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#56 裏切り

「なんだ、何が起こっているのか!」

「はっ! ともかく、音声を流します!」


 あまりに想定外な出来事に、僕は頭が追いつかない。が、その士官はまさに今、流されているというその通信をこの会議室内に流し始める。


『……ゆえに、亡くなられたヨルゴス陛下、ディミトゥラ皇妃に成り代わって、余、バギス・カブラスがゴルゴン帝国皇帝に即位することと相成ったのである。ゴルゴンの民よ、今こそこの邪悪なる地球人および宇宙人どもを排除し、我らが安住の地を手に入れようではないか!』


 信じがたい内容の通信が流れている。だが、ヨルゴス殿はここにいる。死んでなどいない。


「おのれバギスめ、余はまだ生きておるではないか! よもや、余の不在を良いことに、皇帝の座を乗っ取りおったか!」


 僕もようやくことの重大さを認識する。つまりは、このバギスという人物は、本来の皇帝不在をいいことに、その隙に皇帝の座を奪ったらしい。

 が、あまりにもあっさりと奪われすぎではないか? その皇帝は、我々のところにいるんだぞ。こちらが皇帝の死を否定すれば、いとも簡単に嘘だとバレてしまう。そんなリスクを冒してまで玉座を奪うとは、どんな勝算があると踏んでいるのか?

 が、その時、マツが叫ぶ。


「カズキ殿! 何か来るぞ! 皆を散開させよ!」


 左腕を握りながら、マツがそう僕に告げる。考えている暇などない、例のあれが反応した。


「ワン隊全艦に伝達、バリア防御しつつ、直ちに散開せよ!」

「はっ!」


 ヴァルモーテン少佐が、僕の命令を伝達する。オオス周辺には、ワン隊が展開している。あの巨大衛星を囲んでいる手前、臨戦態勢にあったワン隊の各艦が一斉に動き出す。

 と、同時に、艦橋から報告が届く。


『提督! ゴルゴン星人の小惑星より高エネルギー反応!』


 その観測班の士官の声から数秒後に、青白い光の筋が走る様子がモニターに映し出される。直後に、バリア反応のあのバリバリという嫌な音が、この会議室内に響いた。


「なんだ今のは、ビーム砲か!?」

『はっ! 小惑星表面より、高エネルギービームの発射を確認!』


 この音からして、この旗艦の艦橋を狙ったことは間違いない。マツの「予言」がなければ、堕とされていたかもしれない。


「第2射に備えろ! 全艦、艦首をあの小惑星に向ける!」


 そうこうしているうちに、第2射が来る。が、すでに艦首を向けており、バリアの分厚い面でその攻撃をかわす。

 しかし、だ。あんな兵器を持ってるなんて聞いてないぞ。


「な、なんだ、今の武器は!?」


 驚いたことに、当の皇帝も知らないらしい。いや待て。お前、皇帝だろう。さっきの武器は、明らかに彼らの持つ最強のもの。ゴルゴン帝国の最高権力者が、どうして自国の究極兵器の存在を知らない?


「何言ってるんだよ、おめえんとこの武器だろうが!」

「いや、余は知らぬぞ! だいたい、あのようなものがあると知っておれば、もっと早くに使っておるではないか!」


 ジーノのごもっともなツッコミに、そりゃそうだという皇帝からの返答が飛び交う。このやりとりを見るに、本当にこの皇帝は知らなかったということになる。


「今、皇帝を名乗っているバギスという人物は、何者なんです?」


 しかし、どうにも状況がのみこめない。そもそもあのバギスとかいう男が誰なのかも分からないでは、この先、対抗のしようがない。そう思った僕は、皇帝に尋ねる。


「我がゴルゴン帝国の宰相だ。あやつめ、余に忠誠を誓い、重臣として重用しておったというに、ここで手のひらを返すなどと何たる裏切り行為か……」


 信頼していた重鎮が、あわよくば我々ごとこの皇帝を消し去ろうと企てた。よくあるB級ドラマのやりとりのようだ。うん、でも、とんでもない裏切り者だということは、我々でも理解できる。

 だが、その裏切り者は、我々を見誤った。

 我々が、並の艦隊ですらないことを、やつは知らない。それゆえに我々は、無傷のままだ。


「ともかく、ここじゃ状況把握がしづらい。戦闘指揮所である艦橋へ向かい、対処を考える」


 僕はそう宣言し、会議室を出る。他の皆も、僕のあとに続く。

 ちょうど艦橋に入るや、レーダー士が叫ぶ。


「レーダーに感!」


 あの砲撃は止んだが、続いて別の何かを捉えた。まさか、このタイミングで、白い艦隊出現か?


