#66 お披露目
「ヤブミ少将、入ります」
「うむ、すまない、突然呼び出して」
「はっ!」
オルランドーニ大将から、急な呼び出しを受ける。僕は直ちにオルランドーニ大将のいる、トリエッセ市内にあるホテルの一室へ入る。このホテルの一部を臨時の司令部とし、ゴルゴン星人の移住支援や技術供与に関する予備教育など、各種軍務をこなしているところだ。
大将閣下の部屋の前にある会議室には、大勢の士官が働いている。参謀だけで、ざっと20人はいたな。それに引き換え、僕の第8艦隊は……やはり、もっと司令部の増員を要請した方がいいのだろうかと思い至る。
「どうした? まずはここに座りたまえ」
「あ、はい、すみません」
いかんいかん、つい他の艦隊を見てしまうと、我が第8艦隊の人材面での弱点に気付かされてしまうばかりだ。おかげで、つい大将閣下の前で考え込んでしまった。
「さて、貴官を呼び出したのは他でもない。実は、地球001の軍司令本部から、新たな命令が届いたのだ」
「えっ、新たな命令ですか?」
「そうだ。それを伝えるために、貴官を呼び出したのだ」
「はぁ、で、その命令とは?」
「うむ、実は……」
その命令の、あまりの急な内容に、それを聞いた瞬間に僕は多分、眉をひそめていたはずだ。
「かんぱーい!」
「かんぱいー!」
レティシアが陽気に、乾杯の音頭をとっている。それにつられて、ユリシアも復唱する。大勢が手に持ったジョッキを掲げ、互いにそれをぶつけ合い、そしてそれを飲み干す。
「さあ、手羽先たくさんありますよーっ! たくさん食べるのデス!」
なぜかあの手羽先フェチなスウェーデン人までここにいる。ここは新たに設置されたゴルゴン星人居住区の外側に作られたビアガーデン。そこには重力子研究所、そしてゴルゴン星人と呼ばれる獣人族、そして我が艦隊の士官らが集まっている。
なお、レティシアの持つジョッキにはノンアルコールのやつを入れてある。酒に弱いレティシアだから、飲み過ぎるととんでもないことになりかねない。
「いやあ、おっさん、こういうのもいいなぁ」
すっかり僕のことを「おっさん」呼ばわりするようになったジーノが、ジョッキ片手に絡んでくる。と言ってもこいつはまだ未成年だから、飲んでいるのはオレンジジュースだ。
あの居住区降下作戦から、一週間が経った。翌日にはゴルゴン星人を乗せた戦艦が降下して、彼らを地上に降ろす。で、本日、ヨルゴス皇帝がここに「ゴルゴン帝国」の樹立を宣言し、それをこの星の政府代表が承認した。これはその祝いの席だ。
「まだまだ、困難なことがあろうかと思うが、ともかくこれで我が民も地に足をつけた生活を送ることができた。そなたらには、感謝しかないな」
ビールジョッキを片手にすっかり上機嫌な皇帝陛下が、僕にそう言い寄ってくる。だが、僕の手柄というよりは、僕の周辺の皆の活躍によるものが大きいからな。僕はただ陛下の言葉に、黙って頷くにとどめた。
「いや、ほんとによかったな。民の反発が多いかと気が気ではなかったが、案外あっさりとおさまったものだ」
と呟くのはリーナだが、それは僕も同感だ。これが僕らの知る多くの他の星ならば、こうはいかない。互いのわだかまりが取れるまでに、相当な時間がかかることが予想される。
現にマツが籠城したあのオオヤマ城の戦いでも、敵将であったトクナガ公は我が戦艦オオスを前にしつつも、しゃあしゃあとオオヤマ城の開城とトヨツグ家の消滅を戦の終結条件として提示してきた。それほどの強烈な何かがなければ、10万の兵、そしてトクナガ公が率いる多くの武将らを納得させ、抑えることができない、と。
だが、こっちはただ大きな岩を宇宙から降ろして、その上で正義のロボットが皆の勝利だと宣言しただけで、異星間の戦いがおさまってしまった。一つの国の、二つの勢力どころではない、星同士の戦いがおさまったのだ。確かにこれは普通ではないが、それゆえに多くの人命が損なわれずに済んだのも事実だ。オルランドーニ大将が、これがこの星系内の自然の摂理によってもたらされた思想だと推察していたが、案外、その通りかもしれない。
「あ、そうだ、レティシアにリーナ、それにマツ」
「なんだ」
「なんじゃ」
「ふえ?」
あれ、レティシアだけ反応が変だぞ。こいつ、アルコール入りを飲まされたな。
「そういえば先ほど、オルランドーニ大将閣下より、引き継ぎ完了の知らせを受けた」
「引き継ぎとは、この星のことか」
「そうだ」
「それが終わると、なにがどうなるというのじゃ?」
「つまりだ、明朝、第6艦隊はここを離れて地球001へ向かうことになった」
それを聞いたレティシアは、急に酔いが覚めたようで、僕に突っかかる。
「な、なんだってぇ!? それじゃこの宴会は、今日限りじゃねえか!」
どういうツッコミの入れ方なのか分からないが、まさかレティシアよ、明日もやる気でいたのか?
