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最弱能力「毒無効」実は最強だった!  作者: 斑目 ごたく
アランとアレクシア
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超法規的処置

「うおっ!?やべー、何かめっちゃ湯気立ってる・・・大丈夫なのか、これ?」


 朦朧とした意識に薄く開いた目蓋では、その先をうまく見渡すことは出来ない。

 そんな霞んだ視界の中でもあの男が、アランが自分のために頑張っていることは伝わっていた。

 その男がこちらに背中を向けて何かをやっていても彼女、アレクシアは何の疑いもなく彼の事を信じることが出来ていた。


「っとと、零れる零れる。うーん、たっぷり確保出来たのはいいんだが・・・これ、マジで飲ませんの?流石に、やべぇんじゃ・・・」


 そんな彼に何か掛けようとした声は、音にもならずに消えてしまった。

 この掠れた目にも、彼が何かをもってこちらに来ようとしているのは見える。

 また助けられてしまったという想いはしかし、意外にも心地よいものであった。


「いやいや、ほっといたらこいつも毒に汚染されっかもしれんしな!うんうん、もう選択の余地はないし、やるしかないよな!!」


 その無理やり振り絞ったような明るい声は、何かを決意した知らせだろうか。

 アランは慌てた様子で、こちらへと駆けよって来ている。

 その何やら思いつめた表情に、この口元は笑みを零そうとしていたが、それもうまくは動いてくれない。


「おーいアレクシアー、生きてるかー?これちょっと開けるぞー?」


 近づいてきたアランは彼女の目の前へと跪くと、その視界を覆っているヘルメットを外そうとしている。

 そうして解き放たれた隙間から、何やら刺激臭のようなものが漂ってきたのは、きっと気のせいだろう。

 この世界を汚染する毒は、無味無臭の筈なのだから。


「よし、と・・・ふぅ、やるぞやるぞ!俺ぁ、やるかんな!」


 液体がなみなみと注がれたコップを手にしたアランは、目の前で何やら覚悟を決めるように気合を入れている。

 何をそんなに覚悟を決める必要があるのだと不思議に思ったが、それも何だか嬉しく感じるのだから奇妙な話だ。


「お、おーいアレクシアー?聞こえてるかー?ほら、水だぞー。コップ傾けっからなー、ちゃんと飲めよー」


 外したヘルメットに伸ばした手は、この顎へと添えられている。

 そうして僅かに傾けられた口元へと、アランが手にしたコップが近づけられていた。

 そこから注がれる液体が、温かいと感じたのはきっと錯覚だろう。

 それは嬉しさが感じさせた、幻覚なのだろうから。


「うわっ!?マジで飲んでるよ・・・うわー、何だろうこの感じ。いけない事をしてるような・・・うおっ、やべーやべー!ちょっと落ち着かねぇと・・・」


 差し出された飲み物を飲んでいる私に、何故かアランが驚いた様子を見せている。

 それが面白くて、思わず咽そうになってしまったのは秘密だ。


「よ、よーし!あとちょっとだからなー、最後までしっかり飲めよー」


 何かに動揺したのかアランの手元が僅かに乱れて、零れた液体が口元を伝う。

 それを少しもったいないと感じた喉が鳴らした音は、僅かに苦い。


「うわぁ、マジで全部飲んだよ。マジかー、マジかー・・・」


 傾けたコップには、もはやあれほどなみなみと注がれた液体の姿はない。

 それを確認しているアランは何故か、落ち込んだ様子を見せていた。


「あー・・・もしかして、まだ欲しい感じ?んー・・・まだ出せっかなぁ?」


 乾ききった所を潤した喉は、まだそれが欲しいと無意識の内に動いてしまっていた。

 そんな欲望を見透かされたことが恥ずかしいと感じても、そのために頑張ろうとしている姿を嬉しく感じてしまう。


「うー・・・おっ、来た来た!あー・・・何か、結構残ってんなぁ。ちょっと緊張してたのか?」


 新たな飲み物を探しに行くはずのアランは何故かその場に留まると、コップを地面に置いて何やらカチャカチャと物音を立てている。

 それを不思議に思っても、この鈍った頭はそんなものかと考えてしまっていた。


「よし、これぐらいでいいだろ。ほら、アレクシアー。新しいのだぞー」


 じょろじょろと立てた水音は、今やホカホカと湯気を立てている。

 その正体を知っていると頭の片隅から何やら声が聞こえていたが、差し出されたコップにこの口は自然と開いてしまっていた。


「おー・・・飲んでる飲んでる。しかしよく飲めんなぁ、人のおしっこなんて・・・いや、何かそんな健康法があるとか聞いたこともあるな?そうすると、意外と普通に飲めるもんなのか?」


