#30 拿捕
「えっ!? ちょっと待てデネット少佐、まさか剣を持った相手に、リーナは木刀で挑んだというのか!?」
とんでもない報告が、僕の元に飛び込んできた。リーナが、剣を持った海賊の女頭領に木刀で戦いを挑み、勝利したというのだ。
だが待て、どうして木刀で闘った? いや、そんな武器でどうして勝てる? おかしいだろう、いろいろと。確かにリーナは強いが、それはあの魔石を埋め込んだ魔剣があればこそじゃないのか。
だが、ともかくリーナは勝利し、海賊は捕まり、そしてその海賊船は拿捕した。その海賊の乗っていた赤い船は今、旗艦オオスの艦橋脇に縛り付けてある。
「おい、女海賊が捕まったって聞いたぜ。しかも、リーナが捕まえたんだって?」
「かいぞくぅ!」
どこで聞きつけたのか、レティシアが海賊のことを口走りながら現れた。
「なんと、海賊相手に木刀で戦いを挑み、勝利するとは……さすがはリーナ殿じゃ」
マツも颯爽と現れる。しかしこいつら、ほいほいと艦橋に立ち入り過ぎだ。仮にもここは、我が艦隊の中枢なんだぞ。
「だけどよ、いくらリーナとはいえ、木刀だろ? よほど弱かったのかねぇ、その相手はよ」
「いや、そうでもないらしい。なんでも、デネット少佐が銃を構えた矢先に懐に踏み込まれて、あっという間に銃を弾き飛ばされたと言っていた」
「なんだって? デネットがやられたのかよ」
「いや、幸い剣先を向けられただけで、負傷はしていない。ともかく、陸戦隊員としてそれなりの実力者であるデネット少佐の間合いに一瞬で飛び込んでくるような奴だ、それ相応の腕だろう」
「だが、リーナの方が一枚上手だった、ということか」
「うむ、さすがはリーナ殿。お見事であるな」
レティシアは驚き、マツはひたすら賞賛する。当のリーナはと言えば、まだこっちには戻っていない。
「で、その海賊船の乗員はどうした?」
「はっ、船員は全部で6人。頭領以外は男で、全員、艦内の拘置所に収監したとのことです」
「そうか」
まさかアントネンコ大将が口にしたあの噂の女海賊を捕まえることになろうとは、予想もしていなかった。どうして僕はこう変なやつばかりに出会ってしまうのか……
「ちょっと提督! なに変質者のような目でこっち見るんですかぁ!」
たまたま目線の先にいたグエン中尉が叫ぶ。いや、別にいつも通りモニターを見てただけだが、こいつにかかれば僕は常に「変質者」ってことになってるからなぁ。まあ、そんなことはどうでもいい。ともかく、捕まえた海賊をどうしようか?
そういえばアントネンコ大将が「面白いやつ」と言ってたから、あのお方にその海賊を押し付けるとするか。あんな物騒な連中は、聡明で尊大なる大将閣下にさっさと引き渡して、本来の任務に戻るとしよう。
「提督、そろそろ尋問の時間ですよ」
ところが、ヴァルモーテン少佐が何やら不穏なことを僕に告げる。
「尋問って、誰のだ?」
「決まってるじゃないですか。あの海賊の、ですよ」
「えっ、僕がやるの?」
「それはそうでしょう。他に適任者がいませんし」
「いや、そういうのは艦長がするんじゃないのか?」
「ジラティワット艦長より、提督の方が暇そうですからね。ここは司令官直々に尋問し、この宇宙に我々の恐ろしさを知らしめてやりましょうぞ」
何を言ってるんだ、このイカレ参謀は。海賊なんて、軍事裁判の後に処刑されるか、良くて一生辺境惑星の監獄に閉じ込めて労働に従事させられるのがオチだろう。そんなやつらに恐ろしさなど知らしめて、どうするつもりか?
