#64 死星
「新たなワームホール帯を発見できた、ということ以外は、特に得られるものはありませんね」
あの不可解な撤退から2時間後。僕はヴァルモーテン少佐の報告を受ける。
「で、どうしてあの白い艦隊が撤退したのか、なにか思うところはあるか?」
「いえ、軍事的視点で見る限り、後退した理由は不明としか言いようがありません」
会議室のモニター上に映る陣形図で、あの白い艦隊の動きを振り返る。ヴァルモーテン少佐はまったく分からないというが、あの若い5人組のリーダーはこう言って譲らない。
「だから、さっきから言ってるだろう。ヒペリオーンVに恐れをなして、後退したんだって」
「たかが一機のロボット兵器に、1万隻が恐れをなして逃げ出すなんてあり得ませんよ。だいたい相手は、1万隻も動かしてここにたどり着いたんですよ。相当な理由がなければ、何も成さず撤退などありえませんね」
こちらの1千隻を動かすだけでも、膨大な人と費用が掛かっている。ましてやその10倍、かけたリソーセスの量を考えれば、何も成すことなく撤退など考えられない。
「いえ、相当な理由はありましたわよ」
この会議場内の議論が煮詰まってきたところに、マリカ少佐が現れる。
「なんですか、普段の戦闘もろくに眺められない伸び〜るチーズ少佐殿が、一体何を理解したというんですか?」
「脳みそまでがバイエルンソーセージな少佐には、この星の置かれた特殊状況が理解できないようですわね」
「へぇ、脳みそまで青かびで侵されると、何かひらめくんですか?」
この二人、戦闘中は静かだったが、こうして平時に戻った途端、毒舌を浴びせ合う関係に逆戻りする。
「あー、もう分かったから、それでマリカ少佐、何が理由であの白い艦隊が撤退に及んだというんだ」
「まあ、相変わらずせっかち提督ですわね。3人の奥様方も大変ですわ」
こいつを一度、機関室内に閉じ込めて、全力運転時の重力子エンジンのうなり音に晒してやりたい気分だな。今よりは多少、大人しくなるような気がする。
「あの白い艦隊が撤退した理由はずばり、ヒペリオーンVとかいうあの兵器が現れたからですわ」
「状況だけを見ればその通りだが、その理由がさっぱり分からないと言っている」
「えーっ、軍大学首席の提督ですら、分からないとおっしゃるんですかぁ?」
「もったいぶらずに、さっさと思うところがあるなら言え。もう間もなく、第6艦隊が到着するんだぞ」
「あらあら、自身のせっかちさを他の艦隊のせいにしちゃいけませんわねぇ」
この瞬間、今からレティシアに頼んで、機関室に放り込んでもらおうかと思ったほどだ。こいつには殺意しか感じない。
「ところであの白い艦隊、あれは何のために現れたのだと思いますか?」
「決まっている。この星系を守るためだろう」
「それじゃあ聞きますけど、その星系の人間が、この艦隊の中にいることが判明した。それが分かった途端、あの白い艦隊はどうすると思います?」
マリカ少佐が言い出したこの一言で、僕はようやくあの艦隊の意思が見えた気がした。
「……すでにこの星系は、こちら側の手中にあると、そう考えたということか」
「まあ、そんなところですわね。そりゃあもう、守る理由がなくなって、撤退するしかありませんわ」
「だが、どうして白い艦隊からは、あのヒペリオーンVがこちらの星系のものだと区別できたのだ?」
「さあ、何かそれと分かる信号でも出しているんでしょうかね? でも、あれだけ平文の無線で叫んでいれば、我々とは毛色の違うやつが乗っていることくらい、一目瞭然でしょう」
