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#73 普通

「ウィスビー第7航空師団基地まで、あと20キロ!」


 我々は今、あの戦闘機に先導されて、ゴットランド共和国という国の首都であるウィスビー郊外にあるという航空基地に接近しつつある。

 無線だけで、我々の姿を知らせることは難しい。そこで、あのグリーネホークという戦闘機が艦橋に接近し、我々の姿が彼らと変わらないことをわざわざ確認してもらった。それ以外にも、いくつかの質問と回答の応酬が行われた。その甲斐あって、我々は想定以上の速さで、この星の人々との接触を果たすことができた。

 だが、むしろこれからが正念場だ。

 ダールストレーム少尉の乗機「ガネット12」以外に、4機の戦闘機が上がってきた。0001号艦の周辺を飛び回っているが、これは我々を警戒するというより、地上の人々の警戒心を下げるためにあえて飛んでいるのではないかと思えてきた。

 実際、この空港の周辺に(たか)る群衆が放つ凄まじい無言の圧を、僕はさっきからビシビシと感じている。


「着陸指定地点上空に到達、回頭、右90度!」

「右90度回頭っ!」

「微速下降、毎秒30!」


 考えてみれば、これほど重い船体が空中に停止し、しかもゆっくりと地面に向かう光景を、ここの人々はなんと見ているだろうか? 滑走離着陸型の航空機しか持たない彼らからみれば、とんでもない技術(テクノロジー)なはずだ。

 地球(アース)1050でもそれは同じはずだが、あそこはヒペリオーンVという例外的存在があったから、そこまで違和感がなかった。しかし、ここではそんなものはなさそうだ。

 至って、普通の星だな。

 実に奇妙なことだが、僕にとって「普通」すぎることが、どうしてこれほど違和感を感じさせるのか不思議でならない。でもそれは、間違いなくこの直前に行われた白い艦隊との戦闘ゆえのことだ。

 一体、白い艦隊はこの星の、何を守りたかったのか?

 そんなことを考えているうちに、ズシンと大きな音が響く。と同時に、着陸を知らせる声が響く。


「着地、重力アンカー作動、船体固定よし!」

「了解。各部点検、着陸準備となせ」

「はっ!」


 ジラティワット艦長が、粛々と地上へ降りる準備を進めている。しかし、まさかすぐに地上に降りることになるとは考えてもいなかったから、フタバを乗せていない。あれでも交渉官代理としてはそこそこ役立つから、こういう時に備えて乗せておけばよかったと後悔する。


「おう、行くのか?」


 僕が軍帽を被り、マツと共にエレベーターへ向かうと。レティシアとリーナが待っていた。


「当然だ、他に交渉を任せられる人物がいないからな」

「しゃあねえな、んじゃ、俺たちも行くしかねえよな」

「うむ、そうだな」

「いや、レティシアたちが行く義務はないぞ」

「それを言ったら、マツだってそうだろう」

「いや、マツは無線で発言した手前、外すわけにはいかないからだ」

「なら、俺たちだって同じだ。俺らはおめえの妻なんだぜ」


 そういって、僕の肩に手を組み、エレベーターに乗り込むレティシア。リーナとマツが、それに続く。


「そういえば、エルネスティとユリシアはどうした?」

「ああ、グエンに預けてきた」


 自分の子供を放っといて、わざわざついてくることもないだろうに。そういう妙に義理堅いところがレティシアらしい。いやこの3人ともが、そうか。

 エレベーターで降りると、デネット少佐ともう一人の護衛の士官が待っていた。僕の姿を見るなり、敬礼する。レバーが引かれて、ハッチが開き始める。


◇◇◇


 近くで見れば見るほど、とんでもなく大きい船であると改めて感じる。こんなものがついさっきまで、空中に浮かんでいたと言うのだから驚きだ。ましてやこれは、宇宙からやってきた。つまり、宇宙に出る能力も有していることになる。

