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#78 負力

「提督、いきなりこんな小娘を見せられて、この私に何をしろと言うんですか!?」


 マリカ少佐がそう叫ぶと、小娘呼ばわりされた3人の表情が険しくなるのが露骨に分かる。


「なんだよ、小娘って!」

「そうですわ、失礼な! (わたくし)、これでもれっきとした女子高生なのですわよ!」

「学生ならなおのこと小娘でしょうが。大人として扱われたければ、もっと社会に揉まれることね。見るからに小便臭いんですよ」

「なんだとぉ!」

「おい、まあ落ち着け。マリカってのは、こういう嫌なやつなんだよ」


 いきり立つ3人を制止するレティシアだが、お前だってついさっきまで言い合いしてただろう。それはともかく、マリカ少佐のやつは相変わらず人を怒らせるのが得意だな。どうしてこいつには、協調性というものがかけらもないのか?


「すまないね、魔法少女たち。マリカだっていつもこういう態度ってわけじゃないんだ。許してやってね」

「はあん、デネット様ぁ。こんな小便娘どもにいちいち気を使うことなんてありませんわ」


 清々しい笑顔を振り撒くデネット少佐と、そのデネット少佐にだけ態度が変わるあの技術士官を目の当たりにして、3人の魔法少女は衝撃を受けているようだ。


「どうなってんのかね、宇宙人ってのはみんな、ああなのかな」

「そうですわ、どうなってるのかしら?」


 ここは0001号艦の食堂。僕はこの星の謎解明のため、そして彼女らは宇宙船を見たいという願望があり、オースブリンク巡査部長と共にここに来てもらった。で、肝心の謎解き専門士官であるマリカ少佐に会わせたところ、いきなりこれである。いざというとき、こいつは役に立たない。

 まあいいか、それならそれで、彼らにとっては未知の宇宙船である駆逐艦内の凄さを味わってもらえばそれでいい。僕の下がり切った株が、少しでも上がるだろう。


「しかし、宇宙船と聞いて来てみたんですが……意外と普通ですね」


 が、その巡査部長にまでこう言われる始末だ。もっとも、この食堂だけに限っての感想だろうが。


「はいはーい、魔法少女さんたちも、あまりこの変態提督に関わらないようにして、お食事してくださいねー」

「あれ、やっぱり宇宙人的にもあのヤブミってのおっさんは、やべえやつなのか?」

「決まってるでしょう。レティシアちゃんという奥さんがいながら、さらに2人も奥さんを追加してるんですよ。正気の沙汰じゃないわよ」


 そこにわざわざ僕の株を下げにくるやつが現れる。グエン中尉め、言いたい放題だな。その横ではリーナが、3人前ほどのピザを頬張っている。それを、あのギュルとかいう黄色のやつが、呆れた顔で眺めている。


「へぇ、魔法少女ってのかよ。そういや、そんなのがでてくるマンガがあったよな」


 そこにジーノとイレーニアまで現れた。どうやら、魔法少女に興味津々なようだ。


「誰さ、あんたは?」

「俺はジーノ。こう見えても超重力ロボ、ヒペリオーンVのパイロットリーダーなんだぜ」

「なに、そのヒペリオーンなんとかってのは?」

「5機の合体ロボットだぜ。強えんだぞ」

「えっ、なんなの、その子供向けアニメみたいなやつ!?」


 いやあ、魔法少女も僕らから見れば、十分子供向けアニメの定番だぞ。合体ロボットとはいい勝負だと思うんだけどな。などと眺めていると、リーナにつられて黙々とピザを食べ続けていたリーダー格のロッズが、突然立ち上がる。


「自己紹介、忘れてた。私はブリットマリー・ヘーグストランド、19歳。魔法少女の時のコールサインはロッズ。この姿の時は、マリーって呼んでほしい」


 と、なんの脈絡もなく、自己紹介を始める。そして席に座ると再び、黙々とピザを食べ始める。


「……あ、そんじゃ次、あたいだよね。あたいはイーダ・リューブラント、16歳。花の女子高生だよ。コールサインはブリューだけど、この姿の時はイーダって呼んでね」


 なぜか拍手が湧き起こる。こいつ確か、氷魔法を使ってたな。そのわりに、妙に明るい。むしろ炎の使い手のマリーの方が、氷のイメージが強い。


「で、(わたくし)はモニカ・カルステニウス、17歳。コールサインはギュル。ウィスビー市きっての名門校である、ルンデ女学院高校の生徒ですの。同じ高校生でも、どこぞのイーダとは格が違いますわ」


