#105 文化
「……4人目、じゃないのよね?」
殺気しか感じないダルシアさんの出迎えをいつも通り受ける。が、すぐ後ろにいるあの計算士には、マンテュマー大尉が一緒にいる。
「あのさ、おっかあよ。いくらカズキでも、4人目をつくるのはもう無理だと思うぞ」
「そうだな。そろそろ我々、3人を相手するだけで精一杯といったところであるな」
「そうじゃそうじゃ。妾も身重で、それどころではないわ」
まさか、カルヒネン准尉のことを4人目かと勘違いしたか? だが、あの計算士はマンテュマー大尉と一緒に歩いているし、誤解の与えようがないのだが。
もしかして、ダルシアさんって4人目の登場を期待している? いや、まさかね。
傍の像を持ち上げていたダルシアさんは、そっとそれを下す。で、いつものようにファミレスへと向かう。
「いやあ、6倍の敵をやっつけたって、やっぱり君はすごい指揮官だよねぇ。さすがは、ノブナガの再来と言われた男だ」
相変わらず調子だけはいいアキラさんだが、今回、レティシアとダルシアさんの餌食になっているのは、あの計算士だ。
「本当にこの娘、女なの?」
「あの、それはどういう……」
「胸がなさすぎる上に、代わりに2つの勲章つけてるわよ。ちょっと変じゃない?」
「いやあ、こいつ、計算やらせたらすげえやつだぜ」
「何がすごいのよ。まさか、魔法が使えるとか?」
「いや、そういう類いじゃねえんだが……それがよ、定規みてえなもんを使って、うちの駆逐艦の甲板に砲弾をぶち当ててきやがったんだぜ」
「ええっ!? こんな小さな胸で、どうしてそんなことができるのよ!」
胸の大きさは関係ないだろう。それはその計算士の計算術と、その感性の鋭さが驚異的な人物だということだ。驚くポイントが違うだろう。などという思いをダルシアさんに抱いたところで、どうにかなるものではない。
むしろ、可愛そうなのは、その小さな胸をいじられているカルヒネン准尉だ。
◇◇◇
地球001という星、そしてそこにあるこのトヨヤマ宇宙港というところは、我が王都クーヴォラの飛行船ドックをも上回るすさまじさだ。広い敷地には、軍民の船がひしめくように並んでいる。
のだが、そこにいる人は、なんだか変だ。
特にこの、レティシア殿の母親というこの人物、なぜか私の胸や腕を触ってくる。落ち着いて、食事ができない。
なぜ私は今、この母娘から際どい所をいじられなくてはならないのだろうか?
挙句の果てに、帰り際にはその母親は、こうヤブミ提督に叫ぶ。
「カズキさん! 4人目はダメよ、絶対!」
といいながら、宇宙港を去った。うう、酷い目にあった。
「まあ、カズキが関わる女で、このトヨヤマに最初にやってきたら、通らざるを得ない儀礼だと思ってくれや」
「は、はぁ……」
「しっかし、いつも思うんだけどよ。どうしてカズキが返ってくるタイミングぴったりに現れるんだろうな?」
「さあな。考えられるのは、お義父さんが運送系の会社に勤めてて、第8艦隊入港の知らせを事前に知るからかもしれないな」
「どうして親父が、第8艦隊の動きを知ることができるんだよ」
「決まってるだろう。ここトヨヤマは、軍艦艇優先の港だ。だから、多数の艦艇が入港する場合は事前に民間運送業社に連絡がいく。その入港する規模から、第8艦隊かそれ以外かはすぐにわかる」
「そうなのか?」
「そりゃそうだろう。たかが1000隻の第8艦隊艦隊と、1万隻の他の艦隊とでは入港の規模が違い過ぎる。どの艦隊かなどと言わなくても、ベテランならすぐにわかる」
何やらぶつぶつとレティシア殿とヤブミ提督が会話をしている。どうやらあの母親は、毎回現れるようだ。にしても、1000隻を「たかが」と言い切ってしまうあたり、この星の懐の深さ、強さを知る。
そんな私は、宇宙港の外で驚くべきものを目にすることになる。
「さてと、ナゴヤへむかうぜ」
「あの、ナゴヤとは?」
