思い出は色褪せない 2
「・・・・・・ぷっ!あははっ!何よそれ、馬鹿みたい」
「うっせぇ!!本当なんだから、仕方ねぇだろ!勝手に動いちゃうんだよ!!」
その言葉に思わず漏れた笑みは、嘘ではない。
それでも続けて零れた言葉は、泣き出しそうな響きになってしまう。
それは、何かを悟ってしまったからだろうか。
それが何かは、まだ分からないけれど。
「あーぁ、何だか全部どうでもよくなっちゃった!本当、何してたんだろ私」
諦めに投げ出した両足は、心地よく伸びている。
後ろ手に預けた体重に見上げた天井は、見知らぬ景色をしていたがそれも悪くないと思えた。
結局、自分一人で意地を張っていただけという事なんだろう。
アレクシアはその口元に、柔らかな笑みの形を乗せている。
「おい、何のんびりしてやがんだ!てめぇの所為でこんな事になってんだぞ!!さっさと動け動け!!ここから抜け出す方法を探すぞ!!」
今、アランが上げた怒鳴り声は彼なりの照れ隠しだろうか。
この広くもない空間を忙しなく動いているその背中も、今はどこか可愛らしさを感じてしまう。
アレクシアはそんなアランの姿に頬を緩めると、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「ふふっ・・・はいはい、分かりましたよ・・・っと?」
漏れる笑みと共に、進める歩みは軽いものの筈であった。
しかしその歩みはすぐにふらつき、まともに進めなくなってしまう。
「あれ?何で・・・?あっ・・・」
疑問に思い立て直そうとした足はもはやまともには動かずに、アレクシアの身体は本人も訳も分からないままに傾いていく。
その地面へと倒れ伏す音は、彼女の口から漏れた声と同じくらい軽かった。
「・・・ん?おいっ!?どうした、大丈夫か!?」
照れを隠すためにもはや何の実りのない場所を調べていたアランも、そんなアレクシアにやがて気付く。
追従の声を上げながらいつまで待ってもやってこないアレクシアを不思議に思った彼が振り返れば、そこには地面へと横たわる彼女の姿があった。
「おいっ、アレクシア!しっかりしろ!何だ、毒の所為か!?やっぱり壊れちまってたのか!?」
慌てて駆け寄り助け起こしたアレクシアはしかし、どこか焦点の合っていない掠れた瞳を力なく動かすばかり。
つい先ほどまで毒気によって意識を失っていた彼女に、当然アランはそれを疑ってスーツを調べるが、どうやらその機能は問題なく機能しているようだった。
「・・・問題ないんじゃねぇのか、これ?だったら何が・・・っ!?そういや、井戸が枯れたのなんだって言ってやがったな・・・お前まさかっ!?」
スーツの機能が回復して浄化された空気で呼吸が出来るようになっても、毒の含んだ空気を吸ってしまっていたことには変わりない。
そうして弱った身体が実は、元々万全の態勢でなかったとしたらどうだろうか。
本来耐えられる筈の負荷も、致命の重みとなってしまうだろう。
「馬鹿が!!完全に脱水症状じゃねぇか!!一番働いてるてめぇが、それを遠慮してどうすんだよ!!ちっ、待ってろよ!今、汲んできてやっから!!」
明らかに意識を朦朧とさせてしまっているアレクシアは、アランの言葉にも口を僅かに動かすばかり。
そんな彼女の姿に悔しそうに舌を打ったアランは、彼女を壁へと寄りかからせるとその背中の鞄から荷物を取り出そうとしていた。
「何か、使えるものは・・・おしっ、これなら!確か、すぐ近くに水が流れてる場所があったはず!!」
水を汲みに行くといっても、そのための道具がなければ何にもならない。
アランはアレクシアの鞄から小ぶりなコップを取り出すと、慌てて水を汲みに走っていく。
「よし!あったあった、思ったよりも水量があるな。これなら・・・」
何処かから染み出しているのか、その小川とも呼べない水流はしかし、コップで汲むには十分な水量があった。
アランはそこにコップを差し出し、水を掬う。
「って、駄目じゃねーか!ここは毒に汚染されてんだっての!!こんな水、飲める訳ねーだろ!!あぁもう!こんなもの!」
結界によって守られた遺跡から外れたこの場所は、当然ながら毒に汚染されている。
自らの能力によってそれの影響を受けないアランはともかく、そんな場所の湧水をアレクシアが飲める訳もない。
それに今更気付いたアランは、悔しさの余り汲んだ水を飲み干し、そのまま空になったコップを地面へと叩きつけていた。
「ううっ!こんな時に・・・」
今まさに飲み干した水分がそうなった訳ではないだろうが、取り込んだ水分がそれを思い出させたのか急にやってきた尿意にアランは身体を震わせる。
彼は今はそんな場合じゃないと、その衝動を慌てて振り払おうと首を激しく揺すっていたが、はたしてそれは本当に正しいのだろうか。
「・・・ん?ちょっと待てよ、そういやぁ・・・・いやいや、それは流石に不味いだろう!?」
かつて男同士のくだらない遊びとして敢行したことに、何か今の状況を切り抜けるヒントはなかったか。
それを思い出したアランはしかし、流石にそれは倫理的に不味いだろうと激しく首を振っている。
「いやでも、もしかすると・・・ごくり」
その手段を否定したいアランはしかし、ぐったりとしたまま動かないアレクシアの姿を見ては完全にそれを否定するのを躊躇ってしまっている。
結局、それに代わる方法を見つけることが出来ないアランは、不承不承といった様子で振り返る。
その視線に先には、先ほど叩きつけたコップの姿が映っていた。
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