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#25 遭遇

 急に出発が決まり、バタバタと準備を進めて、トヨヤマ港へとやってくる。


「ちょっと、なんだって急に戻ってこなきゃならないのよ!」


 0001号艦の艦橋でそうぼやいているのはフタバだ。いや、別にお前は乗る必要ないと思うんだが。どうしてこのまま、オオスに残ろうとしない?


「当艦の発進準備、完了いたしました!」

「了解、これより旗艦オオスとの合流を果たす。機関始動!」

「はっ! 機関始動!」

「繋留ロック解除、抜錨! 0001号艦、発進!」


 すでにジラティワット艦長は戦艦オオスに戻っており、今は艦長代理のナデート中佐がこの0001号艦を指揮する。ガチャンと音を立てて、船体を固定するロックが解除される。と同時に、浮き出す0001号艦。


「第8艦隊の集結状況は?」

「はっ、すでに3割ほどが完了している模様、あと3時間ほどで集結完了の見込みです! にゃん!」


 そういえば、アマラ兵曹長と話すのも久しぶりだな。この語尾に一瞬、違和感を感じる。が、ヴァルモーテン少佐との会話を聞いているうちに、このにゃんにゃんとする語尾にもすぐになじむ。

 が、なかなかなじめない者もいる。


「ではこのまま全艦、太陽系外縁部に……な、なんですかにゃん!?」


 ヴァルモーテン少佐と話し込んでいるアマラ兵曹長が珍しいのか、マツがまじまじとアマラ兵曹長を覗き込んで見ている。


「マツ殿、ただいまは軍事行動中ゆえ、しばらく控えてはいただけませんか?」

「いや、済まぬ。ただ(わらわ)には馴染みない狐人であったがゆえ、つい見入って下しもうたのじゃ」


 ナゴヤ、オオスという街に触れるうちに、いつの間にか自身の好奇心を抑えられなくなってきた。積極的になれたことは、いいことなのか、悪いことなのかは判断できないが……だが、あの攻城戦の只中に立たされ、緊張しきっていたあの時と比べたら、随分と良くなったとは思う。この2週間余りの滞在のうちに顔の血色も良くなり、体形も少しふくよかになった気がする。


「高度4万、規定高度に到達!」

「トヨヤマ管制より入電! 離脱許可、下りました!」

「了解、これより大気圏離脱を開始する。両舷前進いっぱい!」

「両舷前進いっぱーい!」


 魔石機関で動くこの0001号艦は、我が艦隊の他の新鋭艦とは異なり、大気圏離脱時から機関出力を最大にする必要がある。他の新型機関を搭載する駆逐艦は通常出力で周回軌道に乗って、そこから最大出力で重力圏離脱を行う。しかしこの0001号艦はどちらかというと旗艦オオスの付属品のような位置づけだから、簡素な魔石機関のみを搭載する艦、それゆえに従来機関を搭載する艦と同じ大気圏離脱手順を行う必要がある。

 地球(アース)001が勢いよく後方に流れていく。やがて真っ暗な宇宙空間へと突入する。が、通常機関と同じ出力のこの艦は、ここで一度180度向きを変える。

 再び、前方に地球(アース)が現れる。距離1万キロ、やや小さく見える地球(アース)が窓に現れると、マツの表情が変わる。


「……なんと青く澄んだ大地なのじゃ……」


 自身の立つ地面が実は丸い球体の上であること、宇宙から見ればそれが大部分が青い海と白い雲に覆われた星であることをすでに知っているマツだが、さすがに実物を見るのはまだ数回。しかも今回のように、スイングバイのために最接近する機会は初となる。

 猛烈な勢いで地球(アース)001の脇を通り過ぎる。ちょうど太平洋を越えて、アメリカの東海岸辺りを通り過ぎる。そこはちょうど昼と夜の境目、通り過ぎると途端に、真っ暗な面に突入する。といっても、その闇の中にアフリカ大陸、ヨーロッパに散らばる無数の灯りが点々と見える。しかしそれらも一瞬で通り過ぎて、再び星空瞬く漆黒の空間に変わる。


