#51 決戦
俺の名は、ジーノ。俺は今、サイコーに燃えている。
とうとう俺たちは、ゴルゴン帝国の本拠地にたどり着ける。遺跡から新たに発掘され、それを博士たちが解明し使えるようになったグラヴィティ・ブースターのおかげで、俺たちはついに宇宙にたどり着くことが出来たからだ。
目の前には、やつらが潜む星要塞が見える。そこには、地球侵略を企むゴルゴン星人が20万人いると言われている。自らの故郷を失いここに流れ着いたというが、先に住む我ら地球人をこの星から消し去り、自分たちで独占しようって宣言しやがった。冗談じゃない、この地球を奪われてたまるものか。
「みんな、これが最後の決戦だ! 用意はいいか!?」
俺は、4人の仲間に呼びかける。
『ああ、いつでもいいぜ、兄貴』
俺の弟、パオロが答える。こいつは少し熱血具合が足りねえが、クールで俺のことをその冷静さで支えてくれる。
『いちいち尋ねるんじゃねえ! お前、それでもリーダーか!?』
反抗的な態度を見せるのは、アルバーノだ。こいつとはしょっちゅう殴り合う。が、戦いとなりゃあ話は別だ。
『ジーノさん、勝算はありまーす。行きましょう!』
ヴァンニは俺たちの頭脳とも言える存在だ。大学を飛び級で入り、主席で卒業するほどのやつだ。こいつの知恵に、いつも救われる。
『任せたわよ、リーダー!』
紅一点のイレーニアは、その可愛らしい顔に似合わずしっかり者だ。ヴァンニの姉でもある。その励ましで俺は、今まで戦ってこられたようなものだ。
「よし、それじゃみんな、いくぜ! 地球侵略をたくらむゴルゴン帝国め! 今日こそ、決着をつけてやる! パオロ、アルバーノ、ヴァンニ、イレーニア! 超重力合体だ!」
『分かったぜ、兄貴!』
『さっさとやれ、ジーノ!』
『ジーノさん、重力子、正常、いつでもいけますよ!』
『頼んだわよ、ジーノ!』
「うおおおぉぉっ! 俺たちの力、見せてやるぜ! 超重力合体! ヒペリオーン、ゴォーオンッ!」
俺は操縦桿を倒す。一号機が変形を始め、頭部へと形を変えていく。
弟のパオロの操る二号機が、吸い寄せられるように近づいてくる。それは両肩を広げながら、この一号機と合体する。
ついで、アルバーノの乗る三号機が胴体に、ヴァンニの四号機が足、そしてイレーニアの五号機が背中へと、次々と合体を果たす。
そして、合体を終えた5つの機体は、あの悪辣な宇宙人に対抗する超絶メカに変わる。
『超重力ロボ、ヒペリオーン V!!!!』
◇◇◇
「提督、例の電波発信源より重力子反応!」
「重力子? なんだ、大型船でもいるのか」
「いえ、それが……」
ナゴヤの暦で、西暦2493年5月18日、午後2時39分。この星で最初に確認された人工物に関して観測班からの報告がもたらされる。が、妙に歯切れが悪い。僕は催促する。
「とにかく、現状報告だ。ここは元々、非常識極まりない場所であることは織り込み済みである。多少の違和感は、この際無視してありのままを報告せよ」
「はっ! では、報告します! 重力子発生源は、5機の小型宇宙船、だったのですが……」
「だった、とは、どういうことだ?」
「いえ、それが結合しつつ、人型に変形したのです」
「は? 人型?」
「映像、出します」
ありのまま報告しろとは言ったが、それがあまりの非常識さに僕は思わず思考停止しかかる。その直後に観測班が、モニターに重力子発生源であるその機体を映し出す。確かにそれは、5機の機体だった。が、それらは青い光で包まれつつ、次々と変形、合体し、やがて人型に変わる。
ついでに、その時発せられたと思われる平文の通信が、その映像に重ねられる。
『超重力ロボ、ヒペリオーン V!!!!』
超重力、ロボ? ヒペリオーン……なんだって? 妙な言葉が聞こえてきたぞ。
「当該機体の推定全長60メートル、質量およそ一千トン。背中には、重力子エンジンらしき反応あり」
あからさまにあれは、幼児向け番組などで見るような大型の人型兵器だな。決め台詞といい、いつもエルネスティが食い入るように見ているあの番組の主役メカによく似ている。
いや待て。どうしてそんなものが、こんなところにいる? まさかとは思うが、大規模なロケでもやっているのか?
