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#71 駆逐

「特殊砲撃、斉射確認!」


 モニター越しに、青白い強烈なビーム光の束が眩く光るのが見える。と同時に、艦橋にまで激しい音と揺れが伝わってくる。僕の横で司令官席に座るマツが、その轟音に耐えながら僕にしがみついてくる。


「弾着観測は!?」

「はっ! ただいま、弾着観測中! 暫し待機を!」


 一千隻中、特殊砲撃を行える艦艇は100隻あり、加えてこの旗艦オオスだ。101隻からの猛烈な高エネルギーの塊が、目前の5千隻に叩きつけられる。


『うわっ! な、なんだぁ、今のは!?』


 ヒペリオーンVからも、その凄まじい砲撃音に驚愕するジーノの声が入る。だが、これはまだ戦いの序章に過ぎない。あの5千隻の内、初弾でどれだけ削り取れたかがその後の作戦の成否を左右する。僕は弾着観測班からの報告を待ちわびる。


「弾着観測班より報告! 敵艦隊、約2500隻消滅!」


 ようやく報告が入る。内容は、およそ半分を沈めたというものだ。ほぼ予定通りの戦果だな。


「通常砲撃による攻撃を続行する。全艦、砲撃戦開始!」

「砲撃開始、撃ち―かた始め!」


 僕の号令と同時に、ジラティワット艦長が砲撃命令を下す。オオスにつけられた30基ほどの砲門から、一斉に砲撃が開始される。

 が、相手は半分消滅したとはいえ、まだこちらの倍以上の戦力だ。おまけに、おそらくは前回同様に全滅覚悟の熾烈な戦いを挑んでくることが予想される。だから、容赦する事はできない。

 それゆえに、ここでただの撃ち合いなど続けるつもりはない。


「エルナンデス隊、カンピオーニ隊、前進!」


 作戦は第2段階に入る。機動性の高いこの2隊を使って、白い艦隊を翻弄する。


『ヒャッハー! 野郎ども、久々に暴れ回るぜ!』


 カンピオーニ准将のイカれた通信が飛び込んでくる。艦隊を握らせたら最後、豹変すると言われるカンピオーニ准将の、本性発揮の絶好の機会だ。一見すると狂気に支配された指揮官だが、これが意外なほど強い。


『カンピオーニ隊に負けるな! ついでに、あの軟弱ハーレム極悪指揮官、ヤブミ少将に我々の力を見せつけてやれ!』


 一方のエルナンデス准将は、反抗心と対抗心からカンピオーニ隊に負けず劣らずの戦いぶりを見せてくれる。守勢より攻勢の方が性に合うと普段から言っているだけあって、こういう作戦の際はいい働きをしてくれる。ひと言多いのは、玉にキズではあるが。


「ステアーズ隊に連絡。作戦通り、これより前進し、敵の前進を阻め、と」

「はっ!」


 ステアーズ准将といえば、メイプルシロップのことしか考えていないのではと思われてる。しかし、そのシロップにあやかったわけではないが、彼の隊には粘り強さがある。そのステアーズ隊を白い艦隊の前面に出す。

 一方のエルナンデス、カンピオーニの2隊は、徐々に敵艦隊後方へと回り込む。後方から敵艦隊を脅かしつつ、ステアーズ隊に押し込む。いわば、鎚と金床のようだ。攻勢に強い2隊と、堅固な戦隊とに挟みこまれ、翻弄される白い艦隊。

 白い艦隊の射程距離は30万キロ、一方の我々は45万キロ。この差を利用し、前後から挟み打ちにする。ステアーズ隊に接近すれば、後方に回り込んだエルナンデス隊とカンピオーニ隊がその前進を阻み、振り返ってこの2隊を攻撃しようものならば、今度はステアーズ隊が集中砲火を浴びせかける。ただでさえ少ない艦艇を分散しつつも有利に戦いを進められるのは、我が艦隊が高機動力を持つ最新鋭の艦艇で構成され、かつこの長射程の砲のおかげである。


