#57 決着
「超重力ロボ、ヒペリオーン V!!!!」
俺たちがこうして合体をしている間にも、あの7体は容赦なく襲い掛かってきやがった。こんなこと初めてだぞ、なんて卑怯な連中だ。だが、俺たちは人型重機という小型ロボの援護を受けて、どうにか合体を果たす。
しかし、その人型重機はたったの2機。全部で6機出てくるんじゃなかったのかよ。その2機のやつらが、俺たちに向けて無線で話しかけてくる。
『こちらワン准将、シュアンヤンロウ。これより貴殿を援護する。二番機、デネット少佐、聞こえるか?』
『こちらデネット少佐、コールサインはテバサキ。無線良好です、准将閣下。とりあえずあの接近中の機械獣とやらに、コンビネーションアタックを仕掛けませんか?』
『うむ、了解だ。だがテバサキ、私についてこれるかな?』
などといいながら、小型のロボ2機は猛烈な勢いで接近する機械獣に立ち向かっていく。機械獣からは、緑色の光線が放たれる。
が、すばしっこいあの2機はそれをさらりと避けると、吸い込まれるようにその機械獣に2機が立ち向かっていく。直後、その機械獣が首元から火を噴いた。
『思った通りだな、やつの弱点は首だ』
『ええ、この調子であと6機、やりますか?』
『いやあ、ヒペリオーンVにも残しておかねばならぬだろう。我々だけで手柄を独占するのはいけない』
などと言いながら、もう一体の機械獣に向かっていく2機。みるみるうちに、それも火を噴く。なんてこった。あれじゃ6機もいらねえぞ、2機で十分じゃないか。
俺たちも、負けちゃいられない。
「いくぜ、みんな! この地球の正義は、ヒペリオーンVが守る!!」
ちょうどこちらにも一体、接近する機械獣がある。そういえば、首が弱点だって言ってたな。ちょっと、試してみるか。
「重力子パーンチ!!」
俺はヒペリオーンVの拳を、その機械獣の首元めがけて殴りつける。するとその機械獣は、あっさりと火を噴きやがった。なんてこった、超重力剣を使うまでもなく片付いちまったぞ。あまりの機械獣の脆さに、俺たちは愕然とする。
が、放心している暇はねえ。まだ4体、残ってやがる。こいつらを片付けねえと、戦いは終わらねえぞ。
そういや、あのヤブミとかいう将軍は策があると言ってたな。なんでも、20万人のゴルゴン星人を味方につけると言ってたけど、でも、どうやったらそんなことができるんだ?
などと考えながらも、俺は機械獣を殴りつける。2体目を叩いたところで、あのオオスとかいう大型の宇宙船から、何やら光るものが浮かび上がる。
『な、なんですか、あれは!? どうしてヨルゴス皇帝の姿が!』
ヴァンニが叫ぶ。俺も、目を疑った。現れたのは、このヒペリオーンVをも上回るヨルゴス皇帝の姿だ。そんなものが何体も、この真っ暗な宇宙の中であのオオスの上に浮かび上がっている。
『ゴルゴン帝国の民たちよ、余の言葉を聞け!』
と、同時に、無線からヨルゴス皇帝の声が入ってきやがった。
◇◇◇
「余、およびゴルゴン帝国臣民、そして地球人たちも、皆だまされておったのだ! この戦いのすべての元凶は、余の不在を良いことに皇帝の座を乗っ取った、あのバキス宰相にある!」
僕の横で、叫ぶヨルゴス陛下。全周波数帯でのこの呼びかけは、当然、やつらにも届いているだろう。
声だけではない。ホログラフィー装置によって浮かび出されたヨルゴス皇帝の姿も当然、20万のゴルゴン星人たちの目に届いているはずだ。
『な、何をぬかすか! あれは偽物、あのような者の言葉など、聞くまでもない!』
で、その呼びかけに無線経由で平文で反論してくるバキスと思しき人物の声。だが、皇帝は続ける。
「余はこの地球001から来たという宇宙人らと、そして地球人と和解に向けて動き出した。20万人もの民たちを安住の地に導くと、そう約束を交わした。だが、その前にやらねばならぬことがある!」
『ち、違う! あれは皇帝などではない! 皆の者、耳を貸すでないぞ!』
相変わらず、無線からはバキスの絶叫に似た反論が流れてくる。が、この皇帝はさらに続け、このバキスを追い詰めていく。
