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#1 接触

「……以上が、現在の我が艦隊の補給状況です、にゃん」

「そうか、ならば前進し、敵艦隊出現ポイントに向かうとするか。ヴァルモーテン少佐に連絡、全艦前進し、作戦行動に入る、と」

「はっ、直ちに幕僚長殿に伝達いたします、にゃん!」


 今、僕は地球(アース)065星系外縁部にいる。この星系内にあの白い艦隊が現れた、という連絡を受けて、地球(アース)1010から700光年隔てたこの星にやってきた。

 ここは、我が第8艦隊旗艦、戦艦オオスの艦橋内。全長3200メートルの小ぶりな戦艦ではあるが、ここはそれなりに広い。大型のメインモニターに映し出される陣形図は、我が艦隊1000隻の一隻一隻が識別できるくらい高解像度だ。

 以前が狭すぎたんだ。本来ならば、駆逐艦のあの狭い艦橋内に、操艦と司令部とを同居させていたことが異常だったのだと、今にして痛感する。こんなことなら、さっさと戦艦を旗艦とすべきだった。

 それにしてもこの幕僚補佐は、本当によく働く。頭の回転が早く、僕の質問にも即座に応えてくれる。

 ただ、語尾が……本人も分かってはいるのだが、どうしても「にゃん」とついてしまう。こればかりは長年の習慣か、それとも持って生まれた習性ゆえか、治りそうにない。もっとも、僕も最近は気にならなくなってきた。

 ところで彼女、アマラ兵曹長は、元々は幕僚補佐官どころか、軍属ではない。地球(アース)1029の大陸中央の王族出身で、獣人族の彼女はベビーシッターとしてここにやってきた。それが巡り巡って幕僚補佐官となり、すでに3か月が経とうとしている。


「アマラ兵曹長」

「はっ、何でしょうかにゃん!?」

「そろそろ終了時間だ。ヴァルモーテン少佐への連絡が終わり次第、上がって良いぞ」

「はっ、承知いたしました、にゃん!」


 西暦2493年1月10日。まだ年が改まったばかりだというのに、年末年始の休みも返上してこの星系に急行する羽目になった。あの厄介な敵は、いつどこに現れるか分かったものではない。

 ……そうだ、そういえば、アマラ兵曹長が上がる頃ということは、そろそろ来るな。

 考えてみれば、ベビーシッターから幕僚補佐にジョブチェンジなんてこと、普通は起こるはずがない。いくら優秀な人物だったとしても、軍務に耐えうる人物かどうかを見極めるには、まさに軍務に触れられる環境がなければ、できるはずがない。

 ところがアマラ兵曹長は、ベビーシッターでありながら、その軍務の中枢であるこの艦橋に足を踏み入れる機会を得た。それが、奇跡的な転職を果たした。

 そのきっかけを作ってしまった人物が、まもなくここにやってくる。


「おい、カズキ! 手羽先食いに行こうぜ!」

「だーっ!」


 うん、やはり予想通り現れたな。僕は応える。


「ちょっと待て、レティシア。まだ引き継ぎが終わってないんだが」

「んなもん、ちゃっちゃとやりゃあいいだろうが。こんなむさ苦しい場所で、可愛い妻と娘を待たせる気か!?」

「だーっ!」


 自称「可愛い妻」のレティシアと、その声に合わせて相槌を打っている長女のユリシア。この娘、まだ生まれて10か月だというのに、随分と調子がいい。

 そう、元々アマラ兵曹長はユリシアのベビーシッターだった。が、レティシアと共にここ艦橋に頻繁に現れるものだから、いつのまにか軍務のあれこれを覚えてしまった。その才能を幕僚長であるヴァルモーテン少佐に見出されて、以来、ヴァルモーテン少佐の補佐をしている。

 が、まさかヴァルモーテン少佐が、獣人族を補佐にする日がくるなんて……あれだけ同じ獣人族であるボランレやンジンガのことを「バカ犬」だの「アホ犬」と呼んでいたのに、このアマラ兵曹長にはそんな態度は決してとらない。意外にも、少佐には才能を見通す力があるようだが、その分、才能が無いとみなした者への態度は辛辣だ。


