chapter.1〜転生先は弱小男爵家の跡取りでした〜
俺がこの世界に転生してから5年の月日が流れた。
その間に、色々と分かった事がある。
最初に、住んでいる場所については「コンティフ大陸」の「ロイラー王国」にある「ドムナ」という所だ。
そして、俺の今世の名前は「キュエル・ドムナ・アムダウン」。アムダウン男爵家の跡取りだ。
貴族の跡取り……と、聞こえは良いが、所詮は1番下の爵位である男爵家。日本で言うところの地方豪族と大して変わらない。
おまけに治める領地ドムナは、人口1万人を大きく下回り、7千人を超えていれば良い方だ。
地理的にも不利な場所にあり、ロイラー王国の端も端、最西端にあり、主要都市からはかなり遠い。
周囲は森や山に囲まれていて交通の便は悪く、街道こそ通ってはいるものの、現代日本の様に舗装整備なんてされているはずもない。
交通手段は限られていて、基本的には徒歩か馬車しかなく、中には特殊な移動方法を持っている者も居るが此処では割愛する。
他国と面していれば通商の要となっていたかも知れないが、隣国は山向こうだ。
緩やかな山なら兎も角、割と険しい山らしく、馬車で山越えが出来る訳もなく、徒歩で商売が出来る程の大量の荷物を運べる訳もない。
そして、森や山が有るのだから自然の恵みが得られるかと言えば、そういう訳でもない。
この世界には、ファンタジーには付き物のモンスター「魔獣」が存在する。
俺はまだ見た事がないが、モンスターの定番と言えるスライムなんかも居る。
最弱の魔獣で弱いことは弱いのだが、子供が棒切れで叩けば倒せるといったものでもない様で一般市民には少々、荷が重い。
森や山の浅い場所ですらそういった奴らが彷徨いていて、深く行けば行く程に強さも増していく。
その為、気軽に森や山に入って何かを採ってくるという訳にもいかない。
勿論、そういった魔獣の討伐や採取を専門とする「ハンター」と呼ばれる職業を生業としている者も居るが、この領地にはそう多くない。
何故なら、こんな辺境に人は来ないからだ。
仮に、何か採れる物があったとしても、買う側が居なければ売れないのだ。
かと言って、他所で売るにしても場所が遠過ぎる。
ナマ物は足が早いし、大きな物は荷馬車が要る、持ち運べるだけの量を持っていったとしても、移動費と差引きして二束三文では意味が無いのだ。
そんな訳で、他所からハンターは集まらず、この地に居るハンターは地元でハンターになった駆け出し、都市での生活に疲れた年配の者、後は一部の変わり者くらいなのだ。
他領との交流についても自領が辺境過ぎて近場に交流出来る領地がそもそも無い。
寄親・寄子と言った制度も無いではないが、明文化されている訳でもない為、懇意にしている貴族が居るものの気軽に行き来も出来ない。
こんな感じなので将来、家を継ぐ身としては苦労事が多そうで憂鬱ではある。
とは言え、悲観してばかりもいられない。
それに、ここまで悪い所ばかり説明してきたが、良い所も少ないながらにある。
人口こそ少ないものの、領地の面積は他の男爵家と比べてもかなり広い。
周囲は森や山ばかりだが、その森を切り拓き開拓地として現在も開発が進んでいる。
元が森である場所を開拓しているので土に栄養は豊富で、手間こそ掛かるものの農地にするには申し分ない。
実際に、開拓が進み農業が軌道に乗り始めてからは、日頃の食事分は勿論、備蓄量も年々増えている為、餓死者が出たことは無い。
その副産物として、余剰分を給餌に回す事による牧畜もそれなりに盛んだ。
これに因って、小麦、野菜、肉と食事に関しては食うに困ることはない。
異世界転生系の創作に在りがちな、荒れ果てた大地でゼロから農業みたいな事にはならなそうなのでとても安心している。
ただのサラリーマンだった俺には彼らの様に都合良く、農業の知識が備わっていたりする訳じゃないのだから、最初から出来たものがあるなら、それを使うべきだ。
そして、仮にも他国と隣接した辺境の地という事で、騎士団の創設が許されている。
これについては、男爵家としては在りえないのだが、仮にも国境と面しているのだから有事の際には自力でなんとかしろよ、という理由だ。
ふざけんな!と思わなくもないが、辺境に居る以上、魔獣やら何やらの危険から身を守る為に武力を所持出来るのはありがたい事でもある。
結果、我が家には総勢500名の騎士団がある。
まぁ、これが現在の俺が産まれたアムダウン男爵家の現状だ。