「あと20分ほどで、火星軌道上に達しますにゃん。そこで旗艦オオスと僚艦600隻と合流予定、残り400隻とは、小惑星帯(アステロイドベルト)軌道上で合流します、にゃん」

「了解、では進路そのまま。合流を果たしたのち、次の指令を伝える」

「はっ、了解しましたにゃん!」


 僕の指令を、全艦に伝達するアマラ兵曹長。一方で、地球(アース)1019の状況を入手しつつあるヴァルモーテン少佐。そういえば今、この艦にはマリカ少佐もいるんだよな。相変わらず姿を見せないが、何をしとるんだ、あの士官は?


「提督、地球(アース)1019の現況を入手いたしました」

「そうか。で、少佐、何か変わった動きでもあるのか?」

「いえ、最初に現れた100隻に対し、駐留する地球(アース)760艦隊約1000隻がこれを捕捉、攻撃を仕掛けて撤退に追い込み、その後は特に動きはない模様です」


 幸い、まだ動きはないようだ。だが、今の報告から察するに、その100隻の多くを取り逃したようだ。


「ということは、あの白い艦隊は地球(アース)1019の存在を把握した、ということになるな」

「そうですね、まさに地球(アース)065で起こったことと同じです。となると……」

「コールリッジ大将には、すぐにその懸念を伝えた方がいいな」

「はっ! ではすぐに電文を送信いたします!」


 どうも胸騒ぎがする。正体不明だからこその不気味さだ。確かにマリカ少佐の言う通り、さほど強い相手ではない。が、神出鬼没過ぎる。動きが読めない。

 でも、地球(アース)1019の宙域に白い艦隊が現れたのは初だ。となると、近いうちに大規模侵攻があると見た方がいいな。数ヶ月前の地球(アース)065の時のように。


「マツ、この先はしばらく、真っ暗な星空しか見えない。ここにいても退屈だから、レティシアとリーナのところにいってた方がいい」

「左様か。じゃが、レティシア殿とリーナ殿は何処に?」

「多分、食堂に行けば会えるだろう」

「なるほど、承知した」


 そう言うとマツは、赤地で金の刺繍が施された着物を翻して、艦橋出口へと向かう。

 と、その様子を、脇でじーっと見ている士官がいる。


「ふーん、へぇー、やっぱりそうなんですねぇー」

「……なんだ、グエン准尉。何か問題でも?」

「いえ、変態提督が、マツなんて呼び捨てをするほどの関係になってしまったのかと思っただけですよ。さて、仕事仕事」

「ところでグエン中尉、貴官はジラティワット艦長と一緒じゃなかったのか?」

「研修ですよ。ほら、階級が上がったので、その職位研修をうけなきゃいけないじゃないですか。ですから私は、先行して旗艦に戻ったダーオルング……じゃない、ジラティワット艦長とはこの1週間ほど別々で過ごしてたんですよ。どこかの提督が、3人を相手にしている間も」


 最後の一言が余計過ぎる気がするが、そういえばグエン中尉は昇進してからまだ研修を受けてなかったのか。ここ1年は育児休暇なども重なり、意外と負担が多いようだ。

 それから1時間ほどして、僕も食堂へと向かう。そこにはレティシア、リーナ、マツがいた。

 いや、それ以外にも、子供が4人いる。


「これっ! あまりはしゃぐでないぞ!」

「ぎゃーっ!」

「だーっ!」


 うちの子2人に加えて、フタバの子ミツヤと、グエン准尉の子のホアちゃんまでいる。


「おう、フタバとグエンのやつに頼まれてよ、2人も4人も変わらねえと引き受けたんだ」

「いや、グエン中尉は分かるが、たいしてすることもないフタバの子供まで引き受けてどうするんだ?」

「まあいいじゃねえか、子供らもその方が喜んでるしよ」


 テーブルを退けられて、そこに敷かれたマットの上を走り回る4人の子供。普段はクールなエルネスティも、この時ばかりはホアちゃんの後ろを追いながらはしゃいでいる。

 ミツヤとユリシアはというと、マツの両手を掴んだまま回る。で、中心にいるマツはといえば、振り回されてすでに目を回している。慌ててリーナがユリシアとミツヤを抱き上げて、レティシアがよろけるマツを支える。


