一触即発の初対面 2
「うぉっほん!そのアラン殿、つかぬ事をお伺いするが・・・アラン殿はその、人間で間違いないのだろうか?」
「はぁ!?何言ってんだ、おっさん!?俺が人間以外の何に見えるっていうんだ!ふざけんなよ!?」
大きく咳ばらいをし、ようやく聞きたかったことを直接口にしたダンカンはしかし、その非常識な内容にどこか申し訳なさそうに、その大きな身体を小さくしていた。
「おぉ、やはり人間で間違いないでござるか!!しかしな、そうなると新たな疑問が出てくるでござるが・・・アラン殿、貴公はどうやってここまでやってきたのだ?見たところ、特に特別な装備も身に着けておられないようでござるが?」
ダンカンの当たり前といえば当たり前すぎ、そしてともすれば失礼でもある問い掛けに、アランは当然だと声を荒げている。
しかしそんな当たり前の答えにも、彼らの周り集まっている村人達からは、まるで意外な答えを聞いたかのようなざわざわとした反応が返ってくる。
そして目の前のダンカンも、どこかその答えでさらに疑問が深まったと、その顔の皴を深くしてしまっていた。
「特別な装備?何の話だ?この剣の事か?これは別に大したものじゃ・・・」
「いや、そうではなくてだな・・・どうやってこの毒の中を―――」
ダンカンはアランが何か特別な装備でも身に着けていないかと、その全身をジロジロと観察している。
その無遠慮な視線を特に気にした様子もないアランは、装備と聞いて唯一思いつく剣を掲げては彼に示して見せていた。
「どいてどいて、どきなさーーーい!!!」
その何の変哲もない得物を掲げて見せるアランに、ダンカンがさらに困った表情を浮かべていると、どこからか慌ただしい声が響いていた。
それはアランの周りを囲む村人達を押し割って、彼らの前へと現れる。
「侵入者が現れたって聞いたんだけど、一体どこのどいつよ!?」
それは全身を覆う不思議な素材の衣服を纏った人物で、その顔面のガラス状の部分から覗く顔立ちから、恐らくまだ年若い女性であることだけが窺える人物であった。
「ブ、ブレンダ殿!?そ、そこでござるが・・・」
「えぇ?そこって・・・こいつが!?嘘でしょ、ピンピンしてるじゃない!!?本当に、この人が外から来たって言うの!?」
どうやら侵入者が出たと聞いて慌ててやってきた様子のその少女、ブレンダにダンカンはアランの事を指し示している。
その指先に誘導されてようやくアランの事を視界に収めた彼女は、その姿を目にしては心底驚いたように声を高くしていた。
「しかし間違いないでござるよ。わしも見ておるし、部下も見ておる」
「つーか、普通にここまで歩いてきたしな。近くの街道の向こうに住んでんだよ、俺。そっから歩いてきたの」
何やら信じられないと、目を見開いてはアランの事を見つめているブレンダに、ダンカンとアラン本人がそれで間違いないと告げている。
その言葉に彼女はさらに混乱したように目を見開くと、わなわなと震えてしまっていた。
「と、とにかく外から来たのが間違いないんなら、拘束させてもらいますから!!皆、お願い!!」
頭の中に次から次へと湧いて出る疑問を振り払うようにそれを振るったブレンダは、片手を掲げるとアランを拘束すると告げる。
その声を合図に、彼女と同じような格好をした村人達がぞろぞろと現れてアランの周りを取り囲んでいた。
「はぁ!?何だよそれ!?」
「そうですぞ、ブレンダ殿!アラン殿は我々を助けてくれたお方ですぞ!確かに魔物の疑いはかかっておるが・・・拘束するというのは流石に行き過ぎではなかろうか!!」
そんなブレンダの行動に、アランは当然文句を叫んでいる。
そしてそれには今まで彼の事をここに押し留めていた、ダンカンも賛同しているようだった。
「えっ!?俺って、魔物かもしれないって疑われてたのっ!?」
「えっ!?」
しかしダンカンがアランを擁護するために思わず口走ってしまった内容は、彼も初めて聞く内容だった。
それに驚き声を上げるアランに、ダンカンもつられるように声を上げると、二人はお互いの顔を見合わせている。
「そーゆーの関係ないの!!外から来た人は、感染してるかもしれないでしょ!?だったら隔離しないと!!」
「うむむ・・・確かに、ブレンダ殿の言うことも一理あるでござるが。し、しかしなブレンダ殿?この毒は確か、人にはうつらないのではなかったか?」
「それは・・・死んだ人からはうつらないってだけ。生きてる人からどうなるかなんてまだ分からないんだから、注意するに越したことはないでしょ!ほら皆、分かったら離れて離れて!」
お互いに意外な事実を知って見合ったまま固まっている二人に、ブレンダはそんなこと関係ないとアランを連れて行こうとしている。
彼女はどうやら、アランが何らかの毒に感染しており、それを広めてしまわないように彼を隔離したいようだった。
「お、おい!?引っ張るなっての!おっさん、ぼーっと突っ立ってないで助けてくれよ!!」
「・・・すまん、アラン殿。わしには出来ん、出来んのだ・・・」
ブレンダの指示に、彼女の部下と思われる揃いの衣装を着こんだ男達が素早くアランの事を取り囲む。
そうして彼の事を拘束し、無理やりどこかへと退避し始めた男達に、アランは為す術なく連れ去れてしまっていた。
「隊長、良かったんですかこれで?」
「仕方あるまい、こういったことはブレンダ殿の管轄でござるからな・・・っ!貴様、何をさぼっておる!腕立ては、腹筋はどうした!?」
声高に文句を叫びながらも、アランが案外大人しく連れ去れているのは、ダンカン達とのやり取りで多少なりともこの村の人々に親近感を抱いたからか。
そんなアランを寂しそうに見送っているダンカンに、部下の一人が声を掛けてくる。
ダンカンはそんな部下にどこか落ち込んだ様子で答えていたが、その途中で彼が自分が課した課題をこなしていないと気付くと、途端に怒鳴り声を上げていた。
「そ、それは・・・隊長!皆、腹が減って碌に動けません!!」
ダンカンの大声にびくりと身体を震わせた部下の男は、何か決意したように踵を打ち鳴らすと、仲間達の惨状について示して見せていた。
そこには余りの空腹に疲れ果て、地面に伸びてしまっている仲間達の姿があった。
「むっ!腹が減っただと・・・けしからん!!貴様ら、防衛隊の仕事を何だと・・・!!」
それは仕方のない姿であったかもしれないが、ダンカンがそれを許す訳もない。
情けない部下の姿にダンカンが一層怒りを募らせ声を張り上げようとしていると、その彼のお腹からも豪快な鳴き声が響いてきてしまっていた。
「隊長・・・」
「むむむ・・・腹が減っては戦は出来ぬしな。仕方ない、彼女の帰還まで待機!!各々自由に休むように!しっかぁっしぃ!!羽目を外しすぎるなよ、貴様ら!!」
その情けない腹の虫に、部下はじっとりとした視線を彼へと向けてくる。
そんな視線の圧力に負けたわけではないだろうが、ダンカンはそれ以上部下をいじめるのは無理だと判断して、彼らに休憩を告げる。
ダンカンのその声に部下達は歓声を上げるが、彼はそれを引き締めるようにさらに声を高くして指示を出していた。
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