#62 守るべきモノ
「……なるほど、それであなた方は、古代の超文明に関心を抱いている、と」
マリカ少佐が、我々の知る限りの情報をパスクウヮーノ所長に話す。1000以上の人類惑星である地球の存在する我々の宇宙、この星の属する別銀河、「クロノス」そして「ウラヌス」のこと、そしてウラヌス側と思われる白い艦隊のことを、我々は所長に伝えた。
「で、我々はまさにその白い艦隊を突破してここに辿り着いたのです。つまり、ウラヌス側にとってなんらかの重要な何かがここにはある、と考えておりますわ」
マリカ少佐のこの一言に、腕を組み考え込むパスクウヮーノ所長。いきなり現れた我々から、突拍子もない話を聞かされて、疑問符ばかりが頭をよぎるのだろう。が、マリカ少佐に質問をしてきたのは意外にも、ヒペリオーンVに乗る5人の一人、イレーニアだった。
「あの、マリカさん。一つ伺ってもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
「つまりあなた方は、その白い艦隊が守っているのものは、この遺跡にあると仰るのですか?」
普通、そういう文脈になるよな。この当然な質問に、マリカ少佐は思いもよらない回答を示す。
「いいえ、この遺跡そのものにはおそらく、我々にとって大した価値あるものはないと考えます」
何を言い出すのかと思ったら、とんでもないことを口走ったぞ。今さっき言ったことと真逆のことを言ってるぞ。僕は慌てて問いただす。
「それじゃ聞くが、少佐はあの白い艦隊が、何を守ろうとしていたというのか?」
「そりゃあもう明らかですわ。それはこの、星系そのものです」
マリカ少佐からとんでもない規模の話が飛び出す。星系丸ごとが、あの白い艦隊が守ろうとしていたものだというのか?
「マリカ少佐よ、もう少しわかりやすく説明してはくれないか。貴官の今の結論は、あまりにも飛躍が大きすぎる」
「そうですか? 今まで、我々が見てきたことを総合すれば、簡単に導き出せる結論ですよ。だいたい、ここはあの巧妙な光学迷彩で隠されていたのですよ、この星系そのものを隠そうという意図はミエミエではありませんか」
「いや、だから、その理由が遺跡じゃないのかと考えるしかないだろう、普通。なのに星系そのものとは、どうしてそういう壮大な結論になるのかが分からないと言っている」
「へぇ、軍大学首席ともあろうお方が、この程度の理屈についていけないとは。案外、ダメな提督だったんですねぇ」
いちいち喧嘩腰なのはいつものことだから、僕は特に気にしない。が、肝心な白い艦隊の守るべきものについての説明が雑過ぎることには、僕は我慢できない。
「マリカ殿、それは私も疑問です。その白い艦隊という存在を、我々は見たことも聞いたこともない。宇宙に進出を果たしていたあのゴルゴン星人ですら知らないというではないか。その白い艦隊とやらが本当に存在するというのであれば、なぜ我々の前に姿を現さないのか、それを説明して頂かねば納得できない」
業を煮やしていたのは、僕だけではない。パクスウヮーノ所長も同じだ。その所長の一言を受けてマリカ少佐は、ようやく説明に入る。
「やれやれ、仕方ありませんわね。それではどういうことか、説明いたしましょう。まずは、我々が以前戦ったあのクロノス。あれの役割から確認しましょうか」
「今となってはだが、あの白い艦隊が我々の側の宇宙へ進出するのを阻止するための装置だった、とも考えられるな」
「ええ、そうですわね。逆に言えば、あの白い艦隊はこの宇宙へのクロノス側の進出を食い止めるための守護の役目を担っていた、ということになりますわ」
