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最弱能力「毒無効」実は最強だった!  作者: 斑目 ごたく
変わる世界
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プロローグ

 学院の創始者である二人の英雄を象ったステンドガラスは、光を浴びて様々な色に輝いている。

 ここジョンソン=クロックフォード学院は家を継ぐことが出来ない貴族の子弟が学び、身を立てるための実践的な技術を身に着ける場として誕生した。

 その学院がいま最も力を注いでいるのは、魔王と打倒する冒険者を、いや英雄と呼ばれる若者を育成することであった。

 そして今、学院の注目はここに集まっていた。

 魔王を討伐すべき、次代の英雄の誕生を一目見ようと。


「悪い、遅れた!どうだ、もう始まっちまったか?」

「しっ!今始まるところだ」


 人の多さに喧騒を感じさせる景色も、実際にはひそひそと囁く声が響くばかり。

 それはこの場所に漂う、神聖な空気が影響しているのかもしれない。

 実際、ここは神殿であった。

 学院内に併設された、ソーンダイク神殿。

 そこは普段は人気も少なくひっそりと佇むばかりの建物であったが、今は違う。

 年に一度開かれる成績優秀者に特別な技能、ギフトが授けられるこの時は。


「今年の成績優秀者はあの五人か・・・やっぱりって感じだよな」

「そうか?ブリジットは微妙じゃないか?俺はアレクシアの方が、良かったと思うんだけどな・・・あいつのところの・・・えぇと、オブライエン家だったか?に配慮したってのがもっぱらの噂だぜ?」

「おい、気を付けろよ!誰が聞いてるか分からないんだぞ!」


 そのソーンダイク神殿の象徴たるステンドグラスの前には、五人の人間が並んでいる。

 それは今年の成績上位者達であり、このソーンダイク神殿で成人の議を、ギフトを授けられる栄誉に預かった者達であった。


「悪い悪い・・・しかしなぁ、本当なのかね?」

「・・・何がだ?」

「ここでギフトを授けられると、いいスキルが手に入るって話さ。眉唾じゃないか?別にどこにいたってギフトは得られる訳だし、過去にここでしょぼいスキルを授かった奴も結構いたって話じゃないか」


 成人の際に、誰にも等しく与えられる特別な技能、ギフト。

 それはこのような場所で特別な儀式を行わなくても、自然に授けられるものであった。

 それをわざわざこうして行っているのは、それによってギフトを授かる時期をコントロール出来るのと、そうした方がより良いスキルを得られると信じられているからであった。


「それはそうかもしれないが・・・今回は間違いないだろ?」

「それは・・・な」


 こんな儀式など意味がないと疑う男はしかし、今回の面々ならばそれも無駄ではないと諭す言葉に納得を示している。

 彼らが視線を向ける先では、この儀式を進行している神官風の格好をした老人の前に、一人の青年が進み出ていくところであった。


「アラン・ブレイク、前へ!」

「はい」


 アラン・ブレイクと呼ばれた青年が壇上へと進むと、周りからは思わず歓声が漏れる。

 それは彼が今年の最優秀者であり、ぶっちぎりの成績を収めていたからだろう。

 彼の能力を疑う者はいない。

 そしてその彼に、素晴らしいギフトが授けられることを疑う者もまた、いなかった。


「アランだ!」

「アランー!お前が魔王を倒してくれー!!」

「そうだ、期待してるぞー!!」


 一つ漏れた歓声が二つと響けば、それはやがてこぶしを振り上げて叫び始めるだろう。

 そうして次々と連鎖していく歓声は、やがてこの神殿を揺り動かすほどのボリュームとなっていた。


「えぇい!!静まらんか、お主ら!!!」


 留まることの知らない歓声に、神官風の老人はその手にした杖を振りかざしては黙れと叫んでいる。

 その声と彼の迫力に、ようやくその騒ぎもゆっくりと収まり始めていた。


「まったく・・・これが由緒正しき学院の生徒かと思うと、先が思いやられるわい。大体アラン、お主もお主じゃ!お主が奴らに応えるように手を振らねば、こうはならんかったものを・・・」