 そんな船が、空中で停止し、空港の管制塔と滑走路の間の僅かなすき間に降り立った。

 信じられないことだが、とはいえ、こんなものをこの地球上のどの国も作れるはずがない。

 それ以上に驚きだったことは、こんな船を作り上げた宇宙人が、我々とそっくりだったことだ。僕自身、目視で確認した。

 が、それはキャノピー越しの、60ヤーデ離れた距離からの姿だ。間近で見たわけではない。

 が、その船が地上に降り立ち、いよいよ中の宇宙人が姿を現す。第一接触者として、僕も立ち会うこととなった。

 厳戒態勢だ。小銃を構えた兵士が十数名、それを指揮するのは、この師団で陸戦隊長を務めるエングダール大尉だ。


「いよいよ、出てくるぞ」


 その船の底部のハッチがゆっくりと下に開く。やがてそれは、地面に接する。ハッチが作る斜面の向こうに、軍服姿の人物が3人見える。

 ……それだけではないな。ワンピース姿に、騎士の礼装をまとった女性、その後ろには、小柄で独特の赤い異国風の服を着る女性も見える。

 軍服姿の内、飾緒付きの者が進み出て、敬礼する。あれは僕がキャノピー越しに見た人物だ。そう確信する。僕はまっ先に返礼し、応える。大尉以下、十数人の兵士らも一斉に敬礼する。将官と思しき飾緒付きの人物は、敬礼したままスロープを降りる。


「出迎え、ご苦労さまです。小官は地球(アース)001、第8艦隊司令官のヤブミ少将です」


 とても宇宙人とは思えない、それが間近で見た彼らへの第一印象だ。姿形、そして話し言葉まで同じときた。強いて言うなら、肌と髪の毛の色が異なる。いや、後ろに立つ兵士、そして3人の女性も、皆、肌と髪の毛の色が違う。それを見れば宇宙人とはいえ、多民族であることが容易に想像がつく。


「私はゴットランド共和国空軍、ウィスビー第7航空師団所属、陸戦隊隊長を務めるエングダール大尉と申します。そして私の横に立つ彼は、先ほどまで貴方がたを誘導していたグリーネホークの操縦士、ダールストレーム少尉であります」


 唐突に紹介された僕は、慌てて敬礼する。すると、後ろにいた女性の一人が進み出る。


「おう、俺はこいつ、カズキの妻で、レティシアっていうんだ。よろしくな」


 妻と聞いて、僕はあの無線を思い出す。そういえば、この少将閣下の妻というのは、違う星で死にかかっていたところを助けられたと、そんなことを言っていた。

 が、その無線とは明らかに違う雰囲気の話口調だ。変だな、こんな声だったか?


「そして、私は地球(アース)1019のフィルディランド皇国の皇女、リーナ・グロティウス・フィルディランドと申す。同じく、カズキ殿の妻である」

(わらわ)地球(アース)1041出身、トヨツグ家が娘で、マツと申す。同じく、カズキ殿が妻であるぞ」


 ところがだ、さらに2人の自己紹介が終わると、雰囲気が一変する。ちょっと待て、この少将閣下は、3人も奥さんがいるのか?


「ええと……閣下、つまりこちらの3人の御婦人は皆、閣下の奥様でいらっしゃいますか?」

「はい、その通りです。まあいろいろ、あったんですよ。お察し下さい」


 顔を赤くしながら大尉に答えるその少将閣下の姿は、それまで抱いていた彼らへの警戒心を薄れさせるには十分すぎる効果があった。しかし同時に、僕はこう感じる。

 うん、やっぱりこの人たち、宇宙人だな。我々とは明らかに違う。


「そういうわけで、兄上の策にはまり、魔物の襲撃から助けられた私はその後、父上の命でカズキ殿に嫁いだ、というわけだ」

(わらわ)は攻城戦の後に、敵将より家臣の安堵を条件に、カズキ殿の妻となることとなり申したのじゃ」


 あの無線の声の主は、小柄な3人目の奥さんだと分かった。2人目のリーナさんも、異なる星の出身者だと、司令部建屋まで移動する際に聞かされた。

 唯一、同じ星の出身だというレティシアさんについても、母親が地球(アース)760という別の星からやってきたというから驚きだ。遠く宇宙では、星間結婚や3人の奥さんがいることは普通なのだろうか?