「実際に、我々がここに到達するまでのあの抵抗ぶりから考えて、まさにマリカ少佐が言う通りだな」
「では提督、お聞きいたしますが、クロノスもウラヌスもなぜ、黒い無人の艦隊や白い艦隊を使って、互いの領域を守ろうとしたのでしょうか?」
「なぜ、守ろうとした、か。うーん、そう言われてみれば、なぜだ?」
そう言われてみれば、あまり深く考えたことはなかったな。我々がクロノスと呼んでいたあの黒い艦隊を殲滅しなければ、今でも知らないところで白と黒の艦隊同士が戦っていたのではないだろうかと思う。
「あれ、私、提督に一度ご説明しませんでしたか? あの黒い艦隊は、銀河系にいる我々人類を、そしてそこにある人の住む星々を守るためだと」
「ええと、そんなこと、話してたっけ?」
「もしかして提督の頭の両側に開いているその耳穴は、ただの節穴だったのですか?」
こいつ、いちいち言うことが腹立たしいやつだ。だからこいつは、デネット少佐以外に仲の良い友人というものがいないのだろう。
「いいから、その先を続けろ」
「まあ、相変わらずせっかちですわね。そろそろ4人目ができるのも、近いのではありませんか?」
ああ、もう、腹が立つなぁ。こいつは突っ込むと、突っ込み返すのが止まらなくなる。ここは敢えて黙って話を聞こう。僕はムスッとした表情で腕を組み、マリカ少佐を無言で睨みつける。
「ええと、どこまで話したんでしたかしら? ああ、そうそう、クロノスとウラヌスが何を守っているか、という話でしたわね」
そういうとマリカ少佐は、手に持ったペットボトルの飲料を一口飲むと、話を再開する。
「ウラヌスとクロノス、そしてクロノスとゼウスらの戦い。とある神話に残されているその戦いは、神話通りかどうかはさておき、太古の昔に存在した。その結果、何が起きたかお分かりですか?」
「壮絶な戦いだったと書かれているから、相当数の戦死者が出たんじゃないか?」
「そうですわね。で、おそらくは互いの種族が滅亡寸前にまで追い込まれたのではないかと、私は考えてます」
「そうなのか? なぜ、そうと言い切れる」
「簡単ですわ。その死にかけた種族を復活させるために、クロノス側もウラヌス側も尽力したに違いありません。その結果が、黒い艦隊と白い艦隊を生み出すことになったと考えられますわね」
「いや、こう言っては何だが、こっちはその黒い艦隊に殺されかけたのだぞ」
「そりゃあ無人の艦隊では、ウラヌス側か自分の側の宇宙の種族かだなんて見分けがつきませんからね。近づいてきた宇宙船を見つけたら、それを排除しようと試みる。それだけの装置だったのですわ」
「いや、ウラヌス側の有人と思しき白い艦隊だって、似たような……まあいい、それはおいといてだ。その黒い艦隊と、白い艦隊が種族の復活のための守護として作られたと、そう言いたいのか?」
「そうですわ」
「ということは、クロノスは我々、銀河系側にいる人類を守るために作られたとして、白い艦隊は何を守っていたというのだ?」
「ですから、この星系ですわよ」
「いや待て。この一つの星系を守ることが、あの白い艦隊の役目だというのか?」
「一つとは限りませんが、少なくともあの白い艦隊が守りたい星系であったことは間違いありませんわね」
「なぜ、そう言い切れる」
「この星、そしてゴルゴン星人と名乗る彼らの両方に存在する不可思議な思考、あの一騎討ち思想とでも呼べばいいのでしょうか、あの異常な思考をもつこの星系の種族こそが、まさに白い艦隊が守るべきものだったと私は考えますわ」
なんだって? もしかしてこの一騎討ちへのこだわりを持った文明こそが、白い艦隊が守るべきものだったと言いたいのか?
