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最弱能力「毒無効」実は最強だった!  作者: 斑目 ごたく
衝突
14/61

アレクシアの決断

「そうですか、そんな事が・・・」


 悲鳴ような泣き声を上げながら逃げ出したアレクシアの足は速く、彼女は防壁で囲われた村の隅っこまで駆け抜けていた。

 そこは人気がなく、ジメジメとしている。

 それはまるで、今の彼女の気分のようだった。


「そうなのよ!!皆して私をいじめて・・・この村の食糧を誰が集めてきてると思ってるのよ!!私がこんなくっさい服着て、死ぬ思いしてまで集めてきてるんでしょう!?それなのに、何よあれ!!あいつなんて毒が効かないってだけで、まだ何もしてないじゃない!!」


 彼女が何故そんな事になったのか、一通り事情を聞いたダンカンは、同情するように頷いている。

 そんな彼の反応に気を良くしたのか、アレクシアは怒涛の勢いで不満をぶちまけ始めていた。


「ま、待ってくだされ!!そう一遍に言われても、聞き取れんでござるよ!!もそっとゆっくり喋ってくだされ!」


 妹にすら冷たく扱われた彼女は、ダンカンの優しさに触れて感情が決壊してしまったのか、留まることなくそれを吐き出してしまっている。

 その勢いは凄まじく、圧倒されてしまったダンカンは慌ててもう少し控えてくれるように彼女に懇願していた。


「そんなんじゃ、ちっとも収まらないわよ!!何よ皆して、頑張ってるのは私なんだから・・・」


 しかしアレクシアは、それでは収まらないと叫ぶ。

 それでもそれを最後に彼女が身体を丸め、吐き出していた言葉の勢いを潜めてしまったのは、優しい言葉を掛けてくれたダンカンにすら拒絶されたと感じたからか。


「・・・とにかく、それを脱いでくだされアレクシア殿。その・・・自分は知らなかったのござるが、臭いのでしょうそれ。自分も手伝いますから」

「・・・うん」


 身体を丸め、自らの殻に閉じこもってしまったアレクシアに、ダンカンは先ほどよりも優しい口調で声を掛けている。

 彼はとにかくアレクシアがずっと着たままであった耐毒スーツを脱ぐように提案し、彼女もまたそれに対して静かに頷いていた。


「・・・皆、アラン殿が新しくやってきた故、物珍しくて食いついておるのです。こんな世界になってからは、外から人がやってくることなどありませんでしたから。それがあんな特別な力を持っておれば、尚更・・・しかし、しばらくすればそれも落ち着くでしょう。そうすれば皆、アレクシア殿が頑張ってこの村を支えてくれていたこと思い出す筈でござるよ」


 まるでまだ言葉を覚えたばかりの幼子が両親にしてもらうように、身体を投げ出してダンカンにスーツを脱がせてもらっているアレクシアに、彼は諭すように語りかけている。


「そ、そうよね!!皆、珍しいから食いついてるだけよね!?」

「ア、アレクシア殿!?じっとしてくだされ!!動くと危ないでござる!!」


 アランの存在をただ物珍しいだけと断定し、アレクシアの働きを肯定するダンカンの言葉は彼女には嬉しかった。

 そのためそれに激しく反応したアレクシアは急に振り返り、その動きに彼女の背後でスーツを脱がそうとしていたダンカンの手元が狂ってしまう。


「・・・はーい」


 それを注意した彼の言葉に、アレクシアはどこか不貞腐れたような態度で、了解の言葉を返していた。


「よし!もういいでござるよ、アレクシア殿」

「本当?あ、本当だ!ふー・・・あー、すっきりしたぁ!ありがとー、ダンカンさん」


 アレクシアの背中で何やらカチャカチャといじり、ようやく何かを外した様子のダンカンはそれで作業は済んだと彼女に声を掛ける。

 その声を合図にスーツを脱ぎ捨てたアレクシアは、久しぶりに浴びる新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込むと、ダンカンに無邪気な笑顔を向ける。


