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106/107

#106 考察

「それじゃ、私が案内するにゃん」


 アマラ兵曹長はシェリルと共に、またオオスを巡る。ここ一週間、ほぼ毎日のように出かけている。

 どうやらあの獣人もこの街に圧倒されていたものの、さすがに一週間もすれば慣れたようで、アマラ兵曹長と共に街の風景を楽しんでいると聞いた。

 ちょっと気がかりなのは、シェリルとアマラ兵曹長が同室になってることだな。そこまでの仲になったということなのか? 相手は、生まれた時から戦闘しか教えられていない戦闘民族だぞ。そんなやつと同室って……よほど、お互い気に入ったようだな。

 なお、レティシアとリーナ、そしてマツにユリシアとエルネスティは、カルヒネン准尉とマンテュマー大尉を連れて、あの喫茶店に行っている。

 で、僕はといえば一人、トヨヤマに来ていた。


「ご覧の通り、戦艦オオスの特殊砲の砲身取り換え作業は、あと4日ほどで完了ですね」


 ここには戦艦用ドックが一つあり、そこに全長3200メートルの戦艦オオスが繋留されている。その様子を、哨戒機にて上から見ているところだ。


「できれば、あの砲は使いたくはないのだがな」


 案内役の士官にそんなことをぼやいても仕方がないのだが、ともかく僕は戦艦オオスを見てそう思う。いや、最近のシェリルの様子を見て、なおのことそう考えるようになった。

 戦闘奴隷として作り上げられた戦士であっても、我々の文化に触れてしまえば、あの通り、ごく普通の獣人になってしまう。

 それが立証された以上、戦う理由などないと感じる。

 そもそも、なぜ彼らは我々に戦いを挑んでくるのだ? その謎はまだ、解明されていない。

 何かを守るために、行動しているとしか思えない。が、守るべきものは何なのか。

 彼らを殲滅、または追い払って入り込んだ先にあった星は、多少、変わったところはあるものの、人類の住む星ばかりだった。


 が、我々の知る地球(アース)とは大きく異なる、その星々の共通点が一つある。

 それは「遺跡」の存在だ。


 こちらには、アポロンが残したとされる遺跡はほとんど存在しない。ほぼ皆無だ。が、彼らの星にはどういうわけか、その古代文明の遺跡によってある種、変わった環境を作り出されていた。ある星は巨大ロボであり、魔法少女であり、そして世界大戦だ。それらはすべて、遺跡によって誘発されていた。


 直感だが、その謎に対する仮説を、すでにマリカ少佐は持っているのだろう。が、一向に話そうとしない。しかし、そろそろそれを話してもらわないと、再び白い艦隊と戦う羽目になりかねん。

 そこで僕は、トヨヤマにマリカ少佐を呼びつけた。


「なんですの? ヴァルモーテン少佐には偽の骨とう品漁りを許しておいて、私にはトヨヤマに来いとは、どういうことですか!」

「お前に与えられた任務があるだろう。その進捗を、そろそろ報告してもらおうと思っただけだ」

「ですから、それはまだ仮説を検証している段階で……」

「次に白い艦隊と出くわした時、我々はそれを撃たなければならない。が、それを回避する方法を模索する必要もある。いつまでもやつらと、やり合うわけにはいかないのだ。検証途上の仮説でも構わないから、話してはもらえないか?」


 僕は艦隊司令官だ。戦うことが仕事であり、そのための権限が与えられている。こうしてやや強引に、配下の者に報告をさせるのも、その権限下で与えられたものだ。今度ばかりは、それを行使させてもらう。


「……仕方ありませんわね。では、少し小難しい話になりますが、構いませんか?」

「ああ、構わない」

「白い艦隊が、我々から守ろうとしているものがある、それは提督も当然、ご承知ですわよね」

「あの軍事行動からは、そうとしか考えられないだろう。問題は、それが何かということだ」

「おそらくですが、クロノスが守ろうとしていたものと同じようなものだと、私は考えているのです」


 突然、意味の分からないことを言い出したぞ。クロノスってのは、マリカ少佐によればアポロンが作り出したこの数多くの人類文明を、ウラヌスから守るために作り出された無人の艦隊の総元締めだったはずだ。もっとも、それを知らずに壊してしまったのは我々ではあるのだが。


「なんでクロノスと同じようなものを守るもの同士が、わざわざ敵対関係になるんだ?」

「いやですわねぇ。同じようなものと言っても、守る星々は全然違いますわよ」

「……それはその通りだ。すでに我々は3つの星々をやつらから奪ったようなものだ。そしてそれらの星々には、我々と同じ人類がいた」

「そうですわよ。おそらく向こう側の宇宙にも、こちらと同じように多数の人類がいるのでしょうね」

「それらの人類を守るために、あの白い艦隊がいると?」

「ええ、その通りですわ。ですから、クロノスと本質的には同じだとおっしゃってます」

「それはつまり、ウラヌスも大勢の人類の星をつくり、人類という種を宇宙一帯に広めたということか」

「おっしゃる通りですわね」

「待て待て、それじゃどうしてクロノスとウラヌスとが争うことになるんだ? 人類を守るために人類を多くの星に分散させ、それを保護する防御装置が存在しているというのなら、どうして2つに別れる必要がある?」

