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3ヶ月後に自殺する話  作者: hal
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8日目


昨日と今日で家族旅行に行ってきた。これが最後の家族での旅行。

そういう気持ちできたはずなのに何か最後らしいことなんてできなかった、今まで通りだった。

「最後」ってなんとなく、いつもとは違うって心構えになるはず、高校の最後とか、最後の大会とか。


最近そう言った経験がないせいだろうか、不思議と次があるんじゃないかなって無意識に思ってしまうせいで

意気込んで楽しんだわけではなかった。

でも、楽しかったことに変わりなかったし、普段とは違う景色を楽しめた。

何日か前にも言ったけれど、私は海が好きなの。

どこの海とか、季節とかそういうのじゃなくて海というそのものが好きって感じ。


今日は小田原の海を見に行った。

私の死に場所って考えながら水面をぼんやりと眺めていた。

なんとなくだけど、ここは私が死ぬ場所にするにはまだ相応しくないなって思った。

透き通るような海ではないし、すごく綺麗とまでは言えないけれど、今の私はそれ以上に汚い生き物だって直感で感じて汚してしまうなと思った。


海は綺麗だけれど海上を漂う風は追い払うように髪をかき乱し頬を殴りつけるような風だった、そのせいか波の音より風の音が耳を貫いて穏やかなイメージとは違うものと感じていた。

でも、今日は不思議と風は頬の数ミリ上を漂うに流れて左右の耳から水が消波ブロックにぶつかり弾ける音がすんと体の中に入ってきた。

気のせいなのかな、場所?時間?きっとそれもあると思う。

でも、私は自分の生き方に変化があったから感じ方が変わったのかななんて思って嬉しくなった。


後ろを見返すと母と姉が2人砂浜にうずくまって石ころを拾っていた。

海に来ると大概私は水に触れるけれど、2人は直立してただ眺めていることのほうが多い、

だから2人のその姿は新鮮に見えた。

向こうに戻るや否や母が小さなかけらを見せてきた。

縦長でピンクと白の混ざったようなもので、桜貝というらしい。

あたり一帯薄茶色の世界でたった数センチのその貝を見つけるのって結構根気がいるんだろうなと思っていたら

よくよくみると、赤や橙、白黒の縞模様の貝や石がたくさんあった。


ちゃんと見ないと同じ色に見える世界も目を凝らすことでこんなに色で溢れてるんだと気づくと海ばかり見て黄昏ている自分が少し恥ずかしくなった。


旅に疲れはつきもので見慣れない景色からいつもの景色に近づくにつれて疲労感が増していく。

これは旅の疲れというよりかは、あぁまたここに戻ってくるのかという嫌悪感からなるものだろう。

私の場合、疲れも感じたけれど、一番最初に思ったのは、この胸に空いた穴が何も満たされていないということだった。

きっと旅の途中はこの穴の存在を忘れることはできたけれど、家に近づくにつれて埋まらない大きな穴の存在に気づきため息をした。

孤独、哀れ、悲しみ、儚い、絶望。

この穴はいろんなもので広がっていくのに、埋め方はわからないまま。

死ねばこの胸の痛みはなくなるのだろうか、埋まるのだろうか、私のぽっかりと空いた心を埋めてくれる人はいるのだろうか。

また1日歳をとる、すこしずつだけど、でも確実に私の命は燃えている、薪はここにある分だけ。

私はまた何もわからないまま歳を重ねるのだろうか。


今日はここまで

本当に楽しかった、幸せな二日間だった。

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