「ふわぁ〜っ、だからはしゃぐなと言うたではないかぁ……」

「なんでぇ、これくらいで。そんなんじゃ、無重力なんて耐えられねえぜ」

「む、無重力とは、なんのことじゃぁ……」


 かなり参ってるようだが、マツは基本的に面倒見がいい。単なるわがまま姫様だと思いきや、子供の扱いには妙に手馴れている。

 この艦内の子供ら4人を相手にしても、結構うまくやっている。今見える4人の子供らの笑顔が、その証拠だ。


「やれやれ、マツが使い物にならねえ。ほれ、カズキ」

「は?」


 と、レティシアのやつ、いきなりその一人をこちらに割り振ってきた。グエン中尉の娘、ホアちゃんだ。その娘をレティシアから渡されて、抱き上げる。


「ぎゃーっ!」


 と、その瞬間、泣き出すホアちゃん。ちょっと待て、僕はまだ何もしてないぞ?


「ちょっと変態提督! うちの娘に何してくれるんですか!」


 そのタイミングで現れるグエン中尉。


「いや、レティシアから渡されただけだが……」

「幼いながら、提督のその危険な変態がにじみ出てるのが分かるんですよ! もう!」


 と、僕の腕からホアちゃんを奪い返し、あやし始めるグエン中尉。


「ヘンタイ!」


 そして、たった今覚えた単語を早速披露するユリシア。他の2人は、呆れた顔でこちらを見ている。その結末を予想していたのだろう、レティシアもこっちを見つつニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。

 ああ、僕は艦隊指揮は執れても、子供の相手をするのは無理なようだ。


「相対距離1200、速力80、ビーコンをキャッチ!」

「両舷停止、慣性航行に移行」


 で、その騒ぎから1時間後には、戦艦オオスに到着する。まさに繋留ドックにドッキングしつつある。その様子を、窓際でじっと見るマツ。


「あと40……20……今! 繋留ロック!」

「繋留ロックよし! 船体固定、入港を完了いたしました!」

「機関停止、エアロック接続開始!」


 ガシャーンという音が響き、船体が戦艦オオスに接続される。以前まではこの船体固定時の音に驚いていたマツだったが、今はもう慣れてきたようだ。


「カズキ殿」

「なんだ?」


 と、いきなりマツが僕を呼ぶ。


「そういえば、ひつまぶしと申すものを食べてみたい。この船の中に、その店があるのであろう?」


 そうだ、忘れてた。そういえばひつまぶしの店に連れて行くのを失念していた。

 気づけば、オオスの街ばかりを巡っていたからなぁ。マツもちやほやされるからと、ついつい商店街にばかり顔を出してしまった。結果、サカエのあの店に行く機会を亡くしてしまった。


「それなら、レティシアとリーナが行くだろうから、ついていくといい」

「なんじゃ、カズキ殿は行かぬのか?」

「これでも司令官だからな。艦橋に戻らなければならないんだ」

「左様か……」


 なんだか、寂しそうな顔をするマツ。うーん、そんな顔をされると、軍務を放り投げて付き添いたくなるじゃないか。


「……大丈夫だ、軍務が終わったら、4人で艦内の街を巡ろう」

「うむ、承知した。待っておるぞ」


 少し、マツの顔の表情が和らぐ。ここ数日、一緒に過ごしてみて感じたことだが、マツは僕とレティシア、リーナとの4人で過ごすのが何よりも楽しいと感じているようだ。天下人の娘でありながら、その父親の正妻と数人の側室との間には子が恵まれず、2人目の側室からやっと生まれた娘のマツだけが成人を迎えることができた。兄弟と過ごす機会に恵まれなかったマツにとって僕らは、その代わりなのかもしれない。

