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#18 帰投

「ちょっと待て、旗艦オオスのセンサーですら捉えられないんだぞ! どうやったら我が艦から、星ごと隠せるんだ!?」

『おそらくは、ムンカー・ホワイト錯視の一種なのでしょう。それも、我々のレーダーやセンサーすらも錯覚させるほどの強力なものと推測されます』

「錯視って……で、メルシエ准将、貴官はどうやってそれを見つけたというのだ!?」

『簡単です、我が隊のみ8万キロほど、ずらしたんですよ』


 えっ? たったそれだけで、見えるようになるの? だが、現にメルシエ准将はそれを発見している。さすがは「錯視の策士」と言われるメルシエ准将だけのことはあるな、その巧妙な錯視を見破ったというのか。

 それを聞いた僕は、すぐに艦隊を動かす。


「全艦に伝達、メルシエ隊に合流すべく、軌道面を変更する」

「はっ、了解ですにゃん!」


 半信半疑だったが、確かに上方へ移動すると、徐々に地球(アース)の姿が見えてくる。ここからは、月ほどの大きさの青い星に見える。

 そういえば、あの白い艦隊がこの星を見つけていないことを不思議に感じていたが、まさかこの錯視のおかげで見つけられなかったというのか? そういえば、篝火(かがりび)を焚いて白い船を呼び寄せたという昔話をマツ殿がしていたが、その錯視で隠された星にたどり着くための、工夫だったというのか?

 ともかくだ、僕らはこの不可思議な錯視から解き放たれ、そこに地球(アース)が健在であることを確認する。となると、残るは白い艦隊だけだ。


「……来ませんね」


 なぜか、残念そうにぼやくヴァルモーテン少佐。あれから2時間ほどじっと待つが、全然現れない。もうとっくに現れてもよさそうな気がするんだが、一隻もあの(ゲート)をくぐってくる気配がない。

 司令官席で悪さを働いていたユリシアとエルネスティの2人は、艦橋で遊び疲れたのか、僕の司令官席の上で寝てしまった。それを見たリーナが2人を抱えてこう言った。


「カズキ殿よ、我らは部屋に戻る」

「ああ、頼む」


 そう言い残すとリーナは、2人を抱き上げる。そしてマツ殿を従えて、ホテルの部屋へと戻っていった。

 いや待てよ、まさかマツ殿まで、僕の部屋に連れていくんじゃないだろうな? だが今はレティシアも戦魔女団(ウィッチーズ)らと共に戦闘配備のままだ。リーナに任せるしかない以上、マツ殿のことはリーナの判断に委ねる他ない。


「幕僚長、意見具申!」


 と、ここでヴァルモーテン少佐が意見具申を求める。


「具申、許可する」

「はっ! 提督、ここは哨戒隊を送り、(ゲート)の向こうを探るべきではないでしょうか?」

「それは構わないが、しかし、敵が迫ってきている恐れがあるぞ」

「メルシエ隊ならば、錯視を使って上手くごまかしつつ接近できるかもしれません。もしかするとすでにその敵は、後退してしまったのかもしれませんし」

「なぜ、そう思う?」

「はっ、そもそもこの宙域より向こうに、彼らはほとんど向かわないではありませんか? 実際、この2週間の間この宙域にいたというのに、あの白色艦隊はまったく姿を現しませんでした。理由は分かりませんが、何らかの理由でここから先に足を踏み入れることをタブー視しているように思われます」


 ヴァルモーテン少佐の言う通りだ。言われてみれば、白い艦隊はほとんど現れない。地球(アース)065に10万隻現れたあの事件以外は、せいぜい100隻単位で現れたに過ぎない。

 だがしかし、なぜ?


「ともかく、メルシエ隊より哨戒部隊を組織し、あの(ゲート)の向こうを探らせる」

「はっ!」

「その状況次第で、我々の行動を決定する」

「承知いたしました、提督!」


 このヴァルモーテン少佐の発案で、メルシエ隊から哨戒艦部隊が組織される。その数、20隻。たった20隻で、大丈夫なのか?