要するに、マリカ少佐の言い分は、この星系が我々の側に渡ったから諦めたと言いたげだ。ちょっと割り切り過ぎな気もしなくもないが、確かに理由としては合理性があり、筋が通っている気がする。
「なるほど、ということはつまり、この先もヒペリオーンVとやらを繰り出せば、あの白い艦隊は撤退してくれると」
「そうとも限りませんわ。ただ、少なくともこの星系を守るべき理由がなくなったと、そう言っているだけです。フランクフルトソーセージを見せびらかされたドイツ民と同じにしないでください」
「いやいや、パスタにケチャップをかけただけで激怒するイタリアーノには言われたくありませんね」
ヴァルモーテン少佐のこの考えを、マリカ少佐はあっさりと否定する。僕も確かに一瞬、そう考えた。あの白い艦隊とやり合わなくても済むかもしれないと思えば、ヒペリオーンVという機体の存在は大きいのではないかと。が、それが通用するのは、あくまでもこの宙域のみ、ということだろうな。
「いずれにせよ、第6艦隊との合流前に撤退してくれたことは幸いだった。互いにやり合えば、少なからず犠牲が出ていたところだ。これでどうにか引き継ぎを無事に行うことができそうだな」
などと会議を締めくくっていたところに、第6艦隊到着の報がもたらされる。
『ご苦労だった。これより我が艦隊は合流し、新規発見された地球へ向かう。案内を頼む』
「はっ!」
オルランドーニ大将からの直接通信が入り、僕は応答する。そういえば、通信機越しとはいえ直接この大将閣下と会話をするのは、これが初めてだな。いつもの消極的な軍事行動から感じる印象とは、随分と違うものを感じる。やや穏やかながら、冷静沈着な口ぶり。僕がオルランドーニ大将から感じた第一印象は、こんなところか。
『概要は、大体聞いている。ともかく、文化と思想の壁が高そうだな。おまけに、ゴルゴン星人という他星民族の問題も抱えていると聞いた。一筋縄では、片付かない問題ばかりだな』
「はい、仰る通りです。その辺りは別途、ご報告に参ります」
『うむ、承知した。ではまず、その星に向かうとしようか』
考えてみれば、この宇宙でもっとも政治・技術レベルが高いと言われる地球001で大将にまで上り詰めたお方だ。凡庸な人物であろうはずがない。オルランドーニ大将に対するこれまでのイメージを改めつつ、僕は敬礼して通信を終える。
光学迷彩領域を通過し、恒星の位置を確認する。光学迷彩領域の内側では、あれが座標の原点となるため、すぐにそれを第6艦隊と共有すべく、データリンクに反映する。
やがて、目的地の地球に向かう。事前の通知でそこは「地球1050」と呼ばれることになると聞いている。その道すがら、ゴルゴン星と呼んでいたもう一つの地球。遺跡によって破壊され、ほぼ死の星へと変わってしまったと考えられるもう一つの星にも、発見順に従い「地球1049」という番号が割り振られている。
まさにその死の星のすぐ脇を、二つの艦隊が通り過ぎるところだ。
だが、無難なはずのこの星域内での航海に、異変が起こる。
「高エネルギー反応! 艦隊側面、距離12万キロ!」
我々以外には誰もいないはずのこの宙域で、想定外の事態が起こる。僕は命じる。
「第6、第8艦隊全艦にデータリンク! 至急、攻撃に備え!」
「はっ!」
当然、第6艦隊でもこのエネルギー反応を捉えている。同様に、データリンクが飛んできた。
が、そこに現れたエネルギー反応地点は、意外なところだった。
「反応地点は、現在通過中の地球1049表面!」
この報告に、僕は言葉を失う。どういうことだ、ここは死の星ではなかったのか?