「カズキ殿! 今日はレティシアが手羽先を食うと言っておったが、まだ街へは参らぬのか!?」


 続いて現れたのは、リーナだ。僕の2人目の妻、抱えているのは、長男のエルネスティ・グスタフ・フィルディランドだ。

 ミドルネームをフィルディランド皇国皇帝、つまりリーナの父親から譲り受けたため、そのままフィルディランド姓を名乗ることとなった。僕の息子なのだが、僕を見るときはいつも、しかめっ面なのが気になる。


「いや、まだ少し軍務が残っている。もうすぐ終わるから、そこで待っていてくれ」

「うむ、仕方あるまいな。我々は未知なる敵が出現と聞いたがゆえに、ここに来たのだからな。ならば、そこの売店で買ってきた串カツでも食べながら、待つとしようか」


 レティシアに比べて、聞き分けが良いのがリーナのいいところだ。もっとも、食欲は相変わらずだ。これから家族揃って食事へ行くというのに、その前に串カツで間食とは恐れ入る。それを、しかめっ面で見入る我が息子、エルネスティ。


「おう、なんでぇ、リーナも来てたのかよ」

「だーっ!」


 と、そこに、レティシアとユリシアが戻ってくる。着任時間を終えて、私服に着替えたばかりのアマラ兵曹長と共に。


「なんだ、レティシア。アマラと一緒であったか」

「こいつも今、ちょうど軍務を終えたところだ。大体、カズキがグズグズしすぎなんだよ」

「だーっ!」

「いつものことではないか。だからこうして私も、串カツを持参してきたのだ」


 仮にも僕は、1000隻の艦隊の総司令官だ。しかもここは敵地の真っ只中。グズグズしていなくとも、軍務が多くて当然だろう。それくらいは察してもらえないだろうか?


「グエン中尉、入ります!」


 と、そこに主計科長を務めるグエン中尉が入ってくる。


「なんだ、グエン中尉。特に艦橋内で、電球が切れたという報告は聞いてないが」

「いえ、私もそろそろ着任終了ですので、変態閣下がアマラ兵曹長に手出ししていないか、確認するために巡回してきた次第です」


 相変わらず、この士官は僕を信用していない。ここ最近の僕は、警戒されるような行動はしていないはずだが。2人の妻も子育て中だし、僕もおむつ替えや離乳食を食べさせるなど、親らしいことをしているぐらいだ。いち主計科の士官にあれこれと疑われるいわれはない。


「ヴァルモーテン少佐、ならびにダニエラ准尉、ただいま哨戒任務より帰還いたしました!」


 と、そこに、僕の今日の最後の軍務の相手が帰ってきた。敬礼するこの2人に、僕は立ち上がって返礼する。


「ご苦労。で、どうだった?」

「はっ、()いだ宇宙です。気味が悪いくらいですね。つい7か月前にあのような会戦があったとは思えないほどです。現在のところ、赤褐色の艦艇がうようよしていること以外は、なんら気がかりなところはございません」

「そうか。だが、赤褐色の艦艇が多いのは当然だ。なにせここは、連盟側の星系だからな」

「まったくですよ! 何ゆえ我々が、連盟の星などを援護せねばならないのか……」


 グチグチと文句を言うヴァルモーテン少佐だが、事態が事態だ、仕方あるまい。この宙域は、まさにあの白い艦隊が出没する場所なのだから。


「ヴァルモーテンさんのおっしゃる通り、地球(アース)065の艦艇以外には、ここには何も感じるものはございませんわ。こちらの艦隊は例の『ニンジャ』を使い、1000隻ほどを忍ばせているのは発見できましたけど、それ以外には特に見るべきものはございませんでしたわね」