『大丈夫です、問題ありません』


 と自信満々なメルシエ准将自身も、その20隻の中の一隻で加わり、(ゲート)の向こうへと向かった。

 で、結論から言えば、その宙域にはもう、白い艦隊1万隻の姿はなかった。遠くに100隻が、警戒に当たっているだけである。

 これをもって、僕らは一旦、地球(アース)065星域まで後退することになる。


『錯視とは、面白いじゃないか』


 そこで恒星間通信を使って、コールリッジ大将にこの2週間の出来事を直接通信で報告する。


「いえ、面白いことではありません。その方法も分かりませんし、気味が悪いこと、この上ありません」

『うむ、調査が必要だな。で、貴官の3人目は今、どうしているのだ?』

「いえ、大将閣下、3人目ではなくてですね……」

『もう地球(アース)001内部では有名だぞ。ノブナガ公の再来が、3人目の妻をめとった、と』


 なんでそういう話だけが素早く伝わるのかなぁ。その前に未知の地球(アース)発見とか、落城寸前の城の兵士らを救ったとか、白い艦隊に続く(ゲート)を発見したとか、僕の3人目どうこうよりも重要な事実がたくさんあるだろうに。


『さて、それよりも、第8艦隊の今後の行動についてだが』

「はっ、やはり地球(アース)065と連携しての、白い艦隊の追撃任務でしょうか?」


 コールリッジ大将が、第8艦隊の行動に話題を移す。が、まさに今、緊張が高まっている時だ。再び、あの10万隻の侵攻もありうるかもしれない。だから僕は、さらなる軍備増強と、第8艦隊の作戦継続を指示されるだろう。そう思っていた。

 が、その指示内容は、意外なものだった。


地球(アース)001へ一時、帰投せよ』

「は?」


 あまりに意外な指示に、僕は思わず、変な声が出た。


『なんだ、帰投せよというのに、嬉しくないのか?』

「いや、嬉しいとか、そういうことではなくてですね……よろしいのですか? この宙域がガラ空きになりますよ」

『幕僚長のヴァルモーテン少佐も言っていたが、確かにあの白い艦隊の連中は、この宙域より先に入ることがタブーと感じているのかもしれん。そう考えない限り、この動きの鈍さは説明できない。が、それは一方で、第8艦隊が一時帰投しても問題ないことの判断にもつながる』

「しかし、それは仮定の話です。すぐ先には1万隻の艦隊が現れるなど、あちらの動きも油断できません」

『あちらが動いたら動いたで、3日もあれば駆けつけられるであろう。それくらいの間なら、地球(アース)065の艦隊のみで踏ん張れるだろう。ならば、帰っても問題ないじゃないか』

「それはそうですが……」


 それはつまり、地球(アース)001にいる時も、いつでも駆け付けられるように構えていろと、そうおっしゃっているのか? 嫌な上官だな。


『それにだ、あまり我々、地球(アース)001の艦隊が出しゃばるのも考えものだ。連盟軍にも苦労してもらわないと、共に星域を守るという意識が下がってしまうというものだ。良い感じに共闘しつつあるのを、貴官の艦隊だけで片付けてしまうのは、あまり良い傾向ではないな。だから一旦、ここらで身を退け。地球(アース)065には、数度の戦闘により艦隊の補給と整備を行う必要が生じた、とでも言っておけば良いだろう』

「はい、承知しました。では、第8艦隊はこれより、地球(アース)001に帰投します」


 適当そうに見えるが、あれでもいろいろと考えているんだな、あの総司令官は。確かに僕は、なんでもこの艦隊で解決しようと考えがちだ。ここはコールリッジ大将の言う通り身を退いて、連盟側にも苦労していただこう。

 ともかく僕は、この帰投命令を全艦に伝達する。


「やったぜ、やっとオオスに行けるぞ!」


 これを聞いたレティシアは当然、大喜びだ。


「うむ、そろそろこの店の手羽先にも飽きてきたところだからな」

「ちょっとリーナさん! それ、どういう意味デスか!?」


 で、いつもの手羽先店に、僕とレティシア、リーナ、そして2人の子供とマツ殿はいる。子供らは離乳食を食べ、僕らは手羽先をせっせと食べる。リーナはすでに3皿目に突入している。


「レティシア殿よ、そのオオスというところは、いかなるところなのじゃ?」

「うーん、そうだなぁ。ま、行きゃあ分かるぜ」


 そろそろマツ殿も、レティシアに聞くだけ無駄だということを理解してもらわないといけないな。こいつに説明を求めてちゃんと説明されたことなど、一度もないだろう。


「初めて別の星へ向かうマツ殿に、それではあまりに可哀そうだろう。まあなんだ、オオスというところはだな、ここにある手羽先をはじめ、ひつまぶしやういろうなど、美味いものにあふれた街である」