「そろそろだな」

「はっ! そろそろです!」


 ところで我が艦隊にはもう一隊、隠し玉と言える戦隊がある。前後挟撃態勢が確立した後に、それは攻撃を開始する手筈になっている。

 まさにその隠し玉が、どこからともなく撃ってくる。


「メルシエ隊、発砲を開始!」


 やや斜め上から、砲撃が始まる。ステアーズ隊よりも前方から砲撃を仕掛けるその戦隊には、ほとんど反撃を受けてはいない。

 これには、カラクリがある。白い艦隊はこのメルシエ隊を、ほとんど捉えられていない。メルシエ准将は過去の戦いを分析し、白い艦隊が十字陣形の、ある角度からの攻撃に対して脆弱であることを突き止める。それをメルシエ准将は「白い艦隊のマリオット盲点」と呼んでいるが、まさにその盲点をついた攻撃を思いつく。

 前方のステアーズ隊、後方のエルナンデス隊、やや突入気味なカンピオーニ隊、死角のメルシエ隊からの包囲網により、数で優る白い艦隊が翻弄され、その本来の数の有利さを活かせない状態に追い込んだ。

 そして、作戦は第3段階に入る。


「ワン隊、強襲部隊100隻、直ちに出撃せよ!」


 この作戦の総仕上げとなる軍事行動の開始を、僕は命じる。


◇◇◇


『各機、合図と共に発進せよ。なお今のところ、あの白い艦隊に関して、接近戦を挑んだ実績はない。どのような近接戦闘を繰り出してくるかは不明だ。3機1組で行動し、一撃離脱による攻撃に徹せよ』


 ワンとかいうおっさんが、無線で指示を飛ばしてきやがった。今、俺たちのヒペリオーンVは、あの不格好な人型重機とかいうロボと共に、駆逐艦て船でその白い艦隊のど真ん中めがけて突っ込んでいくところだ。

 無数の青白い光の筋が、この真っ暗な宇宙空間を無造作に照らしている。あっちの敵は5千もいると言っていたが、その半分を最初の一撃で消滅させちまったらしい。

 おい、てことは2500もの船を消し飛ばしたってことだろう。それも、今ヒペリオーンVがしがみついてるこの馬鹿でかい船とほぼ同じくらいの大きさのやつをだ。無茶苦茶だなぁ、おい。

 そんな力持ってて、よく俺たちの地球、今は地球(アース)1050って呼んでる星を支配しようと思わなかったもんだな。ゴルゴン星人ごと滅ぼしかねない力だぞ。あのヤブミっておっさん、思った以上にとんでもねえやつだ。いや、寛大過ぎると言った方が正しいな。

 その寛大さを失うと、ここまで残虐になれるんだな。恐ろしいやつらだぜ。これが宇宙の常識だと散々言っていたが、確かに俺らの常識であの白い艦隊とやらに挑んでいたら、ひとたまりもなかったな。

 で、俺たちのヒペリオーンVはといえば、その駆逐艦って船の表面にしがみついている。ヒペリオーンVだけじゃねえ。全部で5機の人型重機っていうロボも同様だ。

 で、ワンのおっさんが合図したら、ここから飛び出すんだと言われた。だけど、こんな真っ暗な場所のどこを目指して飛び出せって言うんだ?


 ところがだ、あの無数の青い光の筋が交わる場所に、俺たちは向かっている。あの一本一本が、シチレール島を吹き飛ばすほどの威力がある高エネルギービームってやつだと、ヴァルモーテンって姉ちゃんが言ってたな。てっきり脅し文句だと流していたが、今はそれが事実だってことを知っちまった。

 そんな青い光の集点に、俺たちは向かっている。正気の沙汰じゃねえ。俺たちは、暖炉に飛び込む虫じゃねえんだぞ。


『敵艦隊まで、あと2万キロ! 到達まで3分!』

『全艦、減速いっぱい! 重機隊全機、発進準備!』


 その青白い光が、ますます強くなってきやがった。と、いきなり強烈なブレーキがかかる。俺たちはヒペリオーンVの中、その衝撃を感じないが、ヒペリオーンVがこの駆逐艦から振り落とされそうになる。俺はグッとレバーを引いて堪える。

 なんとかその強烈なブレーキに耐えて顔を上げると、目の前にはたくさんの白い宇宙船が見えた。その宇宙船の脇を、青白い光が通り過ぎる。その白い船も、先端から青い光を放ってやがる。

 まさか、あんなところに飛び込めって言うのか?