「そうは言ってもだな、新たな任務があるんだ。本日付で、地球001より命令書が届いた」
「なんだよ、新たな任務って」
「決まっている。もう一つの未知領域の探索だ」
「もう一つって、あったか、そんなものが?」
「マツのいた星、地球1041の向こう側のことだ」
「カズキ殿よ、それを言うならば、この星系にも未知の領域へ繋がるところがあったではないか?」
「最後に現れた白い艦隊が逃げ込んだ、あのワームホール帯のことか。確かにあの先も『未知領域』には違いないが、その探索は保留とされた」
「なぜだ。わざわざ地球1041へ向かうより、こちらの方が手っ取り早いではないか」
「オルランドーニ大将がいうには、ここは地球001から近過ぎる。だから、あまり刺激したくない、という判断があったようだ」
この間の白い艦隊との接敵以来、あの艦隊はこの星系に現れなくなった。このため、地球001としては「寝た子を起こしたくはない」という意見が多勢となり、この先の未知領域の探索は当面、行わないと決定された。
もっとも、ただ先延ばしするというわけではない。あのワームホール帯の近傍に要塞を築いて侵攻に対処した後、その先の探索を行うということになった。まあ、きっとそれをやるのは、この艦隊なのだろうけど。
とにかく、白い艦隊を動かしている勢力の全貌が、全くはっきりしない。
と、なれば、未知の領域へと足を踏み入れ、その姿を少しでも明らかにしていくほかない。
ということで、地球1041の先にある未知領域への探索が決定された。
「なんと、明朝には発たれると申すか」
その話を、そばにいたヨルゴス皇帝に話す。
「はい、急な話ですが、明日ここを出発いたします」
「左様か。そなたには世話になったな。そうじゃ」
と、この皇帝はそばにいた従者に耳打ちする。するとその従者は急ぎその場を離れると、一人の獣人を連れて戻ってくる。
「こやつを、そなたにつけよう」
「は?」
「こやつは我が妻、ディミトゥラの侍女で、イラーラと申す者じゃ」
いきなり獣人を押し付けられたぞ。おい、まさか僕の側室にと、そう言い出すのではないだろうな?
「あ、あの、陛下。そのイラーラさんはもしや……」
「こやつは少し、気弱で不器用なところはあるのだが、とても賢き者じゃ。ぜひそなたらの進んだ星をこの者に見せてやり、我らにその見聞を持ち帰ってほしいのじゃ」
な、なんだ。つまり視察のために僕の元においてほしいと、そう言っているのか。あやうく早とちりするところだった。
「えーっ、なんだってぇ!? おっさん、明日には帰っちまうのかよ!」
続いて、あの5人にも決定事項を伝えると、ジーノらは驚きをもって迎える。
「それじゃ、今夜中に準備しないとダメじゃない」
「そうだな。おい、みんな。急いで支度するぞ」
「ちょ、ちょっと待て、ジーノよ。支度ってなんだ?」
「決まってるじゃねえか、おっさん。俺たちもあんたたちについていくんだよ」
「は?」
どうしてここで、こいつらまで僕らについてくることになるんだ? ジーノのやつ、おかしなことを言い出したぞ。
「あれ、ヤブミ将軍。以前にお話したではありませんか」
と、そこに現れたのは、パスクウァーノ所長だ。
「あの……何のことでしたか?」
「彼らをこの地球、いや、今は地球1050と呼ぶのだったな、ともかくこの星の外に連れて行ってほしいと、この研究所に最初に訪れたその日に、お願いしたではありませんか」
「それはまた、どうして?」
ああ、そういえばそんな話があったな。ここ数日間、いろいろあり過ぎてすっかり忘れていた。てことで、あの5人も引き受けることになった。
「なんだか、賑やかになっちまったなぁ、おい」
「うむ、だがそれはそれでいいのではないか?」
「そうじゃな、なにやら良い獲物がえられたようじゃし」
「あ、あの、獲物って……私のこと、言ってます?」
そんな中、早速、侍女のイラーラに手を伸ばそうとする3人。
「お、おい、ブイヤベース! 帰るってほんとかよ」
と、そこにやってきたのは、女海賊ミレイラだ。
「なんだお前、やっと解放されたのか?」
「なんだとはなんだ! てめえが勝手にミレイラ号を運送任務に組み込みやがったおかげで、今の今までこき使われちまったじゃねえか!」