 そして0001号艦を降り、レティシアとリーナがマツを連れて街へと向かう。僕はそのまま、旗艦オオスの艦橋へと向かう。

 それから、7時間後。

 我々はすでに、地球(アース)1019の宙域にワープアウトしていた。この星系の小惑星帯(アステロイドベルト)まで、あと2100キロまで迫る。


「順調に航行すれば、あと3時間後に地球(アース)1019へ到着いたします」


 ジラティワット艦長が、僕に報告する。が、僕は少し考える。


「我々がここに来た目的は、地球(アース)1019へ向かうことではない。あの白い艦隊の出現に備えてのことだ。直接向かわず、宙域内を巡回し、白い艦隊の侵入有無を確認すべきではないか?」

「はっ、おっしゃる通りです」

「ヴァルモーテン少佐」

「はっ!」

「全艦に下令、我が艦隊はこれより、当星系内への侵入者がないかパトロール任務に就く」

「はっ! で、行き先はいかがいたしましょうか!?」

「そうだな……まずはクロノスがいた、第10惑星方面へと向かう」

「はっ! 承知いたしました!」


 この時僕は、何気なく艦隊を動かした。別にパトロール任務に向かう義務はない。一旦、補給のため地球(アース)1019に向かってもよかった。が、なぜか僕はなんとなく、そうしなかった。その理由は、僕にも分からない。


「全艦、進路変更。あと30分で当該宙域に到達します」

「了解、警戒を厳にしつつ前進。ああ、そうだ。少佐」

「はっ、何でしょう?」

「ボランレかンジンガを艦橋に呼んでくれ」

「あのバカ犬どもを、呼ぶのでありますか?」

「……警戒時には、彼女らの勘が役に立つだろう。そのためだ」

「ああ、そうでしたね。了解であります。では、バカ犬どもをここに呼び寄せます」


 アマラ兵曹長にはごく普通に接するのに、同じ獣人族であるあの2人は「バカ犬」呼ばわりするヴァルモーテン少佐の神経は、未だに理解できない。


「ふぎゃあ、来たよぅ!」

「ふぎゃーっ、来てやったよぅ!」

「ほらバカ犬ども、さっさと仕事をするのですよ!」

「ふぎゃーっ! (わらわ)はバカ犬じゃないよぅ!」


 しかしまあ、この2人からはやや知性を感じられないのは事実であり、ヴァルモーテン少佐の言いたいことも分からなくはない。狐のような尻尾を立てて怒るボランレとンジンガだが、3歩も歩くと怒っていたことなど忘れたように、ふぎゃふぎゃいいながら、持ってきた唐揚げをバクバクと食べ始める。こういうところだろうな、ヴァルモーテン少佐が「バカ犬」呼ばわりする理由は。

 で、作戦会議スペースのテーブルモニターの脇で唐揚を食べる獣人族2人を横目で見つつ、僕は司令官席に座って陣形図を眺める。

 第8艦隊1000隻の艦艇を除けば、モニター上には艦影はない。遠く小惑星帯(アステロイドベルト)から飛び出したと思われるいくつかの小惑星が、ノイズのように光点として映し出されているだけだ。つい2年近く前に、あの「クロノス」との戦いがあった宙域とは思えないほど凪いだ宙域(うみ)だ。

 しばらくこの宙域を回った後に、今度は小惑星帯(アステロイドベルト)に戻ってから地球(アース)1019のフィルディランド皇国、ヘルクシンキ港へ向かおう。リーナも、数か月ぶりの里帰りとなる。テイヨ殿とも、久しぶりに話したい。それにマツに、リーナの故郷を見せてあげたい。

 などと僕は、ぼんやりと考えていた。その心の静寂が、一気にかき乱される。

 きっかけは、あの2匹……じゃない、2人の叫び声だ。


「ふぎゃーっ!」「ふぎゃあ!」


 大人しく唐揚げを食べていたボランレとンジンガが、急に叫び始める。艦橋にいる乗員の多くが、2人のいる作戦会議スペースに目を移す。

 この事態に即座に反応したのは、ヴァルモーテン少佐だ。


「バカ犬が反応! レーダーに艦影は!?」

「は、はい! 待機を!」


 少佐の問いに、慌ててレーダーモニターを精査し始めるレーダー員。僕も身を乗り出して、陣形図を見た。

 が、何も映っていない。相変わらず、ノイズのように小惑星が点在しているだけだ。ただの誤報か?