「なんだ、艦隊出現か!?」

「いえ、小惑星表面より、7つの機影! 全長70メートル級の人型重機らしき物体!」

「なんだと? 人型重機か」

「映像、映します!」


 あの小惑星表面から、何かが発進したとの報告だ。モニターに、その何かが映し出される。そこに映っているのは確かに何かの機械だ。が、人型重機ではないな。背中にとげがびっしりと生えた亀の甲羅のようなものを背負い、手足が短い不可思議な機械。あれは人型とは言わないだろう。


「なんじゃと、まさか機械獣を、全部発進させたというのか!」


 それ以上に驚いたのは、この皇帝の一言だ。えっ、あれが全部? いや、数の少なさ云々に驚いているのではない。彼らの敵は、ヒペリオーンVという巨大ロボットただ一機だったはず。さっきやられた機体を含めて、あれを全機発進しておけば、余裕で勝てたじゃないか。

 で、そのなけなしの人型兵器を全機投入したやつらの狙いは当然、我々に向けられる。その7機は一斉に、こちらに迫ってくる。


「対空戦闘用意!」


 ジラティワット艦長が号令を発する。僕も遅れて下令する。


「ワン准将に連絡、重機隊、全機発進。迎撃態勢に入れ、と」


 そんなやり取りの中、例の5人組のリーダーであるジーノが叫ぶ。


「おい、俺たちも出撃させてくれ!」

「は?」


 何を言っているんだ。たかが7機程度、ワン隊所属の重機隊ならば2分もあれば仕留められる。いや、その前にやつらに、停戦勧告を流さないといけない。そんな兵器相手に、どうしてわざわざあの兵器を使おうとするのか?


「いや、まずは停戦を呼びかけ、従わない場合のみ、戦闘に入るべきであって……」

「そんなやり方じゃダメなんだよ!」

「ダメだと言われてもだな……」

「おめえんとこじゃどうか知らねえけど、俺らはダメなんだよ! 大群で仕留めたって、それじゃゴルゴン星人も俺たち地球人も、納得しねえんだよ!」

「そうですよ、これはあくまでも、正義の戦い。悪どい戦い方で勝利しても、ダメなんです」


 ヴァンニという男も加わり、僕のやり方に異議を唱える。いや、そんなことを言ってもだなぁ……と思ったが、この星系の人々が納得しないというのはまずい。それでは、たとえあれを排除したところで、我々は世論を味方につけられないということになる。

 さっきからずっと感じている違和感だが、こいつらはどこか、我々とは物事の決着の付け方という部分が根本的に違う。我々の論理が通用しない。


「だけどよ、ジーノ。今戦うってことは、俺たちはゴルゴン星人の皇帝を助けるってことになるんだぜ?」

「そうだよ兄貴、それはさすがに、筋違いじゃないか?」

「何言ってやがる! 俺たちは機械獣と戦う、ただそれだけのことじゃねえか! その辺のことは、あとで考えりゃいいんだよ!」


 そんな熱血漢に、反論する者が現れる。挙句、アルバーノ、パオロという男と言い争いを始めてしまう。

 が、そんな2人を制止したのは、この5人で唯一の女性、イレーニアだった。


「ちょっと待って、今はジーノの言うことが正しいわ」


 それを聞いたアルバーノとパオロという男は、反論する。


「なんだってぇ!? 俺たちはゴルゴン星人と戦ってきたんだぞ! なんだってこいつらを助けることが正しいって言うんだ!」

「それよ。私たち、何と戦ってきたのかって、ようやく分かったのよ」

「はぁ? それはお前、ゴルゴン帝国を名乗る連中すべてと……」

「そうじゃないわ。さっきの皇帝さんの話と、そしてあのゴルゴン星人の星から放たれたあの青い光、あれを見た瞬間、分かったのよ」

「なにが分かったっていうんだ!?」

「皇帝さんは、私たちが先に仕掛けたと言った。私たちが青い光の筋を放って、ゴルゴン星人を滅ぼそうとした」

「そんなの、嘘っぱちに決まってるだろう!」

「そうよ、嘘だったのよ。皇帝さんたちもその嘘に、巻き込まれていたのよ」

「はぁ? どういうことだ!」


 なんだか、推理めいた話が始まったぞ。僕があっけにとられる中、イレーニアは続ける。


「さっきの攻撃を見て、あの光を放ったのはゴルゴン星人だった。いや、正確には、あそこで勝手に皇帝を名乗っているバキスとかいう男の仕業だったということ。それを、私たち地球人が仕掛けたんだと皇帝に報告した。現にこの皇帝さんたちは、あの青白い光を放つ兵器の存在を知らなかった。だから本当はあのバキスとかいう男が先に攻撃を仕掛けたのに、皇帝さんは私たちが先制攻撃をしたと勘違いしていた。どう、筋は通っているでしょ?」