「すみません。皆の声が嬉しくて、つい・・・」

「ふぅむ、気持ちは分かるがの・・・まぁよい。早くそこに跪くがよい、儀式を始めるぞ」


 国の未来を、いや世界の未来を背負うべく教育されている貴族の子弟達のあんまりな振る舞いに、老人はぶつぶつと文句を漏らしている。

 そんな彼のお小言に、アランはポリポリと頬を掻いては困ったような表情を浮かべていた。


「ふぅ~・・・では、始めるぞ。キェェェーーー!!!」


 目の前に跪いたアランに、老人は気持ちを落ち着かせるように呼吸を整えると、今度は自ら奇声を上げ手にした杖を振り回し始めていた。


「出たよ、院長お得意の奴」

「あんな事しなくたって、あの杖を翳せば天啓が下りてきて授かるギフトが分かるんだろう?完全にあの人の趣味だよな」

「しっ、もうすぐ結果が出るぞ!」


 そんな老人の奇矯な振る舞いも、周りからはいつものことだと忍び笑いが漏れるばかり。

 その必要のない余計な演出に白けた空気も、アランが授かるギフトが発表されるとなれば張りつめていく。

 そうして静まり返り、緊張感に張り詰める空気の中で、老人が何かを悟ったかのように目を見開いていた。


「『毒無効』・・・アラン・ブレイク。お主のギフトは『毒無効』じゃ!!!」


 そしてそのスキルが、老人の口から告げられる。

 毒無効という、何の役にも立たない雑魚スキルが。


「・・・『毒無効』?えっ、それってゴミスキルじゃ?」

「嘘だろ?あのアラン・ブレイクのギフトがそんな・・・冗談だろ?」


 老人の口によって告げられたその言葉に、ざわざわと動揺が広がっていく。

 それはこの学院で最も期待されていた青年に、有り得ないほどのゴミスキルが授けられてしまったという衝撃の内容であったのだから無理はないだろう。


「・・・『毒無効』?そんな、嘘でしょう?院長先生!これは何かの間違いです!!もう一度、もう一度調べてください!お願いします!!」

「えぇい、寄るな見苦しい!!このサナトゥリアの杖の力を疑うか、無礼者め!!」


 そして何より、その結果を信じられないのはアラン・ブレイク本人であった。

 彼は信じられないと首を何度も降ると、老人にもう一度調べるように激しく迫っていた。


「見苦しいぞ、アラン・ブレイク・・・いや『毒無効』」

「クリフォード・・・」


 老人へと掴みかかるアランを、彼と一緒に登壇していた仲間の一人が制止している。

 しかしその声は彼を想ってのものなどではなく、明らかな侮蔑の色が滲んだものであった。


「お前の居場所はもうここじゃない、あいつらと一緒に向こうで見ていろよ。指を咥えてな」

「っ!?そんな、僕はっ!!」


 そうしてクリフォードと呼ばれた青年は、親指で後ろを指すとさっさとここからいなくなれとアランに告げる。


「そうよ、クリフォードの言う通りだわ。そんなギフトじゃ、この先足手まといになるだけって分からない?それを自覚して、さっさと身を引いたらどうなの?」

「そうだな、目障りだ」


 当然のようにクリフォードの言葉に抵抗しようとしたアランはしかし、仲間だと思っていた他の者達からも拒絶されてしまう。

 その冷たい言葉よりもずっと、彼らのその冷淡な視線がはっきりと、ここはもうアランの居場所ではないと告げていた。


「そんな、ブリジットにルーカスまで・・・わ、分かったよ。僕は―――」

「さっさとしてくださらなぁい?後が詰まっていますの」

「くっ・・・」


 周りの空気が明らかに自分がここにいることを拒んでいると知ったアランは、唇を噛みしめると渋々といった様子でこの場から引き下がろうとしていた。

 しかしそれすらも遅すぎると、ブリジットは心底面倒くさそうに彼を急かす。

 その仕草は、完全にアランを邪魔者だと思っているそれであった。


「・・・『毒無効』」

「ぷっ!や、やめろよ笑っちまうだろ?」

「ぷぷぷ・・・あれだけいきり散らしといて『毒無効』って、うけるわ~」


 壇上から退場するアランに、その通り道は二つに分かれていた。

 しかしそれは、彼に配慮してのものではない。

 壇上から降りるアランをまるで汚いものでも見るかのように見つめる彼らは、その口々に彼を馬鹿にする言葉を囁いていた。




「サイラス様、アラン坊ちゃんが!このままでは余りにおいたわしゅうございます!私が行って止めて参ります!御許可を頂けますでしょうか!?!」


 学友たちから口々に罵倒の言葉を投げかけられ笑い者にされているアランの姿を、遠く来賓席から眺めていた執事姿の紳士が、それを止めようと隣の青年へと話しかけている。


「・・・止めておけ」

「は?しかしサイラス様、このままではブレイク家の名にも傷が・・・」


 しかし慌ててそこへと向かい、彼らを止めようとした執事の男性をサイラスと呼ばれた青年が制止する。

 執事の男性はそんな彼の振る舞いに、意味が分からないという表情を見せていた。


「残念ではあるが、今宵の式典にはブレイク家からは誰も選ばれなかった。いいな、リチャード」

「っ!?そ、それは・・・アラン坊ちゃまをお見捨てになられるというのですか!!?」


 意味が分からないという表情を浮かべるリチャードと呼ばれた執事に、サイラスは簡潔にその理由を述べる。

 それはつまりこんな失態を犯したアランなど、もはやブレイク家には必要ないというものであった。


「・・・リチャード、我がブレイク家にアランなどという者はいない。いないのだ・・・分かったら帰るぞ。ここは風が冷たい、身体が冷えてしまう」

「くっ・・・か、畏まりました」


 もはやアランの処遇は決まったものだと繰り返すサイラスは、つまらないものを見下すように彼に一瞥をくれると、さっさと踵を返して帰路を急ぐ。

 リチャードはそんな彼の態度に悔しそうに奥歯を噛みしめるが、主人の判断を覆すことは出来ないとその後を追う。


「アラン坊ちゃま・・・どうか、どうかお気をお強くお持ちください・・・」


 最後に、リチャードはアランへと振り返り、その姿を目に焼き付けようと見つめていた。

 その先では、ギフトの授与を終えた四人の若者達を前に、学院長が何やら語りだそうとしている所であった。




「本来であれば、これから魔王討伐に向かう者達の出陣式を行う予定であったが・・・予定外の欠員が出てしまったため、ここに集まった者達から一名、補充要員を追加する!!」