「多分ですけど、思想が違うのですわ」

「思想?」

「そうです。人類を絶やさないための、そのための多様性を生み出すという、その思想が」


 またわけのわからないことを言い始めたぞ。いちいち解釈に困る物言いが多すぎるんだよ、マリカ少佐は。


「どうしてここで、多様性と思想という言葉が出てくるんだ」

「多くの星に、別々の人類。ウラヌスに、アポロンとクロノス、これらがなぜわざわざそんなことをしたのかとお思いですか?」

「さあな、それが分かれば苦労しない」

「おそらくは、原生人類の星は一つだった。が、ある時途方もない戦いが起きて、まさに絶滅寸前にまで陥った。その結果、宇宙に飛び出した。同じ遺伝子を持つ人類が、多数の星にいる理由は、まさしくそれですわね」

「以前にも、そんなようなことを言っていたな。それがあのギリシャ神話の元になったと」

「あの通りの歴史が起きたわけではないでしょうが、まったく無根拠というわけではなかったでしょうね。結果的に彼らは、人類を別々の星に移住させて、分散した。これによって、人類の崩壊を免れようと考えた」

「それはそうだと思うが、そこに多様性というものが必要なのか?」

「生命の進化の過程では、多様性というものが重要なカギになっているのです。環境の急変が起こっても、多様性があればどれかの種が生き残る。ですから、敢えて分散した人類を多種多様にしたのです」

「ならば、その思想がウラヌスとアポロンらと、どう違うというのだ?」

「ウラヌス側の星を見て、気づきませんでしたか?」

「何をだ」

「鈍いお方ですわね。ほら、ウラヌス側のどの星にも必ず『遺跡』というものがあり、それが人類をコントロールしていたではありませんか」


 ああ、そうだった。僕自身がさっき、ウラヌス側の星の共通点として挙げていたものだ。


「だとしても、だ。それが一体、どうして思想の話になるんだ?」

「つまりですよ。人類は、管理統制されなければならない。それがウラヌス側の考え方だったのではないでしょうか?」

「なるほど……だから、遺跡を使い、わざと多様性を生み出した、と」

「3つも続けて『遺跡』の話を聞かされれば、そう考えざるを得ないですわ。できればもう一つくらい、遺跡のある星を見つけてくださればよかったのですが」

「……つまり、白い艦隊をもう一度、全滅させろと?」

「そういうことになりますわね」

「それはもう、やりたくないな……ともかくだ、ならばどうしてウラヌスやアポロン側の星には、そんな古代遺跡の影がないんだ」

「ですから、そういう思想なのですわ」

「そういう思想とは?」

「理解の悪い人ですね。ですから、ウラヌスとは真逆で、管理統制など必要ないと考えた、ということですわ」


 ああ、そういうことか。だから遺跡の類いは見つからない。むしろ、原生人類の存在を消し、まったく新しい人類として存在させた。そういう星ばかりだな、こちらの宇宙は。


「ということは、一千個以上の地球(アース)の大半であるアポロンの星は、自然に任せたということになるな」

「そうですわね」

「だが、それでは多様性は生み出されず、同じ結果にどの星も行きつくのではないか?」

「いえ、そうとも言えませんわ」

「なぜ、そう言い切れる?」

「そうですわね。上手くは言えませんけど……ここからは、かなり飛躍した仮説になりますけど、よろしいです?」

「構わない」

「昔から、ある考えが存在するんです」

「ある考えとは?」

「例えば小説、漫画、アニメ、ドラマ、物語といった、そういう創造的なコンテンツというものは、実は宇宙のどこかに存在しており、その存在自体が遠く離れた星に作用して創造を駆り立てているという、そういう考えですわ」

「なんだそりゃ? てことは今、オオスで行われているアニメや漫画のコスプレ集団も、宇宙のどこかにあるものからの影響によって生み出されたものだと?」

「実際に、巨大ロボや魔法少女がいたじゃないですか。どこかで聞いたこと、ありません?」

「まあ、地球(アース)001には、昔からあるコンテンツだよな」

「その通りです。まさにその原点ともいえる存在が、現実にあったのですよ。ですから、アポロンの作り出した星とはいえ、ウラヌス側が作り出した管理統制型の星の影響を受けて、結果的に多様性を手に入れたのではないか、というのが私の仮説です」