 短い説明だが、確かにつじつまはあっている。現にあのバキスとかいう男は今、ここにいる皇帝を裏切ってゴルゴン帝国を乗っ取った。元から皇帝を排除する意思があったとすれば、その程度の嘘は当然、ついていてもおかしくない。


「だ、だが、家臣が皇帝に黙って俺たちに戦いを仕掛けて、なんの利益があるっていうんだ?」

「戦いとなれば、いずれ皇帝が隙を見せる機会があるかもしれない。その隙に乗じて、皇帝の座を簒奪しようとしたんじゃないかしら。つまり私たち、そしてここにいる皇帝さんも、あのバキスという男にまんまと乗せられていたのよ」


 この娘による、超絶解釈が進む。が、これにヴァルモーテン少佐が乗る。


「うーん、確かに、味方を欺くために、まず敵を作るというのは古今東西1万光年でもまれに見られること。確かに、ありえない策ではないですね」


 えっ、作戦参謀までこんな急展開に納得しちゃうんだ。大丈夫か、この参謀は。


「うむ、となれば、戦うべきはあのバキスとかいう宰相が開いて、ということになる」

「そうじゃな。となれば、ヨルゴス殿に加勢するのも、理に適うておる」

「そうだ。だから俺たちは、ヒペリオーンVで出撃して、あのバキスってやつを倒す!」

「ですがジーノさん、やつはあの星の奥深くに隠れちまってますよ。どうやってあぶりだすんですか!?」

「機械獣を全部ぶっ倒せば、出撃してくるだろう」

「そんなもんですかねぇ? やつはいきなり7機も出撃させてくる卑怯者ですよ。そんなやつが機械獣を倒されたくらいで、ノコノコと表に出てきますかねぇ」


 出撃する気満々のジーノに、ヴァンニが反論を述べる。が、彼の言っていることは常識的に考えて当然だ。たとえ味方が総崩れとなったとしても普通、指揮官が前面に出たりはしない。あれが全機倒せても、普通ならば20万人いるという人民を盾にして、抵抗するだろう。

 いや待てよ、ゴルゴン星人が20万人、それを味方につけさえすれば、あるいは……


「分かった。あの大型の人型兵器の出撃を、許可する」


 僕はふと、ある作戦を思いついた。そういえばこの旗艦オオスには、マツの星でも使ったあれが備え付けられているじゃないか。


「提督。出撃を許可なさるのはいいですが、相手は7機いるんですよ?」

「大丈夫だ。こちらも全部で7機だけ、出撃すればいい。ワン准将に連絡、人型重機を6機選別し、発進させよと」

「はっ、承知しました」

「これなら、どちらの陣営からも非難されることはあるまい。だがまず、ゴルゴン帝国側に停戦を呼び掛ける。ヨルゴス陛下、あなたにその役割をお願いしたい」


 いきなり僕からふられたヨルゴス皇帝だが、すでに心を決めているようで、こう答える。


「うむ、あのバキスを追い込み、民を救えるならば、余はなんでも行おうぞ」


 だが、それに反論するのは妃だ。


「お待ちください、将軍殿。陛下自ら民に呼びかけられても、バキスが偽物だと言い切ってしまえばおしまいではありませんか?」


 当然、そう考えるのは普通だ。たとえ皇帝陛下自らが呼びかけたところで、声だけでは本物とは言い切れない。


「大丈夫ですよ、皇妃殿」


 僕はちらっと、マツの方を向いた後にこう返す。


「姿をお見せすれば、いいだけですから」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 古今東西宇宙(そら)の彼方でも権力争いはあるのね(´;ω;`) [気になる点] 恐竜戦車より重戦機隊のほうが強いのか…(^_^;) リアルロボットスキーの私には朗報 [一言] 本当にリア…
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