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#28 初陣

「前方200隻の艦影視認。艦色、灰色」

「IFF受信、地球(アース)1019艦隊です」

「友軍までの距離70万キロ。30分で合流いたします」

「距離15万キロまで接近し、そのまま距離を保ちつつ、第10惑星軌道の外へと向かう」

「はっ、了解いたしました」


 前方に、地球(アース)1019艦隊を捉える。楔形陣形で進むテイヨ准将殿麾下のこの200隻は、2年をかけて編成したこの星最初の艦隊だ。

 それまでは地球(アース)760艦隊に身を置いての訓練を続けていたが、総勢2万人、200隻分の人員を独り立ちするまでに至る。この艦隊編成に当たって、テイヨ殿を一気に准将にまで昇進させ、艦隊司令官とした。

 本人は否定しているが、僕はテイヨ殿の指揮能力の高さは1万隻、一個艦隊の運用にも十分通用すると思っている。リーナの副官として魔物退治に赴いていた時も、その指揮能力の高さゆえに生き残れたのだと、リーナ自身もそう述べていた。

 そんなテイヨ艦隊が、初の単独遠征に出る。と言っても、同じ星系内の外縁部までではあるが。

 しかしこの星系は、その外縁部に未知の艦隊が出没する。前回の戦いで、奴らの出現ポイントも特定できている。当面は防衛に徹するが、いつかそのポイントに侵入し、あちら側に攻め入ることになるかもしれない。が、今回は白い艦隊の出現有無を把握し、その数が少なければ攻撃を、多ければ味方に救援要請を出す、それだけだ。


「まもなく、第10惑星軌道線を越えます」

「了解、そろそろ白い艦隊の出現ポイントだな。警戒を厳にせよ」


 先行するテイヨ艦隊も、すでに「クロノス・ポイント」と呼ばれる、かつて「クロノス」が存在した宙域に入りつつある。そこには、かつてクロノスだった小惑星群が存在し、所々「黒い艦隊」の残骸が漂っている。

 その場所を少し星系外側へ辿ったところに、例の白い艦隊が出現したワープポイントがある。まだ未調査ではあるが、そこにおそらくワームホール帯があるのは間違いない。それも、白い(ゲート)付きの。

 今のところ、白い艦隊は見当たらない。このまま何事もなく順調に、この任務が終わってくれればなぁ……と願う。

 が、僕が平穏無事を願うこと自体が、フラグなのだろうか?

 その直後、やはりというか現れた。


「レーダーに感!」


 タナベ大尉の一言で、この旗艦オオスの艦橋内には瞬く間に緊張が走る。


「艦影多数、およそ100……いや、200まで増加! 距離70万キロ!」

「例のワープポイントか!?」

「はっ! 前回の艦隊出現ポイントとほぼ一致します!」


 やはりな。光学観測はまだだが、あれの正体が何なのかは概ね確定した。


「光学観測、艦色視認、白色!」


 その予測を確信に変える報告が入る。僕は下令する。


「全艦、全速前進し、テイヨ准将の艦隊を援護する!」

「はっ! 了解しましたにゃん!」


 僕はアマラ兵曹長に指示する。が、その直後、そのテイヨ艦隊より電文が入る。


「提督! テイヨ准将の名で電文です!」

「読み上げよ」

「はっ!」


 てっきり僕は救援要請だと思っていた。が、その予想は外れる。


「これより我が地球(アース)1019艦隊は、正体不明の艦隊200隻を迎撃せんとす。地球(アース)001 第8艦隊は、現宙域にて待機されたし。以上です」


 つまり手出しをするなとの電文を寄越してきた。さらに、追加の電文が舞い込む。


「テイヨ准将よりさらに通信。ここは我が星域であり、すなわち我ら自身が守るべき領地、同数の艦隊すら退けぬとあらば、我らは永劫に渡り自身の土地を守る事能わず。我が艦隊の壊滅時のみ、援護されたし。以上です」