「全速離脱! 全艦、全速前進!」
僕は即時退避を命じる。このオオスの艦橋内にも、機関音が響き渡る。直後、青筋の光が横切った。
「砲撃を確認! 一発のみ!」
「被害状況を報告せよ!」
「はっ! データリンクにより確認、損害無し!」
かろうじて、あれをかわしたようだ。が、さらに砲撃は続く。
「第2射の装填を確認! 先ほどと同じ、惑星表面!」
「回避運動しつつ全速離脱!」
何が起きているのかは分からない。が、ともかく今は、射程圏外へ出ることが先決だ。僕は艦隊を前進させる。
第4射までの発射を確認するが、そこでようやく砲撃が止まる。距離は30万キロ離れたところだ。
と、いうことは、あれは白い艦隊と同じ射程、ということになる。
まさか、白い艦隊の別働隊か? いや、違うな。艦隊だったら、我々を追いかけてくるはずだ。しかも、たった一発だけ撃つなどということはあり得ない。
僕には大体、あれの正体の見当がついていた。
『……遺跡、か』
「はっ! 不覚でした、その存在を知りながら、接近しすぎてしまいました」
『だが、なぜ遺跡だと?』
「以前、報告した通り、あの星は遺跡の暴走によって自壊してしまったとのことです。その時の状況から、それが我々の高エネルギー砲とほぼ同じ兵器によって引き起こされたことと推測されてます。現に、彼らが籠もる小惑星にも、同じ武器の存在が確認されてます。となれば、あれはその暴走した遺跡によるものだと考えられます』
『そういうことか。確かにあの星はまさに、地球003そのものだったな。にしても、両艦隊に被害はなかったから問題はない。それよりもだ』
「なんでしょうか?」
『いずれ、調査隊を送り込む必要はありそうだな。貴官の元にいる技術士官の推測とも合わせればその遺跡は、我々の起源にも関する謎にも関わる何かがありそうだ』
「はっ、おっしゃる通りです」
『ともかく、今は地球1050へと向かう。まだ小惑星上に、その地球1049、ゴルゴン星の人々が詰め込まれたままなのだろう。それを解消せねば、この星系の安定は計れまい』
このオルランドーニ大将というお方は、どちらかというと内政向きの才があるように感じる。大将閣下がおっしゃる通り、今を生きるゴルゴン星人たちの安住の地を見出すことが優先事項だ。
しかし、20万人か。決して少ない数ではない。それだけの数の異星人、それもつい最近まで侵略者であった彼らを、すんなりと受け入れられるものだろうか。
「なあ、将軍のおっさんよ」
あの砲撃騒ぎから1時間後、艦橋の司令部に現れたジーノが、僕に向かって聞き捨てならないことを口走る。「おっさん」とは、失礼なやつだな。僕はまだ、おっさんと呼ばれる歳ではないと思ってる。だから、不機嫌にこう返す。
「なんだ、もうすぐ地球1050軌道に到達する。その忙しい時に、何の用だ?」
「その到着前に、イレーニアが将軍に話があると言ってるんだよ」
「そういうのは、到着後ではだめなのか」
「大至急にと、イレーニアが言ってるんだって」
どうもあまり乗り気ではないが、この無礼なガキではなく、冷静なイレーニアがわざわざこのタイミングで僕に相談したいとなれば話は別だ。僕は、イレーニアが待つ会議室へと向かう。
とりあえず、僕はリーナとマツも同伴させる。向かい側にはイレーニアとジーノが並ぶ。会議室で面と向かい、イレーニアは単刀直入にこう切り出す。
「ゴルゴン星人たちの移住場所の、案があるの」
思いもよらない一言だった。まさに今、最大の懸案事項には違いないことだ。それを解決する案を、この若い娘が思いついたというのだ。
が、その若さゆえの思いつきではないかとも思った僕は、やや冷たくこう返す。
「移住場所と言っても、20万人ものゴルゴン星人を受け入れられる場所だぞ。そんなところがどこにあるというのだ?」
「シチレール島です」
「シチレール島? それってつまり」
「はい、重力子研究所のある、あの島ですよ」
「いや、それは分かる。だが、どうしてあの島なんだ?」
「20万人ほどの異星人を受け入れられる場所となると、それなりの広さが必要です。シチレール島ならば広大な森があり、そこを切り開けば20万人程度が居住できる場所が確保できるのではないかと、私は考えます。」
