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プロローグ〜死亡、そして転生〜

 

 某日某所、午前6時。太陽が顔を出しているものの、雪でも降るのでは?と思わせる程に、ここ最近では1番の冷え込みを見せる11月のとある日。

 俺は今日も今日とて、仕事に行く為にボロい自転車に跨った。




 家を出て20分程が経ち、眠気もすっかり吹き飛んだ頃、俺は田んぼのど真ん中を愛車に乗って突っ走っていた。

 何故、関東圏に住んでいるのにも関わらず、こんな所を今にもぶっ壊れそうな自転車に乗って走っているのか……。

 あの時、本社に栄転だ何だと乗せに乗せられた自分が憎い。

 それはそうと、今日は随分と濃い霧が出ているな……。

 5メートル先が見えるかどうかというくらいの濃い霧が視界一面を覆っている。

 家を出る時には乾いていた上着も、だいぶ湿り気を帯びていて重苦しい感じがする。


 がたん


 湿った上着に気を取られていたせいか、霧で視界が悪かった事もあって、少し大きめな石に気付かずに乗り上げたらしく、衝撃が俺を襲った。


 ガチャンッ


「痛ってぇ…。あー、泥だらけじゃねぇか」


 石に乗り上げた衝撃で自転車ごと転んだ拍子に、運悪く田んぼに突っ込んだ俺は泥に塗れていた。


「ついてねぇなぁ。そういや、チャリは無事か?」


 ボソリと、独り言ちると痛む身体をこらえて自転車の安否を確認する。


「あー、チェーン掛ければ乗れなくはない……か?」


 自転車はホイールが多少、歪んでいる様だが外れたチェーンさえ掛けてしまえば乗れない事もなさそうだった。


「一旦、家戻って着替えねぇと仕事行けねぇなぁ……。しゃあない、戻るかぁ」


 言うが早いか、田んぼから自転車を引き摺り出し、手慣れた手つきでチェーンを掛けると、その上に跨った。




 カラカラカラカラ


 ホイールが歪んでいるせいか、カラカラと異音を響かせる自転車で田んぼのど真ん中を走る俺。


 あの後、すぐさま家に帰り、汚れた服を洗濯機に放り込み、シャワーを浴びて、新しい服に着替えた俺はさっきの事故現場と同じ所を走っていた。

 未だ、霧は深く、新たな上着は当然のように湿気ってしまっている。

 太陽も顔を隠してしまい、先程よりも辺りが暗くなったせいで、視界は更に悪くなっている。


「なんか、だいぶ暗くなったなぁ。雨でも降らんと良いけど」


 そんな事を呟いたせいなのか、段々と空は暗くなっていき、次第に空からは雨が降ってきた。

 最初はポツリポツリといった風だった雨も、5分もすると滝のような土砂降りになっていた。

 当然、上着は湿り気どころかズボンまでびしょ濡れだ。

 視界も効かず、先程から追い越して行く車もそれは同じ様で、近付いて初めてこちらに気付くらしく、急にハンドルをきったり急ブレーキをする車ばかりだ。


 そんな時、妙な物が目に入った。

 おそらく対向車のライトなのだが、あっちへこっちへとフラフラしている。

 前の車を追い越しながら走っているのか、どんどんと近付いてくる。それも、かなりのスピードで。

 この視界の効かない雨の中、交通量は少ないとは言えスピードを出すのは勿論、追い越しを掛けるなんて危険極まりない。


 案の定、ハンドル操作を失敗したのか、無茶な運転でスリップでもしたのか、なんとかしようとしているのだろう、挙動がおかしなライトが此方に近付いてくる。


「って、こっちかよっ!ふざけんな!」


 言葉を荒げても絶対絶命の現実は変わらず、次の瞬間、強烈な衝撃が俺に襲いかかった。


「ちくしょう……、今日はとことんついてねぇ……」


 最期に視界に入ったのは、あちこちが折れ曲がり再起不能になった愛車と走り去っていく1台のスポーツカーだった。








 意識が浮き上がる感覚がある。長時間の眠りから目が覚める様な感覚だ。


 目を開けて周りを見渡すが、視界がぼやけてよく分からない。

 白い部屋に何人か人が居るらしい、くらいしか分からない。


 音が聞こえる。多分、人の声だ。やはり人が居る様だが何を言っているのかはよく聞き取れない。

 声の調子的には、何かを喜んでいる様だ。


 部屋も白いし病室だろうか?

 あんな事故の後だ、俺は長い間、意識が無かったのかも知れない。そんな中、目を開けたのだから医者や身内が喜んでくれているのかも知れない。


 身体を動かそうとするが上手く動かせない。ただ感覚はあって、どうやら俺は柔らかい布か何かに包まれている様だ。

 その感触が心地良く、とても暖かい。


 折角目を覚ましたのに勿体ない気もするが、この心地良さに身を任せて眠ってしまおう。








 俺が意識を取り戻して1週間。

 視界がハッキリと見える様になり、周囲の人の声も聞き取れる様になって幾つか分かった事がある。


 まずひとつ、ここは病院の病室なんかじゃない。

 それどころか、俺の知っている地球ですらないかも知れない。

 何故なら、メイドが居る。白衣を着た看護師じゃなくて、メイド服を着たメイドが居る。

 これだけならまだ良い。いや、良くはないがまだ地球の範疇かもしれない。

 問題は、このメイドが「魔法」を使ったと言う事だ。

 メイドがブツブツと呪文らしき言葉を唱えると何も無い空中に光の球が現れたり、手を翳した先の木桶に宙から水が注がれたりと、理解出来ない現象が起きたのだ。

 初めは手品か何かと思ったのだが、俺の現状も鑑みて、この現象は「魔法」だと確信している。


 次に、俺の現在の状況だ。

 元は、三十路目前のアラサーだった俺。

 そんな俺が今、赤ん坊になっている。赤ん坊、赤ちゃん、Baby、乳児の赤ん坊だ。

 ぷっくりとした小さな手、モチモチの頬っぺたの可愛らしい……かどうかは鏡を見ていないので知らないが、生後1週間の赤ん坊である。

 何を罷り間違えば、三十路目前だったアラサーの俺が赤ん坊になっているのか。


 そこで、思い当たる事がひとつ。


 どうやら俺は「異世界転生」をしてしまったらしい。

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