「なんだ、いいことじゃないか。悪き海賊から、真っ当な運送業に転身できて」
「冗談じゃねえぞ、おい! あたいらをなんだと思ってやがる!」
と、お怒りな様子だが、第6艦隊がここから離れることになり、ようやく海賊船ミレイラ号も物資輸送任務から解放されることになった。で、こいつは僕の元に現れて、抗議しにやってきたというわけだ。
「まあ怒るなよ、ミレイラ。それよりもよ、こいつどう思う?」
「どうって……なんだよ魔女、ただの獣人の娘じゃねえか」
「ただのゴルゴン星人じゃねえよ。皇帝の妃の侍女だってよ」
「だから、それがどうしたっていうんだよ?」
「なんと、俺たちと一緒についてくることになったんだよ」
「は? ついてくるって?」
「そうだ。てことでミレイラよ、お前も乗らないか?」
「そうじゃそうじゃ、そなたはずっと、妾らのいじられ役だったではないか」
「はぁ〜、あ、あたいがやっといじられ役を、卒業できるってことかよ……てことはリーナ姐様、当然、今夜からですよねぇ」
「決まっておろうが、うひひひ……」
「そうじゃな、うひひひ……」
「ひえええっ!」
まずいな、ミレイラまで加わったぞ。何をするつもりなのか、大体分かるからよけいに怖いな。一方のイラーラは、何をされるのかと恐怖に震えている。
ということで、地球1049、1050からそれぞれ使者を迎えた第6艦隊は、明朝すぐにこの星を離れて、我が故郷である地球001へと向かう。
「あーあ、ひと月も経たないうちに、あたしまでお役御免だなんてねぇ」
その故郷へと向かう途上、文句をいうやつが現れた。フタバだ。
「いいだろう。元々お前は、正式な交渉官がやってくるまでのつなぎだったんだから」
「別に交渉役なんてどうでもいいのよ。どうせならさ、あの星の端から端まで、旅してみたかったなぁって」
なんだ、こいつの放浪癖の方が満たされなくてガッカリしてたのか。そんな個人的な都合で、こいつをこの星に止めることなんてできないだろう。
「ですがこの先、また新たな星が見つかるかも知れませんよ。それに、フタバが行きたがっていた地球1041にも寄ることができるのです。そのために我々は今、地球001へ向かっているのですから、悪い話ばかりではないのでは?」
「うん、バル君、いいこと言うね! そうだった、あたし、地球1041へ行けるんだったわ。せっかくだからマツちゃんもつれて、あのお城の周りでも探索しようかしら?」
早速、マツを巻き込むつもり満々でいやがるな。フタバよ、僕の妻の一人を、勝手に連れ回すんじゃない。
「いやあ、それがこいつ、本当に面白くてよ」
「そうだな、特に耳が弱点とは、さすがは獣人だ。攻め甲斐があるというものだ」
「うう……で、ディミトゥラ様に、顔向けできない……」
「何言ってんだよ、あのデミグラってやつも、皇帝相手に結構なことやってるらしいぞ」
「そうじゃそうじゃ、この程度のこと、まだまだじゃぞ」
「今夜はよ、あたいの技ってやつで、攻めてやろうじゃねえか」
「ひえええぇっ!」
で、ここはいつものアンニェリカの店にいるのだが、相変わらずレティシアらの下ネタ話で盛り上がっている。が、今ターゲットにされているのは、ゴルゴン星人の皇后の侍女だったイラーラだ。
というか、こいつら、何をやっているんだ? 僕が軍務についている真昼間の時間帯に、この侍女相手によからぬことをしているらしいことは容易に想像がつく。いや、想像どころではない、その内情が今、レティシアの口から明かされているところだ。
「す、すごいデスね! そんなことまでやっちゃったんですかぁ?」
「そうだよ、アンニェリカ。なんならおめえも加えてやろうか?」
「え、遠慮しときます。それよりも、なおのこと精力つけなきゃだめデスね! さあ、手羽先をたっぷり食べるのデス!」
危うく巻き込まれそうになったアンニェリカは、うまく手羽先でかわしやがったな。いっぽう、魔女レティシアの魔の手に堕ちてしまったイラーラはといえば、ボリボリと出された手羽先を食べている。なんだかんだ言いながらも、食欲は旺盛だ。あれならば多分、レティシアらにイジられ続けても大丈夫そうだな。
「おい、ヤブミ少将よ! 我々は今度こそ、手柄を立てられるんだろうな!?」
