅だなぁ、おい。なら俺が美味しくいただいてやるぜ。おりゃあ!』


 と言いつつ、そのトラックで怪異の頬を引っ叩いた。怪異の顔が、無惨にも歪む。と同時に、トラックがぼろぼろと崩壊していく。


『よし今だ! 皆で一斉に攻撃する! 雷神の使い、紅蓮の精霊、我が剣先に集い、その力を顕現せよ! 喰らえ、雷神炎(ライトニングブレス)!』

『アイススピア!』

『シャイニングサンダーですわ!』


 次々に撃ち込まれるリーナと魔法少女の魔力。ブリューの放った氷の剣が怪異の目や鼻に刺さり、その氷柱目掛けて、リーナとギュルの魔力が注がれる。

 そして、とどめはやはり、ロッズがさす。


『レーヴァティン!』


 焦げた五平餅を切り刻むが如く、そのロッズの持つ真っ赤な炎が怪異の顔を引き裂く。あえなくバラバラに砕け散る怪異の首は、黒煙となって消えていった。

 怪異が砕け散ったその瞬間、レーダー士が叫ぶ。


「提督! 磁気嵐消滅、レーダー回復しました!」


 これはつまり、怪異が消滅したことを示す。僕はそれを聞いた途端、こう叫ぶ。


「哨戒機を一機、こっちに寄越せ! すぐに現場に向かう!」


 レティシアとリーナが心配だ。僕は大急ぎで現場へと向かう。

 僕がその現場に着いた頃には、警官や兵士らが後片付けを始めていた。倒壊したビルには、大勢の作業員が集まり、僅かなのぞみを抱きつつ救助作業を始めていた。数機の人型重機も、それを支援する。一方の魔法少女らはといえば、すでに変身を解いており、私服姿の3人がそこにいる。


「いやあ、あんな怪異が倒せちゃうもんなのだねぇ」


 と、相変わらず他人事(ひとごと)な物言いの使い魔ロプトスの能天気な声が響く。

 今度の戦いは、かなり被害甚大だ。最小限に抑えたとはいえ、ビルが一つ破壊された。そこにいたはずの、大勢の人々と共に。それを知った上でのあの物言い、僕はこの使い魔に殺意を抱いてしまう。

 と、そこにデネット機も降りてきた。今回、デネット機は住人の避難支援と、あの兵器の終端誘導を行ったのみではあるが、間接的ながら勝利と被害最小化に貢献した。その人型重機のコックピットが開く。すると、後席にもう1人、誰かが乗っている。


「やはり狭いですわね、この人型重機って乗り物は……よいしょっと」

「なんだマリカ、私が降ろしてあげよう」

「いやーん、デネット様ぁ! みんなが見ておりますわ!」


 こんな時に何をしにやってきたんだ、この変態技術士官は。デネット少佐にお姫様抱っこをされて地上に降りたマリカ少佐だが、地面に足をつけるなり、こちらにスタスタと歩み寄ってくる。

 にしても、奇妙だな。マリカ少佐がわざわざ戦いの場に姿を現すなど、未だかつてなかったことだ。そんなマリカ少佐は、3人の魔法少女……ではなく、その脇にいる使い魔の前に立つ。


「やあ、毒舌お姉さん。何か用かい?」

「ええ、この腐ったドブネズミにちょっと、聞きたいことがありましてね」

「ぐはぁっ! いいっ!」


 いきなりロプトスをドブネズミ呼ばわりするマリカ少佐。だが、少佐の次の一言が、周囲にいる我々を凍り付かせる。


「やはり怪異を創り出しているのは、あなたですわよね、ドブネズミさん?」

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