「いや……マリカ少佐よ、何でそんな結論になるんだ?」
「私、先ほど黒い無人艦隊も、白い艦隊も、互いの種族の守護のために存在すると申しましたわよね?」
「ああ、それは聞いた」
「その種族存続の方法に、クロノス側とウラヌス側にはそれぞれ、二通りのアプローチがあったのですわよ」
「二通りだと?」
「ええ、それが我々の銀河系と、こちらの銀河の違いだと言えますわね」
「違い?」
「私たちの銀河は、分かっているだけでも一千を超える人類惑星がありますけど、こちらにはそれほど多くの星々はないものと考えられます。それこそが、互いの戦略の違いを示しているのではありませんか?」
なかなかマリカ少佐の話は、僕の中で上手く消化しきれない。今一つ、分かりづらいな。
「マリカ少佐よ、何がどう、戦略の違いを感じるんだ?」
「まだ分からないんですかぁ? 仕方ありませんわね。では、クロノス側から考えましょうか。クロノス側、すなわち、天の川銀河では、たくさんの星に人類が存在しています」
「分かっているだけでもすでに1050ほど、推定で3000はあるという説もあるほどだな」
「そうですわね。まあ、簡単に言えば、たくさんの星に人類の種をばらまいておけば、どれか一つは永劫に存在し続けるであろうという、実に安易な方法ですわ」
「安易って……たしかそれを成したのはアポローンといわれているが、そのアポローンの行いが安易だったと?」
「発想は単純ですわね。でも、実際にそれを行うのはとんでもなく大変な話ですわよ。提督の4人目どころの話ではありません、なにせその数、数千ですよ。それだけの星々に人類の種をまくなど、相当な苦労があったと考えられますわ」
発想は単純だが、労力は途方もないというのがクロノス側のとった生存戦略だと言いたいのか。しかし、それはそれで筋は通っている。実際、多くの星々に人類は存在し続けている。もっとも、その人類同士が今、二つの陣営に分かれて戦っている状態ではあるが。
「神話によればクロノス側ではその後、クロノス対ゼウスの戦いが起きてます。そこでもう一度、滅亡の危機に瀕したのかもしれません。ですから、クロノスからこの宇宙を受け継いだゼウスは、アポローンに命じて多くの星々に人類の種をばらまいたのだと考えられますわね」
「なんだ、それはつまりクロノスとゼウスの戦いの反動が、この多数の人類惑星が生まれるきっかけになったと言いたいのか」
「それだけ危機感があったのでしょうね。生命の危機を感じた時ほど、生き物というのは繁殖能力が上がると言いますし。あ、提督もそうですわね」
「おい少佐、そういう余計なことは言わなくていい。で、もう一方のウラヌス側はどうしたんだ? 多数の星々に人類の種をばらまかない代わりの、何か戦略があったとでもいうのか?」
「そうですわね。ウラヌス側はクロノス側、というより、ゼウス、アポローンがとった多数戦略ではなくて、争いの起こりにくい人類を作り上げるという方法をとったのだと推測されますわ」
「は? 争いの……起こりにくい?」
「人類も生物である以上は何らかの競争原理が働いてしまい、争いが起きてしまうものです。それはどうしたって避けられない。ならば、争いが起きたとしても、それが小規模で済むように遺伝子レベルで洗脳してしまえば……」
「まさかそれが、この星系にはびこる一騎討ち思想だというのか」
「その通りですよ、提督」
ようやく理解できたとばかりに、何やら勝ち誇ったような細目でこちらを見つめるマリカ少佐。が、言われてみればこの星に来てから僕は、違和感しか感じなかった。
それが原生人類による洗脳によるものと言われれば、その通りだとも思える。あまりにも不自然なこの星の住人らの思想に、僕自身、人為的何かを感じていたところだ。
「うむ、確かにな。我々もどこか、おかしいとは思っていた」
そんなマリカ少佐の話に理解を示したのは、ほかならぬこの星の住人であるパクスウヮーノ所長だ。
「所長殿、まさか今の突拍子もない話に、納得されるのですか?」
「ごく少数ではあるが、以前より我々の争い方がどこか非効率であると感じている者がいた。が、大多数が集団同士で戦うことを嫌う人々が大多数であるから、そんな意見はこれまで通ることはなかったがな」
そういえば、カラブレーゼ市長も似たようなことを言っていたな。やはりこの星の戦い方が異常だと感じているのは、我々だけではないようだ。
「私、洗脳と申しましたが、それがどのような方法でなされたのかまでは分かりませんわね。ですがおそらくは遺伝子レベルで、その非常識を常識だと刷り込まれているのでしょう。そして、その異常さゆえに、ゴルゴン星でもこの星でも、遺跡が残されているのではないでしょうか」
「えっ、なんで一騎討ち思想があると、遺跡が残されるんだ?」
「我々の側でこんな遺跡を残したら、たちまち人類滅亡に突っ走っていたに違いありませんわね。現に我々、地球001はかつて、地球003という星を壊滅に追い込んだ歴史があるのですよ。宇宙進出できるほどの文明をもちながら、その蛮行ぶり。これがさらに未熟な文明の時にこの超越した技術に触れていたなら、間違いなく破滅ですわ」
「それはそうだが……マリカ少佐よ、つまりこの遺跡とは、彼らのために残されたというのか?」
「この星の人類のためだったかどうかまでは分かりませんが、なんらかの備えとして、この星系に古代技術が残されたのでしょうね。ひとまず、そう考えるしかありませんわ」
そういえば、ゴルゴン星人も宇宙進出のための技術は遺跡から得たと言っていたな。彼らの方が、遺跡の利用に関しては一足早かった。だが、文明そのものは未熟であったがゆえに、結果的に星そのものが滅んでしまった。そう考えるとそのウラヌスの連中は、やや迂闊過ぎたのではないか?