さて、そんな平穏な帰路に、見たくもないやつがまたやってきた。反抗期真っ盛りのエルナンデス准将だ。
「確実に言えることは、ここ地球1049、1050星域に入る前のあの激しい戦闘と、同等レベルのものが起きるであろうことは間違いないだろうな」
「そうか、それはそうだな。ならば、我が戦隊もきっちり整備しておかねば」
「そうですね。今度こそ我々も、ひと暴れしたいものです」
「まあ、そう言いなさんな。我々が動かないことこそが、本来あるべき姿ではないか」
「ワン准将殿は前回、人型重機にて活躍しておられましたから、そんなことが言えるのですよ。私もメイプルシロップのような生活が続きましたから、少しピリ辛な宇宙が恋しくなってきましたよ」
一方、僕のそばには男ばかり、エルナンデス准将に加えてカンピオーニ准将、ワン准将、そしてステアーズ准将がいる。いや、無言ながらもメルシエ准将もいるな。
今回はかなり特殊な星域だった。戦隊長らが言う通り、艦隊がほとんど用をなさなかった。こんなおかしなところも、そうはないだろう。次に何か星を見つけたとして、そこはごく普通の星であることを願いたい。
などと過ごしつつも、1日の行程で故郷である地球001に到着する。
そんな我々を、トヨヤマ港にてある人物が出迎える。
「……あれ、5人目は?」
そう、ダルシアさんだ。片手を彫像に伸ばして構えているものの、どうやらこの人の予想外の事態に戸惑っている様子だ。
「あの、今回は普通に戻ってきただけですが」
「そ、そうなの……って、ちょっと待って! その後ろにいる女は誰なのです!?」
「彼らは地球1050の、ヒペリオーンVというロボット兵器の操縦士たちです。使者として、我々に同行しております」
その5人の中にいるイレーニアを見つけて指差ししつつ叫ぶダルシアさんだが、そのイレーニアはすぐ脇にいるジーノと手をつなぎ、明らかに僕とはそういう関係がないことを暗示している。
「そ、そうなのね……って、そこにいる耳の生えてるそれは、よく見たら娘じゃないの!?」
「おう、おっかあ。こいつも使者の一人でよ、イラーラって言うんだ」
なんだろうか、さっきからずっと感じているんだが、もしかしてダルシアさんは僕に、5人目を連れてきて欲しかったのではないだろうか? いや、それ以前に4人目もいないぞ。ミレイラと僕とは、そういう関わりはないのだから。
てことで、拍子抜けしたダルシアさん共々、いつものようにトヨヤマ港のレストランへと向かう。
「仕方がないわね。今日はこれくらいで勘弁してあげるわ」
「ひええぇ!」
まるで三下のセリフのようなことを口走りながら、ダルシアさんはイラーラの二の腕を揉みながら食事を続けている。
「おっかあ、よくみりゃこっちもなかなかいいぞ」
「ちょ、ちょっとレティシアさん、何するんですかぁ!?」
で、一方のレティシアはといえば、イレーニアに手を出している。
「ところでよ、おっさん。さっきからあのゴルゴン星人の女とイレーニアをイジってるあのおばさんは一体、誰なんだ?」
「ああ、あれはレティシアの母親のダルシアさんというお方だ」
「で、その魔女さんの母親が、なんだってイレーニアやゴルゴン星人の侍女をイジってるんだよ?」
うーん、ジーノよ。それを僕に聞かれても答えられないな。そういうことは、本人に聞いてくれないか。
「いやあ、まさか合体ロボットのパイロットと会えるなんて、長生きはするもんだよねぇ」
「僕らも、こんな進んだ星に来ることができて、光栄ですよ」
「そうですよ、そんな星の人に喜んでもらえて、俺らは嬉しい限りです」
「君らのその自慢のロボットがこの星の上空で合体するところ、私は見たいなぁ」
で、お義父さんのアキラさんは残る3人、ヴァンニ、アルバーノ、パオロと語っている。が、お義父さん、いくらなんでもヒペリオーンVをこの星の上空で飛ばすなんて、あまりにも無茶がすぎますよ。
と言いたいところだが、その後、僕はそれを本当に実現させてしまった。
帰還から5日後。西暦2493年6月15日。場所は、大須観音の仁王門の前。梅雨時ではあるが、見事な快晴となったこの日のオオスの上空には、例の5機が現れた。