「提督! 新たな通信が!」
と、そこにまた通信士から報告が入る。
「なんだ、あの人型の機体からか」
「いえ、それがあの巨大衛星である小惑星側より発信されています」
「なんだって、あの星からだと?」
「こちらも、流します」
大型の小惑星サイズの不可解な衛星から、電波が発信された。ということはやはり、あそこにも誰かがいるということになる。サイズからして、この星の宇宙進出用の拠点か何かだろうか?
と思っていたが、この音声を聞く限りは違うようだ。
『おのれ、ヒペリオーンVめ! 今日こそは貴様を亡き者にしてくれようぞ。ヴァキスよ!』
『ははーっ!』
『やつに機械獣アスモデウスをぶつけるのだ!』
『ヨルゴス様の、仰せのままに!』
……エルネスティが見ているあの番組に出てくる、悪役側のような台詞を喋り始めたぞ。まさかこの巨大衛星は、あの人型の機体に敵対する側なのか?
いやいや、そんなわけないだろう。なんでわざわざあんな大きな衛星を軌道上に乗せておいて、宇宙空間で戦う必要があるんだ。そういう争いは地上でやった方が効率的だろう。相手が宇宙人であれば、分からなくもないが。
それ以前にだ、どうしていちいち兵器の出撃を悟らせるような通信を、しかも平文で流している? そんなことをすれば、相手に行動を読まれるだろう。
まさか、僕らは何かの番組の電波を拾っているだけなのではないか。戦闘と考えるには、分かりやすくて非常識すぎるやり取りしか聞こえてこない。
が、レーダーがその巨大衛星から発進する大型の機体を捉えると、あの台詞が事実であることを知る。
「ヴァルモーテン少佐」
「はっ!」
「この状況、貴官はどう考える?」
「おそらくは、あの巨大衛星と人型の機体による戦闘が、開始されるものと考えられます」
「いや、そうだが……これは映画のロケとか、そういう可能性は?」
「ロケならば、周囲にもっと撮影用の船舶などを確認するはずです。加えて、撮影開始の合図のようなものも確認されておりません。総合的に考えてあれは、まさに戦闘直前の状況であると考えるのが合理的解釈であります」
「その戦闘をするもの同士がだな、平文でいちいち自身の状況をバラしかねないようなことを垂れ流したりするものか?」
「それは小官も違和感を感じますが、現に事態は動き始めているようです」
少佐がそう告げると、モニターを指す。レーダーサイトに映る2つの機影は徐々に接近し、やがて接触する。
『うおおおぉぉっ! 卑劣なるゴルゴン星人め! 無人の機械獣など寄越しやがって! 喰らえ、ヒペリオーン、ミサイルッ!!!』
パイロットと思しき人物の叫び声と共に、ミサイルらしき物体が4つ、あの人型の機体から発射される。それはまっすぐ、相手方の機体目掛けて進む。が、弾着直前にその機械獣と称する機体の放ったエネルギー波によって撃退されてしまう。
「ミサイル群、全弾消滅! 両者さらに接近しつつあります!」
互いにミサイルとビーム兵器を放つほどの機体でありながら、どういうわけか接近を続ける両者。このまま、接近戦にもつれ込む気か?