 と、思った次の瞬間、異変が起きる。


「れ、レーダーに感! 艦影多数、出現! 距離、2200万キロ!」


 まるで節分の豆でもばらまいたかのように、無数の光点が現れる。それは徐々に数を増していき、方形に集まっていく。


「光学観測! 艦色は白! 艦種識別! 間違いなく白色艦隊です!」

「数、2万を突破! さらに増大中!」


 偵察艦隊でも現れたかと思いきや、既に我が艦隊をも上回る数が出現していた。その数は、増大しつつある。

 一体、何隻現れるんだ……いや、その前に、あの場所が白い艦隊のワープ地点ということになる。かつてクロノスがいた宙域の、すぐそばだ。あんな場所にワームホール帯があったなんて、まったく気づかなかった。

 艦数はその後も増大し、ついに4万を突破する。我が方の40倍、それを受けて、直接通信が入る。


『おい! ヤブミ少将!』


 まず出しゃばってきたのは、エルナンデス准将だ。


「なんだ」

『なんだ、ではない! 大規模な敵艦隊の出現だぞ、どうするつもりだ!?』

「いや、今司令部にて状況を把握、作戦を検討しているところで……」

『そんな悠長なことをやってる場合か! 敵は目の前だぞ! しかもここは地球(アース)1019の宙域だ、突破されれば、民間人の生命すら危うい状況なんだぞ!』


 言われるまでもなく、そんなことは承知している。これがただの宙域ならば、僕も撤退を決断しているところだ。だがここは、地球(アース)1019のある宙域だ。だから、それができないから困っている。

 そこにワン准将、ステアーズ准将からの通信がつながる。混乱が、拍車を極める。


『ヤブミ提督! 多勢に無勢、ここはひとまず地球(アース)760遠征艦隊に救援要請をしつつ、撤退するよう進言いたします!』

『いや、ワン准将殿、ここで引けばさらなる攻勢を促す結果となりかねない! 何らかの時間稼ぎをすべきだ!』

『いや、これほどの兵力差では、とても時間稼ぎなど不可能だ! まずは小惑星帯(アステロイドベルト)まで引き、そこで地球(アース)760艦隊と合流して防戦の態勢を整えつつだな……』

『ヤブミ提督! 私の隊が突入し、ひと暴れしてご覧に入れましょうか!?』

『おい、カンビオーニ准将よ! 4万隻相手に、たかが200隻でどうするつもりか!?』

『何を言うか、エルナンデス准将よ! 我が隊はかつて、連盟軍数万隻に対して立派に陽動作戦を完遂いたしましたぞ!』

『今回は要塞戦ではないんだ! その陽動の意味がないだろう!』

『ならばエルナンデス准将よ、貴官にはどのような策があると申されるか!?』


 もはや収拾がつかなくなってきた。各戦隊長が、各々の意見をぶつけ合う有様だ。さりとて、今の僕には5人の戦隊長を説得できるだけのものがない。

 決めるべき選択肢は、2つ。前進か後退か、その二択だ。

 だが、どちらも悲劇的結末しか見い出せない。それが僕を躊躇わせている。

 とはいえ、決断しないことが最悪の状況をもたらすことは必須。どちらかに決めなければならない。が、どちらにすればいいんだ。

 僕は完全に、思考停止する。

 そして戦隊長らは、決められない僕の前で口論を続けている。

 その混乱を崩したのは、この一言だ。


「うろたえるな!」


 突如上がったこの叫び声に、僕は振り向く。その声の主は、マツだった。

 マツのこの恫喝が、互いに罵り合う戦隊長らを沈黙させた。

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