 ダニエラが、自身の「神の目」で見たものを報告する。とはいえ、今の敵はダニエラの目でしか見つけられない相手というわけではない。


「了解した。では2人とも、本日の任務は終了だ」

「はっ!」


 僕がそう告げると、2人は敬礼し、更衣室のある艦橋後ろの出口に向かう。それを見届けると、僕は立ち上がって艦長席へと向かう。


「ジラティワット艦長!」

「はっ!」

「これにて僕は着任終了とする。貴官もあと1時間だが、それまでにもし何か動きがあれば、すぐに知らせるように」

「はっ! 承知いたしました!」


 そして僕は艦長に引継ぎを済ませ、互いに敬礼すると、レティシアとリーナが待つベンチの方へと向かう。


「おう、やっと終わりか!?」

「だーっ!」

「ああ、終わった」

「そうか、んじゃ、早速行こうぜ」

「だーっ!」


 どうしていちいち相槌を打つのか分からないが、この娘はいちいち反応してくる。一方の息子の方は、ブスッとした顔でこちらをにらみつけている。

 一方、娘のユリシアは、アマラ兵曹長に抱かれてご機嫌だ。ベビーシッターの時からの付き合いだが、ユリシアは0歳児ながら、人付き合いというものを心得ているのではと思う時もある。


「うーん、ユリシアちゃんはやっぱりかわいいですにゃん!」


 さっきまで真面目に軍務をこなしていた、この有能獣人族を、ここまで緩めてしまうのは、我が娘ながら脱帽ものだ。


「やっぱりユリシアのやつ、アマラに抱かれてる時が一番ご機嫌だなぁ」

「だーっ!」

「ところでリーナ、エルネスティのやつは抱っこさせなくていいのかよ?」

「いや、私はいい。これはこれで、筋トレになるからな」


 リーナのやつ、エルネスティを抱っこしたままだが、あれが筋トレになるのかねぇ……あまり効果はなさそうな気もするが、本人がその気でやっているのなら、それでいいか。

 レティシアのやつ、そういえばもう怪力魔女としての力が戻っているのだから、赤子を抱っこする時にあの力を使えばいいのにと思うのだが、ユリシア相手には、あの怪力を使おうとしない。こだわりがあるようだ。


「おう、着いたぜ」


 着いたのは、とある居酒屋。最近、レティシアはひつまぶしではなく、この店の手羽先にすっかりはまっている。


「いらっしゃいませ、ヤブミ閣下!」


 レティシアが手羽先推しに転じた原因とも言える店員が現れる。あまりにも頻繁にくるおかげで、僕もこの店の店員に顔を覚えられてしまった。いや、僕は元々、この艦内では知られた顔ではあるのだが、この店員には特に「オフ」の顔を知られてしまった、とでも言えばいいだろうか?


「おい、アンニェリカ! いつものやつだ、手羽先定食5つ!」

「はーい! ええと、レティシアさんにリーナさん、閣下にアマラさんの4人で5つということは、リーナさんが2人前ですね! 3人前でなくていいですかぁ?」

「いや、さっき串カツを食べたものでな。2人前で十分だ」

「何ですと! あの串カツのクソ野郎を食ってきたのでありますか!? 茶黒色の邪悪なる液体に侵された、あの串カツを!」

「何をいうのだ。手羽先とて似たようなものであろう」

「何を申します、リーナさん! 手羽先をご覧ください! まるで黄金のような色合いに、宝石のような輝き! そこらのナゴヤ飯とは一線を画した、まさに芸術の一品! 豚の脂身に衣を巻いて、味噌をぶっかけたような下品な品には到底達することの許されない境地に、手羽先はあるのデス!」


 なお、このアンニェリカという店員、なぜか手羽先をこよなく愛するおかしな人物でもある。両親はスウェーデンのヨーテボリ出身だそうだが、本人はナゴヤ生まれのナゴヤ育ち。手羽先に惚れ込み、この居酒屋で働きながら、手羽先の魅力を伝え続けている。

 そんな店員が、この戦艦オオスの艦内街にやってきた。

 本人曰く、両親の故郷の住む場所が、まさしくこの手羽先と同じ形であることから興味を引かれて、気づけば心奪われていたというのだが、スカンジナビア半島と手羽先って、そんなに似てるか? まあ何にせよ、ナゴヤ飯をここまで好いてくれる人物には好感を持てる。もっとも手羽先以外は酷い言いようだが。