「おい、あん中に突っ込むのかよ! 当たったら、確実に死ぬぞ!?」


 俺はつい叫んでしまう。が、そんな俺に、喝を入れてくるやつがいる。


『ちょっとジーノ、男のくせに、何ビビってるのよ! 当たらなきゃ、どうってことないわよ!』

「おいイレーニア、当たらなきゃって、あんだけビュンビュン飛び交ってりゃ、一発くらい当たるかも知んねえぞ!」

『マツさんだって、十万の兵に囲まれて、無数の矢や鉄砲の弾を放たれたって言ってたけど、そんなところに飛び込んでいったのよ! ましてやあんた男でしょう! 今までヒペリオーンVに乗って死の淵に追い込まれたことだって、一度や二度じゃないわ、今さら何を怖がる必要があるっていうのよ!』


 まったくイレーニアってやつは、肝が据わってるぜ。あれだけの敵と味方の混戦の有り様を目の当たりにして、よく恐怖を感じないものだ。


「俺が悪かった。おっしゃ、そんじゃいっちょこの見ず知らずの宇宙の真っ只中でも、俺たちヒペリオーンVの強さを見せつけてやろうじゃねえか!」

『そうよ、それでこそリーダーだわ』

『カッコつけて、敵を前にしてビビるんじゃねえぞ!』

『俺はいつでも、兄貴を信じるぜ』

『ジーノさん、やってやりましょう!』

「うおおおっしゃあ! やってやるぜ!!」


 やっといつもの気合が入ってきたぜ。今ならあのビームの一本や二本、こいつで弾き返せそうな気がするな。

 そんな気合いがノってきたところで、発進の合図とやらが飛び込んでくる。


『全機、発進!』


 その合図と共に、この宇宙船の表面にフジツボのように貼り付いてた重機が、次々と離れていく。


「おっしゃあ、俺たちも行くぜ!」


 俺は気合いを入れ直さんと、叫び声を上げる。レバーを引き、この灰色の岩みてえな駆逐艦から離れる。


『で、どこに行くのよ、ジーノ』

「どこって言っても、どっちを向いても敵だらけだぜ。適当に目指せばいいだろう」


 辺りは白い宇宙船だらけで、正直、目移りしちまう。どこか適当にパンチでも喰らわせてやるか。

 と思った矢先、とんでもねえとばっちりを受けちまう。


「うわっ!?」


 青色の豆みてえな粒々が、あの白い船から大量に噴き出してきやがった。それを喰らった左腕が吹き飛ぶ。


「クソッ、油断したぜ!」

『ジーノ、修復するまで一度、離れましょう!』

「分かってるって! だけど、とんでもねえ数の光の弾がよ、迫っているんだぜ! どっちに逃げりゃいいんだよ!?」


 豆鉄砲だけじゃねえ。極太のビームってのも時折、横切る。あれに一瞬でも触れたら、いくら頑丈なヒペリオーンVでもひとたまりもねえ。

 が、その時、ヒペリオーンVの脇に人型重機が取りつく。それも、2機だ。


『こちらシュアンヤンロン、ワン准将だ。ヒペリオーンを援護する』

『こちらテバサキ、デネット少佐、密集し、防御陣をとる』


 迫ってきたのは、ワンというおっさん指揮官にデネットっていう、あの2人の凄腕のロボ操縦士だった。あいつら、バリアっていう防御の盾をもっていて、それを使ってあの豆鉄砲を弾いてやがる。