 どうもこのギュル、いや、モニカという娘は、プライドが高そうだな。いやに鼻がつく物言いが気になる。


「なーにが格が違うのよ。世間から見たら、どんぐりの背比べだって。それに、3人の中ではあたいの方が人気高いんだから」

「それはファッション誌のモントでの順位ですわ。格式ある『自由の光』誌では、(わたくし)の学校の方が上ですわ」

「格式ねぇ。でも最近、『自由の光』誌もなんか低俗になったっていわれてるじゃん」


 と、ここで聞き覚えのある名前が聞こえてきた。僕はギュル、じゃなくて、モニカに尋ねる。


「その自由の光っていう雑誌、あれはどういう雑誌なんだ?」

「あれ、提督さん、知ってるの?」

「実は今日、いきなり取材されたんだ」

「あーあ、そうだったんだ。あそこの取材力、凄まじいらしいからね。もう接触して来たんだ」

「おうよ。んで、その記者に俺がいろいろとしゃべっちまったんだぜ。そいつがカズキに3人の奥さんがいるって言ったから、俺以外にリーナとマツってのがいて、ついでに俺が魔女だって話や、リーナやマツがカズキに助けられて、その縁でこうして一緒になっちまったって話もしたんだよ」

「うげぇ、今どきの『自由の光』って、そんなことまで聞くんだ。ていうか、てっきりこの提督さんがすげえ女たらしで、それで3人も抱えてたと思ってたわ」

「女たらしってこたあねえな。でもこいつ、昼間は常識人ぶってるけどよ、夜になるとすげえんだぜ。何せ、俺とリーナとマツを3人同時に……」


 なんでそんなことまで、ここで話すかなぁ。おい、イレーニア、そういう時だけ首を突っ込むんじゃない。マリーも、ピザを食べながら聞き耳を立てるな。


「と、ところで、先の戦いでの話を、少し整理しませんか。あの怪異という存在に対し、レティシアの魔力によって浮き上がった物体と、僕らのバリアシステムだけがなんとかあれに対抗できた。それが解明されたなら、魔法少女だけに頼る今の闘い方が、大きく変えられるかもしれないですよ」


 話を逸らした、というより、元々この話をするために呼び寄せた経緯もある。それを聞いたオースブリンク巡査部長が、こう切り出す。


「正直言って、魔法少女以外の対抗手段が出てきたというだけでも我々にとっては大きな収穫です。今まで我々では手も足も出なかった。だからこその魔法少女支援をしてきたのですけど、これまでも幾人かの魔法少女がおり、そして何人かは死んでいったのです」

「えっ、魔法少女にも、亡くなった人がいるんです?」

「警察庁が関わるようになった40年前から、その間に魔法少女となったものは34名。内、諸事情で引退したものが18名、7名が怪異との戦闘で死亡してます。つい最近まで、魔法少女は5人いたのですが、今では3人になってしまいました」

「はぁ、そうなので……あの巡査部長殿、計算が合いませんよ。それだと彼女らを除く魔法少女が31名ということになりますが、引退と死亡を合わせて25名。残りの6名は、どうなったのですか?」

「ああ、6名は別の理由で死亡したのですよ」

「別の理由? 病気か何かですか?」

「いえ、戦争ですよ」


 急に話が現実的な方向にシフトする。そういえば、僕らが接触したのは空軍機だ。ということは当然、対抗すべき国があるということになる。彼らが過去に戦争をしていたとしても、なんら不思議ではない。


「我々の隣国に、シャイナ合同王国という大国があってですね、その国とは20年前に戦争をしていたんですよ。いや、周辺国をも巻き込み、世界大戦とでも呼ぶべき大きな戦争でした。で、その時の大空襲で、6名は命を落としました。実は今でも、そのシャイナ合同王国との緊張状態は度々起きてます」


 怪異という不可思議な存在との戦いを抱えながら、一方で国同士の紛争まであるのか。そりゃあ、怪異に軍が関わってる余裕なんてないだろうな。見たところ、一体づつしか現れないようだし、それならば治安維持の仕事ってことか。


「そんな国だからね、だから怪異が現れるんだよ」


 と、そんな巡査部長自身を逆撫でしかねない発言をするやつがいる。それは、宙に浮かんだあの不可解な生物、ロプトルだ。


「そういえばこの使い魔っていう不細工な動物、どうして宙に浮いてるのかしら?」


 とまあ、そんな奴をさらに逆撫でしかねないことを言い出しつつ、興味をそそられているのがマリカ少佐だ。だが、そんな少佐の言葉には耳も貸さず、こいつは続ける。


「怪異は、負のエネルギーによって生まれるんだ。負の感情、それは憎しみ、恨み、闘争心、それがより集まったところに、怪異が出てくるんだよ」

「いや、待て。それだったら隣国にその怪異というのが現れてもおかしくないんじゃないか?」

「それだけじゃないよ。この地はさらにその負のエネルギーを集めやすいんだ」

「どういう意味だ、それは?」

「さあ、どういう意味だろうね?」


 なんかこいつ、無性に殴りたくなるのは気のせいだろうか。ひ弱そうな動物の格好をしてるくせに、真面目に話していないというか、態度が横柄な感じで気に入らない。


「だけど、魔法少女が現れるのもこの地だけなんだ。それって、偶然だろうかね? いや、偶然じゃないんだよ。必然なんだ」

「ちょっと、そこのウサギもどき。聞き捨てなりませんわね。それじゃまるで、魔法少女ってのがいるから、怪異が現れると、そういうことになりますの?」

「あながち、間違いではないよ。正確には、魔法少女が現れる地だから、怪異も現れる」

「それはつまり、ここだけ特別だと、そうおっしゃりたいのです?」

「そうだよ。だからボクはここで魔法少女の素質ある少女を探し出し、契約してきたんだ」


 鶏か卵かの論争のようなことを言い出すこの使い魔。それに食いつくマリカ少佐。が、なんだか堂々巡りな論争で、哲学的すぎてついていけない。しかしこの使い魔は、こうも言う。