「ええと、一つ断っておきますが、戸籍上はレティシアだけが正式な妻であってですね……その、僕の星でも重婚は認められてはいないんです。事実上の妻が3人いる、ということなので」

「よくいうぜ。おめえ、その3人に子供作らせておいて、今さら本当の妻は1人だなんて言い張れるのかよ?」

「そうじゃそうじゃ」


 あの大型飛行船を率いる艦隊の司令官だというこの人は、その凄まじい宇宙船の指揮官だというわりに、奥さんには弱いようだ。特にレティシアさんからは、いいように言われ続けている。

 宇宙人の印象が、わずか10分の間に大きく変わってしまった。


「お初にお目にかかります。小官はウィスビー第7航空師団長、ヴィストレーム中将と申します」

「ぼ……小官は地球(アース)001、第8艦隊司令官、ヤブミ少将であります」

「艦隊、ということは、あの(ふね)も艦隊の内の一隻ということですか?」

「はっ、前線旗艦と呼ばれる駆逐艦で、0001号艦と称する艦であります」

「あの……あれが駆逐艦と?」

「はっ、我が第8艦隊は、駆逐艦一千隻、戦艦2隻からなる、特殊任務専任の小規模艦隊です」


 一瞬、場が凍る。あの巨艦が駆逐艦であること、それが一千隻の艦隊指揮官だと言い放った。

 第7航空師団でも、戦闘機120機、攻撃機、爆撃機が40、それらに関わる操縦士と整備士が700人、加えて陸戦隊、空挺部隊500人だ。それを遥かに凌駕する規模の指揮官、ということになる。


「少将、一つ聞きたい。あれ一隻当たり、何人が乗っているのか?」

「標準は100人です。が、あの艦は司令部付きのため、110人にて運用しております」

「参考までに尋ねたいが、中将クラスだと何隻を指揮することになる?」

「はっ、中将であれば三千隻、大将クラスが一個艦隊、一万隻を指揮するというのが通例となっております」


 なるほど、少将で一千隻というのは、そちらでは普通なのか。しかし、それにしても一千隻。一隻当たり100人ということは、10万もの兵員を抱えていることになる。


「ところで、武器らしき物が見当たらないが」

「武器はございます。先端に開けられた、直径10メートルの砲口、あそこからは高エネルギー粒子ビームを発射可能となっております」

「まさか、あれ一門のみの武装しかないと、そう言われるか?」

「一撃で、街を一つ消滅させられるほどの威力の砲です。十分過ぎるほどの威力がございます」


 さっきから我々は、途方もない話をされている。が、特に隠し立てすることもなく、この少将閣下は淡々と述べる。


「あの、よろしければ、艦内を見学されますか?」

「見学とは、まさか……あの駆逐艦をか?」

「我々と同盟を締結した後、いずれ同様の戦力を手にすることになるのですから、今のうちに見られてもよろしいかと存じます」


 そして、驚くほど寛大だ。どう見ても、軍事機密の塊とも言える艦を、我々に見せてくれるというのだから。


「では、ぜひ見せていただきたい。ところで、あの艦には航空機かその類はないのか?」

「今搭載されているのは、人型重機と呼ばれるロボット兵器一体と、5機の合体ロボット兵器のみです」

「が、合体ロボット?」

「やや特殊な兵器です。通常は人型重機が6機か、あるいは哨戒機、または複座機と呼ばれる航空機を2機搭載するというのが通例となっております」

「うむ……だが、先ほど一個艦隊が一万隻だと言っていたな」

「はい」

「ということは、航空機戦闘となれば2万機同士の戦いということになるのか?」

「いえ、今の時代は長射程からの砲撃戦が主体であるため、航空機の出番はほとんどありません。稀に行われる高機動型の艦艇の突入によって行われる接近戦以外は、ほとんど砲撃戦闘のみで終わるのが普通です」