『よし、それじゃみんな、いくぜ! 宇宙で一番進んだ星が、何だっていうんだ! そんな連中に、俺たちの力を見せつけてやるぜ! パオロ、アルバーノ、ヴァンニ、イレーニア! いくぞ、超重力合体だ!』
『分かったぜ、兄貴!』
『さっさとやれ、ジーノ!』
『ジーノさん、重力子、正常、いつでもいけますよ!』
『頼んだわよ、ジーノ!』
『うおおおぉぉっ! 俺たちの力、見せてやるぜ! 超重力合体! ヒペリオーン、ゴォーオンッ!』
拡声器で響き渡る、あの5人の声。あらかじめこのイベントを聞きつけた大勢の子供連れが、この大須観音をぐるりと囲む。その真上で、まさにあの5機が合体をしようとしている。
青白い光を放ちながら、次々と合体する5機。頭部に胴体、脚、そしてバックパック。その合体に合わせて、それっぽいバックミュージックを流してくれるところが、いかにもオオスらしい。
そして、合体して一つになって現れた巨大ロボット、ヒペリオーンVが姿を現す。
『超重力ロボ、ヒペリオーン V!!!!』
それを聞いた地上の人々からは歓喜の渦が沸き起こる。それはそうだろう。アニメや特撮の世界でしか見られなかった合体ロボなどというものが今、目の前でリアルに動いているのだから。
その巨大ロボットは、大須観音の広場に向けて降りてくる。広場にいた鳩が驚いて、一斉に羽ばたく。その広場のど真ん中に、ズシンと降りるヒペリオーンV。
いやあ、この許可を取るのに苦労した。なんせ軍用機並みの性能を持つ得体の知れない機体を、よりにもよって市街地上空で合体させて、それを着陸させようというのだからな。最終的には、軍内で強い発言権を持つコールリッジ大将をそそのか……説得して、どうにか実現できた。
僕だって人の親だ。エルネスティが喜ぶ顔が見たいというのもあったし、あの合体ロボがこの星にやってきてそれを見たいと思う人々も多いことはよく分かる。だからこそ僕は奔走し、どうにか今日、この晴れ舞台を作り上げることができた。
「はっはっはっ! どうだ、このヒペリオーンVは! あの人型重機なんて無骨な機械とは比べ物にならねえくらい、かっこいいだろう!」
子供らに囲まれて、すっかり上機嫌なジーノは、そのヒペリオーンVの足元に群がる子供らに向かって自慢げに叫んでいる。そんなジーノら5人に熱視線を浴びせかける大勢の子供たち。その中には、リーナに抱えられたエルネスティもいる。
「いやあカズキよ、いいことしたなぁ、おめえは。惚れ直したぜ」
「おい魔女、ブイヤベースに惚れ直すのは構わねえけどよ、しっかしなんだってあんなもんにこれだけのガキが群がってくるんだよ?」
「何言ってんだ、ミレイラ。おめえにはこの男のロマンってのがわかんねえのかよ?」
レティシアもユリシアを抱えつつあの巨大ロボット兵器を眺めている。が、当のユリシアはといえば、商店街で買ってもらったういろうを食べることに夢中だ。あまり巨大ロボットに興味はないらしい。そこはやっぱり、女の子だな。
そんな大騒ぎなオオスだが、その中にあってぼーっとその様子を眺めるマツが、僕の傍にいる。
不思議なことだが、ここ3日ほど、マツの様子がおかしい。なんというか、少し元気がない。いや、食欲はあるし、熱を出しているというわけでもない。が、どことなくうわの空なことが増えてきた気がするな。
「おい、マツよ。大丈夫か?」
「う、うむ、大事ない」
とマツは僕にそう答えるが、どうもいつもと様子が違う。
「マツ、おめえここんとこ、なんだか調子悪いようだな。ちょっと暑いんじゃねえか?」
「なんだよ着物野郎、オオスってところに毒されて、急に大人しくなっちまったか?」
「いやミレイラよ、むしろオオスに毒されたら、大人しくはならぬであろう」
「いやあリーナ姐様、そうですよね、仰るとおりです」
「で、どうした、マツ。まさか熱中症か? 調子が悪いのなら、医者に行ったほうがいいのではないか?」
僕とレティシア、リーナ、そしてミレイラが、各々マツのことを案じて声を掛ける。この少しぼやっとした顔つきのマツもたまらなくいいのだが、しかし少し、心配ではある。
が、そんな僕らに、マツは思わぬことを吐露する。
「カズキ殿よ……もしかすると妾は、身籠ったのやも知れぬ」