「美味いもの、であるか?」

「そうだ。無論、美味いものあるところに、大いなる街あり、オオスとはそういうところだ。マツ殿も気に入ること、間違いない」


 食い物の話から始まるところはリーナらしいが、レティシアよりはよほどか興味そそられる説明に、マツ殿も興味津々な表情で聞き入っている。うん、この反応はさらに、リーナに惚れたな。


「ちょっとカズキ! 帰投するって本当!?」


 そんなリーナとマツ殿の和やかなやり取りを見ていたら、このテーブルに飛び込んでくるやつがいる。それはミツヤの手を引いたフタバだった。


「なんだ、フタバ。いたのか」

「いたのか、じゃないわよ! せっかく見つけたあの星を、離れちゃうっていうの!?」

「仕方ないだろう、帰投命令が出たんだから」

「なによカズキ! コールリッジ大将が死ねって言ったら、死ぬの!?」


 何をそこまで突っかかってくるんだ、こいつは? この放浪癖が復活しつつある僕の妹は、もしやあの星に足を踏み入れることなく引き返すことに腹を立て、僕に暴言を吐かせているのだろうか。


「おう、フタバ。何をプンプンしてるんだ?」

「そりゃあ怒るわよ! 新しい星だっていうのに、あたいはまだ一歩も足を踏み入れてないのよ!」

「フタバよ。どうせ近々また行くことになるだろうから、心配しなくてもいいだろう」

「リーちゃん! これは早めの一歩が大事なのよ! 誰かが足を踏み入れた後じゃ、新鮮味がないじゃない!」


 もはやどうして抗議しているのかが分からないな。なぜ、新鮮味などにこだわる必要があるんだ? フタバのこだわりは、僕には理解できそうにない。


「あ、ヤブミ様。どうもすみません。これから帰ると聞いて、フタバが急に抗議に行くんだと言い出しまして」

「バル君! そりゃあ抗議もしたくなるわよ!」

「まあまあ、あの星が逃げるわけではないし、また行けばいいじゃないか」


 と、そこに夫のバルサム殿が現れた。いきり立つフタバを、どうにかなだめつつある。


「まったくもう! カズキもバル君も、どうして冷静でいられるのかしら!? ところでカズキ!」

「なんだ」

「横の着物姿のその人、誰?」


 あれだけ未知の地球(アース)に降りたいと抗議しておきながら、そこから来た人物にはまるで関心はないらしい。僕は応える。


「ああ、彼女はマツ殿。例の攻城戦の際の城主だったお方だ」

「あーあ、噂のカズキの3人目ね。はーい、あたし、カズキの妹のフタバです! で、こっちは私とバル君の息子、ミツヤ。そしてその隣が……」

「これはマツ姫様、申し遅れました。私は地球(アース)1010のスルメールという国で書記をしております、バルサム・ア・ダーヤと申します。以後、お見知りおきを」

「あ、ああ、(わらわ)はトヨツギ家が一女、マツと申す」


 こういうところで育ちが出るな。にしてもフタバよ、どうして僕の3人目だと認識している? もうそんなに、噂が広まっているのか?


「にしても、この娘、花魁みたいだよねぇ」

「お、おいらん?」

「おう、オオスでは花魁行列ってのがあってよ」

「そうだな。私も一度、それをやったな」


 何のことだかさっぱり分からない様子のマツ殿だが、帰投すれば嫌でも知ることになるだろう。フタバも加わり、ワイワイと騒ぐ女性陣を眺めつつ、僕は手羽先を黙々と食べる。


「にしてもマツちゃん、可愛いよねぇ。まるでお人形さんみたい」

「だろう? こいつ、脱がせるともっとすげえんだぜ」

「えっ!? もうそんなところまで手をつけちゃったの!?」

「俺とリーナがな。んでよ、こいつ……」

「ええ〜っ!? それほんと!?」

「ちょ、ちょっと待たれよ、レティシア殿! どこまで話すつもりじゃ!?」


 で、レティシアの下ネタの餌食にされているのを、バルサム殿と共に黙って聞いている。

 さて、せっかく街に来たというのに、手羽先ばかりでは物足りないな。ということで、街の中をうろつくことにした。僕と3人、子供2人、そこにフタバの家族3人が加わり、総勢9人の、衣装も文化も異なる集団が歩き出す。当然、人々の注目を集める。


「ところでレティシア、どこに行くつもりだ?」

「おう、行きゃあ分かるぜ」


 これから行く行き先くらい言えばいいだろう。なぜ、そこまで雑なんだ?