結局、僕は嫌々、その尋問を行うことにする。僕が話すのは当然、その海賊のリーダーということになるが、つまりそれは噂の女頭領だ。嫌だなぁ、そんなやつと話すのは。
「おう、カズキ殿、どこへ行くのか?」
僕が憂鬱な気分で艦橋を出て通路を歩いていると、リーナが戻ってきた。
「ああ、今から海賊の頭領を、僕が尋問することになったんだ」
「そうか、あの女剣士をか」
「そういえばリーナ、その女頭領と木刀で闘ったというのは本当か?」
「本当だ。それしか武器がなかったからな。やむを得まい」
「いや、やむを得まいって、よくそれで勝てたな」
「相手は先端のみに鋭利な刃がついたレイピアだったからな。これがサーベルだったら、さすがに木刀では敵わなかったな」
いや、相手がレイピアでも日本刀でも、木刀では普通、敵わないと思うぞ。だが、かつては自身の数倍もの大きさの魔物相手に戦いを挑んできた戦士だけのことはある。こいつ、どこか感覚が麻痺してるな。
「尋問ならば、私も行こう」
「えっ!? リーナも行くのか?」
「闘った者同士だ、私がいた方が、話が捗るかもしれぬ」
「いや、かえって警戒するんじゃないのか?」
「そんなことはない、剣を交えた者同士だからこそ、分かり合えるというものだ」
そんな熱血漫画的な展開が現実に起こるものか。相手は恨みに思うあまり、その場で暴れ出すかもしれないぞ。
「おう、俺も行くぞ」
と、その話をいつの間にか聞いていたレティシアまで、加わろうとしていた。
「はぁ? レティシア、お前が言ってどうするつもりだ」
「面白そうじゃねえか、女海賊って。一生に一度しか見られねえかもしれねえからな」
希少動物でも見るような勢いで押しかけないでくれ。尋問の邪魔だ。
「なら、妾も参るぞ」
さらに追い打ちをかけるように、もう一人加わる。
「あの、マツよ。お前が行ってどうするつもりだ?」
「聞けば鉄砲も使わずリーナ殿と一騎討ちをしたという、まさに武士道の鑑というべき戦いぶり。妾はいたく感激した。是非ひと目、その者を見たいのじゃ」
マツまでついてくることになったぞ。こいつら、ただ単に海賊が珍しいという理由で僕と同行すると言ってるようなものだ。そんな不純な理由で、その危険な人物に会わせるわけにはいかない。
……と思っていたが、ついてきてしまった。
で、尋問する部屋の前では、一人叫びながらドアをガンガンと叩くやつがいる。
「ちょっと、女海賊をさっさと引き渡しなさいよ!」
あれはマリカ少佐だ。珍しく荒れているな。どうしたのか?
「マリカ少佐、何をそんなところで騒いでいる?」
「決まってますわよ、提督! あの女頭領とやらを引っ張り出し、この世から消滅させてやるんです!」
「待て、マリカ少佐。今から尋問をだなぁ……」
「海賊に人権などございませんわよ! 特にデネット様の喉元に剣先を向けたというあの不届きな女海賊は、宇宙に叩き出してオオスの特殊砲の前に放り投げて一撃放ち、原子レベルで消滅してやらないと気が済みませんのよ!」
かなり物騒なことを口走る士官だな。僕はデネット少佐を呼び、暴れるマリカ少佐を引き取ってもらうことにする。
で、ようやくゴタゴタが収まって、やっと尋問室に入ることができた。
僕の前に、その女海賊がいる。両手を枷で拘束され、憮然とした表情でこちらを見る。僕とレティシアら3人、そして記録用の士官が部屋に入ると、その重い鉄の扉がバタンと閉められる。
両脇には、見張りの兵が2人いる。いずれも陸戦隊員だ。指紋認証タイプの銃を腰に下げて、この女海賊を監視している。
そんな物々しい雰囲気の中、僕は口を開く。
「ぼ……小官は地球001、第8艦隊司令官、ヤブミ少将だ」
聞いているのかいないのか、身動ぎもせず僕の方をただ睨みつけるその女海賊は、しばらくして応える。
「……てめえが噂の、ブイヤベースか」
一瞬、僕は面食らう。僕にまつわる噂には色々とあるが、ブイヤベースなどといわれたのは初めてだ。こいつには一体、僕のことはどのように伝わっているのだろうか?