「このトヨヤマに入港する前に見ただろう。あの高層ビル群がある場所だ」
そういえば、途方もなく巨大な街を見たような気がする。ざっと300から400メルテの高さの建物が、ずらりと並んでいた。
何よりも、高さが800メルテを越える巨大な塔の存在には驚いた。聞けばあれは「テレビ塔」という、恒星間通信に使われる巨大アンテナだという。
一度、そのビル群から離れたここトヨヤマに降り立ち、再びビル群に戻るという。つまりこれから、あのおびただしい建物が並ぶ場所へと向かうというのだ。その手段が「バス」と呼ばれる乗り物だという。
そのバスというものが、空からゆっくりと降りてくる。静かに目の前に降り立つと、側面の扉がスーッと開く。
『毎度ご乗車、ありがとうございます。このバスは、イヌヤマ、メイエキ経由、トコナメ行きです。お乗り間違えのないよう、ご注意ください。なお、二ホン国外方面へのバスへのお乗り換えは、メイエキとなります』
機械的な言葉を発するその無人のバスに、ぞろぞろと乗り込む。マツ殿が席に座り、それを囲むようにレティシア殿やリーナ殿、そしてヤブミ提督が立つ。
やがて、そのバスという乗り物は上昇を開始する。
『お待たせいたしました。メイエキ方面、トコナメ行き、発進します。次は、イヌヤマ。お降りの方は、着地してから席をお立ち下さい』
などと言いながら、すごい勢いでバスは進む。が、その衝撃は伝わってこない。駆逐艦もそうだが、人工的に重力を制御する方法を使って、衝撃などを打ち消していると聞いた。
で、イヌヤマという場所に降り立つ。すると、近くの小高い丘の上に、何やら古臭い建物が見えた。三角形の妙な屋根を持つ、3階建ての変わった建物。他の建物と比べても、明らかに違う。
「あの、あそこに周りとは異なる建物が見えるのですが」
「おお、カルヒネン殿には、あの建物の違いが分かると申すか。あれは犬山城と言うて。今から2000年ほど前の城だそうじゃ」
えっ、2000年前の城? この星でも、2000年前には城などというものを建てていたのか。城というからには、この地で戦いが行われていた歴史があるということになる。
「それをいうたら、ほれ、あそこにも城があるぞ」
バスが発進してしばらく進んだあたりで、マツ殿が指さす方角に、さっきのよりもさらに大きな城が出てきた。確かに、あれも見るからに城だ。
しかし、屋根の色が妙に薄緑色をしている。おまけに、周囲をぐるりと溝のようなものが掘られ、さらに城壁のように囲む壁と、その角地に小さな城のようなものが立てられている。その風貌から、さっきの城とは、明らかに格の違いを感じさせる。
「あれは名古屋城というて、この辺りの主城であったようじゃ。今あそこにあるものは、400年ほど前に再建されたものらしい。元の城は大きな戦の際に焼けてしもうたらしくてな。紆余曲折を経て、あのように再建されたそうじゃ」
地球001という星は、もっと進んだ星だとばかり思っていた。が、ところどころ、我々の王都よりも古風なものを残しつつ、新旧入り混じった雑多な街であることを知る。
なんなのだ、このナゴヤという街は。
降り立った先で、私はさらなる衝撃を受ける。高いビル群の合間を、大勢の人々と車がひっきりなしにうごめいている。一体、ここには何人の人々がいるんだ。
「おう、今日はメイエキから少し離れた、サカエってところまで行くぜ」
「さ、サカエ……?」
「こっからだと、地下鉄の方が早えな」
ということで、今度は地下へともぐりこむ。私と砲長に、そしてヤブミ提督の一家はそろって地下に続く階段を降りていった。
恐ろしいことに、降りた先の地下にも街があり、多くの店の前を大勢の人々が行き交う。その合間を縫って、改札というところへ来る。
「ここで、その電子マネーを当てるんだよ」
レティシア殿に言われる通り、私はもらった電子マネーという薄っぺらい板を当てる。両開きの仕切りが開き、私はそこを通り抜ける。