「そう、我らが成さねばならぬのは、ゴルゴン帝国と地球人とに共通する敵である、裏切り者のバキスを倒すことだ! 我が民よ、立ち上がれ! 皆でバキスを倒すのだ!」
この星域では、大軍同士の戦いという概念がないらしい。なぜか一対一を正義とする、妙な思想の星だ。だが、我々と変わらぬ思想も持っている。
そう、「共通の敵」に立ち向かう、ということだ。
この直後、バキスからの反論はなくなった。どうやら、内部で追い詰められたのだろう。この調子であの悪宰相が倒されてくれれば、あとは互いの勝利ということでうまくまとまる。
しかし、マツの城の上でも用いたあの巨大ホログラフィー装置が、こんなところで役に立つとは思わなかったな。百聞は一見に如かずというからな、声だけでだめなら、皇帝自身の姿を見せれば良い。
『ワン准将より旗艦オオスへ、機械獣全機、消滅』
さて、あの7機の機械獣とかいう兵器も片付いたようだ。6機ではなくたったの2機、それもワン准将とデネット少佐だけで飛び出したと聞いた時は大丈夫かと案じたが、何とかなってしまった。やはりあの2人は、重機に乗せたら強い。
「レーダーに感! あの小惑星より、出撃する機体あり!」
が、そんなときに、さらにもう一機、何かを捉える。
「なんだ、また機械獣か!?」
「はい! ですが今度のは大きいです! 全長100メートル級、白い機体です!」
白と聞くと、ついあの艦隊を思い浮かべる。だがあれはさっき、我々の威嚇砲撃直前に一瞬だけ現れて引っ込んだ、確かこの皇帝が乗っていた機体だな。
もしあのまま皇帝があれで戦っていたら、この反乱はあの時点で起きていた可能性がある。ヒペリオーンVごと、皇帝をあのビーム砲で抹殺していたことだろう。あの時放ったこちらの威嚇射撃は、図らずもその反乱を防いでいたことになる。
が、それがもう一度出てきた。ということは、あれに乗っているのは間違いなく、やつだろう。
『おのれ、ヒペリオーンVめ、ヨルゴスめ、地球人め! あと少しで我が覇道を成し遂げられたというものを!』
なんだか、ますます子供向けアニメのような展開だな。追い詰められた敵が、他人に責任をなすりつけながら最期の特攻をかける。そうなると当然、出しゃばるのはあの兵器だ。
『へっ、ざまあねえな! 因果応報ってやつだ! そんなてめえに、俺たちの正義の一撃をくれてやるぜ!!!』
などと言いつつ、あの白い兵器に接近しているのはヒペリオーンVだ。まさに、主役ロボットの最後の見せ場を、僕らはまさに見せつけられているところだ。
『こうなったら、一人でも多く道連れにしてやる! 来るがいい、地球人のロボよ!!』
『冗談じゃねえ! 道連れはごめんだな、地獄の片道切符は一枚きり、てめえ一人で行きな! 俺が後押ししてやるぜ! 重力子パーンチ!』
ざっと倍ほどの身長がある相手に向けて、殴りかかるあの人型兵器。だが、あのパンチをあっけなく弾き返す。
一瞬、火花が散った。ということは、あれは我々と同じバリアシステムを持っていることになる。なんてことだ、そんなものまで持っているのか、ゴルゴン星人ってやつは。
『ぐわあああぁっ!』
『きゃあああぁっ!』
攻撃を弾き返されたヒペリオーンVは、右腕から火を噴きながら宇宙空間に飛ばされる。どうにか逆噴射して留まるものの、手首から先が吹き飛んでしまった。あれでは右腕が使いものにならない。
「やむを得ない、旗艦オオスより重機隊発進、ヒペリオーンを回収しつつ、あの白い兵器を破壊……」
僕がそう命令しかけた時、あのロボット兵器に乗り込む5人組のリーダー、ジーノがこう叫ぶ。
『手出し、無用っ!!』
いや、手出し無用って、機体の一部が破壊されて……と、僕はモニターを見て、驚愕する。
防御システムによって吹き飛ばされたはずの右手首が、みるみるうちに修復していく。僕は目を疑った。
「なんだあれ……合成映像ではないのか?」
「いえ、これはリアルタイムの実映像です」
なんだあのロボット、見たこともない機能を備えているぞ。まさか、自己修復が可能なのか?