「ぶ……ブイヤベースって……」
笑いを堪えられないのは、レティシアだ。僕がブイヤベースと呼ばれたことが、ツボにはまったらしい。そんなレティシアを放っておき、僕は続ける。
「まずはお前の所属する星と、名前を教えてもらおうか?」
「あたいは地球1008出身、名前はミレイラだ」
「ではミレイラ、お前には民間船舶への海賊未遂行為、そして過去にこの宙域で3件の海賊行為を行った疑いがある。それは事実か?」
普通に考えれば、素直に海賊行為を認めるなんてことはしない。この手の稼業に関わる奴らは、往生際が悪い。だからきっとはぐらかそうとするに違いない。
「ああ、認めるぜ。あたいが手下の5人を引き連れて、海賊行為に手を出したんだ」
と思ったら、あっさりと認めた。僕は拍子抜けする。
「いや、あの……何でもない。ではお前の罪状について、全て話してもらおうか」
「っと、その前にひとつ、質問がある」
罪状認否があっさりと終わったところで、その中身について聞き出そうとしたら、いきなり質問したいと言い出した。
「構わないが、なんだ?」
「横にいる、金髪の木刀の剣士、そいつの名を知りてえ」
「は? 剣士の名を、知りたいだって?」
何を言い出すんだ、こいつは。だが、こいつは続ける。
「あたいの『縮地』技をいともあっさりとかわした上に、木刀一本であたいのレイピアを吹き飛ばしやがった。さぞかし名のある剣士と見た。どうせ海賊として処罰されるんなら、せめてあたいを倒したそのお方の名を記憶に留めて、バルハラに向かいたい。あたいの願いは、それだけだ」
リーナは言っていた。剣士同士、分かり合える、と。まさにそんな展開が待っていたとは思わなかった。するとリーナが応える。
「よかろう。我が名は、リーナ・グロティウス・フィルディランド。地球1019、フィルディランド皇国の皇女にして、雷神炎の使い手、そしてここにいるカズキ殿の妻でもある」
「リーナ様、か。しっかし皇女様だったとはねぇ……しかも、噂通りブイヤベースの妻だったなんて。強えやつだとは聞いていたが、桁違いの強さだ。このミレイラ、感服したぜ……」
まるで全てに吹っ切れたかのような微笑みを浮かべるミレイラ。それに応え、微笑み返すリーナ。この2人の剣士の間には、言葉では伝えられない精神的なやりとりが交わされているに違いない。
なんてこと、あるわけない。なに清々しい顔で、僕をそっちのけでリーナばかりみてるんだ、こいつは。その横ではレティシアは相変わらず笑いを堪えている。そしてもう一人、マツが口を開く。
「うむ、まさに武道を極めし両者こそが分かり合うというものじゃな。これこそ、真の武士道ともいうべきものであろう」
「はぁ? なんでえ、この茹でエビみてえなやつは」
「ゆ、茹でエビじゃと!?」
その両者を讃えたマツに向かって、この女海賊は「エビ」呼ばわりする。
いや、確かに赤い着物姿はエビに見えなくもないが……そうじゃなくて、この一言でマツの表情は怒りに変わる。
「何を申すか! お主など、まな板の上のコイではないか! それも遠く蛮族の巣食う地を流れる泥川に住む、汚泥まみれの生臭いやつじゃ!」
「はぁ!? 何言ってんのか分かんねえよ。てか、なんだよそのけったいな服はよ。おめえ、そんな動き辛え服着て、よく平気でいられるもんだなぁ、おい」
マツが珍しく口汚いことを言い出した。それに応える女海賊も言いたい放題だ。
「それに、さっきから横で笑いを堪えてるあの銀髪の女、ありゃ誰なんだよ?」
そして、その矛先はレティシアに向く。
「お、俺か。俺はレティシアだ」
「なんでぇ、そのレティシアってのは、何しにここにいるんだ?」
「俺とマツ、そしてリーナは、カズキの嫁だからな。だからここに来てんだよ」
「はぁ!? おいブイヤベース、てめえ3人も妻がいるのかよ!」
いい加減、ブイヤベースはやめてくれないかなぁ。その前にどうして僕は、ブイヤベースなんだ。
「ついでに俺は、こう見えても魔女なんだぜ」
「魔女? なんだよ、まさかあたいをネズミにでも変えにきたっていうんじゃねえだろうな?」
「そんなことできるわけねえだろう。俺の力は、こういうんだ」
と、レティシアはそう言うと、尋問室の机に手を触れる。そして、手を動かす。
フワッと、その机が浮き上がる。レティシアにしてみればこの程度の机を持ち上げるなど、造作もない。が、それを見たこの女海賊はさすがに驚いてこう言い出す。