 が、着いた先は、服屋だ。それも、和服の類いを売る店。こんな店、艦内にあったのか?


「いらっしゃいませ」


 と、中から和装の店員が現れる。


「おう、こいつの服を見繕って欲しいんだが」

「おやまあ、京人形のように可愛らしいお方ですなぁ。もしや、提督はんの噂の3人目どすか?」


 ここでも3人目の噂は届いているらしい。なんてこった、これはもう、艦内のほぼ全域に広まっていると思った方が良さそうだ。


「でよ、こいつ、どう見ても着物しか似合わねえから、なんか良い感じのを頼みたくてよ」

「左様どすか。そういやレティシアはん、ちょうどええもんが入りましたんや。にしてもこの着物、豪華な生地を使うてますなぁ。さすがはその国一の姫様だけありますわぁ」


 この口ぶりからすると、レティシアとこの店員は馴染みがあるようだ。しかし、レティシアと着物屋……どこに接点がある?


「この青いやつが似合うんじゃねえか?」

「そうか? こいつにはこの黄色だろう」

「何言ってんのよ、リーちゃん。着物といえば赤だよ、赤!」

「この黒いのも優美で、ええでっしゃろ?」


 なんか、マツ殿を着せ替え人形のように扱い始めたぞ。戸惑うマツ殿に構うことなく、ガンガン着物を着せる取り巻き達。

 で、結局、赤に金色の刺繍、青と黄色の派手な帯のやつに決まった。


「毎度あり〜、またおこしやす」


 満足げな店員とレティシア達、一方のマツ殿も、悪くはない様子だ。新しい着物の袖を見ては、密かにニヤけている。


「何をニヤけているんですか、変態提督」


 と、そこに、なぜか僕がニヤけていることにする奴が現れた。この口調は、やはりグエン中尉だ。


「いや、僕はニヤけてなどいないが」

「そんなことありませんよ、今、口元が緩んでました」


 緩んでいたら、ニヤけてることになるのか? それはちょっと厳しすぎる判定だろう。


「なんでぇグエン、そういうおめえは、ここで何してるんだ?」

「だーっ!」

「ああ、ダーオルング……いや、ジラティワット艦長を待ってるのよ」

「そういやあ、娘のホアはどうしたんだ?」

「艦長に預けてるの」


 と、レティシアに平然と応えるグエン中尉だが、つまりそれは、この大型艦の艦長に子守りを任せているということか。


「へぇ、グエちゃんの娘も、可愛くなってきたんじゃないの?」

「そうでもないよ、最近はよく夜泣きして、大変なんだから」

「おお、そうなのか。ならば夜戦に適した娘になりそうだな」

「リーナちゃん、うちは娘を戦士にするつもり、ないから」


 と、その会話にマツ殿も加わる。


「ふむ、ということはグエン殿よ、娘をどうするつもりなのか?」

「どうするって……まだ1歳にもならない娘の将来なんて、考えてもいないわよ。今は元気に育ってくれることを願うばかりよ」

「そうは参らぬぞ。娘ともなれば、十五までには由緒正しき家柄の者と婚約し、二十歳(はたち)までに嫡男を生み、その家を支えねばならぬ。うかうかしてはおられぬぞ」

「いやあマツちゃん、15で婚約はないわぁ。こっちじゃまだ中学生の年齢だよ」

「そうは言うがグエンよ、マツ殿の言うことも尤もであるな。先々のことを考えておかねば、おかしな男に嫁ぐ羽目になりかねんぞ」

「うーん、変態提督に押し付けられたリーナちゃんが言うと説得力あるわぁ。そうだね、考えとく」


 などと僕のことまで引き合いにした露骨な会話が、この街の一角で行われている。


「ところでヤブミ様、マツ殿のいた星が一時、見えなくなったと伺ったのですが」


 と、そこに僕と同様、手持ち無沙汰にしているバルサム殿が話しかけてくる。


「ああ、そうだな。(ゲート)を抜けた直後に、あるはずの地球(アース)の姿がなかったんだ。一瞬、大騒ぎになったが、それをメルシエ准将が見抜いて事なきを得たんだ」

「ふーん、面白い話ですね。電波だけではなく、視覚からも消してしまうとは。私の能力よりも派手な力ですね」


 そういえばバルサム殿は、ザハラーと同じ電波かく乱の能力を持っていたな。もっとも、あれは存在を見えなくするというより、逆に巨大な物体が現れたかのようにレーダー上では見えてしまう技ではある。だが、存在の位置を特定できなくするという点では、バルサム殿の能力とよく似ている。