『負けてたまるかよ! みんなの力でやつを倒すんだ!』
『了解です、ジーノさん!』
『任せたぜ、兄貴!』
驚くべきテクノロジーだが、おそらく彼らの「力」を結集した結果ではないだろう。明らかに僕らにとっての未知の技術だ。僕は戦慄を覚える。
が、そのわりには戦い方が稚拙だな。殴る、蹴る、飛び道具といえどただのエネルギー体の矢を放つのみ。それをいちいち技名を叫んだ後に攻撃を加えるから、簡単にその動きが読まれてしまう。
『ぐははははっ! ヒペリオーンVめ、その程度の攻撃がこの最強機械獣キュクロープスに通用するわけがなかろう!』
『くそっ! なんて硬いんだ!』
しかし、バリア防御を相手に殴りかかったところで、結果は同じ。自己修復によって回復できているからいいものの、戦術も何もあったものではない。
だが、我々はバリアと言う防御システムを知っている。それがどんなものかも、その欠点も含めて知っている。
だから、僕はジーノにこう告げる。
「ヒペリオーンVへ、やつらの防御システムは、おそらく正面に特化しているはずだ、脇や下側、背後は脆弱なはず。そこを狙え」
僕らと同じタイプのバリアシステムなら、分厚い部分と手薄な部分があるはずだ。さっきから見ていると、あのキュクロープスという機体は常にヒペリオーンVに対して正面を向き続けている。つまり、背後が弱点であると告げているようなものだ。
『よし、ならばやつの背後を取ってやれ! 行くぜ、重力子パーンチ!』
しかし、だ。いちいち技名を叫びながら突撃するため、相手はその動きを読んでしまう。再び、弾き飛ばされるヒペリオーンV。
『ぐわあああぁっ!』
『きゃあああぁっ!』
こんな戦い方をしていたら、そりゃあ読まれるだろう。そろそろ学習してくれないだろうか? そんな中、僕に直接通信が入る。
『ワン准将よりヤブミ提督! そろそろ我々が、手出しすべきではありませんか!?』
埒が明かない目の前の状況を見て、ワン准将が焦り出したようだ。が、僕はこう返す。
「しばらく待機。彼らなりに勝機を見いだせないと判断したら、すぐに攻撃命令を出す。それまでは彼らの望み通り、手出しをするな」
『りょ、了解』
僕は援護を保留する。どうもこの星系の住人の思考パターンがいまいちつかめていない。下手に手を出して、あとでグダグダ言われるのも面倒だ。それならば、やつら自身の戦い方に任せるほかはない。
さっきのホログラフィー装置によるヨルゴス皇帝の演説によって、あのバキスという男を追い詰めたところまではこちらがやった。あとは、彼らに任せるほかはない。
「提督、あの戦いぶりで、とても勝つとは思えませんが」
いらだっているのは、ワン准将だけではない。ヴァルモーテン少佐もモニターを眺めながら、戦況を分析しつつこう進言する。
「いや、なんとなくだが、やつらは勝てる気がする」
「そんなわけがないですよ。子供向けの特撮番組じゃないんですから」
「そうか? この世界は子供向け番組そのものだぞ。何とかなるだろう」
「いや、それはそうですけど……」
ヴァルモーテン少佐の苛立ちは分かる。が、僕は一旦、彼らに任せると決めた。後々面倒となる原因を取り除くということも理由だが、僕は彼らにかけてみたいと思った。
彼らが納得する戦いができなければ、たとえここで勝利を得たとしても、解決にはならない。
それはあの巨大ロボットの戦いぶりを、艦橋のモニターに張り付くように見つめている、長男のエルネスティと同じ気持ちだろう。
『はぁ、はぁ……ど、どうしても倒せねぇ……』
が、ここに来て急にジーノの士気が落ち始めた。何度も背後に回ろうとするも、稚拙な戦術のおかげで動きを読まれ、その度に攻撃を弾かれている。もう何十回目の突撃をしただろうか。
『ちょっとジーノ! もう諦めちゃうの!? 仲間は、地球は、どうするつもりよ!』
『そんなこと言っても、イレーニア、どうしてもあいつの背後が取れねえ……』
『日ごろの訓練の成果とやらは、どこへ行ったの! 意気地なし!』