 傾けられ、注がれる液体はしかし、どこか身体が拒んでいるのを感じる。

 それを口にしてはいけないと訴える理性は、目の前の男が口にした内容から聞き逃してはいけない言葉を見つけていた。

 しっこって、それ尿の事じゃん。


「ぶーーー!!!あ、あんた!なんてもん飲ませてくれてんのよ!!?」


 とんでもないものを先ほどから飲まされていたと知ったアレクシアは、一気にその混濁した意識を覚醒させて叫び始めている。

 はっきりと意識を取り戻してみれば、この口の中を満たしている液体は温く、何やら変な味がして気持ちが悪い。

 それを吐き出すことに、彼女は躊躇することはなかった。


「うおっ!!?何吐き出してくれてんだ!!掛かっちまっただろうが!?うわー、ばっちぃ!」

「そんなもんを人に飲ませといて、何言ってくれてんのよ!!ふざけんじゃないわよ!!ぺっ、ぺっぺっぺっ!!」


 当然、吐き出された液体の先には、彼女にそれを飲ませていたアランがいる訳で、そのほとんどは彼の顔面に向かって噴射されていた。

 それを全力で嫌がり激しく抗議するアランに、アレクシアはさらに怒りを募らせると、それを彼へとぶつけている。


「おいてめぇ、なに唾掛けてやがんだ!!ざっけんじゃねぇぞ、汚ねぇだろうが!!」

「はー!!?あんたのおしっこに比べれば何百倍も綺麗ですー!!ていうか、こんな美少女に唾掛けてもらえる何て、あんたみたいな奴らからしたらご褒美でしょうが!!!」


 口の中に残った気持ち悪いものを吐き出すように、アレクシアは舌を出しては唾を吐いている。

 その矛先がアランであったのは、何も偶然という訳ではないだろう。


「んなわけあるか、このボケが!!誰がてめぇなんかの唾なんて喜ぶかっつうの!!ブレンダのならともかく・・・」

「あー!!こいつロリコンだー!!皆さーん、気を付けてくださーい!!ここに変態がいまーす!!」

「ち、違うっての!!あいつぐらいのなら、ガキの悪戯ってことで許せるってだけで―――」


 そんな事をされれば当然アランも怒り狂い、二人は不毛な言い争いを始めてしまう。

 そんな最中に、近くから何かの物音が響いていた。


「ん、何だ?何か聞こえたような・・・?」

「ちょっと!?なに適当こと言ってんのよ!!誤魔化そうったって、そうはいかないんだから!!」


 聞こえた物音は、どこからのものか。

 それは分からないが確かに聞こえたそれに、アランは耳を澄まそうと集中している。

 しかしアレクシアからすれば、それは今の状況を誤魔化そうとする適当なポーズにしか思えなかった。


「いや違うっての!マジで何か聞こえたんだよ!いいから、ちょっと黙ってろ」

「んー!んーんー!!」 


 そうして噛みついてくるアレクシアも、今はそれどころじゃないと適当にあしらわれる。

 彼女の口はアランの手によって封じられ、今はその両手を暴れさせるだけとなっていた。


「向こうか・・・?ビンゴッ!!ゴブリンか、あれ?よっしゃ、行くぞアレクシア!!」


 静かになった空間に、集中して耳を澄ませてみれば、不自然なその音の正体を突き詰めることも出来る。

 アランが出所を突き止めた先には、こちらを窺うように物陰から覗いている小柄なゴブリンの姿があった。


「はぁ!?何でそんな事しなきゃなんないのよ!っていうか、勝手に仕切るな!!」

「いや、んなこと言ってる場合じゃねぇだろ!?あのゴブリンは、この遺跡に住み着いてた奴だろ?だったら、こっから抜け出す道を知ってるってことじゃねぇか!とにかく後を追うぞ!!」

「ぐっ・・・わ、分かったわよ。ついていけばいいんでしょ、ついていけば!」


 こちらの注意が向いたことで、覗いていたことが気付かれたと知ったゴブリンは、慌ててその場から逃げ出している。

 それをすぐさま追いかけようとしたアランに、アレクシアは感情のままに反対する。

 しかしそれはすぐさま彼に論破されてしまい、彼女は頬を膨らませながらも渋々それに従っていた。


「おい、ちゃんとそれ被っとけよ!」

「っ!?わ、分かってるわよ!!わざわざ言わないでいいの!!」


 ゴブリンが姿を消した物陰まで辿り着き、そこから顔を覗かせているアランは、一度振り返るとアレクシアの格好を注意している。

 彼が指摘した通り、彼女はヘルメットを外した状態のままであった。


「・・・あれ?さっきまで、ずっと外したまんまだったよね?でも何か、平気だったような・・・?う、ううん!気のせいよね、きっと!!そ、そんな筈ないんだから!!」


 慌てて先ほどまで休んでいた場所に戻り、それを拾ってはスーツに嵌めようとしているアレクシアは、ある事実に気付きふと手を止めてしまう。

 それは先ほどまでずっと、彼女がヘルメットを着けていなかったという事実だ。

 それだけの時間、ヘルメットを着けずに毒気に晒されていたにも拘らず、彼女の体調は至って健康そのものだ。

 それどころか、ここ最近では一番体調が良いようにすら感じる。

 その事実から導かれる結論は、一つしかない。

 しかし彼女は、それを認めたくないと必死に首を振っていた。


「いつまで掛かってんだ!おいてくぞ!!」

「わ、分かってるわよ!!すぐ行くから、少しは待ちないよね!!」


 今、頭に思い浮かんだ考えを打ち消すように、力強くヘルメットを嵌め込んだアレクシアは、掛かった声に慌ててアランの背中を追いかける。

 しかしその表情はどこか暗く、何か引っかかるものを抱えているかのようだった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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