「そうなると、あの白い艦隊はどこから来ているんだ。てっきりここがやつらの拠点があるかと思ったが、そうではなかった。黒い艦隊とは違い、あれには獣人が乗っていると考えられる。彼らは一体、どこから来ていると言うんだ?」
「あら提督、誰もそこまで分かったなんて言ってませんわよ。今回、判明したことは、その白い艦隊が守ろうとしているもの、せいぜいそこまでです。相変わらずせっかちですわね、提督は」
マリカ少佐の毒舌で、この話題は締めくくられる。そしてこいつは僕にこう言い放った後、遺跡の方へと向かう。
露天掘りの、ドーム球場より一回り小さい程度のこの発掘現場全体を、ぐるりと建屋が覆い隠している。おそらくはゴルゴン星人と称するあの獣人族から隠すために作られたのだと思うが、その建屋の中では20人ほどの作業者に混じって、白衣姿の研究員と思しき人らもちらほらいる。その白衣の人物に、マリカ少佐は話しかけている。
「なあ、将軍さんよぉ。さっき言ってた話、ありゃ本当か?」
と、僕に話しかけてきたのは、ジーノだ。
「いや、あれは仮説に過ぎない。我々はまだ、ウラヌスやクロノスの存在を確証できる決定的な証拠を見つけているわけではなくて……」
「いや、そっちの難しい方の話じゃねえよ。俺らの常識が、この宇宙じゃ異常だって話の方だよ」
ああ、そっちか。それは、オオス艦内にいた時にも話したじゃないか。
「しかも今の話じゃ、このヒペリオーンVを作ったっていうそのご先祖だか宇宙人だかが俺らをそう変えたって言いようじゃねえか。だけど俺らは、正々堂々一対一で戦うことこそが常識であって、それが非常識だと言われるのはどうにも腑に落ちねえ」
「そうよね、あなた方がそう言っているだけで、実際は私たちの方が常識なんてことも、ありうるかもしれないのよね」
イレーニアという娘まで反論してきたぞ。彼女は比較的、常識人だと思っていたが、それゆえにこちらの「常識」には逆らえないようだ。
「ならば、お前たちが直に行って、外の世界を見てくればいい」
そんな2人に、所長がこう言い出した。
「外に行くって、どうやって行くんだよ」
「決まっている。ヤブミ将軍の船に乗り込んで、連れて行ってもらうのだ。それが一番、手っ取り早い」
あれ、この人勝手に彼らの同行を決めてしまったぞ?
