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#42 出現

「総員、乗船を完了! 出港準備よし!」

「了解、0001号艦、発進する!」


 オオサカからナゴヤに戻ってきた途端、いきなり出撃命令が下った。そのままオオスに引き返す間も無く、僕らはトヨヤマへと向かう。

 それから2時間ほどで出港する0001号艦。ミレイラの海賊船も同時に発進した。

 発進後すぐに月軌道の外側で待機する戦艦オオスに合流し、そこから目的地に向かうことになっている。

 出撃命令がかかった理由は、たった一つ。あの白い艦隊が現れた。

 が、現れた場所が問題だ。

 地球(アース)1019でも、地球(アース)061でもない。なんとこの地球(アース)001の外縁部に突如、多数の艦隊が出現したというのだ。


『……現在、第6艦隊が向かっている。第8艦隊は第6艦隊を掩護、白い艦隊を排除せよ』


 上昇中の艦内で僕は、軍司令部からの現状報告と、それに付随する命令を受ける。僕は答える。


「はっ! ですがエストラダ大将閣下、我々には白い艦隊との接触という任務もあるのですが、いきなり攻撃してよろしいのですか?」

『そんな悠長なことを言ってられる事態ではないだろう。我が地球(アース)001の宙域に大挙して現れたのだぞ。安全保障上、問答無用で排除するしかない』


 確かに、この宙域に踏み込まれたのではリスクを冒すわけにはいかない。僕は敬礼し、軍司令部のエストラダ大将はそれに返礼して、通信が切れる。


「戦いが、起きると申すか?」


 不安げに尋ねるマツ。僕はマツに答える。


「そうだ。この近くに、およそ1万隻の白い艦隊が現れた。すでにこちらに向かって進軍中とのことだ。戦いは避けられないだろうな」

「うむ、左様か。しかし今度の休みは存外、短かったな」


 少し残念そうな顔のマツだが、こればかりは向こうが悪い。僕だってもうちょっと休暇を楽しみたかったが、攻めてきたのでは仕方がない。これも仕事だ。

 しかし、あの事件がなければ僕らはまだ地球(アース)1019に駐留していたはずだ。本来は休暇の期間ではないから、これが正常といえば正常なのだが。

 それにしてもマツのやつ、オオサカで迷子になりいつの間にか天守閣から離れた桜門のところにいた。自刃の地の碑のところで会った男に連れられてそこに来たというのだが、どうにも的を得ない話だ。最初に見つけたというリーナも、その男の姿は見ていないという。

 それよりも気になるのは、あの手首に巻かれた三色の腕輪だ。あんなもの、いつのまに身につけるようになったのだ? これについて、マツはあまり語ろうとしない。


「規定高度到達、大気圏離脱を開始します!」


 我が艦は加速を始める。まず第一宇宙速度まで加速して衛星軌道上にのり、そこから最大出力で重力圏を離脱する。今回、あの海賊船ミレイラ号にも同じ機関を搭載した。我が艦に随行しつつ、あちらも大気圏の離脱を開始した。

 そして一路、戦艦オオスへと向かう。


「第6艦隊より入電! 白色艦隊は現在、準惑星エリスの遠日点よりおよそ1億キロの位置にて布陣し動かないとのことです」

「動かない? そこに何か、拠点でもあるというのか」

「いえ、そこまでは。第6艦隊および軍司令部でも現在、分析を進めているところです」


 どういうことだ。わざわざ1万隻も寄越しておいて、動かないなんてことがあるか。


「どうも白い艦隊というのは、動きが鈍い時がありますね」


 そう呟くのは、戦艦オオス艦長のジラティワット大佐だ。


「あちらだって、初めて踏み込む土地だ。おいそれとは動けないのだろう」

「そうですね、提督。今までも、そういうパターンばかりでした」


 僕に答えるジラティワット艦長だが、それでも僕は少し違和感を感じている。いや、白い艦隊が消極的な動きをすることが多いのは事実だが、初めての場所にはむしろ積極的に突っ込んでくるというのがやつらのパターンだ。

 それが、どういうわけか微動だにしていないという。いくらなんでも消極的すぎるというものだ。気になるな。


「第6艦隊より入電! 第8艦隊はその機動力をもって白色艦隊背後を急襲し、均衡を崩せ。宛て、第8艦隊司令官、ヤブミ少将! 発、第6艦隊総司令官、オルランドーニ大将!」

「急襲せよ、と来たか」


 続いて送られてきた電文は、第8艦隊にあの白い艦隊を後ろから突けとの命令を、第6艦隊総司令官の名で送ってきた。オルランドーニ大将という人を僕はあまり知らないが、長年、地球(アース)001外縁部から、隣のケンタウリ星域を担当している艦隊の指揮官だ。実戦経験は、ほとんどなさそうに思う。

 で、出してきた戦術は、あの艦隊を後ろから突けという単純なものだ。だがそれは地球(アース)001方向に追い立てることとなり、かえって危なくないか? やるなら第6、第8艦隊で合流し、敵を上回る戦力で正面からじわじわと押して追い払う、というのが常套手段ではないか。撤退路を追って白い艦隊の出現ポイントを探れば、こちらの守りを固める上でも大いに役立つ。だから今、やるべきは正面対決だと思うんだが。

