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天下の豪傑  作者: ポリ太郎
1/1

前編


「味方の敗北は必然。これより敵の追撃の力を弱めるため二手に分かれる。信繁は東の方の峠から迂回しろ。わしはこのまま真っ直ぐ広南平野の方へ真っ直ぐ降る」

「あい、わかった。親父本国で会おう!」

「無論」


言葉を交わしたおれたちは今峠を降る真っ最中。追撃の敵はいるものの狭い道であり簡単に迎撃ができた。しかしその追撃の数には疑問が残った。ここで雌雄を決したい敵側はおれたちの本国にかなりの軍勢を残していることを知っているので絶対返したくないからだ。その疑問が頭を駆け巡るところで目の前には二通りの道に分かれていた。


「八兵衛、どう思う?」

「どうとは何のことかわかりませんがこの道を真っ直ぐ通られますとこのまま本国に到着する様に思われまする」

「それはわかっているがどうも敵方の追撃がぬるい。ここがぬるいと言うことはオヤジのとこへ敵の本体が向かっているのではないだろうか」

「若様、わたしも敵が我らの本軍がどちらか察しはついているのじゃないかと愚考しておりました」

「それでは...!」とおれが告げる前に八兵衛は言葉を遮る。


「ですが我々にはそれを知ってどうすることもできません。大人しく本国に戻られましょう」

「ではオヤジを見捨てると言うのか!それはできない。オヤジはのちに天下を統べるもの、政治も経済も知らないおれが残っても意味はない。これより西の道を通ってオヤジを助けにいく」

「お言葉ながら...この事は全て主人様は御承知の上。知った上で若様に安全な道から通るよう申し付けたのです」

「すまない、おれは見捨てられない。これは意地でもありサガでもある」



ですが...と言う言葉を無視しておれは皆に声をかける。

「今より西の道を通り父上の元へ駆け抜ける、者ども今以上の早さでおれについてこい」



そして一気に駆け抜けた。疲れもあったがそれより何より急がないとオヤジが死んでしまうのではないかという疑念が拭いきれないからだ。峠を降り平野に差し掛かろうとする次の瞬間、歓喜とともに焦燥を感じる。


「あ、あれは......」


それは四方八方敵に囲まれ風前の灯であったオヤジの軍隊が見えた。


「今すぐ救出に向かう。者ども気合いを入れろ。ここは死地だ。乾坤一擲。敵の横っ腹をくり抜く、おれに続けい!」


ちらりと八兵衛を見たが目はあったものの何も言わなかった。


そのあとは勢いのまま降っていった。まさかの方向から来たおれたちに敵はなすすべがなく抵抗しないかの如く散って行った。意気揚々勢知らずで名のある将を次々倒しオヤジの軍営まで辿り着いた。しかしみなの表情は暗く嫌の予感がした。急いで駆け巡り


「父上、信繁、今参りましたぞ!」

幕を挙げたがしかしそこには変わり果てたオヤジがいた

「父上ー!父上ー!」

苦しそうに矢尻を受け仰向けになっていたオヤジは声に気付き目を開けた。

「....バ、バカ息子。なぜ来た。おまえは常々馬鹿者と言ってきたが違う。大馬鹿者だ。おまえほどの大馬鹿者はおるまいて。」

「しかし、父上が心配で....」

「それだからお前はバカと言っておる。敵は甘くはない。我らの行軍などすぐに...わかる。だから安全な道をおまえに譲り少しでも...ごほっ 、落ち延びる確率を増やすためにわし自ら囮になったのだ。それなのにお前ときたら....お前は親不孝者だ。」


おれは拳を強く握り自分の愚かさと悔しくてどうしようもできなくて、自分に腹が立つと同時に涙を滲ませた。

「す、すまない。オヤジ、おれは何と言うことを...」


「しかしモノノフとして、お主はこれ以上ない成果を出した。ワシは四方八方敵に囲まれていたはずだがお主はここまできた。ありえない事をお前はしでかしたんだ。お前は此度の戦で天下に名を馳せるだろう。何よりワシは嬉しい。自分の死を省みず、ここまできたお主の勇気、優しさ。お主以上の大馬鹿者はおるまいて。......お主は、ワシの........自慢のむす.....」