「と、いうわけでヤブミ将軍、若い彼らにぜひ、外を見せてやってほしい。我々のように長年、こちらの常識に晒されたものに比べて、彼らならばこの外の常識を早く吸収してくれるかもしれん。それが、この星の行く末を左右する気がしてならないのです。お願いします、ヤブミ将軍」
所長が頭を下げて、僕にこう嘆願する。
「いや、所長、連れて行くくらい大したことではありませんし、むしろ我々としても歓迎すべきこと、ですから頭をお上げください」
まあ、こう返答するしかない。僕にはこの所長の感じている危機感のようなものをひしひしと感じる。それは同じ星系ながらも宇宙人からの侵略を受けた経験が、そうさせているのだろう。あれが同じ常識を共有するゴルゴン星人だったからなんとかなったが、これが我々の側の宇宙の常識を持つ宇宙人だったら、どうなっていたか。そういう悲壮感のようなものを、この所長からは感じ取れる。
こうして僕は、ヒペリオーンVの5人を外に連れ出すこととなった。外と言っても、おそらくは地球001に連れて行くことになるんだろうな。しかも、僕はまだここを離れられない。その約束がいつ果たせるかも分からないな。
「ところで、ヤブミ将軍」
「なんでしょう?」
「もう一つ、お願いがあるのだが」
と、パスクウヮーノ所長が僕に何か頼み事があるらしい。
「実は、将軍の奥様、噂の怪力魔女と呼ばれる人にぜひ、お会いしたいのだが」
ところが、その頼み事というのはこれだ。つまり、レティシアに会いたいという。
「何でも、カラブレーゼ市長が行った対決で、見事勝利したとお聞きしましたぞ。そのようなご婦人に、ぜひお会いしてその技を披露していただきたいのだが、いかがですかな?」
「え、ええと、それは……本人に聞いてみないことには」
「ぜひ、お頼み申す! その魔女という存在をこの目で確かめたいんです!」
うーん、どういう風にレティシアのことが伝わっているんだろうか。少し不安になってきたな。まあ、本人の意思が大事だからと、僕はそう所長に告げた。
が、レティシアがそんな頼み事を聞いて、断るわけがない。
「おっしゃぁ! 見せてやるぜ、俺の力ってやつをよ!」
「おっしゃ!」
左腕でユリシアを抱き上げたまま、颯爽と現れたレティシアの姿に、集まった100人余りが興奮気味に出迎える。で、レティシアのすぐ脇には、この遺跡から出土したであろう、大きな柱のようなものが置かれている。
「まあ、俺にかかればこの程度、片手でいけるぜ。おりゃあ!」
掛け声と共に、持ち上がるその大きな柱。ざっと3メートルはあろうかというそれが、いとも簡単に持ち上がるのをみて、その場の興奮度は最高潮となる。
「すげえ!」「サイコーだぜ、魔女さん!」
「あはははっ! いやあこの程度のもん、たいしたこたあねえよ!」
沸き起こる拍手や歓声を前に、手を振るレティシアとユリシア。だが、レティシアの持ち上げ最大重量は、10トン程度だ。おそらくあの柱はそのぎりぎりの重さだと思う。決してたいしたことがないとは思えないがな。
「ほほう、あなたがゴルゴン星人の居城に乗り込み、剣士を打ち破ったというお方か」
「うむ、確かに私は彼らの元に飛び込み、勝負を挑んだ。相手が望んでおったからな」
一方で、リーナも何人かに囲まれ、質問されている。彼らにとってはついこの間までの宿敵であったゴルゴン星人を、剣一本で打ち負かした剣士と知れば、そりゃあ興味も湧くだろうな。
「聞いてますぞ、あなたがゴルゴン星人の皇帝と、あのヒペリオーンVの5人を一喝し、その場をまとめてしまったという話を」
「うむ、そうじゃったな」
「しかし、相手は巨大ロボットの操縦士に、侵略してきた宇宙人の長ですよ? よくまあ彼らをしかりつけることができましたねぇ」
「かつて、十万の兵に城を囲まれて、死を覚悟したほどじゃ。それに比べれば、大した話ではない」
あれ、マツもいつの間にか、英雄扱いにされているぞ。あのとき、確かにマツがいなければ、まとまる話もまとまらなかっただろう。そう思えば、マツもこの戦いを納めた功労者の一人であることは間違いない。
気づけば、僕よりも3人の妻の方が目立っているなぁ。一応、僕は艦隊の指揮官なんだけど、これじゃまるで3人の引き立て役だ。
などと考えてはみたが、むしろ引き立て役でいいのかもしれない。実際、この3人のおかげで、ゴルゴン星人との一件はおさまったのだから。僕はこの3人の「英雄」が遺跡に携わる大勢の人々に囲まれて賞賛されている様を、傍らでじっと見守っていた。