大勢の人が、やってきた大きな乗り物に乗り込む。先ほどのバスよりも小さいが、それが長く連なる。そういう乗り物だ。
「そういやあ、この電車ってのはあの戦艦オオスにもあるんだぜ」
「えっ、こんなものがあの船の中にあるんですか?」
「だっておめえ、3200メートルもの船だぞ。その中を移動する手段として、電車は最適だろうが」
とレティシア殿は言うが、それほど便利な乗り物だとは思えない。とにかく、人が多い。
これでも最繁時にはさらに多くの人がぎゅうぎゅう詰めにされるというから驚きだ。すぐに次の駅に到着すると、大量の人々が乗り降りする。
その次の、2つ目の駅でようやくその地下鉄という乗り物を降りる。にしても、ここは何もかもが新しい。さっきのあの古臭い建物はなぜ、残されているのか?
そして地上に出てみると、私は驚くべきものを目にする。
あの「テレビ塔」と呼ばれる、巨大なアンテナ塔が目の前に現れたのだ。
天を突き抜けるように高い塔が立っているというのに、それに構うことなくレティシア殿はその反対方向を指さす。
「ここがサカエだ。んで、今日はおめえらと俺たちは、あのホテルに泊まることになってるぜ」
その指差す先は、高いビル群の一角だ。どうやらあれは、ホテルらしい。しかも、恐ろしく高いビルだ。
「そういえば、シェリルはトヨヤマか」
「アマラも一緒だって言ってたぜ。しばらく身体検査があるってよ。んで、早けりゃ明日か明後日には、こっちに来られるらしいな」
ヤブミ提督の問いに、なぜかレティシア殿が答えている。そういえばあの獣人たちは、ついてきていないな。どこにいるのかと思ったら、まだあの宇宙港のあるトヨヤマというところにいるのか。
そのホテルは、全面ガラス張りでややベージュ色の土台の、いかにも高価なホテルだ。こんなところに、尉官ごときが泊ってもいいのだろうかと思うほどのご立派ぶりだ。
「ええと、俺たちの部屋は最上階で、お前らはその一つ下のツインルームだな」
といわれ、薄く硬めの紙のようなものを渡された。これは、ホテルの部屋のカギだ。
これは前の戦艦オオスのホテルでも経験済みではあるが、このホテルの場合は、ちょっとだけ仕組みが違う。
「この建物内の買い物は、全部こいつでできる。ホテル内の買い物の際に、電子マネーの代わりにこいつを当てるんだ。そんで、その費用は軍が出してくれるから、気兼ねなく使えや」
この紙切れ、いや、カードはホテル内の買い物でも使うことができるそうだ。最後に清算の際にそれらが請求される仕組みなのだが、それをすべて軍が出してくれるという。
とはいえ、そんなにポンポンと使っちゃダメだろう。さすがに、遠慮してしまう。それ以前に、そのホテル内で売っているものというのがまた、貴族の品かと思うような豪華な宝石類や帽子、衣服を扱う店ばかりだ。とても軍服姿の私が近寄れる場所ではない。唯一、喫茶店のようなところがあって、あそこだけは入れそうだ。
さて、砲長と共に指定された部屋へ向かう。ドアノブの下あたりにあのカギを当てると、ガチャッと音がして、ドアのかぎが開く。戦艦オオスの時も思ったが、どういう仕掛けになってるんだ、これ。
いや、ここはそういう世界だ。私と砲長は割り切ってホテルに入る。
が、窓の外を見て、圧巻させられる。
ここはだいたい高さ300メートル、すなわち300メルテのところにいる。
飛行船乗りだから、高い場所には慣れているが、それでもホテルの部屋の中というのが驚きだ。見渡す限り、高いビル群やきれいに舗装された道路を走る車、そして大勢の人々。
何もかもが、新鮮だ。そして窓の端の方からは、あの「名古屋城」とかいう城の姿もちらっと見えた。
あれも結構な大きさの建物だ。しかし、周囲のビル群に威圧されるかのようにポツンと建っている。とはいえ、そんな小さな建物ながらも存在感だけはある。ともかく、ここが長い歴史のある街だということはよくわかる。