「な、なんだ、こいつはぁ! まるで大道芸人じゃねえか! どうなってやがる!」
「大道芸じゃねえよ、魔力だよ! 俺はこの力ゆえに、この艦にいるんだ」
「はぁ!? 物を持ち上げるだけの魔力が、何の役に立つって言うんだよ!」
「現におめえの船は、0001号艦に追いつかれただろう。あれは別の怪力魔女の力で加速して、それで一気に追いつかれたんだよ」
「な、なんだってぇ! まさかあたいの船は、魔女にやられたって言うのかよ!」
レティシアが言っていることは事実だ。だが、それを可能にする魔石エンジンのことは知らないだろう。だがこの海賊は、リーナだけでなく、魔女の力によって負けたことを知る。
「はぁ〜、なんて船だよ、ここは。魔女に皇女様に、茹でエビを嫁にするブイヤベースの巣窟だったなんてよ……そんなドロドロな奴にあたいは、やられたって言うのか……」
落ち込むミレイラ。気持ちはわかる。自分で言うのもなんだが、よく言えば個性的、悪く言えば支離滅裂な妻達を抱えた指揮官など、奇妙な存在以外の何者でもないだろう。
そんな連中に、いともあっさりと捕まってしまった。落ち込まない方が、どうかしている。
と、こんな感じに僕は、この海賊とのやりとりを終えるはずだった。
この一言が、なければ。
「あーあ、白い船の連中に捕まった時はなんとか生き延びたって言うのに、こんな訳のわかんねえ司令官の船に捕まっちまうなんてよ。あたいはなんて運がねえんだか……」
そう、今、白い船と言った。その船の連中に捕まった? しかも、生き延びたって……それはつまり、白い船の乗員を見たということだよな? その一言に、僕は食いつく。
「なんだって、白い船だと!?」
いきなり立ち上がって叫ぶ僕に、慄く女海賊。
「ななななんでぇ!」
「お前、今、白い船と言っただろう! 捕まったって、どういうことなんだ!」
「そ、そんなことより、あたいの余罪を調べるんじゃ……」
「そんなことどうでもいい! その白い船のことを聞かせろ!」
あまりの剣幕で問い詰めるものだから、さすがの女海賊もたじろぐ。その海賊の抑え役である見張りの兵士と記録用の士官が、いきり立つ僕を抑えたほどだ。
そんな一幕もあったが、僕もミレイラも落ち着いたところで、その白い船の話が始まる。
「ありゃあ、今から3週間くれえ前の話だ。それはこの星系の外縁部、第10惑星のすぐそば、そうそう、クロノスとかいう化け物がいたっていうあの場所に、あたいらは向かったんだよ」
「なんで、クロノスの残骸などに?」
「だっておめえ、この宇宙でも屈指の化け物だったんだろう? なら、お宝の一つや二つあるんじゃねえかって思ってよ」
やはり海賊だな。お宝には目がないらしい。だが、あそこはもはや黒い無人艦艇の残骸と岩が漂うだけの、文字通りの墓場である。
「で、あたいらは見つけだんだよ」
「見つけたって、何をだ?」
「お宝だよ」
変なことを言うやつだな、お宝なんてものがあるのか、あんな場所に。
「どうせ下らないものを見つけたんじゃないのか?」
「んなこたねえよ。あたいらが見つけたのは、真っ赤な宝石だよ」
宝石? ああ、多分それは、魔石のことだろう。言われてみればあれはルビーのようなものだから、宝石と言えなくもない。
そういえばあそこには魔石を動力源とする無人艦艇が大量に浮遊している。当然、魔石だらけなはずだ。いわば宝石の宝庫とも言える。
だがそんな魔石も、リーナの故郷である地球1019にはたくさんあるんだよなぁ。あまり価値があるとは思えないが、こいつらにはそれが価値あるものに思えたらしい。
「んで、その宝石を手に入れて有頂天になってると、囲まれちまったんだよ」
「囲まれたって……まさか、白い船か?」
「そうだぜ」
どうやらこいつらが出会ったのは、あのクロノスのいた宙域。なるほど、あそこならば白い艦隊が出没してもおかしくない場所だ。
「確認するが、その白い船とは、民間船ではないだろうな?」
「ちげえよ。先端に馬鹿でかい砲門つけた軍船だったよ」
「だが、今回のように逃げられなかったのか?」
「気づいたら、周りを囲まれてたんだよ。くそっ、思い出しただけでも腹が立ってきたぜ」
「で、それからどうなったんだ」
「今回と同じよ。あいつらが、乗り込んできたんだよ」
「乗り込んだって……てことは、まさか」
「ああ、それも今回と同じだ。あたいは闘いを挑んだ」