「オヤジぃいいいいいいいいいい」

絶命したオヤジの方の肩を掴むも何も反応しない。意気消沈するも敵は待ってはくれない。敵の意気揚々な歓声がすぐ近くまで聞こえた。



「もはや、これまでか。八兵衛お主はたぶん全てわかっていてなぜここまでついてきたんだ」

「若様、私も親方様と一緒でございます。親方様は最期はお叱りの言葉はありましたがとても嬉しそうで御座いました。あなたの綺麗な折れない武勇に惹かれたのでございます。違う未来があったなら貴方様は天下を掌中に納める逸材であったとジィは思います。あの大軍を見て動じず命を下す勇姿を見てそう確信に至りました。この老骨、最期にこの光景に会えてとても嬉しく思います。モノノフとしてこれ以上ない戦場でございます。冥土の土産に持ってかえりとう存じます」


「八兵衛...こうなった以上目に見える敵全員道連れにしてやる。」


おれは幕から出てそばに控える親衛隊に告げる。

「よくぞここまでついて参った。主たちはおれの自慢の将兵だ。皆今までありがとう。おれの不甲斐ない行動によってこんな事態になったしまった。」


「若様ー!我々はあなただからここまでついてきたのです」「若様と行動できて誇りに思います!」「敵の地獄というものを教えましょうぞ!」と次々と声が上がる。


おまえら...おれはこんな大事な家来を....

よもや何も言うまい。


「者どもー!かかれー」

そう下知をくだし一番槍で無数の敵の集団に突貫する。矢を受けようとも痛くもない。無闇矢鱈ガムシャラに突進した。次々と周りの声が消え、ついに八兵衛もいなくなった。叩き斬っていくにつれ多くの槍衾を潜り抜けた。しかし体力も無くなり周りの音も消えついには目の前が真っ暗になった。



この広南の戦いは真弓軍が負けたものの親済軍も多くの将兵を失い双方滅亡することとなる。歴史の重大な転機となったこの戦は後の世に語り継がれていた。特に信繁公は四十八十の矢を全身に浴びても剣を握り敵に向かっていったとか頭なく腕だけで敵を斬ったとか噂は尾ヒレが付き、ある地方では神として祀り讃えられ、死して名を残した。





ここは...?おれは確か最期に力尽きて雑兵どもに倒されたはず..... いや、ここは黄泉の国なのか


「あながち間違いではない、お前は死んでこの場に導かれたということなんだな。そういう面ではある意味死後の世界ということだ。魂はまた他の世界に誘われそこで謳歌するのだから死後の世界というのは厳密には存在しない。ここは一時的なお前らでいう国と国をつなぐ関所みたいなもんなんだな。まあ、そういうのはいいんだ。お前は今特別な存在なんだ。何が特別かというとこの場でわしと話していること、本来魂とは勝手気儘に彼方此方に辿り着く仕組みでわしが仲介する必要はない。わしの気まぐれによって次の世界でも少し若返った状態で転送してあげるんだな。わしっていいやつじゃろ? 他に何か...あったかのう。何か聞きたいことはあるか? 」


童には似合わぬ肩まで髪がかかっていて上半身裸の丈の短いパンツを履いている奴に突然告げられる。とは言っても言葉を発せずともおれの考えていたことがわかるということは道理に当てはまらない存在だということはわかった。


「いや、ちょっと待ってくれ。どういう世界かわからぬし突然言われても困る。そこの世界がどういう世界かおれは何をしにそこに向かわされるのか教えてくれないか?」


「わしにも色々神としての予定というものがあってだな。長居はできないんだな。わしが仲介


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