「いや、しかしなんだ、こんな風景の中、お前と二人きりとはな」
などと言いながら、砲長、いやアウリスは私の背後から抱きしめてきた。気が早いな。まだ日没前だぞ。
と思っていたら、ポーンと呼び鈴の音が響く。誰か来たようだ。ドアを開けると、そこにはレティシア殿がいた。
「おう、夕食に行きがてら、ちょっとオオスに寄ろうと思ってるんだ」
「オオス? 戦艦に行くんですか」
「違うよ。その戦艦の名前の元になった街だよ」
なんだ、オオスとは街の名前だったのか。そこに行こうと誘うレティシア殿だが、私の背後にはやや不満げな砲長が立っている。
「なんだぁ? もしかして、もう手ぇ出そうとしてたところだったのかよ。まあ、夕飯食って、夜景を見ながらの方がずっと盛り上がるから、そういうのは夜まで取っておいた方がいいぞ」
と、相変わらず露骨で品のないことを口走るこの一人目の提督夫人は、我々について来いと手招きする。
これから2週間ほど、ここに泊まることになる。そんなに急いでオオスの街に行かなくても、いいんじゃないかと思っていた。
が、結果的には、ついていって正解だった。これほどまでに面白そうなところを、私は見たことがない。
ここの来た時から新旧入り混じった、雑多な街だと感じていたが、このオオスというところはそれをさらに進めたようなところだ。恐ろしく昔から存在するであろうと思われる寺と呼ばれる宗教的施設があるかと思えば、高いビルがところどころ、そびえたつ。
なによりも「商店街」と呼ばれる、2層構造の屋根付きの街と、そこに並ぶ店の豊富さ、多彩さに驚いた。
飲食店に、家電の店に……なんだかよくわからない服や物を売っている店もある。いや、スマホにまじって、計算機らしきものを売ってる店もあるぞ。
一体、ここになぜ、こんな雑多な街ができたのか、その歴史的な背景が知りたいと私は思った。
なにせここは、店以上に多種多様な人々が入り混じっているからだ。
腰に剣を差して歩く中性か近世風の騎士の姿もあれば、頭から筆のようなものを生やし、腰に「刀」と呼ばれるものを携えた者、人型重機のパイロットスーツを派手にしたような姿の男女がいたり、挙句の果てには……より人に近い形の人型重機っぽい姿をした者までいる。
なぜあのように奇抜な格好をしている人たちばかりなんだ? ここは、どういう人種が集まっている?
「おお、そうか。今日はコスプレ祭をやってるんだな」
「こ、コスプレ?」
「おめえも見ただろう、戦艦オオスでアニメや漫画ってのがたくさんあるのを。そのキャラに成りすました格好をすることをコスプレってんだ」
どうやら、わざとああいう派手な格好をしているみたいだ。髪の毛の色まで赤や青、薄紅色に紫と、多彩過ぎる。中世風から未来風な姿格好、およそ人間離れしたものまである。
さすがに普段はこうではないらしい。そういう祭りだから、そういう格好をしている人が集まっているんだとか。
しかし、剣はまずいだろう。おまけに、銃を抱えている者までいる。いいのか、こんな街中に銃を持ち込んでも。
「で、ですがレティシア殿、ここは武器の持ち込みが禁止なのでは……」
「ああ、あの剣や刀、それに銃の類いはみんな偽物だから大丈夫だよ」
そういえば、マリーの変身後の姿を模したような姿の女もいる。いや、あれよりももっと派手で、手にはなにやら奇妙な形の棒のようなものを持っている。
色も、赤だけではない、青や黄色、紫に黒いのまで、さまざまだ。
「ああ、ヤブミ提督に奥さん方、それに……計算士さん、だっけ」
そんな雑多な人の中で、マリーとダールストレーム中尉に出会った。本物の魔法少女はといえば、別段普通の格好だ。中尉は私と同様、軍服を着ている。
そういえば周りを見ると、軍服姿もあるな。ヤブミ提督と同じ正式な軍服姿の者もいるが、大半はどこか違う軍服だ。あれもアニメや漫画のものなのか?