 そうこうしているうちに、左腕が修復してきた。


『シュアンヤンロンよりヒペリオーンへ。このまま、コンビネーションアタックを仕掛ける。これより、目前のあの艦艇の背後に回り込み、噴出口をやる』

『テバサキよりシュアンヤンロン、こちらも参加します。3機一組が基本ですから』

『いや、私だけで2機分はいける』

『それはそうかもしれませんが、ヒペリオーンVは我々の機体の5倍強の身長。これを防御するには、一機では到底足りないでしょう』

『了解した。ならばこの3機でアタックをかけるぞ』

「おい、コンビネーションアタックって、何をやりゃあいいんだ!?」

『我々が弾除けになる。艦艇の後方にたどり着いたら、そこに例の光の矢を食らわせてやればいい』


 光の矢? ああ、グラビティ・アローのことか。それくらいなら、いくらでもやってやるぜ。


『よし、それじゃついてこい!』

『負けませんよ、准将閣下』


 この2人の操る人型重機は、先を争うようにすっ飛んでいく。てか、ヒペリオーンVを忘れちゃいないか? 俺も慌ててその2機についていく。

 極太のビームの河、青い豆鉄砲の雨あられ。それらを掻い潜りながら、この3機はどうにか一隻の後ろにたどり着く。俺は、叫んだ。


「グラビティ・アローッ!」


 ヒペリオーンVの左腕から、大きな黄金の矢が浮き上がる。右手には、大きな弓。その矢じりを弦に当てて、それを思い切り引く。

 勢いよく飛び出すグラビティ・アロー。その一矢はちょうど、白い宇宙船の4つの青白い光が噴き出されるそのケツのど真ん中に、吸い込まれるように消えていく。

 やがてそれは大爆発を起こして、その船が吹き飛んだ。


『思った通りだな。やはりヒペリオーンのこの武器は、極めて強力だ』


 そう呟くワンのおっさんだが、俺は信じられない。いや、ちょっと強すぎやしないか? 今までも何度か機械獣相手に戦ってきたが、あそこまで強い武器ではなかったはずだ。グラビティ・アローは敵の動きを止めるための技であり、とどめはあくまでも、超重力剣で行う。それが常道だった。


「そんじゃおっさんよ、超重力剣を使った方が、もっと強いってことか!?」

『いや、おそらく違う。その光の矢は、重力子を集束させて放たれる武器だ。だから、重力子エンジンに対して作用すると考えた。実際、あの爆発はその相互作用によるものだ。超重力剣とやらに、そこまでの相互作用を促す力があるかどうか』

「んなもん、やってみなきゃわかんねえぜ! おっしゃ、おっさんども、別のやつにコンビなんとかアタックをかけてみるぜ!」

『まさか、その超重力剣を使う気か?』

「決まってるだろう、俺たちは正義のロボだ、決め技使わなきゃ、カッコがつかねえだろう! 行くぜ!」

『おい待て!』


 俺はおっさんどもの重機を振り切り、次の船へと向かっていった。豆鉄砲が無数に飛んでくるが、そうそう当たるものじゃねえ。その船の背後に取りついた俺は、剣を引き抜いて叫ぶ。


「超・重・力・剣!!」


 青く光る必殺剣がぶっ刺さる。それを俺は、大きくV字を描いて斬りあげる。

 さっきとは比べ物にならねえくらいの、途轍もない爆発が起こる。あっという間にその白い船の後ろが火に包まれる。よし、いけるぜ。俺たちのヒペリオーンVはここでも戦える。


「おっしゃ、次々に行くぜ、おっさんども!」


◇◇◇


「ワン隊、白い艦隊の一部に対して接近戦を仕掛けております。次々と航行不能艦を量産している模様です」

「そうか、狙い通りだな」


 この報告を聞いた僕は、予定通りに事が進んでいることを聞いて安堵する。ワン准将による接近戦の提案を聞いた時、僕は当初反対した。が、その意図を聞くにつれ、僕は賛同側に回ることとなる。

 その意図とは、すなわち「鹵獲」である。

 艦艇を完全破壊せず、その一部を航行不能に陥れれば、これまで叶わなかった白い艦隊の乗員との接触が可能となる。

 数の上での不利さをカバーしようと思えば、人型重機による奇襲で艦艇を戦闘不能に陥れるという戦術も十分にありだと思った僕は、敢えて他の戦隊を陽動として用い、接近戦にかけることにした。今のところ、それは大当たりである。現在、800隻以上の艦艇の機関部を破壊したと報告が入る。すでに300隻以上を沈めたから、残る戦闘可能艦は1400隻。もう一回、特殊砲撃を加えれば、我々は勝利すること疑いない。


