罠
「あった・・・間違いない、ここだわ!!」
鬱蒼と生い茂る木々を抜け、森が開かれたその先には石造りの建物の残骸が転がっている。
それを遺跡と呼ぶのならば、まさにここがそうなのだろう。
その光景を目にしては嬉しげに叫んでいるアレクシアの姿を見ても、それは明らかであった。
「はぁはぁはぁ・・・ここが例の遺跡だって?確かにそれっぽいが、間違いねぇのかよ?」
希望を胸に前へと進む者と、訳も分からずそれを追いかける者では疲労の感じ方も違うのだろう。
肩で息をしながら呼吸を整えているアランは、アレクシアの言葉に疑い交じりに首を捻っていた。
「間違いないわよ!だって・・・って、何であんたがここにいんのよ!!ついて来ないでって言ったでしょ!?さっさと、どっか行きなさいよ!!」
目の前のいかにも遺跡らしい建物の姿にも、それが彼らが目的としている場所とは限らない。
しかしアレクシアはそこから村の女神像と同じ気配を感じており、間違いないと断言出来るようだ。
それを口にしようとしていた彼女はしかし、そんな事よりも自らの背中を追ってきたアランの存在の方が気に入らないようだった。
「いやだから、そういう訳にも・・・って、そうじゃない!俺も偶々ここに・・・あぁ、もう!面倒くせぇなぁ!!」
アレクシアからの不満げな視線に、アランは困ったように頭を掻くことしか出来ない。
もはやその理由を素直に白状してしまった方が楽に思えたが、彼はこの期に及んでもまだそれを言い淀んでいた。
「ふんっ!どうせまた、美味しい所だけ持って行くつもりなんでしょう!?そうはさせないんだから!!」
しかしそんな彼の曖昧な物言いは、アレクシアにあらぬ誤解を生じさせてしまう。
結果的にとはいえ、彼女がこれまで培ってきたものを奪い、美味しい所だけを掻っ攫っていったアランのかつて振る舞いに、その疑いも何の根拠もない訳ではない。
そこに目の前のアランが何やらごにょごにょと挙動不審な様子を見せていれば、アレクシアが疑心を抱いてしまっても仕方のないことだろう。
そうして彼女はアランに邪魔されないようにと、さっさと一人で遺跡へと突入していってしまう。
「おい、馬鹿!!そんな無警戒に・・・あぁもう!!待てって言ってんだろ!!この馬鹿が!!」
荒廃したその遺跡の姿は、明らかに人の手が入っていないことを示していた。
そんな場所にどんな危険が待っているかなど、分かったものではない。
しかし、アランに手柄を持って行かれると焦るアレクシアは、そんな危険に対して十分に配慮しているとは思えない。
事実、猛烈な勢いで遺跡へと向かっていくアレクシアは、周りに対して警戒しているように見えなかった。
「だから!ついて来るなって言ってるでしょ!!」
「っ!?馬鹿が!前見ろ、前!!」
「えっ?きゃあ!?」
そんなアレクシアの姿に、アランは慌ててその背中を追いかけている。
その気配にアレクシアは振り返りアランへと牙を剥くが、彼はそんな事よりも彼女のそんな無防備さの方が気になっていたようだ。
それは現実として、彼女が踏み抜いた罠となって現れていた。
「ふ、ふふーん!私にだってこれぐらい躱せるわ!どうよ!!」
発動したのは古典的な罠、仕掛け矢であった。
前から飛び出してくるその矢尻には、毒が塗ってあるだろうか。
それは分からないが、アランの注意によって事前にその存在へと警戒出来たアレクシアは、何とか横へと飛びのくとそれを回避して見せていた。
「いや、その前に罠を踏まないようにしろよ。大体、俺が注意しなきゃさっきのだって・・・」
結果的に見事な回避を見せた自らの振る舞いに、アレクシアはドヤ顔を披露しては勝ち誇っている。
しかしそれは流石に無理のある言動だろうと、アランは冷静に突っ込んでいた。
「うるさいうるさい、うるさーい!!そんなのなくったってねぇ、私なら出来ましたですよーだ!!分かったら、さっさと尻尾を巻いて帰ったらどうなの!!」
そんなアランの言葉に、アレクシアはもはや理不尽に怒りを撒き散らしては、叫び声を上げるだけ。
駄々を捏ねるような仕草でアランの冷静な指摘を否定した彼女は、そのまま彼の存在までもを拒絶していた。
「いやいや、寧ろさっきので余計に放っておけなくなっただろうが・・・って、おい!?」
「ふーんだ!なら、お先に失礼さしてもらうから!!後からゆっくりおいでになれば!!」
さっさと帰れと頻りに促してくるアラクシアにも、先ほどの彼女の姿を見ればとてもではないが一人にしてはおけない。
そう口にしているアランを無視しては、アレクシアは先を急いでいる。
その視線はやはり後ろへと向いて、前への注意を怠っていた。
「きゃあ!?ふ、ふぅ・・・危なかったわね」
「ったく、言わんこっちゃない。はぁ・・・まったく仕方ねぇなぁ」
それは先ほどと同じ結果を導いて、またも罠を発動させてしまったアレクシアは、今度もギリギリの所でそれを回避していた。
今度彼女が発動させてしまった罠は、仕掛けられた槍が飛び出てくるものであった。
その先端は得体の知れない素材で出来ており、見た目からでは威力のほどは想像出来ない。
しかし遺跡の壁へと根を伸ばした樹木を易々と貫くその姿に、それを食らえば人間の身体など一撃で粉砕されてしまうのは明らかであった。
そんな罠の姿を目にしても、どこかアレクシアは強がって見せている。
そんな彼女の姿にアランは深々と溜め息を漏らすと、何かを諦めたようにとぼとぼとその後を追いかけていた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。
もしよろしければ評価やブックマークをして頂きますと、作者のモチベーション維持に繋がります。