とすると、私もまさかコスプレだと思われているのではないだろうか? 明らかに周りと違う。それが証拠に、なんとなく視線を感じる。
それをごまかすために、私は計算尺を取り出した。
「ええと、私が1.5メルテで、この天井までの高さがおよそその4倍あるから……」
「おい、何を計算し始めたんだ?」
砲長が私の行動を奇妙に思ったのだろうが、この場で私は何をすればいいのか分からず、つい計算尺を取り出して屋根の高さを計算してしまった。それを見ていた周りの人の声が聞こえる。
「あれ? 見たことのない軍服に、二つの勲章……あんなキャラ、いたっけ?」
「しかも定規を滑らせて、何してんだろう?」
そういえばこっちの世界は、計算尺などもはや廃れてしまったのだったな。というか、私を漫画のキャラか何かと勘違いしているらしい。いや、これは架空のものではなく、イーサルミ空軍の正式な軍服だ。
「あなた方も、夕食なのね」
と、マリーがレティシア殿に尋ねている。
「おお、そうだぜ。どうせなら、あのラーメン店にしようかと思ってるんだ」
「そう。私とこの人は、この先にあるという鶏の丸焼きが食べられるという店に行こうって話してたの」
「あれ? そこって今日は定休日じゃないのか? いや、でも祭りやってるからなぁ、どうだろう」
「えっ、そうなの?」
なにやら急にマリーが動揺し始めた。どうやら、行きたいと思ってる店が閉まってるかもしれないと言われたからだ。
「ちょっと待て、俺がスマホで調べて……」
「ボリス、ここで待ってて、私、その店、見てくる」
「えっ、見てくるって、まさか……」
「トランスファー!」
この大勢の人ごみの中で、急に光り出すマリー。全身が一瞬、露わな姿に変わったかと思うと、あの赤白の魔法少女に変わる。
「えっ、ちょっとあれ、本物じゃない!?」
「うわ、本物の魔法少女だ! オオスに来てたのか!?」
どうやらマリー、いや、ロッズのことはここでは知られているようだ。そんなロッズは腰をかがめてジャンプすると、そのままこのアーケード街と呼ばれる屋根の骨格を伝いながらどこかへと向かっていった。
かと思いきや、ものの20秒ほどで戻ってきた。そして、ダールストレーム中尉にこう告げる。
「お店、開いてたわ。でも、すごい人混みだった」
「そうか。それじゃ待たされそうだけど、どうしようね?」
「この調子だと、別のお店も混んでそうだし、予定通り、そこに向かうことにしましょ」
と、会話する二人の姿を、周りの人たちがあのスマホを向けている。どうやら、写真を撮っているようだ。この大衆の目が集まる最中にもかかわらず、ロッズはなんとその変身を解いた。
再び光出し、一瞬、また露わな姿を見せたかと思うと、長袖のベージュ色のワンピースに身を包んだごく普通の姿に戻ってしまった。そして、ダールストレーム中尉の腕にしがみつく。
そんな姿を、周りの人たちが唖然とした表情で見つめる。私も同様だ。
こんなところで、よくあんな姿になれるなぁ。いや、それ以前に「変身」ができること自体がこのオオスであっても珍しい存在のようだ。
「何、悪い?」
そんな周囲の人々にこう言い放ち、歩み始める二人。あの不愛想さがなければ、人気者になれること間違いなしだ。が、この不愛想な魔法少女は、そのまま立ち去ってしまった。
「いやあ、ああいう尖ったキャラもいいよな」
「そのくせ、横にいた軍人風の男には一途なようだな。うらやましい限りだぜ」