「現在、艦隊中央部に戦闘不能艦が集中している。加えて、艦隊左翼は4隊からの集中砲火を浴び、ほぼ壊滅状態にある。となれば……」

「まだ健在な艦隊右翼に打撃を与えてやれば、白い艦隊は機能停止するでしょう」


 ヴァルモーテン少佐が付け加える。となると、やるべきことは一つだ。


「敵艦隊右翼に、特殊砲撃を加える。特殊砲撃、第2射用意!」


 白い艦隊にとどめを刺す。そう決めた僕は、第2射を決断する。


『うげぇ、マジかよ!』


 機関室から、レティシアの不平が聞こえてくる。が、今この時を逃すわけにはいかない。僕は返答する。


「これで勝ったら、松坂牛ステーキを全員に奢ってやる」

『そんなんじゃ足りるか! 加えて、ひつまぶしに飛騨牛霜降り上等肉食べ放題だ!』

「分かった、それくらい、いくらでも用意してやる」

『うおおおっ!! やってやるぜ! おいウィッチーズども聞いたか、これを乗り切れば、上等肉パーティだぞ!』

『うへぇ、ちょっとくどそうですねぇ』

『かまいませんわ、行きますわよ』

『デリシャスなステーキのためなら、ドゥ・ザ・ベストです!』

『私は……ひつまぶしだけでいい』


 そういえば、ヒペリオーンVも戦魔女団(ウィッチーズ)も5人組だな。しかもリーダーであるレティシアとジーノの掛け声も、どことなく似ている気がする。変な共通点が見えてきた。


「ワン隊に連絡。砲撃に備えて、現宙域を一時離脱せよ」


 特殊砲撃装填中に、接近戦の最中にあるワン隊を下がらせる。その間にも他の戦隊にいる特殊砲撃艦の装填が完了したとのステータス表示が点灯する。


「特殊砲撃、第2射、斉射!」


 二度目の特殊砲撃を加えるのは、これが2回目だ。レティシアの気合いを入れる声がこだまする。


『うおおおっ! いくぜ、必殺、特殊砲撃ぃっ!!』


 なぜ、必殺技のように叫ぶ必要がある? ますますヒペリオーンっぽいな。多分、気合いを入れるために敢えてそう叫んでいるんだろうが、それにしても影響受けすぎだ。

 ドドーンという砲撃音が響き渡る。地鳴りのように、ビリビリと艦橋の床が震えている。その揺れは、司令官席の上に無表情で座るマツをブルブルと揺さぶっている。


「弾着観測! 1500隻消滅!」


 すぐに弾着観測班から結果を伝えられる。それは、正面の白い艦隊が組織的抵抗をする力を失ったことを示している。


「提督、白い艦隊の砲撃が止みました」


 ヴァルモーテン少佐が、現状を報告する。


「了解、航行不能な艦艇は?」

「データリンク上では、およそ800です」

「そうか。では、これより鹵獲作戦へ移行する。エルナンデス、カンピオーニ、メルシエ、ステアーズ隊はその場にて警戒態勢のまま待機、ワン隊は再度接近し、艦艇を回収せよ」


 いよいよ総仕上げだ。生き残った数は全部で800。その中には、白い艦隊を運用する乗員がいる。

 これまで鹵獲した艦艇からは、生存者はおろか、遺体すらも残されなかった。が、今度は機関以外はほぼ健在な艦艇が多数残されている。つまり我々は白い艦隊の「生きたサンプル」を初めて手にすることとなる。

 興奮せずにはいられない。その姿を見たものは、唯一、ミレイラたちだけだ。が、僕も白い艦隊最大の謎を、ついに明らかにすることとなる。

 接近するワン隊100隻を、僕は陣形図のモニター上で見る。動けなくなった艦艇800隻は未だその宙域に止まり、我々の手の内に収まるのをただ待つばかりである。

 が、その時だ。マツが僕の服の裾を引き、叫ぶ。


「あの者らを、引き離すのじゃ! 早う!」


 僕はハッとする。戦闘不能に陥った白い艦隊を前に、僕は油断していた。


「ワン隊全艦、直ちに全力離脱! バリア展開!」


 そう叫んだ直後、その800隻の艦影が、レーダーサイトから消える。と同時に、カメラ映像上に眩い光が映る。


「提督! 残存艦艇が、一斉に自爆した模様!」


 観測員からの悲痛な叫び声が、艦橋内に響く。僕も今、目の前で起きている事態を、飲み込めていない。

 鹵獲し、白い艦隊の生存者との接触を果たす。この作戦最大のミッションの一つがたった今、失敗に終わったことを、僕は受け入れるしかなかった。

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