そもそも、ミサイルの発射をいちいち宣言さえしなければ、相手方に着弾していた可能性はある。平文の通信で発射をほのめかしてしまえば、せっかくのアウトレンジ攻撃も功をなさない。
おまけに、あれほど広い戦場で接近戦、しかも一対一だ。両者にどれほどの保有兵器があるかは不明だが、どちらも1機づつということはあるまい。しかもあのなんとかロボの方は、元々5機だったぞ。
ツッコミどころは、他にもある。巨大衛星側が動き出したのは、あの人型の機体が合体を終えてからだ。当然、事前にレーダーか何かで捕捉できていただろうから、ちょうどあの5機が合体をするタイミングで持てる兵力をすべて投入し攻撃を仕掛けていれば、楽勝だったのではないか。
と、ツッコミを入れたところで、目の前のあの茶番のような戦いはおさまる気配がない。
『くらえっ! 超重力パーンチ!!!』
実体弾攻撃から、今度は肉弾戦に移行した。だが、戦闘は戦闘だ。あれを止める義務が、こちらにはある。
「ヴァルモーテン少佐!」
「はっ!」
「連合軍規則、第53条に則り、あの両者の戦闘を停止する。全艦に伝達、全速前進し、あの地球軌道上に向かえ、と」
「はっ! 了解であります!」
ヴァルモーテン少佐とアマラ兵曹長が、慌ただしく全艦に僕の命令を伝達する。やがてこの旗艦オオスの推進機が全開運転に移行し、その音がこの艦橋内にも響き渡る。
◇◇◇
「くそっ! なぜだ、パンチが効かないぞ!?」
あの機械獣、こちらの渾身の一撃をもろともしない。いつもならば腕の一本や二本、吹き飛ばせるほどの威力を持つ重力子パンチが、今度の機械獣にはまるで歯が立たない。
『はっはっはっ! 愚かなる地球人よ、そのアスモデウスは、いつもの機械獣とは違うぞ! お前たちの、そのヒペリオーンVの攻撃など、とうに見切っておるわ!』
くそっ、ゴルゴン帝国の皇帝ヨルゴスの高笑いが聞こえてきやがる。俺は続けて、次の技を繰り出す。
「グラビティ・アローッ!」
両腕から、光の弓矢が現れる。それを弾いて、足が八本のツノの生えた虎のバケモノみてえな機械獣めがけて放つ。が、そいつも弾き返される。
「なんてやつだ……俺たちの攻撃が、効かないなんて」
俺は初めて挫折感を味わう。今までは、地上での戦いだった。街に降り立ち破壊を続ける機械獣を相手に、俺たちの情熱の結晶であるヒペリオーンVの武器を叩きつけてきた。が、ここは宇宙だ。勝手が違いすぎる。
『おい、兄貴、しっかりしろ!』
『なんだ、次の攻撃はどうした!?』
パオロとアルバーノが、俺に檄を飛ばしてくる。だがしかし、あの二つの武器をいとも簡単に弾き飛ばすような機械獣相手に、どう戦えっていうんだ?
『情けないわよ、ジーノ!!!』
が、そこにイレーニアのやつが一喝してくる。
「な、なんだと!?」
『たかが2回の攻撃を弾かれたくらいで、何をうろたえているのよ! あんたそれでも男なの!? いくじなし!』
ここぞとばかりに、イレーニアが責め立てる。
「だ、だけどよ……」
『だけど、なんなのよ! あんたが諦めたら、地球はどうなっちゃうのよ!』
この言葉に、ハッと気付かされる。そうだ、俺は負けるわけにはいかない。このヒペリオーンVの敗北は即、地球人類の滅亡だ。
「わかったぜ、やってやる! 何がなんでもあの機械獣を、倒してやりゃあいいんだろ!」
イレーニアの言葉に、俺は奮起する。いつもこいつには助けられているぜ。俺は再び、あの虎のバケモノに戦いを挑む。
「うおおおぉぉっ! 重力子パーンチ! 続けて、キーック!」
まるで歯が立たねえが、何か糸口があるはずだ。見いだせ、こいつの弱点。
と、その時、俺たちの「頭脳」が叫ぶ。
『ジーノさーん! 分かりましたよ!』
