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#31 接点

『面白いことになってきたじゃないか』


 昨夜のうちに、あのミレイラという女海賊の証言を報告書にまとめ、コールリッジ大将に送った。それを読んだからだろう、大将閣下から僕宛に直接通信が入る。


「いえ、面白いとは思えませんが、あの白い艦隊の正体解明に向けて一歩、前進できたことになります」

『そうだな。それまで謎だったあの「ウラヌス」の正体が少し見えてきたな。しかしまさか、本当に獣人族だったとはな……』


 コールリッジ大将は少し考え込む。我々にとって獣人族とは、地球(アース)1029、1030にのみ生息する半獣半人の種族でしかない。とても文明的な何かを築いているとは言い難い彼らと同じ種族が、あの白い船を動かしている。にわかには信じがたい事実だ。

 しかしこの事実を受けて、我々の行動が変わることはない。白い艦隊が我々の領域に踏み込んで来れば、それを迎え撃つ。それだけだ。


『あの海賊を、第8艦隊に加えよ』


 ところが、である。この大将閣下は、とんでもないことを口走る。


「あの、大将閣下……今、海賊を我が艦隊に加えよ、と言ったように聞こえたのですが?」

『その通りだ。確かにそう言った』

「いや、待ってください。何がどうなったら、この艦隊に海賊を加えることになるんですか?」


 とうとう頭がおかしくなったのか、この総司令官は。だが、コールリッジ大将は僕にこう説く。


『この報告書によれば、あの海賊は白い艦隊の乗員によって一度捕まった後に、解放されたのであろう?』

「はい、そう証言しております」

『これが我々連合側や連盟側の軍船だったら、そうはいかないだろうな』

「そうですね。我々に対しては、やつらは無警告に攻撃を仕掛けてきます」

『と、いうことはだ。理由はわからないが、やつらはあの海賊船を攻撃対象とは見ていない、と言うことになるのであろう』

「確かに、そうなりますね」

『ならばその海賊と海賊船を第8艦隊に預け、あの白い船と接触する機会に備えるのが妥当ではないか』

「ちょっと待ってください。なんでそこからいきなり、我が艦隊に海賊を加えることになるんですか?」

『我々の目的は、あの白い艦隊を殲滅することではない。可能であれば奴らと接触し、停戦に持ち込むための機会を得るための行動を取らなければならない』

「それはそうですが……まさか、そのためにあの海賊船を使えと?」

『そうだ、察しがいいじゃないか』

「いや、それだったらその海賊船自体を使えば済むことであって、中の乗員は不要では?」

『それは分からん。確実に言えることは、我々人類と白い艦隊を操る種族との唯一の接点が、その海賊集団だけだと言うことだ。もしかすると、その女海賊があの獣人族と接触できる何か特別な力を持っているのかもしれんじゃないか』

「ええーっ? そんな非常識な能力、あり得ませんよ」

『そうとも言えんだろう。非常識な能力者ばかりが集まっているのが、貴官の艦隊ではないのか』


 僕の艦隊は、まるで奇人変人コレクションでもしているとでも言いたげな一言だ。確かに、能力者が多いのは認めるが、にしてもひどい上官だなあ、この大将閣下は。


『貴官と貴官の指揮する第8艦隊の役割は、あの未知の艦隊の正体を暴き、この宇宙に平和をもたらすきっかけにつなげることだ。そのためには海賊の一つや二つ、利用することも避けられまい。そういうことだ。では』


 と、あまりにも無責任なことを僕に押し付けた後、コールリッジ大将は通信を切る。


「はぁ……」


 このところ僕は、ため息が絶えない。ただでさえ一千隻の艦隊には荷が重過ぎる任務を押し付けられている上に、海賊の面倒まで見る羽目になろうとは。

 その決定をまず、ヴァルモーテン少佐に伝える。驚愕するかと思いきや、嬉々とした表情でこう答える。


「さすがは大将閣下! お見事な采配です!」


 いやあ、あれ、見事な采配か? 単なる丸投げじゃないか。それも今度は、犯罪集団を投げてきやがった。僕はその決定を伝えるべく、あの6人の海賊どもを呼ぶ。

 独房から出され、手枷も外され、しかも艦橋内の会議室に連れてこられ、ぐるりと士官に囲まれている。急に待遇が変わり、かえって不信感を抱く6人の海賊。

 その場にはヴァルモーテン少佐にアマラ兵曹長、デネット少佐、そしてレティシアとリーナもいる。マツには2人の子供の世話を頼んでおいたため、この場にはいない。

 他にもジラティワット艦長、ブルンベルヘン少佐を始め、数人の士官がこの会議室に詰める。彼らの監視と言うこともあるが、同時にこの海賊らの処遇に関する決定を伝えるため、この場に呼んだ。