 学院長の発表に、神殿に集まった者達は一斉に沸き立っている。

 それは魔王討伐隊に選ばれるという名誉が、降って湧いたことに対する喜びだろう。


「アレクシア・ハートフィールド、前へ!!」

「はい!!」


 しかしそれは、すぐに落胆に変わる。

 何故ならばそれは降って湧いたチャンスなどではなく、当然のごとく次点の者が選ばれただけであったからだ。


「アレクシア、君なら安心して任せられる。どうか、僕の分まで頑張ってほしい」


 学院長の声に元気よく返事を返したアレクシアが壇上へと向かう道は、今まさにアランがトボトボと歩いている道と同じ道であった。

 この式典を後方から眺めていたアレクシアは、そんなアランの前へと進み出ており、彼は彼女に対して手を差し出すと、どこか困ったような笑顔を浮かべていた。


「・・・アレクシア?」


 周りからさんざんコケにされ馬鹿にされた後で、自らの代わりとなる人間に対して握手を求めるのはどれだけの勇気であっただろう。

 しかしそんなアランの手を、アレクシアは握ろうともせずにその横を無言で通り過ぎていた。


「・・・もう以前の私とは違うの、アラン。気安く話しかけないで」


 そしてアランへと冷たく決別を告げるアレクシアは、その目を彼へと向けることすらしない。

 自信に満ちた様子で壇上へと進むアレクシアは、その長い金髪を翻す。

 それはステンドグラスから漏れる光を浴びて、眩いばかりに輝いていた。


「っ!ははっ、あはは・・・そうか、そう・・・だよね。僕はもう、誰からも・・・」


 その眩さは栄光の証か。

 そしてそれを眩しく感じるのは、自らが没落してしまったからだろう。

 アランはそれから目を背けるように後ろを振り返ると、再びトボトボと歩き始める。

 そんな彼のことを馬鹿にする者すら、もはやいなかった。




「なぁ、クリフォード達そろそろ魔王の所まで辿り着いたかな?」

「ん~・・・?流石にまだ早くないか?あいつらが出発してから、まだ数か月ってところだろ?流石に、もう少しかかるさ」


 学院の敷地内を歩く生徒達の息も白く霞み、肌の凍える季節の訪れを予感させている。

 そんな季節の空を見上げた生徒の一人は、その先にいるであろうクリフォード達の姿を思い浮かべていた。


「うーん、そんなもんかなぁ・・・でもさ!あいつらの事だから、もしかしてもう魔王を倒しちゃってるなんてことも有り得るんじゃない!?」

「はははっ、ないない!」


 クリフォード達の魔王討伐の旅が順調に進み、彼らが既にそれを果たしているかもしれないと語る生徒に、もう一人はそんなことは有り得ないと笑い飛ばしている。


「えー、そうかなぁ?だってクリフォードのギフトって言ったらあれだぜ?あの―――」

「ん?ちょっと待て、これは・・・雪か?今年はずいぶん早いな・・・」


 自らの言葉を笑い飛ばす相手に、生徒はどうにか食い下がろうとしている。

 しかしそんな彼の言葉を遮って、もう一人の生徒は空を見上げ、そこから降り注ぐものに対して眉を潜めていた。


「へー、初雪か?確かに早いけど・・・あれ?でもこれ・・・何か変じゃないか?」

「確かに・・・これは雪じゃない?綿?しかし・・・ぐっ!?」


 もう一人の生徒の声に空を見上げ、そこから降り注ぐものに対して手を差し出した生徒は、そこに降ってきたものが何か変だといぶかしんでいた。

 それにはもう一人の生徒も気付き、それを観察するように顔を近づける。

 そしてそれが雪ではないと気が付いたもう一人の生徒はしかし、急に苦しみだすと胸を押さえてしまっていた。


「っ!?ど、どうした!?大丈夫か!?」

「く、苦しい・・・だ、誰か助けを・・・」

「わ、分かった!!だ、誰かいないか!!彼が急に・・・ぐっ!?げほっ、げほっ!!そ、そんな・・・」


 胸を押さえ、苦しみだしたもう一人の生徒は見る見るうちに顔色を悪くすると、やがて耐えられなくなりその場に倒れこんでしまう。

 その彼に誰かを呼んでくるように頼まれた生徒は、慌てて助けを呼びに行くが、そんな彼もその途中で胸を押さえて苦しみだし倒れてしまう。


「だ、誰か・・・たす、けて・・・」


 地面へと倒れ、霞んだ瞳で助けを求める生徒は、その視界の最後に自分と同じように倒れていく生徒達の姿を見ていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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