 それにしても、そういうことにバルサム殿は興味があるのか。いや、自分の能力云々と付け加えていたが、むしろその星一つを消してしまうその仕掛けに興味があるんじゃないか。その原理を解明していないか、僕に探りを入れてきたような気がする。

 どうもバルサム殿の狙いが読めないなぁ。地球(アース)1010のために情報収集しているということは分かっているんだが、地球(アース)001の持つ最先端の技術よりも、むしろ原生人類が残したであろう未知の技術の方に関心があるみたいだ。そんなものを追求して、どうするつもりか?

 そんな義弟の思惑に翻弄されつつも、レティシア達の方に目線を移す。と、いつの間にか近くで買ってきたと思われるタピオカドリンクを片手に、女性陣が下ネタトークに明け暮れている。免疫のないマツ殿だけは、真っ赤な顔をしながらも、それに聞き入る。だがレティシアよ、他に話題はないのか。


「あ、提督。こんなところで何を?」


 とそこに、ジラティワット艦長も現れる。娘のホアちゃんを抱えたまま、敬礼する艦長。僕も返礼で応える。


「いや、レティシア達と街に出ていたんだが、そこでグエン中尉と出くわして……」

「で、そのまま女子会ですか。いつものパターンですね」


 こうなると、男どもの入り込む余地はないことは、この艦長はよく心得ている。熱く下ネタを振り続けるレティシアとその仲間達を横目に、僕とジラティワット艦長、そしてバルサム殿の3人は、近くの屋台でドリンクを買い求める。


「ところで提督、なぜこのタイミングで、帰投命令が出たのです?」


 ジラティワット艦長がそう問いかける。


「なぜ、と言われてもな。コールリッジ大将の気まぐれとしか言いようがない」

「うーん、離れても大丈夫なんですかね? あの白い艦隊が突然現れるってこともあり得ますよ」

「僕もそう進言したんだが、3日もあれば駆け付けられるから、と」

「全力で駆け付ければそうですが、うーん……」


 正直言えば、ジラティワット艦長はあまり連盟軍を信用していない。それは今の共戦態勢維持に対してではなく、その戦力に対してだ。

 が、連盟軍だって別に弱いというわけではない。270年もの間、我々連合側と張り合い続けてきた実績はある。そう侮れる存在ではないと思うが。


「そうですね、私ももう少し、この場にいられればと思いましたよ」

「バルサム殿も何か、気がかりなことが?」

「ええ、あの星が消えたというあの技、あれがいかにしてなされたのか、とても気になっております」

「ああ、言われてみれば、そんなことが起きましたね。あれは一体、なんだったんでしょう?」

「一応、地球(アース)001の技術部隊が謎解明のため、動き始めていると聞いているが」

「でも、連盟宙域に技術部隊だけって……大丈夫ですかね?」

「うーん、中立条約が結ばれている宙域だし、滅多なことで手を出すことはしないだろうが」


 僕自身、確証が持てるわけではない。なんといっても、270年もの間、争い続けた陣営の真っ只中だ。最新鋭艦隊だからこそ、どうにか連盟軍の暴走を食い止めていると言えるかもしれないんだ。

 と、そこまで考えたところで、コールリッジ大将の出した帰投命令の意図がふと、見えてきた気がする。

 そうか、最新鋭艦隊だからか。

 連盟側からすれば、我々は連合の切り札ともいうべき艦隊だ。そんな艦隊が、いつまでも連盟側の宙域にいると、要らぬ不信感を与えかねない。そう大将閣下は、考えたのではないか?

 だから、連盟側の戦勝祝賀会の誘いにも敢えて乗るようコールリッジ大将から言われた。これも、不信緩和のための施策だったのではないだろうか。

 思えばコールリッジ大将は、和平推進派だ。連盟側をいたずらに刺激したくない。だから第8艦隊に帰投を命じたのかもしれない。そう考えれば、筋が通る。

 にしても、それならそうと僕に話してくれないかなぁ。ただ帰投せよでは、僕も含めて不安に感じる士官が現れる。それを説得する側としては、その真意を知りたかった。


 ともかく、僕らは地球(アース)001へと向かう。初めて別の星へ向かうことになるマツ殿、そして彼女をいじり倒すレティシア達を乗せて。

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