なんだか、仲間同士のののしり合いが始まってしまったぞ。それを聞いて、バキスが高笑う。
『ぐははははっ! やはりガキのおもちゃに過ぎぬというか、そのヒペリオーンVは!』
もうダメかと、僕は思った。そろそろワン准将に、攻撃命令を出そうか。そう思った矢先に、この挑発的発言を聞いたイレーニアという娘が奮起する。
『冗談じゃないわ! 何がガキのおもちゃよ! 目にもの見せてくれるわ! ちょっとジーノ!』
『な、なんだ!?』
『ちょっと危険だけど、あれをやるわよ!』
『あ、あれってなんだ!』
『忘れたの!? とっておきの秘術、「肉を斬らせて、骨を断つ」よ!』
急に格言めいた言葉が飛び出したぞ。やつらにも、そういう戦いの概念はあるのか。だが、それを聞いたジーノが決断する。
『そ、そうか、その手があったか……分かったぜ、イレーニア! よし、みんな行くぜ!』
何やら、奥の手があるらしい。ヴァルモーテン少佐も僕も、そしてエルネスティも、みんなあのロボット兵器にくぎ付けになる。
『うおりゃぁ! 重力子キック!』
が、繰り出されたのは、さっきまで繰り返された技の一つ。突進するヒペリオーンVのこの攻撃を、正面から受けるキュクロープス。
『何度でも同じこと、弾き飛ばしてやるわ!』
猛烈な勢いでキックを繰り出す巨大ロボットの脚は、そのキュクロープスの手前で火花を散らしながら溶けていく。おい、確かあの脚の部分にも、コックピットがあるんじゃないのか?
などと心配をよそに、お構いなしに突入を続ける。だが、今度の攻撃は若干、中心を外している。このため、さっきまでとは違い、弾け飛ばない。
本当に、一瞬だった。
自らの身体の一部を犠牲にしつつ、ついにヒペリオーンVは、あの白い兵器の背後に回った。
『いくぜ! 超・重・力・剣!』
すれ違いざまに、剣を抜いて背後に飛び掛かるヒペリオーンV。背中から抜かれたビームソードは、キュクロープスの肩を貫く。
『ぐあああぁぁっ!』
バキスと言う男の叫び声があがる。肩からへその部分に向かって振り下ろされたそのビームソードは、そのまま向きを変えて反対側の肩へ向かって斬り上げられる。
それは正面から見ると、ちょうど「V」の字を描く。って、この星でもVはあの字なのか?
直後、ヒペリオーンVに斬り付けられたそのキュクロープスは、大爆発を起こす。
「白い人型兵器、消滅!」
観測員が叫ぶ。猛烈な火の玉をバックに、ビームソードを握り、溶け落ちた左脚の痛々しい姿をさらすヒペリオーンVがモニターに映る。
『やったぜ! 俺たち、正義のロボが勝利したぞーっ!』
外観はともかく、中は健在のようだ。ジーノの叫び声がこの艦橋内に響き渡る。
「うおおぉっ!」
と、急に叫び声が聞こえる。その声の主は、なんとエルネスティだ。いつになくこいつはモニターをバンバンたたきながら、奇声を挙げて興奮している。
「おい、エルネスティ! やったぞ!」
「だああぁっ!」
母親のリーナに抱き上げられたまま、ガッツポーズをとるエルネスティ。あれほど興奮する我が子を見たのは初めてだ。
が、興奮するのは、我が子だけではない。
「いやあ提督! やっちまいましたよ! なんですか、あのカッコよいロボットは!」
「まったくじゃ! なんという武術、まさに肉を斬らせて骨を断つ、捨て身の戦術による勝利じゃ!」
「しょーり!」
ヴァルモーテン少佐にマツ、そしてユリシアも大興奮だ。なぜか敵だったはずのゴルゴン帝国皇帝、ヨルゴス殿とその皇妃も、勝利に沸いている。それだけじゃない、この艦橋内にいる乗員も、つられて徐々に歓声を上げ始める。
無茶な戦いだ。戦術もへったくれもありゃしない。あれを軍大学で提唱しようものなら、落第点をもらうだけだ。なんて呆れた戦いぶりだ。
だが、そんなダメな戦いが、この場にいる者すべてを歓喜の渦に陥れた。凄まじい力だ。冷静なはずの僕でさえ、胸の奥から湧き上がる何かを感じる。
歓声が落ち着いたところで、僕はこう指示する。
「現時刻をもって、戦闘終了を宣言する。各艦、戦闘用具納め。ワン隊の重機隊各機は、ヒペリオーンVを回収せよ」