 しかし、大将閣下からの命令である以上、拒むわけにはいかない。もしも白い艦隊が急速に前進したら、すぐに第6艦隊と合流して対処することにしよう。


◇◇◇


「白色艦隊に接近中、距離およそ60万キロ!」


 オオサカより戻りて、すぐにこのオオスの船に乗ることになってしもうた。あれから半日ほどして、白い艦隊と申す集団の背後を捉えようと迫りつつある。第6艦隊と申す1万の大軍勢が、あの白い艦隊の正面で対峙しておることもあるが、相当な速さで背後に迫ったゆえ、あちらの軍は振り返る間も無く我らの接近を許しておるようじゃ。


「おい、マツよ」

「なんじゃ、カズキ殿」

「なぜ、艦橋にいる?」

「妾は将軍の妻ぞ。同じ城、同じ船にいて戦さの行く末を見守らぬわけにもいくまい」

「いや、それを言ったらレティシアもリーナもいないぞ」

「レティシア殿は機関にて待機し、リーナ殿もデネット殿たちと共に剣を磨いて控えておると聞く。妾のみが戦さに加わらぬとは参らぬであろう」

「うーん、別に司令官の奥さんだからと、戦闘に加わらないといけない決まりはないけどね」


 カズキ殿はそう申すが、妾としてはどうしても戦さ場に加わりたい。大した力を持たぬゆえ、レティシア殿やリーナ殿、果ては海賊のミレイラ殿にも引けをとってしまう。

 どこか妾も、焦りを感じておるのじゃろうか? 戦いに加われず、さりとて子をもうけておるわけでもない。正妻のレティシア殿や、側室のリーナ殿との差を、ますます感じてしまう。


「なあ、マツよ」

「なんじゃ」


 と、カズキ殿が兵たちと忙しくやりとりをする合間に、妾に話しかけてくる。


「もしかしてマツは、自分が戦いに貢献できていないと、そう感じて艦橋に来ているのか?」

「う……」


 なんじゃ、心でも読まれたか? 随分と図星な問いを、妾に投げかけてくるな。


「……妾にはレティシア殿のような魔女の力も、リーナ殿のような剣術の力もない。ただ敗軍の姫という肩書きしか持たぬ儚い女子(おなご)に過ぎぬ。気にせぬ方が、おかしいであろう」

「そうかな。僕はマツの存在で、随分と助かっているよ。死にかけていた時も傍にいてくれたこと、それに4万の白い艦隊と対峙した時の混乱を収めてくれたこともあった。だれもマツのことを力のない、敗軍の姫などとは思っていないよ」


 と、カズキ殿は妾にそう告げる。が、妾自身はここに来て以来、刀や槍を手に取り戦ったわけでもなく、ただ突っ立って戦さの行く末を見る他ない。できることといえばせいぜい、兵たちを鼓舞することくらいじゃ。

 が、此度はその機会すらないかも知れぬ。相手はむしろこちらよりも少なく、しかも挟み撃ちじゃ。どう見たって兵たちが動揺するまでもなく、鼓舞する必要などない。

 となれば妾はさしずめ、将の脇に立つただのお飾り姫であるな。やれやれ、こんなことならば妾も武術を習うておればよかった。僅かに薙刀の心得がある程度にして、今となってはどうにもならぬ。

 妾は左腕に巻かれた腕輪をさする。そういえばあの時、ヒロイ殿はこれをお守りだといって巻いてくれたな。カズキ殿のためにもなると申しておった気がするな。しかし、ただのお守りではないか。

 お守りといえば、妾も父上からトヨツグ家伝来のお守り札を譲り受けたが、あのオオヤマ城の戦いで大砲の爆風を受けた際に無くしてしもうた。お守りと言えるものは、唯一これだけに過ぎぬ。

 しかし漆黒の闇夜が無限に広がるかの宇宙と申す場所では、このように小さきお守りなど神力を発揮するまでもないのではないか? かようなものが、千里に広がるこの一千の船を守り切れるとは思えぬ。

 などと思いながら、妾は左腕をさすっておった。

 が、妙な感触が、妾を襲う。

 左腕がうずく。それはちょうど、あの腕輪の辺り。ざわざわとした感触が、腕輪に沿って妾の左手首を襲う。いや、それだけではない。なにやら声が聞こえてくる。


『左! 左によけろ!』


 左じゃと? 何をいうておるのか。じゃがこの声は、どこかで聞いたことのある声じゃな。はて、誰じゃったか……

 いや、妾はすぐにその声の主を思い出した。それはまさに、妾にこの腕輪をくれた張本人じゃ。

 それと同時に、妾の脳裏に嫌な予感が走る。


「カズキ殿! 兵らに告げよ! 左に避けよ、と!」

「えっ!? 左!?」


 いきなり妾が叫んだので、何を言い出したのかと合点がいかぬカズキ殿。じゃが、時間がない。妾は続けて叫ぶ。


「まっすぐ進んではならぬ! 左じゃ、早う左に避けるじゃ!」


 妾のただならぬ気配に押されたか、カズキ殿はやや訝しげな表情ながらも、兵たちにこう告げた。


「第8艦隊、全艦に告ぐ! 取り舵いっぱい、急げっ!」


 急な命令に、ここに詰める兵らに動揺が走る。が、将の言葉に逆らうわけにもいかず、皆はそれに従う。


「全艦、取り舵いっぱい、急げ!」

「とーりかーじ!」


 正面にある大きなモニターに映る星が、一斉に右に流れる。つまりそれは、左に向き始めた証拠であろう。身体には感じぬが、猛烈なる勢いで左へと進み始めていることは、その動きで感じ取ることができる。

 が、それからしばらくして、異変が起きる。

 急にそのモニターが、白く光り始めたのじゃ。


「高エネルギー反応! 正面より砲撃を視認!」


 予期せぬ攻撃が、我らに浴びせかけられた。

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