いや、意外と人気があるみたいだ。周りの会話からそう察した。
「ほら、ついたぜ」
そんなレティシア殿に連れてこられた先は、こじんまりとした白い建物だ。上に赤色基調の看板がついている。
「俺は肉入りラーメンだ。リーナは3つ、カズキはどうする?」
「僕は期間限定のあの醤油ラーメンってやつでいいかな」
「妾はざるラーメンがよいな」
「あと、マンテュマーとカルヒネンだが……おめえらは初心者だから、肉入りラーメンでいいな」
なんだかよくわからないが、レティシア殿に仕切られてしまった。で、しばらくして出てきたものといえば、これまた奇妙な食べ物だった。
白っぽい汁の中に、細いパスタのようなものが入っている。その上に丸く切られた薄い肉が5枚。他にはまるで柔らかな木片のようなものがいくつか入っている。
先がフォークのようなスプーンを渡される。
「こいつも一応、ナゴヤ名物だ。値段は安いが、結構いけるぜ」
というので、恐る恐るそれを口にする。うん、不思議な味だが、確かに美味い。ちょっとこのフォークとスプーンを合わせたこの食器では食べづらいが、それでも何とか口に運ぶ。
「他にも、ひつまぶしに台湾ラーメン、そうそう、手羽先だってあるし、なんなら帰りにういろうでも買って帰るか」
聞いたことのない名前の食べ物ばかりが出てくる。そういえばさっき、マリーは鶏の丸焼きを食べに行くとか言ってたな。なんでもありだな。トナカイ肉も探せばあるんじゃないか、この街は。
食べ物だけではない。服も、雑貨も、そして歩く人々の姿も、あまりに多様過ぎる。王都クーヴォラなど、ここと比べたらただの古臭いだけの田舎にしか見えないな。
「さっきから、俺の頭の中でこの街の乱雑ぶりが過って処理が追い付かない感じだ。どうなってるんだ、ここは?」
砲長もやはり混乱気味か。そんな砲長に、レティシア殿は言う。
「難しく考えるな。感じろ。要するに、そういう街ってことだよ」
もはや説明にすらなっていない一言を言われ、静かにラーメンを食す私と砲長。しかしこのラーメンが4ユニバーサルドルだと聞いて、その安さに驚いた。同じようなものを王都で食べようものなら、おそらくはその倍はするんじゃないかと思う。
で、帰り際に、ふと仮組みの小屋のようなものが並んでいるのが見える。
「おう、カズキ、ちょっと飲んでいこうぜ」
「えっ、マツはどうするんだ?」
「ああ、それなら構わぬ。私が連れて帰ろう」
「そんじゃリーナ、頼んだぜ。あ、帰りにういろう買ってけよ」
「妾は桜色の一口ういろうがほしい」
「それじゃついでに、ケバブでも買って帰るとするか」
そういえばリーナ殿は大食いであったな。さっきもあのラーメンとやらを3杯食べたというのに、さらにまだ食うのか。
「そんじゃ、おめえらのオオスデビューを祝して、かんぱーい!」
「かんばいー」
で、気づけば私は、レティシア殿とその娘のユリシア、ヤブミ提督に砲長と共に、ビールを持たされていた。さすがにユリシアはオレンジジュースであったが。
で、勢いに任せて、私はそれを飲み干した。うん、ここのビールは美味い。
が、それがいけなかった。そこから先、私の記憶は途切れる。
気が付いたら、朝日に照らされた部屋の中、私はベッドの上で全裸で寝かされていた。横には、砲長がいつものように寝ている。
うーん、どうしていつも、こうなるんだ?