ヴァンニが叫ぶ。こいつ、何かを見出したらしい。さすがは天才ヴァンニだ。
「何がわかったんだ!?」
『はい、弱点です! やつのツノが、我々の攻撃を跳ね返しているのです!』
「なんだって!? それじゃ、あれをへし折れば……」
『勝機は、ありまーす!』
そうか、あれか、あの虎にしては似つかわしくないあのツノが、全ての元凶か。
「よし、みんなで力を合わせて、あれを倒すぜ! 超重力、キーック!」
俺はヒペリオーンVを操り、あのツノめがけてキックをかます。が、あの卑劣なる機械獣は、俺たちに向かって口を開き、光線を吐いてきやがった。
「ぐあああぁっ!」
『ぎゃあああぁっ!』
『きゃあああぁっ!』
機内温度が上がり、皆の悲鳴が響く。俺はどうにか光線を避ける。操縦桿が、握れないほど熱い。
「く、くそっ、なんてやつだ」
だが、俺はもう躊躇わない。仲間がようやく見出してくれた、あいつの弱点。あれを倒し、その先にあるゴルゴン帝国を滅ぼして、地球に再び平和を取り戻すんだ。
「どりゃああああぁぁっ! 重力子パーンチ!」
ヒペリオーンVの右手の拳が、赤く光る。狙うはあの機械獣のツノ、ただ一点。だがこいつは再び、口を開けて攻撃する予兆を見せる。
そしてまた、あの光線を吐いてきた。
「同じ手が、通用するかよ!!」
俺はその光線を避ける。きりもみ状に進みながら光線を避け、そしてやつの頭を捉える。熱い右手のパンチが、そいつのツノを打ち砕く。
ガツーンと、手応えがある。ツノを失った機械獣は、途端にオロオロと狼狽え始めた。あれはどうやら、やつの目でもあったらしい。
「今だ! とどめを刺すぜ!」
『了解、兄貴!』
『いつでもいいぜ!』
『敵は、戦意を失いつつありますです!』
『やっちゃってちょうだい、ジーノ!』
皆の心が、一つになる。俺は、このヒペリオーンVの必殺技を繰り出す。
「うおおおぉぉっ! 必殺、超・重・力・剣!!」
背中にある大剣の柄を掴む。それを引き抜くと、徐々にビーム状の剣が姿を現す。そいつを高らかに掲げると、俺はそいつをあの機械獣に叩きつける。
まずはそいつの首根っこに突き刺す。それを胴体の中ほどまで斬りつけると、そこで返して反対側の首根っこまで斬り裂く。その形は、まさにV字となる。
やがて、あの卑劣なる無人の機械獣は、大爆発を起こして果てる。俺たちは、勝利した。
◇◇◇
「巨大衛星側の機体、消滅!」
あの地球まであと60万キロという地点で、勝負がついてしまった。主役メカ……じゃないな、あの5機が合体してできた人型兵器の方が、勝利を収めたらしい。
そうなると当然、新たなる懸念が増える。
「あの人型兵器、ヒペリオーンVとかいう機体は、今度は巨大衛星を攻撃するつもりではないか?」
「今の戦況を判断するに、当然そうするでしょうね」
「まずいな。これ以上、犠牲が増える前になんとかせねば」
「提督! また、新たな通信が!」
「なんだと? こちらにも流せ!」
「はっ!」
戦闘が集結したかと思いきや、また何かが始まるらしい。
『おのれ、ヒペリオーンVめ! 愚かなる地球人よ、このゴルゴン帝国皇帝、ヨルゴスが直々に出陣し、相手してやる!』
えっ、皇帝? あの巨大衛星に、皇帝がいたの? しかも直々にって……いや、それ以前に、まだこいつらには兵器があったってこと? なぜさっきの機械獣と合わせて、出撃させなかったのか?
まるで茶番のような戦闘を延々と見せつけられ、僕は混乱がおさまらない。が、あれを止めるべく動き出す。
「ヴァルモーテン少佐!」
「はっ!」
「両者の平文通信の周波数にて、僕が直接呼びかける。直ちに用意を」
「了解です!」
僕はあの両者に、通信を試みることにした。