いよいよ、核心に迫りつつある。あの白い艦隊は有人であることは分かっているが、そこに乗る種族がどんな姿をしているのか、全く分かっていない。
そういえば以前、マリカ少佐があの白い艦隊には「獣人族」が乗っている、と言っていたな。それが今、証明されようとしている。
「でよ、扉が開いたんで、あたいは『縮地』で挑んだんだ」
「デネット少佐が言っていた、一気に間合いを詰めてくると言う、あの技か」
「おうよ。ところがどっこい、そいつはあたいの腕を掴みやがった」
「つ、掴んだだと? お前、剣を持ってたんじゃないのか?」
「その剣を持った腕の手首を掴みやがったんだ。とんでもねえ手練れだったな」
リーナとやりあえるだけの腕の剣士が、武器も使わずあっさりと動きを読まれ、止められた。そりゃあショックだったろうな。
「で、それからどうなったんだ? そこで銃で撃たれて殺されたか、それとも捕らえられ、どこかへ連行されたのか?」
「いや、それだったらあたいら、ここにいねえよ。その後、逃してもらえたからこそ、今、ここにいるんだろう」
「それはそうだな。で、その白い船の乗員というのは、どんな姿だった?」
「どんなって、人の形をしてたぜ。でもそいつら、なんかおかしな奴らでよ。なんて言うかなぁ、頭の上に、オオカミみてえな耳が生えてんだよ」
こいつ今さらっと、その白い船の乗員が何者であるかを喋った。それで確信する、マリカ少佐のいう通り、やつらは獣人族だ、と。
「んで、尻尾が生えてるやつとそうでないやつがいてよ。しかも、何を喋ってんだかわからねえ。フンガフンガと言ってるばっかりでよ、言葉が通じねえんだよ」
言葉は違うようだな。まあ、この宇宙に統一語なんてものがある方が本来おかしい。星が違えば、言葉も違う。その方が当然だろう。
「で、どうしてお前らは逃してもらえたんだ?」
「いや、わかんねえな。で、あたいはずっとリーダー格のやつに腕を掴まれたまま、あたいと共に船の中に入ってきたんだ。ちなみにそいつら、腰に剣をつけてたぞ」
「はぁ? 剣だって? 普通、銃じゃないのか」
「知らねえよ。あたい以外の5人、ベンやイサーク、チコ、ランス、クルスも、その腰の剣を突きつけられて脅されて、船ん中を案内させられたんだぜ」
妙だな。相手は白い艦隊、すなわち大口径のビーム砲を積んだ船を使う者達だ。それがどうして、護身用の武器が剣なんだ?
こいつらが銃を使わない相手だと知って、敢えて剣で武装した? いや、考えられないな。普通、銃があればそれを身につけるだろう。他の乗員を脅すにも、剣より銃の方が手軽だ。そこから推測するに、そいつらは本当に剣しか持ってなかったと考えるしかない。
「そんでよ、見つかっちまったんだよ」
「見つかったって、何が?」
「お宝だよ」
「お宝って、さっきの赤い宝石ってやつか?」
「そうだよ。そいつら、あたいらがせっかく見つけたその宝石を、持っていっちまいやがった」
それはつまり、魔石を奪われたということか。しかし、妙な話だな。こっちの銀河には、それこそ魔石なんてたくさん存在する。わざわざそれを見つけて奪い取る必要などあるんだろうか?
それを魔石と知って奪ったのか、単なる宝石として奪ったのか、これだけではよくわからないな。しかしわざわざ奪ったと言うのが引っかかる。つまりあの魔石はその白い船に乗る獣人族にとっては、奪うに値するものだった。つまり、彼らにとっては重要なものだと言うことに他ならない。
「その魔石が奪われたとして、どうしてお前らは助かったのだ?」
「魔石? なんだそりゃ」
「あ、いや、宝石だ。その宝石を奪われたのはともかく、その後、そいつらはどうしたんだ」
「それがよ、何かあたいらにぶつぶつと言った後に、そのまま自分の船に帰って行ったんだ。で、あたいらの船から離れちまってよ」
「つまり、お前らは逃された、と?」
「まあ、そんなところだ」
「でも、なんで?」
「知らねえよ。こっちが聞きてえくれえだ」
やつらは、こいつらの海賊船を拿捕した。魔石を見つけ、奪った。それを持って、何事もなかったかのように、去った。
そして白い船の乗員は獣人族。銃を持たず、代わりに剣を持つ。言葉は通じない。
今の話をまとめると、そう言うことになる。そしてこの女海賊は、あの白い船に乗る種族に直に接したという貴重な人物の一人、ということだ。
これはすぐに、コールリッジ大将に報告せねば。この話を聞き終えて僕は、そう思った。