「ボクがそうしている理由(わけ)は、その怪異の元を探しているんだよ」

「なんですか、その怪異の元とは?」

「さあ、ボクにも分からないなぁ」

「分からないのに探すとか、馬鹿ですかあなたは」

「うん、馬鹿かもしれない。でも、きっとあるんだよ、どこかに」

「ちょっと待て、つまり使い魔の目的は、あの怪異を消すことなのか?」

「そうだよ。だって、邪魔じゃないか」

「それは人類にとっては邪魔だが、使い魔的にはどう邪魔なんだ? まさか、怪異が消えたのちにお前が、この星を乗っ取ろうなどと……」

「まさか。それだったら怪異に協力した方が早いじゃないか。そうじゃないんだよ、ボクの狙いは」

「では、なんなのだ?」


 こういうやつは、最大の敵がいなくなった後に豹変する。そういう存在だ、というアニメをどこかで見たような気がする。どことなくヤバさを感じていたが、そういうことなのか?


「そう、確かにボクの狙いは、人にある。そう、人の……いや、若い女性の……」


 ついに、本性を表すか。こいつの狙いとやら次第では、僕はこいつを排除せねばならないぞ。


「若い女性の……その罵り声なんだ」

「は?」


 が、こいつ、急に変なことを言い出した。今のは、僕の聞き違いか? だが、こいつはさらに続ける。


「まるで路地のゴミ捨て場に投げ捨てられたゴミでも見るような目で、ボクを罵るあの声。この『人』の持つ最大の負のエネルギーともいえるこれこそが、ボクの大好物なんだ。こんなの、怪異がいたら手に入らなくなるよ」


 聞き違え、と言うわけでもなかった。やはりこいつ、とんでもない奴だ。ヤバい存在であると言う直感は大当たりではあったが、方向性がかなり違っていた。


「ちょっと、それどう言うことなのよ! そんなものエネルギー源にする生物なんているわけないでしょう! このドブネズミ!」

「ぐはぁっ! いいーっ! このお姉さん、とんでもなく負の力が強いぃ!」


 ……なんだろうな。まさかとは思うが、これが魔法少女らの魔力の根源だと言うんじゃないだろうな? 僕は呆れて、ものが言えない。


「まあ、そういうわけで、この使い魔は我々に協力的なんですよ」

「ということは、巡査部長も承知のことで?」

「ええ、まあ。だから時々、うちの庁舎にいる婦警に頼んでですねぇ……」


 こういう設定は、アニメでは見たことがないな。ジーノたちを最初に見た時は、なんて非常識な連中だと思ったが、今ではこっちの方が非常識極まりない。彼らはまだ、正義のために戦うという志があった。だが、こいつは違う。


「ちょっと、そこのドブネズミ! そんな枯れたアジサイの葉みたいなヘタレた垂れ耳で、ちゃんと聞こえてるんでしょうね!」

「ぐはぁっ、いいーっ! さっきのレティシアさんたちの罵りも良かったけど、こっちは段違いだよ! そこに痺れるっ、悶えるっ!」


 なんだこいつ、まさかレティシアたちに罵られたいがために、さっきは魔法少女に誘ったと言うのか? マリカ少佐との相性が、変に抜群な使い魔だ。それだけはよく理解した。

 ところで、魔法少女に契約するとどうなるのか? 魔法少女ってやっぱり、世間的には秘密にされているのか? などと疑問も尽きない。そこでこの変態使い魔ではなく、巡査部長に尋ねてみたのだが。


「引退した魔法少女は、ごく普通に過ごしてますね。中には天寿を全うされた方もいます。契約したからと言って、特に害があるわけじゃないですよ」

「だけど、さすがに世間的にはその正体は秘匿されてるんですよね?」

「そうしたいのは山々なんですが、実はすっかりバレてるんですよ」

「バレてるって、それはまたどうして?」

「あの『自由の光』って雑誌が、彼女らの正体を探り出してバラしちゃうんです。おかげで、ただでさえ少ない魔法少女の成り手が、さらに減ることにつながってるんですよ」


 どうも「自由の光」という雑誌の名前が、ところどころ見え隠れするな。聞けばそれなりに志のある雑誌のようではあるが、一方でゴシップネタにも飛びつく節操のないところがある。そういう印象を抱いた。

 あれ、てことは僕、そんな雑誌になんて書かれるんだ? そんな事情も知らずに、レティシアが私生活を含めて洗いざらい全部、しゃべってしまったぞ。僕のこの負の感情は、どこにやればいいんだ?

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