 うーん、にわかには信じがたいぞ。だって、光の速さで何光年も離れている星のことが、遠く離れた、それも互いに敵対する者同士の星に影響を与えるなど、信じろと言われても根拠がなさすぎる。


「なるほど、飛躍する仮説だということは分かった。で、つまりマリカ少佐は、あの白い艦隊がウラヌスの行う管理統制型の多様性を守るために存在する防御装置だと言いたいのか」

「そう考えるのが自然ですわね。実際、我々に取り込まれてしまった星に、彼らは攻め込むようなことはしてませんから」


 いや、そうでもないけどな。先日起きた戦闘は、正に我々側に取り込んだ星に白い艦隊がわざわざやってきた。

 もっとも、いつもとは違い、攻めてきたというより探りに来た、と言った方が正解か。そして何よりも他の星との大きな違いとして、その遺跡が破壊された後であるということだ。

 だから白い艦隊は早々に引き、しかし本当に遺跡が破壊されたのかを確かめるために再び現れたのではないか。そう考えるのが、妥当かもしれない。

 で、その遺跡とやらをぶっ壊した張本人が、まさにあのカルヒネン准尉というわけか。


「それにしても、3つとも変わった星でしたわよね。いや、正確には4つあったのだけれども、その一つが滅びかけてあの巨大ロボのある地球(アース)1050に降り立ったのでしたわね」

「巨大ロボと魔法少女は分かるが、あのカルヒネン准尉の星は確かに遺跡はあったものの、その歴史は我々のものとさほど変わらないものだったぞ」

「ですが、あのカルヒネン准尉という人物こそが、魔法少女にも引けを取らない驚異的な人物だったのは確かですわ。あんなアナログな計算手段で、精密射撃をやらかした。普通に考えて、6000メートルも先から手計算だけで駆逐艦に砲弾を当てるなんて、できない話でしょう」


 マリカ少佐のいう通り、あの計算士、定規のようなアナログ計算機一つでとんでもない計算をやってのけた。前回の戦いでも、それをまさに見せつけられたところだ。

 つまり、この先を進めば、同じような超人的な何かを持つ星にぶち当たると、そう言いたいわけか。

 いや、待て。それを防ぐための方法を考えるため、マリカ少佐を呼び出したのだろう。僕は尋ねる。


「ともかく、マリカ少佐の仮説というのは分かった。が、この先、あの白い艦隊と戦わずに済む方法というものを考えたいのだが」

「今の話を聞いて、白い艦隊と妥協できるポイントというのはございましたか?」

「いや、それが見当たらないから聞いている」

「それじゃ、無理でしょうね。戦闘しか知らない獣人らが集まるような集団に、それ以外のことを教える方法でもない限りは、あの白い艦隊との戦いは続くのではありませんか?」

「こちら側が攻めないと約束すれば、戦闘は避けられるのではないか」

「そもそも、戦闘前に警告を流しているというのに、こちらの言うことを聞いた試しがないではありませんか。それに彼らは、クロノスの消えた我々の宇宙への進入を果たそうとしている挙動も見られますし、このまま白い艦隊と永遠に戦い続けるほか、ないのではありませんかね」


 ダメだ。マリカ少佐に話を聞いたところで、肝心な停戦案が出てこなかった。とはいえ、世界の構造が垣間見えた。何か、妥協点はないのだろうか。


「そんなことよりも提督、私、とあることに気付いてしまったのですよ」


 ところが、これで終わりかと思っていた話を、マリカ少佐の側から続けた。


「なんだ、白い艦隊とやりあわない方法でも思いついたのか?」

「そんな小さな話ではありませんわ。もっと大きな話です」

「いや、白い艦隊と戦わない方法は、小さな話とはとても思えないが」

「いえいえ、スケールが違い過ぎます。我々がサンサルバドル銀河、フアナ銀河と呼んでいるあの銀河の正体が、ようやくわかったのですよ。昨日、こちらのサーバーを使ってシミュレーションして、ようやく確信が得られましたわ」


 急に話が向こう側の銀河の話に移ったぞ。とはいえ、あの銀河の位置がどこなのか、皆目見当がついていなかったのも事実だ。それが判明したというのであれば、決して無視できない。


「では聞くが、サンサルバドル銀河とフアナ銀河とは、どこにある銀河なのか?」

「どこ、というより、いつの銀河なのか、と尋ねる方がいいですわね」

「どういうことだ。言っている意味が、まったく分からない」


 そう言い放った僕に、やや呆れ顔のマリカ少佐が、こう答える。


「では、結論から申します。フアナ銀河と呼んでいるのは、実は天の川銀河のことであり、そしてサンサルバドル銀河と呼んでいるのは、実はアンドロメダ銀河のことなのですよ、提督」

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