「まあ、それはそうかもしれないが……」
「それに、ゴルゴン星人があの島に来てくれることで、我々にも一つ恩恵があるんです」
「恩恵?」
「そうです。あのシチレール島にある遺跡の謎解明、彼らならば果たせるのではないかと」
ああ、そうか。星は違えど、おそらくは同じ起源をもつであろう遺跡を、ゴルゴン星人の方が解明を進めている。となれば、あの遺跡解明に向けて彼らの協力を取り付けることは、ゴルゴン星人と地球1050の両者にとってウィンウィンだ。
うーん、この娘、なかなか考えたものだ。住む場所だけでなく、その後の彼らの働き口まで考えるとは。
「いい案だとは思う。が、一つだけ問題があるな」
「問題とは?」
「その案、どうやってこの星の人々を説得するか、だ。ただでさえ彼らは、侵略者だったんだぞ。その上、国家機密に相当する遺跡調査なんて関わらせるなんて、さすがに反対者が出るんじゃないか?」
「何言ってるんだ、おっさん。そのための俺たちじゃねえか」
僕とイレーニアの会話に、ジーノが割って入る。おっさんと呼ぶのだけは、やめて欲しいなぁ。
「ぐちゃぐちゃいうやつがいたら、俺が怒鳴り返してやるぜ。おい、お前ら、お前らの中で誰がやつらと戦い続け、それを終わらせたと思ってやがるんだ、ってな」
その言葉を聞いたイレーニアの目は、妙に爛々と輝いて見える。やっぱりこの娘、このジーノに惚れているんだろうな。解決のいれ、それを決断決行するのがこの男、ジーノの役目。こういうところはこの2人、バランスがいい。
「そうだな。私も応援しよう」
「そうじゃ、妾もその願いが叶うよう、祈っておるぞ」
「ありがとよ、剣士と着物の姉ちゃん。そうと決まりゃ、早速説得だぜ!」
「ちょっとまって、ジーノ。大事な話はまだあるのよ」
いきがるジーノを抑えて、イレーニアの話は続く。
「で、話の続きとは?」
「この案の実現には、二つの問題があるんです」
「……なんとなく、察しがついた。あの20万人をどうやって移動するか、そしてその居住区をどうやって作るか、だな」
「そうです。そのためには、あなた方の力が必要なんです」
なるほど、相談の主旨はこれか。つまり、我々のテクノロジーを振り向けてほしいというんだな。
「今すぐ確約はできないが、何とかしよう。だがその前提として、この星の人間の説得が必要となる」
「分かってるぜ、おっさん!」
「いや……おっさんはよしてくれないか。ここではヤブミ少将で通ってるんだ」
「なに固いこと言ってんだよ。いいじゃねえか、親しみある呼び名でよ」
親しみやすいかぁ、それは? 僕はまだ30代に入ったばかりだぞ。彼らからすればずっと年上ではあるが、まだおっさんと呼ばれる年齢ではない。
「くっくっくっ……お、おっさんって……か、カズキがおっさん……」
が、それをたまたまここに現れたレティシアが入り口で聞いてしまい、笑いをこらえている。しまった、これはいじられネタにされるぞ。
ともかく、第6艦隊との合流を果たし、オルランドーニ大将にこの星の一切を任せるべく、引き継ぎが始まる。
が、この地球1050に降り立ったその日の夜に、僕はオルランドーニ大将から呼び出される。
とりあえず、駆逐艦にてシチレール島に降りた僕とオルランドーニ大将は、重力子研究所そばにある宿泊施設にて顔を合わせる。
「ヤブミ少将、入ります」
「うむ、夜分にすまない」
夜と言っても、まだオルランドーニ大将にとっては時差の関係で眠れないようだ。が、それが呼び出された理由というわけではないらしい。
「聞いたよ、ゴルゴン星人をこの島の森に居住させようと説得を続けていると」
「はい、確かにここならば、彼らが居住する条件を備えております」
「その説得が成功した、という前提になるが、そのためのゴルゴン星人の大移動および居住場所の確保について、第6艦隊の方で何とかしよう。第8艦隊には、当面のゴルゴン星人への食糧供与を行ってほしい」
「はっ!」
一通りの事務的な話が終わったところで、オルランドーニ大将は急に話を変える。
「ところで、だ。貴官はこの星のことを、どう思う?」