 つまりテイヨ殿は、我々の力を借りないと宣言した。だが、初陣だぞ? 数々の戦いを制した指揮官ではあるが、それは魔物相手の地上戦での話だ。宇宙とは勝手がちがう。

 しかし、テイヨ准将の思いを無碍にするわけにはいかない。僕は一旦、先ほどの命令を撤回する。


「全艦への前進指示を中止。慣性航行にて、様子を見る」

「はっ。ですが提督、よろしいのですか? ようやく揃った200隻を、失うことになるかもしれないのですよ」

「少佐、今どきの同数同士の艦隊戦においては、いきなり壊滅的状況に陥ることはないだろう。もし押され気味だと察すれば、我々は急速前進して地球(アース)1019艦隊を援護する」

「はっ、承知いたしました!」


 幸いにも慣性航行中であったためか、まだ我々はあの白い艦隊には見つかっていないようだ。それはテイヨ艦隊も同様で、それが証拠に白い艦隊200隻は楔形陣形、すなわち通常航行時の陣形のままだ。敵が目の前にいると分かっていれば、いつもの十字陣形に転換するはずだ。

 それをテイヨ殿も悟ったようで、慣性航行のまま、白い艦隊への接近を試みる。両者の距離は、およそ35万キロ。

 だが、白い艦隊はテイヨ艦隊の方には向かわず、やや外れた向きを進む。このままでは、脇をかわされてしまうのではないか? だが、テイヨ殿は動かない。

 即座に行った電波管制により、重力子センサーのみでその白い艦隊の位置を把握する。慣性航行中のテイヨ艦隊は、もはや捉えられない。だから慣性計算によりその場所を推測するしかない。