「ところでヤブミ閣下。いよいよ、異星人との戦いが始まるのでありますか?」

「いや、異星人って……我々がウラヌスと呼称する白い艦隊群が再び現れたと聞いて、ここにやってきたのは確かだが、まだ姿を現してはいない」

「そうですかぁ? ですが、この艦には手羽先があります! そのウラヌス人とやらがいかに好戦的で、我らに敵意を向けようとも、彼らがこの手羽先さえ口にしてしまえば、必ずや和平の道がひらけましょう!」


 いや、たかが手羽先ごときで和平の道が開かれることなどないだろう。食べ物一つで宇宙が平和になるのならそれに越した事はないが、大体、連合と連盟の間ですら未だ交戦状態が続くというのに、ましてや銀河を超え、その姿すらも知らぬ相手との間に和平など結べるはずもない。

 ところで、アンニェリカが「ウラヌス人」と呼ぶのは、わけがある。

 この宙域でかつて、白い艦隊が現れたことがあった。今から7か月前のことで、その数およそ10万隻。

 ここは連盟側の宙域であり、我々の立ち入ることができない場所であったが、その未知の大艦隊の出現に泡をくった地球(アース)065の宇宙軍司令部が、連盟、連合に救援要請を打診してきた。

 僕の第8艦隊も出動した。白い艦隊10万に対し、ようやく7万隻が集結。すぐに戦端が開かれる。

 が、30分ほどの小競り合いの後に「ウラヌス」は撤退を開始。未知の艦隊による侵攻は防がれた。

 以来、戦時条約によりここは連合、連盟の非戦闘宙域となったのだが、それはともかく、その戦闘後に残されていた白い艦隊の艦艇の一部が、衝撃的な事実を我々にもたらす。

 ウラヌスの艦隊の艦艇は「有人艦」だということが判明した。

 明らかに「人」の居住空間があり、そこに「人」がいた痕跡も残されていたというのだ。

 が、肝心の「人」は遺体を含めて残されておらず、それがどんな姿なのかは未だ判明していない。通路と扉、そして居住区と思われる部屋が一つ、見つかっただけ。どんな姿か、何を食べているのかすら、分かっていない。

 以前戦っていた「クロノス」は、無人の艦隊だった。

 が、この「ウラヌス」では、生命体相手の戦いとなる。おそらくは、我々が接したことのない未知の種族であろう。

 我々はついに、異星人、いや、異銀河人との戦いに踏み込んでしまったことを、あの戦闘は示した。


「だけどよ、そのウラヌス人ってのは、ナゴヤ飯が食えるのかねぇ?」

「何をおっしゃいます、レティシアさん! 生き物である以上、何かを食べているに違いありませんって!」

「そりゃそうだけどよ、それは俺らの常識であって、あっちは緑色のドロドロした身体で、ケツの穴からゼリーみてえなもん食って生きてるかもしれねえぜ?」

「だったら、そのケツの穴に手羽先を放り込んでやるまでですよ! 手羽先は、銀河をも超えた食べ物なのデスから!」

「いやあ……そんなことしたらよ、そいつ、便秘にならねえか?」


 何の会話をしているんだ。およそ、食事前の会話ではないな。もしそんな生物が相手なら、その穴にぶち込むのは手羽先ではなく八丁味噌では……という話は、どうでもいいか。

 ちなみに手羽先が銀河を超えた云々というのは、リーナのいた地球(アース)1019のフィルディランド皇国に最初にもたらされた我々の食べ物が手羽先だったことを意味する。が、あれは手羽先がどうこうというよりは、当時、魔物の棲む瘴気を消して「聖女様」と崇められたザハラーが好きだった食べ物だから、というのがきっかけでもたらされたに過ぎない。それ自体が、手羽先の優位性をどうこう言える理由にはならない。