「こ、これぐらいなんて事ないでござるよ!」


 落ち込んでいたところを優しくされたためか、彼女の表情は驚くほどに無防備だ。

 そんな真っ直ぐな笑顔を向けられたダンカンは、思わずその顔を赤らめては頬を掻いてしまっていた。


「ねぇ、ダンカンさん。本当にそうなるかな・・・?」

「えっ!?あ、あぁ・・・さっきの話の続きでござるか」


 動き辛いスーツから解放されて、その全身を伸ばしているアレクシアは、ふと不安そうに呟いている。

 それに驚き慌てて顔を上げたダンカンは、何か別の事を考えていたのだろうか。

 どこか残念そうに、彼女が口にしたことについて理解を示していた。


「・・・確かにアラン殿の能力は、この世界にとって特別な力でござる」

「っ!ダンカンさん、やっぱり貴方もあいつの肩を持つ気なの!!」

「ま、待ってくだされ!話は最後まで聞いて欲しいでござる!!」


 アレクシアに求められた先ほどの話の続きを話し始めたダンカンに、アレクシアは貴方もなのかと激しく食いついている。

 それは彼が、アランの能力を認めることを口にしたからだろう。

 しかしそれはまだ話の途中だと、ダンカンは必死に彼女を宥めている。


「うぉっほん!いいでござるか?・・・わしはアラン殿の能力を特別だと思っております。しかし!アレクシア殿の力もまた特別なものだと考えておるのです!アレクシア殿の力がなければ、この村はとっくの昔に手詰まりになっております!それを考えれば、アレクシア殿がアラン殿を羨むなど筋違いではないでござろうか?」


 この世界に蔓延している毒は、それを吸い込めばすぐに命を失うという類のものではない。

 しかしその中でしばらく呼吸を続ければやがて意識が朦朧とし、いずれは身体が動かなくなってしまう。

 そしてじっくりと、死に至らしめられるのだ。

 そんな世界で結界で守られた狭い範囲の土地と、毒を耐えて行動出来るスーツが一着手に入った。

 それは希望であったかもしれないが、それだけではここに集まった数十人の村人を養うのは難しかっただろう。

 しかしアレクシアの技能、「小人の玉手箱」はそれを可能にした。

 たった一着のスーツも、彼女の手にかかれば無限の収納を持った移動式の倉庫にもなる。

 その存在なくして、この村の存続は叶わなかっただろう。

 そうダンカンは、熱が籠った口調で主張していた。


「そ、そうよね!私、皆の役に立ってたよね!!」

「そうでござる!だから自信を持つでござるよ、アレクシア殿!」


 アランの登場によって、今では皆が忘れ去ってしまったアレクシアの存在の有難みを、ダンカンは改めてはっきりと言葉にする。

 それだけで自らの価値を再認識し、自信に満ちた表情を取り戻したアレクシアは、その場に立ち上がり小さくこぶしを握っている。

 そんなアレクシアの姿を目にして、ダンカンも嬉しそうに彼女を後押しする声を掛けていた。


「ふふーん、そうよねそうよね!!やっぱりあいつ何かより、私の方が全然凄いんだから!!よーし、こうなったら・・・」

「ん?そ、そうではござらんよアレクシア殿?わしはそんな特別な二人が力を合わせれば、もっと凄いことが出来ると―――」


 落ち込んでいたアレクシアを励ますために、ダンカンは出来うる限り彼女を盛り立てようとしていた。

 しかしその行動が、彼が思っていない方へと転がっていく。

 ダンカンにおだてられ調子に乗ったアレクシアは、彼が望んだアレンとの協力ではなく、対決へと舵を切ろうとしているようだった。


「あいつに実力の差ってやつを思い知らせてやる!!そうすれば皆だって、私の事を認めてくれるよね!!よーし、そうと決まれば善は急げよ!!待ってなさい、アラン・ブレイク!!実力の違いを思い知らせてやるわ!!」


 無限の収納能力を持つアレクシアと、どんな毒をも無効化出来るアランがコンビを組めば、どんな場所からでも物資を持って帰ってこれる。

 それはこれまでは危険で足を踏み入れられなかった場所や、スーツの耐性を超える濃度の毒が蔓延するエリアですら探索が可能になるのだ。

 そこからは、今まで手に入らなかったアイテムが手に入るだろう。

 そんな未来を思い描いていたダンカンの望みは、復讐の炎をメラメラと燃やしたアレクシアによって閉ざされてしまう。


「ま、待つでござるよアレクシア殿!!そんなことをせずとも皆は、アレクシア殿を認めておるでござる!!それよりは今は、アラン殿と協力を・・・行ってしまったでござる」


 アランとの対決を宣言し、そのまま駆け出して行ってしまったアレクシアを、ダンカンは何とか止めようとしていたが、それが叶うことはない。

 もはや彼にこれまでの恨みを晴らすことで頭が一杯な彼女は、ダンカンの言葉などに聞く耳を持つことはなく、一瞬も速度を緩めることなく立ち去って行ってしまっていた。


「これを、持って行った方がいいのでござろうか・・・うむむ、悩むでござるなぁ」


 アレクシアが立ち去ってしまった後には、彼女が脱ぎ捨てていった耐毒スーツが残されていた。

 アレクシアがどういった形でアランとの勝負に挑むか分からなかったが、彼女が自らの能力を示そうとすれば、恐らく村の外へと出ることになるだろう。

 そうなれば、これは必須である。

 そう考えれば持って行ってやった方がスムーズに事は運ぶだろうが、はたしてそれをスムーズにしてしまっていいのかと、ダンカンは悩む。

 彼がその場を立ち去ったのは、それからしばらくしての事だった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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