「あの、どうとは?」
「我々とはあまりにも違う思想、少なくとも我々の宇宙ではあまり見られない、集団戦法の否定などについてだ」
「はっ、小官も初めは戸惑いましたが、幸いにしてその思想のおかげで、ゴルゴン星人とこの星の人々との争いは早期に終結することができました」
「そうだったな。だが、その思想自体をどう思う?」
「どう、と申されましても」
「質問を変えよう。この星にもゴルゴン星人のいた地球1049、彼らがゴルゴン星と呼ぶ星とこの星のいずれにも、遺跡が残されていた。これはおそらく、我々の方で『ウラヌス』と呼ぶ原生人類の一方の陣営が残したものであることは確実だと思われる。加えて、白い艦隊がここを死守していた」
「おっしゃる通りです、閣下。そのため、技術士官のマリカ少佐は、遺伝子レベルでの洗脳がなされているのでは、と推察しております」
「それだ。その『洗脳』なんだが、果たしてそうかな?」
オルランドーニ大将と直接話すのは、これが初めてだ。この口調からは、それまで画面越しや作戦行動を介して抱いていたい印象とは、随分と違う何かを感じる。
「私は元々、社会科学を目指そうとしていたんだよ。が、家が貧乏でね。それで仕方なく、軍大学に進んだ」
「は、はぁ……」
急にここで、話題が大将閣下自身の話に変わる。この部屋の大きな窓からは、棒渦巻銀河であるフアナ銀河と呼ぶ星の集団が見える。それを見上げながら、大将閣下は話を続ける。
「そんなこともあって、私は軍大学では社会科学の授業をいくつも受けた。歴史、経済、政治、そして経営学。まあ、そのおかげか私はなぜか防衛艦隊付けになり、その後は運よく大将閣下などになってしまったのだが、そこで学んだ知識からは、遺伝子レベルの洗脳など役に立たないと、私は考えるのだよ」
「左様ですか……」
「考えてもみたまえ。我々の歴史でも、過去に一騎打ちによる勝負をつけるという思想を持つことはあった。が、集団戦法の方が有利と見るや、戦いは大軍による集団戦術を主体とするドクトリンが定着していった。これは我々、地球001だけでなく、我々の銀河のどの星でも見られる現象だ」
「おっしゃる通りです。それゆえに、この星域だけが奇妙に思えるのです」
「だが、もしかするとその奇妙な思想とは、この星域においての生存競争の上で、有利とされたのではないか? と、私は考えた」
「えっ、一騎討ちな思想が、生存上有利と?」
「その思想は確かに、犠牲をもっとも少なくする方法には違いない。地球001上でも、敢えて群れを成さず一匹狼的な肉食獣というのは確かに存在するから、まったく自然の摂理とかけ離れているとも言い難い。何よりも、異星人との戦いを、あれほど早く終息することができた。これはあくまでもこの星系にある何らかの特殊事情により会得された、生存原理ともいえるのではないか? と私は考える」
「は、はぁ」
「少なくとも原生人類によって故意に作り上げられた文化と考えるのはいささか無理があるのではと、私は思うのだよ」
オルランドーニ大将のおっしゃることは、よく分かる。確かにマリカ少佐が言うような洗脳的な何かがあったとして、それが主流になりえるだろうか、と。
「この先、こことゴルゴン星、地球1049にある遺跡調査が進み、原生人類に関する何かが見つかることになるだろうな。だが、私はその遺跡よりもこの星系でこんな思想文化を形成するに至った背景の方が、はるかに我々にとって有益なのかもしれないと思う。それはもしかするとあの白い艦隊、いや、我々の連合、連盟の戦いに終止符を打つための大いなるヒントになるのでは……あ、いや、すまない。少し飛躍しすぎたな。つまらない話につき合わせてしまって悪かった。話は、以上だ」
「はっ!」
そう一言、僕に詫びると、大将閣下は起立し、敬礼する。僕は敬礼して部屋を出る。その際に、テーブルの上に置かれた蒸留酒に口をつけ、外を眺めるオルランドーニ大将の姿がちらっと見えた。
あまり戦闘が得意ではない大将閣下、そういう印象だったが、戦争を終わらせるということに関して、実は一番模索を続けているお方なのではないかと、僕はそう思いつつ宿泊施設を後にした。