 で、頭領であるミレイラは腕を組んだまま、この場の異様な雰囲気に押されて沈黙を守っている。いや、この場にいる全ての者が、沈黙していた。

 この異様な沈黙を、僕の一声が破る。


「貴殿らの今後に関する、軍の決定を伝える」


 軍の決定。通常、海賊という無法者集団に下される決定といえば、それは生死どちらに進むにせよ、この世との決別を意味する。

 が、僕が伝えるその決定は、それとは真逆だ。


「貴殿ら6人、及びその船を、我が第8艦隊司令部所属とし、特殊任務についてもらう」


 その決定を聞いて、会議室内に動揺が走る。予想だにしないこの決定を聞いて、ジラティワット艦長を始めとする士官らがざわめく。


「これはコールリッジ大将閣下、および軍司令部の決定事項なのです!」


 ざわめく会場を鎮めるべく、ヴァルモーテン少佐が捕捉する。それを聞いて、皆は再び沈黙する。


「はぁ!? あたいらがブイヤベースの指揮下に入るってぇ!? まっぴらごめんだよ、そんな話!」


 当然、ミレイラは拒絶する。が、僕はそれにこう応えるだけだ。


「拒絶となれば、貴殿らを海賊として罰するのみだ。それはすなわち、死を意味する」


 つまりこいつらに、選択肢などないことを告げる。受けるか受けないかは、まさに天国と地獄だ。どちらを選ぶかなど、聞くまでもないだろう。

 その決断を促すべく、さらに僕は続ける。


「貴殿らは、この宇宙にいる人類で唯一、我々が『ウラヌス』と呼称するあの白い艦隊を操る種族と接触し、生還を果たした者達である。我々はその『ウラヌス』との接触する手段を得るため、貴殿らに特別措置を取ることを決定した」

「……つまり、あたいらはその白い船の連中と会って、どうにかしてそいつらと繋がりを持てと、そういうわけなんだな?」

「そうだ」


 このおかしな決定にまつわる自身の役割を、すぐに理解する。それは危険な任務には違いないが、拒絶すれば死が待っている。これだけの軍機に触れる決定を聞いて拒絶などすれば、確実に処刑されることだろう。

 そこに、リーナも口を開く。


「私からもお願いする。これは私の故郷である地球(アース)1019の運命をも左右する任務だ。是非ともそなたらには、受け入れてもらいたい」


 リーナが海賊らを諭す。それを聞いたミレイラは、こう応える。


「……ひとつ、条件がある」

「なんだ、条件とは?」


 いきなり、条件などと言ってきた。この期に及んで条件などつけられると思う辺り、なかなか図太い神経の持ち主だな。


「大したことじゃねえ。リーナ姐様(ねえさま)直々に、あたいに剣の稽古をつけて欲しい。それだけだ」


 は? 稽古? そんなことでいいのか。随分と無欲な海賊だな。


「そんなことか、私は構わんが、しかしなぜ稽古など欲するのか?」

「あたいだって好きで海賊をやってたわけじゃねえ。ただ、おのれの持つ剣士としての技を活かせる場が、海賊しかなかったからやってただけだ。剣士として生きる道があり、それを高められるんなら、あたいは危険な任務でもレジ打ちでも、何だってやるさ」


 なるほど、そういうことか。つまり利害が一致したということだな。図らずもこいつとリーナが剣を交えたことが、我々の思惑通りに事をを運んだことになる。


「貴殿らには、多少の行動や所持品の制約はあるが、基本的には自由だ。なお、これまでの海賊行為による民間船への損害、及び貴殿らの船の修理、それらは我が地球(アース)001宇宙艦隊司令部が負うものとする。これらの手続きのため……」


 僕はその後の事務的な話に移る。僕としては不本意だが、ともかくこの海賊どもを我が艦隊に取り込むことに成功した。


「あーっ! 疲れたぁ!」


 特に何もしていないレティシアが、なぜか疲れをアピールする。お前、ただ僕の横で座って聞いてただけだろう。僕も、何でこの場にこいつを入れてしまったのやら。


「リーナ姐様!」


 と、その横に座るリーナに、馴れ馴れしく駆け寄るものがいる。そう、女海賊ミレイラだ。


「おいミレイラよ、私は妹など持ったつもりはない。その『姐様(ねえさま)』というのはやめよ」

「いや、敢えて呼ばせてもらうぜ、リーナ姐様よ。あたいは剣でやり合った時から、姐様に惚れちまったんだ。まさか姐様と共にいられるなんて思わなかったぜ。不肖、ミレイラは、姐様に一生ついて行きやすぜ」


 それを見たレティシアが、ミレイラに突っかかる。


「おい海賊、おめえ何リーナに馴れ馴れしくしてんだよ」

「うるせえ魔女。あたいと姐様は、互いを剣で語り合った仲なんだよ。てめえみてえな下品な大道芸とは違うんだよ」

「なーにが剣で語り合った仲だよ。んじゃ聞くが、リーナの胸の谷間に何があるか、おめえは知ってるのかよ?」

「なっ! なんてこと言い出すんだ、この魔女め!」

「俺とマツ、それにカズキは、こいつの隅々まで知ってるぜ。たかが剣で語り合ったくれえで、偉そうな態度をするんじゃねえよ」

「あー、レティシア、頼むからそういう話は……」

「おいブイヤベース、てめえ人の話に割り込むんじゃねえよ」

「ぶ、ブイヤベースって……くっくっくっ、何がどうなったら、カズキがブイヤベースって呼ばれるんだよ」


 急に女海賊に好かれて当惑するリーナに、その女海賊をいじり出すレティシア、その様子をただ呆然と眺めるしかない、僕と海賊の手下5人。

 ますますおかしな連中を加えることになっちまったな。この司令部は一体、どうなるのか? 先が思いやられる。

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[良い点] 大将閣下まで非常識なこと言い出したぞ(≧▽≦) [気になる点] “ますますおかしな連中を加えることになっちまったな” カズキさんの周り限定なら順当、というか常識人だとたぶんもたない(_ …
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