 いずれにせよ、我々は再びその白い艦隊とやりあうことになるだろう。しかも相手は意思のある知的生物。緑色のドロドロなのか、はたまた我々と同じ姿なのかは全く分かっていないが、何らかの意思を持つ相手である事は間違いない。

 以前とはまた違った戦いが、始まろうとしている。


「んじゃ、いただこうぜ! いただきまーす!」

「だーっ!」


 レティシアとユリシアの号令で、食事が始まる。ええと、確か、僕の時間的には夕食だよな。この街は常に昼間だから、時間の感覚が時々狂ってしまう。こればかりは何年、宇宙に出ていても慣れないものだ。


「ん〜、うみゃーにゃあ!」


 元ベビーシッターだからというわけではないが、アマラ兵曹長はすっかり僕ら夫婦と食事を摂ることに慣れてしまった。にしても、艦橋にいる時とオフの時で、まるで態度が変わる。今はあの独特の耳をピクピクさせながら、手羽先に食らいついている。

 ユリシアとエルネスティを傍に座らせて離乳食を与えているのは、レティシアだ。僕もちょっと手伝いつつも、手羽先を食べる。小骨を取り、少し身に裂け目を入れて、それを一気に頬張り骨を引き抜く。これがスルッとキマると、心地いい。


「おい、カズキ」

「何だ?」

「俺にも一口、くれよ」


 息子のエルネスティに離乳食を食べさせ、手が塞がっているレティシアが、僕に口を開けて手羽先をせがむ。そこで僕は小骨をとって裂け目を入れ、レティシアの口に入れる。すぐにレティシアはそれに食らいつき、引き抜く。するりと身が抜けて、僕の指先に骨だけが残る。


「ん〜、んまいぜ〜!」


 何が嬉しいのか、子供の世話をしながら僕から手羽先を食べさせてもらうことが、レティシアは嬉しいらしい。一方のリーナは、自身の食事に目一杯だ。ガツガツと手羽先とご飯を交互にかき込んでいるところだ。


「そういやあ、マリカのやつ、最近どうなってるんだ?」


 と、突然、レティシアが僕に尋ねる。


「どうした、急に?」

「いや、最近姿を見ねえなと思ってよ。相変わらず毒舌なのか?」

「あの口調が治るはずないだろう。いることはいるぞ、この艦内に」

「なんでぇ、いるのかよ。顔ぐれえ見せりゃいいのに。まあ、元気ならいいけどよ」


 技術士官で謎解き専門のマリカ少佐は今、調べ物をしている。あの白い艦隊の残した残骸調査だが、同時にあの艦隊の正体に迫ろうとしている。

 それでマリカ少佐はこのところずっと、大型格納庫に入り浸りだ。が、相変わらず、何をしているのか分からない。ここ2か月ほど、全く報告を聞いていない。レティシアではないが、気になるな。何をしているのか、あいつは。

 そんなたわいもない会話をしつつ、リーナがふた皿の手羽先を空けたところで、事態は動く。僕のスマホが、急に鳴り出す。


「ヤブミだ」

『提督! 現れました!』


 それはジラティワット艦長の声だ。僕はすぐさま身を乗り出し、尋ねる。


「何隻だ?」

『数、およそ3000、距離1200万キロ! 十字陣形にて、我が艦隊に向けて急速接近中です!』

「そうか。艦内に、警報発令。僕も司令部に急行する」

『はっ!』


 おそらく、任務終了間際だったはずのジラティワット大佐だが、あの敵が現れた。数はこちらの3倍。僕は手に持った手羽先を頬張ると、上着を着て軍帽を被る。


「おい、行くのか?」

「当然だ。まもなく、警報が鳴るはずだ」


 僕がそう言い終わらないうちに、それは発せられる。ウーッというサイレン音が、街中に響き渡る。遅れて、艦内放送が入る。


『警報発令! 艦内哨戒、第一配備! 白色艦隊3000隻が急速接近中、各員、直ちに持ち場へ急行せよ!』


 ここに来た時からすでに、覚悟はしていた。が、急にそれは動き出した。

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