 実にあっさりと、彼らの戦闘手段が明かされる。宇宙では、戦闘様式すらも異なるらしい。これには中将閣下も次の言葉に窮する。それはそうだろう。ヴィストレーム中将は空軍将校であり、まさに航空隊の指揮官だ。それが宇宙ではほとんど役に立たないと、そう断言されたに等しい。

 そんな中将閣下の代わりに、僕が質問する。


「あの、ヤブミ少将閣下」

「なにか?」

「それではなぜ、人型重機と呼ばれるロボット兵器が、あそこに搭載されているのでしょうか?」

「完全に接近戦闘がなくなったわけではないし、加えて、工作任務を行う場合もある。長時間の砲撃戦で生じる砲撃エネルギーによってノイズが引き起こされ、レーダーに支障が起きた場合には、数百機の哨戒機隊が出撃してレーダー網を構成することもある。まったく無用というわけではないんだ」


 なるほど、だから小型の兵器も搭載されているのか。にしても、あの大穴が大砲であったとは驚きだ。凄まじい威力の砲身をただ輸送するだけの艦。あれが駆逐艦と呼ばれるわけだ。


 それから、ヴィストレーム中将と僕、そして数人の士官を伴い、あの艦内を見学させてもらうこととなった。

 巨大な砲身と、それを制御する砲撃管制室、艦橋、機関室。特に機関室には、大きな赤いルビーのような石があった。あれは魔石エンジンと言って、通常は核融合炉が載っているところを、この艦のみは魔石エンジンに置き換えているのだという。

 驚くのは、艦内だけではない。彼らはこことは異なる銀河からやってきたと言っていた。夜空には棒渦巻銀河が見えるが、彼らの銀河ではあのようなものは見えないとのことだ。彼らはこの銀河のことを「サンサルバドル銀河」と呼称していることも明かす。

 さらに、彼らとこの銀河とで、全部で1050個の人類生存惑星があるとのことだ。この星はまさに1051番目で、地球(アース)1051と呼ばれることになるだろうと話していた。

 その1000個の星々は大きく二つの陣営に分かれて、すでに200年以上も争い続けているとも明かす。だが、その二つの陣営が手を組まなければならないほどの事態が発生していると言う。

 それが、「白い艦隊」という謎の艦隊だ。

 その白い艦隊が、この星を守るべく、彼らと戦い全滅したと、そんな突拍子もない事実まで我々は知ることとなる。


◇◇◇


 普通だ。

 いや、普通であることが不満だ、というわけではない。

 軍組織は極めて普遍的なものであり、兵器もその運用方法も、そして戦法も我々の宇宙ではごくありふれたものである。

 なお、遺跡のようなものはここにはないと言っていた。天の川銀河系では今でも毎年、10から20もの人類惑星が発見されているが、それらの星となんら変わりがない。

 気味が悪いな。

 どうして、こんな星をあの白い艦隊は死守しようとしたのか? 全くもって不可解だ。

 ただ、一つだけ気掛かりなことがある。


「実は俺は、魔女なんだぜ!」


 と、レティシアがいつものようにカミングアウトした時のことだ。

 その反応が、異様に薄い。ジーノたちのいた地球(アース)1050はやや大袈裟なところがあったが、どんな星でも魔女という言葉にポジティブにもネガティブにも反応を示すのが普通だった。

 が、ここは魔女という言葉に対してだけ、なぜか冷めていた。

 いや、我々のテクノロジーに驚き、それに比べたらインパクトが薄かったというだけなのかもしれないが、レティシアはやや不満げだったな。

 いずれにせよ、我々は今のところ、白い艦隊の意図を読みかねている。やつらはこの星の何を守ろうとしていたのか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宇宙からのお客人だけでも胸熱なのに、機動兵器に合体ロボ。某極東の島国の一部界隈が大騒ぎだな…。 さらに司令官はHAREM野郎。何処のなろう主人公なんだよwww …不幸な事故って不思議と起…
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