「……どう考えても、離れていくな。まさかテイヨ殿は白い艦隊の位置を把握できていないのか?」


 僕はボソッと呟く。すると側にいたリーナが反論する。


「そんなはずはない! テイヨは敵を知り、己を知ることを第一とする! 必ずやあの艦隊の位置を知った上で行動しているはずだ!」


 長年、テイヨを副官としてきたリーナはそう告げるが、いくら考えてもあの状況では、テイヨ艦隊は白い艦隊を捉えられない。距離はますます離れ、37万キロとなる。

 手出しは無用と言われたものの、このまま200隻の侵入を許せば、見失うかもしれない。そろそろ、我々が動くべきか。

 と、僕がそう思案し始めた時に、事態は動く。

 この宙域は、元々クロノスがいた場所、「クロノス・ポイント」に程近い場所。そのクロノスを守護していた黒い艦艇の残骸が、あちらこちらに散らばっている。

 そう、ただの残骸しかないはずだ。だが、その残骸の一部が突如、動き始めた。


「て、提督! クロノス・ポイント近くに、重力子反応!」

「なんだと! まさかそんな場所にも、白い艦隊がいたのか!?」

「光学観測、艦色視認! 黒!」


 立て続けに入る報告、だが光学観測の結果に、僕は耳を疑う。


「ちょっと待て、黒って……もう一度、観測しなおせ!」

「いえ、間違いありません! クロノス戦の際に戦った艦艇が8隻、動き出しました!」


 何ということだ。こんなところでクロノスの艦艇が動き出しただと? 信じられない。

 動揺する旗艦オオスの艦橋内だが、我々だけではない。あの白い艦隊にも動揺が走ったとみえる。

 それが証拠に、あの200隻は向きを変え、その黒色の艦艇に向かって動き始める。


「白い艦隊、転舵! 90度回頭し、こちらの方角に向かってきます!」


 このまま徐々に離れるばかりだった白い艦隊が、クロノスの「生き残り」に殺到する。たった8隻とはいえ、それを脅威に感じたのだろう。あの艦隊運動を見れば一目瞭然だ。

 わずか8隻の黒の艦艇へと向かう白い艦隊だが、さらに事態は動く。


「重力子反応、多数! 数、およそ200!」


 一瞬、緊張が走る。が、それが敵ではないことがすぐに判明する。そう、まさにそこはテイヨ艦隊がいると推測される場所だったからだ。

 黒い艦艇を目指して殺到する白い艦隊200隻。そして、機関を指導させ、電波管制も解除し、姿を現したテイヨ艦隊。

 そのテイヨ艦隊は、ちょうど白い艦隊の側面を捉えていた。


地球(アース)1019艦隊より、高エネルギー反応多数!」


 射程ほぼギリギリに敵の艦隊の側面を捉えたテイヨ艦隊は、当然、砲撃を開始する。青いビーム光が、その白い艦隊の側面に降り注ぐ。

 一瞬で、ぱぱっと光の粒が光る。さらに第2射、第3射が加えられる。黒い艦艇に目を奪われていたその白い艦隊200隻は、たちまち大混乱に陥る。

 不意を突かれて壊走し始める白い艦隊を追撃しつつ、砲撃を加えるテイヨ艦隊。残念ながら、まだその練度は低く、我々が思うほど命中していないが、それでも不意打ちによる効果は大きく、白い艦隊は陣形を大きく乱されている。

 やがて白い艦隊はワープポイントへと向かい、そして次々と消えていった。

 気付けば、我々は何も為す間も無く、白い艦隊は一隻残らず消えてしまう。あまりにも早く決着がついてしまった。見事としか言いようがないこの戦闘を見せつけられて感心するばかりだが、そこで僕はふと思い出す。


「はっ! そういえば、黒い艦艇8隻は!?」


 そうだ、白い艦隊は消えたが、8隻とはいえ黒の無人艦艇が動き出した。当然、手近な位置にあるテイヨ艦隊に攻撃を加えてくるはずだ。


「はっ、それが……重力子反応が消えました」

「はぁ!? いや、さっきは動いていたじゃないか!」

「はい、ですが今はただの残骸として浮遊するのみです」


 ところがである、その黒い艦艇は、いつの間にか残骸に戻ってしまった。どうなっているんだ?

 ともかく僕は、テイヨ殿に向けて直接通信を行う。


「テイヨ殿、いや、テイヨ准将!」

『これはこれは、ヤブミ少将閣下。直々の通信とは恐れ入ります』

「いや、そんな悠長なことを言ってる場合ではないだろう! 先ほどまで8隻の黒い艦艇が近くの宙域で再稼働していたぞ!」

『ああ、大丈夫ですよ、少将閣下』


 僕の注意喚起に対し、どういうわけかまともに受け答えをしないテイヨ殿。いや、8隻とはいえあの艦艇の射程内にテイヨ艦隊は位置している。攻撃を受ければ、無事では済まない。

 が、テイヨ殿はこう言った。


『実はあれは、我が艦の人型重機隊によるものなのですよ』


 一瞬、僕は何のことだか理解できなかった。が、すぐに僕はその言葉の意を察する。


「ちょっと待て、まさか……偽装艦隊であると?」

『ええ、そうです。ちょうどヤブミ少将が4万隻の白い艦隊と戦う時に用いた戦術を、少し応用したのですよ』


 テイヨ殿によれば、旗艦0001号艦に搭載されていた8機人型重機を黒い艦隊の残骸に向かわせて、各々がその取り付いた残骸を重機のエンジンで動かす。すると、あたかも黒い艦艇が動き出したかの様に見える。それに動揺した白い艦隊は、慌ててその8隻を殲滅せんと動き出す。

 その結果、テイヨの艦隊の前にあの200隻は誘い込まれて、テイヨ艦隊の一斉砲撃を受けた。

 見事な作戦だ。とても初陣とは思えない、実に巧妙な戦いぶりである。


「うむ、さすがはテイヨだ。実に見事な作戦であった」

『リーナ様にお褒めいただけるとは、このテイヨ、老体に鞭打って立ち向かった甲斐があったというものです』


 モニター越しに笑い合う、かつての指揮官とその副官。その両者を見て、僕は思う。

 やはりテイヨ殿は、司令官こそ適任だ。陸戦隊の隊長に留めるのは、あまりに勿体無いお方だ。

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